53. 闇との対決
とりもなおさず、ダーク王は、この苦悩から解放されたいと願い続けてきたのである。
それがブライトキングダムを滅ぼす際、一番の機動力となったのは事実だ。
だが、弟ルクセルクスがこの世界からいなくなっても、苦悩は終わらない。
(なぜだ?!)
やはり光の王女が眠り続け、妖精の加護を得られぬゆえか。
それとももっとどこかにあるというのだろうか、"強い力"が……。
そのとき、ダーク王は、城が騒がしくなっているのを直感で悟った。
(来たな)
鉄仮面の下の血走った眼が大きく見開かれる。
外では相変わらず稲光がし、遠雷が空を震わせていた。
強い風が、ダーク王の黒いマントをひるがえらせ、漆黒の髪を吹き上げたとき――
扉が大きく開かれた。
ほとんど真っ白な目もくらむ光が一瞬にして走り、ダーク王は両腕で目を覆った。
おそらく、この強過ぎる光のせいで、闇の兵士たちもことごとく戦意喪失し、あっさり引いたに違いない。
「うぬぬ……」
さすがのダーク王も低くうならずにはいられなかった。
この光。
いったい何が光っているというのか。
ライレーン王女は、まだ目覚めてはいないはずだが……。
「ダーク王、わたしたちはいよいよここへ来たわ!」
凛とした女の声が届いた。
「わたしはブライト王妃の妹、ルシータ。光を導く者よ。
ダーク王、あなたに提案します。戦いを放棄し、前王の治世に戻すことを。
光と闇が、未来永劫、共にあるように!」
「それは無理な提案だな。強いものが力で統治するのが理だ。我が王国に欠けているものは、力で奪う」
「だから妖精の加護を奪おうとしたの? それで奪えたの? 何も変わらないじゃないの。奪うことでは何も解決しないわよ!」
「何を小癪な」
ダーク王は、怒りにぎらぎらと目を光らせた。
「小娘の癖に、何がわかる」
そしてぎっと指をさす。
「そこにいる男どもを見ろ。そいつらは裏切り者だ。だがわたしはそれを許そう。裏切りは、世の常だからだ。
むしろわたしが許せないのは、ルシータ、おまえのような偽善者どもよ。
偽善が何を救う? 何を生み出すのだ? ますます深い悪を呼んでいるのは、おまえらの方ではないか」
「偽善なんかじゃない、わたしは心からそう信じてる。戦いは正義じゃない、悪よ!」
「そうだ」
レギオンも言った。
「おれも信じている。愛と勇気と正義の心を」
「ダーク王! アリーナもそれを信じて死んでいった。よみがえらせた光を守って欲しいと――」
かつての腹心ハラートの言葉に、ダーク王の怒りが煮えたぎる。
「ぐぬぬ……アリーナを、アリーナをどうしたのだ。おまえがアリーナを殺したのか」
「そうだ。わたしがアリーナを斬った」
ハラートの赤毛が風に流れ、今初めてそのことを聞いたレギオンは、絶句して彼を見つめた。
それに気づいたルシータが、そっとレギオンの腕に触れる。
「わたしがアリーナを斬った。愛ゆえに。真実の愛ゆえに」
「おのれぇ……!」
ダーク王の背後の闇が高波のように持ち上がったかに見えた。
それでもルシータは、恐れることなく言い放った。
「もうサーグもナビル将軍もいないわ! ダーク王、降伏なさい!」