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狩猟。獣と銃と山とヒト  作者: 水底 宇宙
狩る者たち、未達の軌跡
4/55

それはほんとうの、はじまり (第4話)人員展開

挿絵(By みてみん)

<装備チェックと移動中のうちに報告します。現地カメラ・罠群の情報では、部外者の侵入はありません。

 3時間前に通過した衛星画像から近接メッシュ付近まで車両を確認しましたが明らかに前日から放置されて未出勤の工事車両が一台あっただけです。

 車両の移動時間と道路近辺の監視カメラを合わせても向こう30分程度は侵入ゼロが約束できます。以降は林道ベースで報告しますが徒歩やオフロードバイクは監視網を抜ける恐れがあるので注意してください。>

リーゼの説明が通信で響く中、オカモトは車両から装備を取り出し、装着していく。

車両の後方格納スペースにはモジュール化された装備類が折り畳みコンテナやストアボックスに入れられていた。

格納スペースの4分の1は猟犬2頭が入ったケージで、2頭が箱の側面の金網から手や舌を出して飛び出したいアピールが盛り上がっている。

これが過熱して吠え出すと獲物が逃げて展開が狂うかもしれない。

オカモトは大慌てでコンテナやストアボックスを車から一度下ろし、後部ハッチをとにかく閉めた。


<オレンジベストよし、メットよし。イヤマフは今回動きに干渉するし散弾(※)なので無し。ドローンキャリアよし。23番、すみませんがアランを先に出すのでお願いします。>

※ライフルでイヤマフなしの射撃は難聴の危険があるので気をつけましょう。

<23番(相模)、了解>

ドローンキャリアを背面に、小型のバックパックを前面に、散弾銃は薄手のオレンジ色の生地をマジックテープ止めにしているかが、まだ装着せず後部座席だ。。

オレンジ色のベストに装弾とスマホ、グローブにポケットティッシュやハンカチ、前面リュックサックには獲物回収用の太いロープと救急箱、300mlのペットボトルにカイロ、そして狩猟者登録証や銃砲所持許可証等が入っている。

無線機やGPS専用端末を持っていた頃に比べると地味に身軽な様子だ。もっとも、スマートフォンには無線発信アタッチメントがついて厚さが3倍で直線型アンテナも生えているが。

もう一度車の後部ハッチをあけ、あらかじめケージから飛び出るよう配置していた猟犬2頭のリードを車両下部の輪にかけ、ケージを開ける。

飛び出した2頭のうち、アランのリードを相模に渡す。エドはもう一度ケージに放り込み、後部ハッチを閉めて後部座席に回り込む。


<先に行かせてもらうよ>

<お願いします!>

23番(相模)、アランと共にG2へ歩き始める。


ドローンキャリアなどといっているけれど、オカモトの背中にはあからさまな捕獲個体運搬用フレーム付リュックが背負われている。

他のメンバーの多くがナタを腰や背中のよく見える箇所に取り付けているのに対して、彼は持ち歩いているのか定かではない。

左腕の内側には画面部分は透明なスマホホルダーを付けていて、IoTレンズとは別の操作や表示に備えているようだ。

サイクリングでつけるようなメットはやや薄手で肉抜きも多く、あまり十分な頑丈さがあるようには見えない。あくまで多少の転倒に備える程度のものなのだろう。

しかし、イヤマフもイヤホンもつけているようには見えない。これはメットに内蔵されているか骨伝導のパターンだ。

前面には布製に見えるつばがついていて、遠目にはメットではなくよくある狩猟団体配布の帽子をかぶっているだけに見えなくもない。


<最後に銃、弾、許可証に登録証もよし、っと。>

オカモトはリュックを背負った上からスリングベルトを斜め懸けにして、銃の作業を林道から通行人に見られないよう後部座席で行っていた銃の最終点検を終えると、

外側で車に回り込みバックドアが上がるのを待ちきれないとばかりに潜り込もうとして、

ガン!という衝突音とともにのけぞる。

幸いにもヘルメットに守られており、大したダメージはないようだが狩本番を前にして、潜在的な怪我の危険をさっそく顕在化させてしまう。

「痛っててて」などと独り言をもらしながら、ややアウトドア寄りの防水ブーツから、鋲付きのゴム長靴へ履き替える。

猟犬のケージから伸びたリードをベルトに括り付けてついに車を離れる準備ができた。

リーゼの長い溜息に送られながらバックドアを閉めた。


<99番、中継行けますか>

<LPWAはA方面の谷から中継拾ってる。LTEはドローンを挟まないとだめね。この指揮車両の位置ならポールの高さが20mくらい必要ね。>

<了解。>

<17(オカモト)から全体へ。音声はチャットモード並走、業務無線がプライマリで行きます。スマホのアタッチメントが抜けると音声が切れるので画面が見える位置にない人は注意してください>

<23番(相模)了解><24番(村上)了解>

<おい、17(オカモト)、オレ達じじいにはわからんぞ>

<99(リーゼ)です。2番(川島)へ。5番(本山会長)、2番の設定はこちらで変えておきました。複数人同時に話した時混乱するかもしれませんが、音で聞こえるので大丈夫です>

<おお、99(リーゼ)は偉いな。17番もしっかりしろよおー>

<そーだそーだ。お嬢ちゃんありがとうよ>

<5番(本山会長)、2番(川島)、ありがとうございます。17(オカモト)は急いで。>

<17(オカモト)、銃、弾、犬よし!マーカー・オン>

<こちら99(リーゼ)、勢子・射手・犬・ドローンすべてGPS、PINGともに正常。17(オカモト)、本人の無線バッテリーだけ残量注意>

<17(オカモト)了解。ただちに変えます>

<5番(本山会長)はとっくについてるぞお。2番(川島)もあと50メートル切るくらいだ。いそげいそげ。>

<すみません!急ぎます。>

<100番(鷹士)より17(オカモト)へドローンの予備バッテリーもお願いできますか>

<17(オカモト)了解。ドローンキャリアに入ってる。セッティング後積み替えてこっちで持つううう。17(オカモト)より全体へ!こちらドローン待機位置まで50メートル!!>

こうしてしゃべる間にもオカモトは小走りに平らなところを突き抜け、ゆるい傾斜の山肌をやや早足に歩いている。

外気温は一けた台だが、汗ばんでいるという水準をこのわずかな時間で越えようとしている。


<ほおーい。2番(川島)到着。23番(相模)はいいな。24番(村上)もまだだな。がんばれがんばれ。ジジイの短い寿命が先に来ちまうぞお>

<ゼーハーゼーガ―24番(村上)、半分くらいです。>

<おいおい勢子じゃあねえんだ。静かにやれよー>

<ズビバア!ゼエェ>

<2番(川島)あんまいじめてやりなさんな。標高高いんだから>

<おうおう。こいつは失礼。24番(村上)、お前は静かにゆっくりでいいぞ。おい、17(オカモト)、お前が最後だ。お前は急げ>

<師匠、ご無体なぁー。17(オカモト)、ドローン下ろしました>

村上は高山に不慣れなせいか、急ぎ過ぎたのか息が上がっている。オカモトも多少息が荒くなっているが軽口をたたく余裕は残っているようだ。

ドローンキャリアから発進予定地点に必要な装置とドローン本体を下ろし、バックパックを本来持つべき背面に入れ替えた。

当然、銃をかけるなどもあるので背中や正面の装備は一通り下ろして背負い直している。その際、猟犬は直近の頑丈な幹にリードとカラビナで簡易固定していた。


<番号でっていってるだろう。あいかわらずしょうがねえなぁ>

<すみま(キャオォーン)!!ありゃ。すみ(キャオォーン)犬1エドが臭いみつけたみたいですね。ドローンは設置できました。>

人間たちが猟犬に聞こえない無線で騒ぐ間に、もう獲物のにおいを見つけてしまったようだ。

エロとアランのようなセントハウンドは臭いで獲物を追う能力にたけている。

足跡や糞などの痕跡、それどころか実際には獲物が通っていないところでも周辺から漂って来るのか、獲物がいると見当をつけて鳴き始めてしまうことがある。

この”鳴く”という表現は近所で散歩している愛玩犬同士や来訪者に対する番犬が”吠える”のとは大きく趣が違う。

やや遠吠えに近い鳴き方で、力強く鳴く者や情けなく鳴く者が多く、ワンといおうよりはワオーンまたはキャオーンといった擬音がふさわしい。


<100番(鷹士)ステ<17(オカモト)、23番(相模)は走れ>>

<<了解>>

どうも鷹士はドローンのステータスチェックを報告しようとしたようだが、川島からの指示で通信を遮られてしまったようだ。


<100番(鷹士)オールグリーンです、99(リーゼ)、どうでしょうか>

<99(リーゼ)通信系、設置系装置共に問題なし。このまま続けてください>

ドローン組は


<ここまでで15分だよ。17(オカモト)しっかり>

<そんなあああああああ>

「いやゼェ、オカモトくん、ハァ走らないでくれ!おいつけな」

「あ。相模さんすみません。下りは犬の勢いが殺せなくて。解放してから歩調合せましょう」

オカモトの動きは決して早くなかったが高度1700mで緩やかとはいえ銃を含む荷物を背負って斜面を上り下りするのは、ホワイトカラーが本業の60代にはかなり厳しいものがあった。




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