ピックアップジビエ 猪鹿以外
8月ですね。桃もおいしいし、野生のベリー系もおいしいし、シカちゃんは油断しているし、山通いがはかどります。
台風さん、ちょっとこっちには来ないでください。
ジビエについて話し込むうちに、すっかり県境を越え、盆地に出る。
「猟友会の倉庫でイノシシとシカを回収するために高速をおりたのですが、せっかくですし、ここでワインとぶどうジュースを仕入れていきましょう。」
「いいですね!」
「ワインは直ぐ近くのワイナリー、ジュースは経路上に産直販売店がありますので、そちらから。」
「フルーツ県の良さを全力で味わう感じですね!」
「もしかすると、多少はまだブドウもあるかもしれません。おいしいシャインマスカットが格安で手に入るかも。」
「シャインマスカット!スーパーやデパートでものすごい値段の!」
スズランだけでなく無言のリーゼも産直販売のフルーツに気持ちを動かされているようで、やや口角が上がっているようだった。
「そうだ。フルーツで思い出したんですがハクビシンがおいしいってほんとです?」
「うーん、残念ながら、僕は食べたことがないですね。」
「ネットでは、いいもの食べてるから臭みも少ないしおいしいって聞いたんですけどね~」
「ああ、じゃあ産直販売店で聞いてみましょうか。もしかしたら食べたことがあるかもしれないし、被害に遭っていれば、箱罠くらい置かせてくれるかもしれません」
「なるほど、人助けして食べるハクビシンはおいしそうです」
「ぼ、僕は別にそこまで食道楽じゃあないですよ」
「ああっ悪者にされてしまったです」
そうは言いながらもスズランは楽しそうだ。食べたことのないものへの知的好奇心というのはかなり根源的な欲求と言わざるを得ない。
「そういうご当地ものでオカモトさんのオススメって何かあるです?」
「キョンは比較的マイナーですが、おいしいですね。千葉の方ではキョンのハンバーガーを出しているお店もあるようです」
「あれ?それってちょっと変じゃないです?シカの話では筋があったり状態が良くないときにハンバーグにすればおいしく食べられるって言ってたような。」
「そうですね。キョンはシカを小さくしたような見た目通り小鹿に近い味わいで、そのまま煮たり焼いたりして食べるとおいしいです。しかし、ここで歩留まりの問題が出てきます」
「歩留まりってだいたい何か作るときのダメになっちゃう奴を引き算した、使えるものっていうことですよね」
「はい。これは通常のシカもなのですが、可食部が少ない部位は筋や膜を丁寧にそぎ取ると、可食部がほんの少ししか残らないんです。なので、ミンチにして多少の筋なんかもおいしく食べてしまうほうが、満足度が高いし、小麦粉や野菜で多少カサ増しができるんですよ」
「あー、そっか。一頭当たりが少なくて、一部地域にしかいない、ってなるとそんなに肉が取れないから!」
「そういうことですね。キョンの捕獲数については一概には言えないのですが、まあ、だいたいそんなところです。」
「ほかでもなにかオススメってあるです?」
「最近話題に上がるようになったジビエ系のお店なんかではウサギやアナグマが結構話題にあがりますが、どちらも普通に鍋にしておいしいです。特にアナグマの脂身が絶品で、解体時に脂を落としたり、ゆですぎて脂を溶かしてしまうと、もったいないもったいないと騒がれるほどです」
「アナグマの脂身、ですかぁ」
「熊と言えばツキノワグマのほうも有名ですが、こちらは煮込み料理がオススメです。やや臭い脂やアクがたくさん出るのですが、しょうが・しょうゆ・にんにく・唐辛子などの薬味を沢山加えて煮込むことで、旨味と食べ応えのあるおいしい熊鍋になります。イメージ的に近いのはすき焼きでしょうか。」
「熊鍋、いいですねぇ。そうだ、本家フランスジビエといえばカモが有名だけどそっちはどうです?」
「うーん・・・これはやや言いにくい話なのですが、鶏の品種改良と牧畜の効率化が凄すぎて、安さでも旨さでも負けちゃうんですよね。しかも、結構味が近い。主に胸肉に。」
「えー・・・でもそれはイノシシなんかも同じじゃないんですか?」
「カモはフランスでは養殖のもいますが、やはり鶏に負けますね。たぶん筋肉のついてる場所の問題で、飛ぶのが得意で羽の根元に筋肉が集中していても胸肉っぽくになっちゃうというか。それもあってフランス料理のカモは味付けの部分が頑張っていてソースや野菜詰めの技術が発達したんじゃないでしょうか。例えばカモのコンフィって肉に塩とハーブをまぶして油脂の中で低温で加熱した後、そのまま冷やして凝固した油脂の中で保存するものを言うのですが、正直、そのままグリル焼いておいしい鶏肉には負けちゃうよね~・・・みたいなかんじです。」
「そうなんですかぁ。なんか残念です」
「まあ、でも、鴨鍋は普通においしいですし、カモが葱しょって歩いてくるという言い回しがあるくらい葱もよく合います」
「野性味ということでいえばヤマドリやキジがもう少し野性味を感じる味で、不快じゃない程度にはほのかなあじわい(臭み)があります。」
「え。ヤマドリって結構減ってることで話題になっていませんでしたっけ」
「ヤマドリの小鳥が徒歩移動で道路わきの小さな排水溝にはまって開発の過程でどんどん死ぬという話が合ったのですが、まあ、過疎や耕作放棄の過程でU字溝は埋まりますし、使用中のところはだいたい上部に網目の蓋がかかってるので。」
「なるほど~。鴨鍋で思い出したのですが、昔話に出てくるタヌキ鍋ってどうなんですか」
「動画サイトで見たタヌキ鍋が見た目も、食べてる人の表情も絶望的過ぎたのでちょっと試す気が・・・。伝聞情報では一応、かなりきつい、間食と聞いていますが、一部の人からは反論があったのでタヌキの食べたものや季節によるのかもしれませんね。伝聞情報つながりでラッコ鍋なんかも気になるところですが、こちらは旨くて元気が出るらしいです。」
「元気ですか」
「まあ、昔からおいしいものの滋養強壮効果を表して、元気になると言いますので」
「察しましたです。まあ、普段お腹空いてれば、エネルギーがたくさん入れば精が付く言い出すのは当然ですよね」
「そうですね。栄養状態は大事です。変わり種では最近、一部のハンターの間ではエアライフルを用いたリス狩が流行っているようで、リスのチタタプなんかもおいしいと聞きますが、これはキョンのハンバーグの発想に近いですね」
「ああ、可食部が少ないから骨まで・・・っていうことですか」
「そうそう。でも、BSEだかKSEだかのプリオン系の話とどう絡むかはちょっと考えさせられますよね」
「でもリスで症状が出た研究報告ってたぶんないですよね?」
「それはまあ、研究できるほどサンプリングが・・・しかもシカを食べる地域と重なりそうですし。両方の脳を食べていたら・・・
「難しい、と」
「そういう感じですね。私にはちょっとわかりません」




