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狩猟。獣と銃と山とヒト  作者: 水底 宇宙
狩る者たち、未達の軌跡
5/55

それはほんとうの、はじまり (第5話)配置完了

挿絵(By みてみん)


<こちら99(リーゼ)。全員配置完了。到着から20分。各員、問題なければ30秒後開始します。>

オカモトと連れられたエド、相模は無事F5付近の開始地点についた。

これで猟犬が臭いを取っていなければまだ蛇行して臭いを探る過程で勢子はゆっくり歩ける時間を確保できたが、やや厳しい見込みになっている。

幸い、相模の開始位置からは当分下りになるのがせめてもの救いか。

<こちら17(オカモト)。ふう。23番(相模)ともども、一応始められます。どうぞ>

<残りカウント10秒>

明らかに相模が呼吸を整えるには時間が足りない。

しかし、その割に相模から開始を待って欲しいという通信が入らないのは今回の配置で相模がどれだけエドと張り合えるかを問うわけではないという暗黙の了解があるのだろう。

そして、エドはもう吠え始めているのだ。

このチームのメンバーはエドがやや低い声で長く鳴くとき獲物が追跡可能な位置にいることをわかっている。待っていたら包囲網の隙をつかれる可能性が高い。

獲物の方向を制御するには追い始めた方がマシなのだ。相手の選択肢を狭めていかねばならない。


<こちら5番(本山会長)、動きなし。みんな気をつけろよ>

<24番(村上)、来る途中遠くにシカ見えたかもです>

複数人で一斉に配置につくと、森がざわつくという言い方をする人もいるが、

現地に住む鳥獣にすれば当然だろう。この区画で休んでいたとしたら突然外敵が現れて東方面をとりかこまれたようなものだ。


<はじめ>

<17(オカモト)、犬1エド放しました。24番(村上)、方向分かる?>

<24番(村上)、したのほう、です>

下、と言われて坂を下る方か、地図上の南側か判断がつかない。これは言葉の不統一による弊害と言っていいだろう。


<17(オカモト)より24番(村上)へ、地図上の番号は?>

<E6で見てD6向かってた・・・ですかね>

囲った範囲の中央部を西に向かってくれるのは谷の合流地点である本山の待ち受ける地点に向かう可能性が高い。それだけなら悪くない展開だが。


<17(オカモト)了解>

<あー、こちら2番 (川島)。これは上の方さん止めねえと。>

包囲の口は残念ながら北側が空いている。川島がカバーできる範囲を広めに見積もってF1全体だとしても、D1とE1は等高線がやや開いた多少緩やかな坂で、獲物がシカだとすれば多少登る角度になったとしても突っ切るにはねらい目だろう。C1も上りが多少急でもシカとビーグルの勝負なら確実に逃げ切れるとシカは判断するはずだ。

川島はこの山には幾度となく来ていて十分な実地経験がある。仮に地図と一切現状がリンクしていなくても、問題の把握は適切だ。


<こちら99(リーゼ)。犬1エドがE5からD5へ行ってます。>

ここで犬の行動からすぐ次の一手を打てるというのはこのチーム特有の事情だ。

”エドが吠えながら走るとき、正確に獲物の後ろを捉えている”という実績に基づく信頼があるため、このタイミングと位置関係から大まかな場合分けとそれに対する手を打てる。吠えない犬、なんでも吠える犬では作戦を組むのが難しい。


<こちら17(オカモト)、人間足でカバーできるスピードじゃない、100番(鷹士)は直ちに犬2アランをC2-D2間へ>

幸いにもここは慣れた山で下り坂、しかもIoTグラスやらアームホルダーで一通りの装備が固定されていてオカモトは動きやすい状態だ。装備も軽い。

それでも上の空で走れるほど山道は甘くないし、ここは判断の難しい局面だ。

単純に追い込む方向という以上に、追い返した結果を東寄りにするため、オカモトが決断したのはC2-D2間への投入。これは事前に検討した投下地点の第一候補であり、実は出猟後の指示を待たずにプリセット(事前設定)しておくことにしていたコースだ。


<おい、17(オカモト)、犬1エドがタツいねえとこ全部追い出しちまうぞ>

<ハアハアハア、すみません、99(リーゼ)、犬止めて。イヌ、犬1エド、強制停止>

オカモトの思考が空挺降下猟犬で占められている数十秒の間にもエドは一気に獲物を追い込む。もうこのチームの中ではエドの吠え方の調子と追い方のためらいの無さでシカだろうとあたりをつけている。


<こちら99(リーゼ)。犬1エド強制停止了解。ハルトシュタイナー起動。起動確認5・4・3・2・1・・・モーメント、停止を確認。>

エドのドッグウェアのフレームは一部の連結がモーター動作で固定される。内部を緩く張られたワイヤーが通るパイプと可動部があり、ワイヤーが引かれることで動きにくくなり制動がかかるイメージだ。同時に小型のエアタンクから腹部を一周するようにゆっくり膨らみ、動きにくくする。

勇ましく吠えるものの、腹の下にバランスボールを置いて両手足が地面につくかどうか遊んでいる子供のような間抜けな状態で、追えたものではない。

騒いではいるがエドもわかっているので膨らみ始めた時点で緩斜面に逃がれている。


とはいえ、大声で吠えたてられ追いかけられたのがシカであれば一目散に駆け続けてしまう可能性も排除できない。ドローンがシカの逃げ切る前に鹿前方に降下できるか、エドが十分なプレッシャーを発揮できるかにここからの展開はかかってくるだろう。

オカモトがやや緩やかな斜面で木立の切れ目から空を見上げた時、ドローンに乗ったアランの吠え声が聞こえてきた。

残念ながら高い声で騒いでいて、視界不良で高い所だと認識できていないにしても体を拘束されて何が起きているかわからず恐れおののいているのか、狩りの期待に興奮しているのか、判断しかねる微妙な鳴き方だった。


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