それはほんとうの、はじまり (第2話)地形説明
<こちら99番。メッシュ付きの地図で更新しました。
運転や射撃体勢で今は見えない人も多いかと思います。停車してからでよいので確認しましょう。>
オカモト、リーゼはIoTコンタクトレンズから直接最新情報が見えている。
村上はスマホから見ることができるだろうが、さすがに窓の外に意識が行っている。
一方で鷹士は自宅のモニタから見えているが、残り三人は運転中でたぶん見えていない。
<H4に2番師匠(川島)、17番、23番(相模)、24番(村上)が停車、今回の拠点にします。>
<せまいし、おれぁ一緒に止めねぇでもっと上いくぞ>
<わかりました。では2番(川島)は道を少し進んでH1~H2にしましょう。5番会長(本山)の停車はA5の林道端っこでお願いします。よろしいですか。>
<おう。そこにとめりゃあ降りてきた奴は拾ってやれるよな>
<この山で実際に猟をするのは初めての人もいるから、簡単に地形を復習します。
周辺の大きな地形としてはG列を走っている主尾根から東西に下っていく形になっています。
集落があるのは西のずうっと・・・700m以上標高の低い所。水平距離も軽く3キロはあります。
イノシシやシカの生息傾向もこの辺はあきらかに西に集中しているので、主尾根から西方向をやります。
先週までの下見でも、東方向は色々な要素が揃って痕跡が薄いことは確認済み。
川沿いが潜伏地点なのでそれを囲うように初期配置を進めていきます。
24番(村上)の撃つチャンスでもあるので、続きは現在表示している地図に入ったあたり、いつもの停車拠点あたりで説明します。>
どうも村上君は後部座席で顔色がよろしくないな。
「村上君に道中の射撃チャンスと言いながらこの説明、ハードル高いですねお嬢様。」
「そうかしら?何度か説明した内容よ?老紳士たちのために毎回やるけれど。村上君は無理せず左右の探査に気を向けて構わないわ。」
「だってさ。村上君。拠点で停車してから復習できるから、周り見ながら説明までも同時にわかろうとして慌てなくていいからね」
「あ。はい」
「一応ここでは経験的に崖下を覗くよりは尾根の上や谷を挟んだ向かいを見るのがオススメかな。って、いつの間にか残すところ3分の1くらだいけど。」
実際のところ、今回の車の進行速度は入念に流し猟で獲物を探すような速さからはかけ離れている。
もはや、犬を出したからのチーム猟が本番だと物語っているレベルだ。
しかし、村上はそれを知ってか知らずか、後部座席を右に左に移動しながら尾根を見上げ、谷に乗り出す。
オカモトは運転の一部として景色は走査しているが、「ここは撃ったことがあるよ。少し平らなところ」などと言いながら多少スピードを緩める程度で、あまり移動時の発見に期待していないことが見て取れる。
リーゼは中空で指を振り回している。傍から見てもわからないが、状況からしてIoTレンズを通じて機器の操作や点検に余念がないのだろう。
「次のカーブが、停車拠点前では最後の期待ポイントかな、東側の谷をよく見てね。居るとしたら木の間に伏せているかもしれない」
林業に関わるゾーンなのだろうか、谷の方は下草のほとんどない手入れされた人工林となっている。
やや急な坂を50mほど下ったあたりに日当たりのよいながらなんとか見渡せるくらい草むらが見えたが、ここにも気配はない。
正直なところ、村上としては多少苛立つところだ。撃っていいと言いながらも撃たせる気がほとんどあるようには見えない。
そんな空気が流れようというところで、リーゼがまた口を開くのだった。
第一章はまだまだ続きます。