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52. ダーク王独白

 ダーク城の空には風雲渦巻き、稲光がしていた。


 ダーク王はひとり窓辺に立ってそれを見ている。

 彼の胸中には、相変わらず深い闇が蠢いていた。


(……この世は闇だ。

 殺戮(さつりく)に満ち、欺瞞(ぎまん)に満ちている。


 愛など存在せぬ、慈悲など存在せぬ。

 真実は覆い隠せ、正義は退けよ――世界は闇で満たされるのだ。

 それが正しい。


 力は利用するためにある。

 善は裏切られるためにある。

 だましあい、ののしりあうがいい……。


 それこそが、生きる力となるだろう。

 我が王国が、輝く糧となるだろう。


 世界の終わりまで、果てることなく続けるがいい。


 武器を持て、戦うことを忘れてはならぬ。

 権威は勝者に与えられ、死は敗者に与えられる。

 殺しあえ。

 血が情熱を呼び覚ますだろう。


 闇の中では恐れるものなどない。

 したたかな者、ひっそりと動くがいい――愚かな者も、また。

 闇は我らの味方だ。

 誰も光など、望んではおらぬ。

 そう、この世に光などいらぬのだ。


 聞いているか、ブライト……。

 おまえは何を信じたのだ?

 おまえの希望の光など、すぐに消えるぞ。

 我が王国に歯向かう光は打ち砕く。

 おまえが未来を託した者たちを、粉々に打ち砕いてやる。


 思い知るがいい、ブライト……)



 ヘキンザーは、自分がアルファード王の第一子であり、いずれ父の王国を継ぐ者であるという自覚を、いつもどんなときも忘れたことはなかった。

 王国を治めるのに必要なのは、あらゆる対策を練るための知識と、感情を交えない冷徹な判断力であり、ヘキンザーは自分にそれが備わっていることを感謝していた。


 それゆえ、弟のルクセルクスが勉強を怠け、下々の者たちと楽しそうに笑っていても、一向に関知しなかったのである。

 むしろその気楽さ、幼さを鼻先で笑い、それでも言葉だけは兄らしく、優しく接した。


「兄上、人が楽しく暮らしていくには何が一番必要だと思われますか?」

 ある日、まだ青年のルクセルクスが、本を読んでいるヘキンザーに質問してきた。

 彼は若者らしく艶々した頬をして、はきはきと言った。

「わたしは、"希望"だと思うのです」

「"希望"だと?」

「はい。光と希望があれば、人々は笑って暮らしてゆけるのではないでしょうか」

 そのきらきらした笑顔に、ヘキンザーは怒鳴りつけたい思いをこらえると言った。

「おまえは間違っているよ、ルクセルクス。一番必要なのは、強い力だ」

「強い……力、ですか」

 きょとんとしてる。

「そうとも。強い力がなくては、人は幸せには生きられない。強い力に守ってもらい、自らも強い力で進む。

 ――そのために、"国"があるのではないかね?」

 敬愛する兄にそう言われ、ルクセルクスは下を向いてしまった。

「そうでしょうか……たしかに、兄上のおっしゃることは正しいと思います。わたしももう一度、考えてみます」

 しょんぼりと去ってゆくルクセルクスの背中を、ふん、と見やりながら、ヘキンザーはまた難解な書に目を戻した。


 アルファード王は、ヘキンザーの聡明さを愛した。

 だが王のもっとも愛したのは、実はルクセルクスの素直さあったということを、ヘキンザーは知らなかった。

 もう命が長くないことを悟ったアルファード王が、ヘキンザーへ引き継ぐはずであった王国を二つに分け、ルクセルクスにもひとつの王国を継がせると決めたとき、ヘキンザーは唖然としないではいられなかった。


(――何たることであろう! 父はこのヘキンザーとルクセルクスを、同等に扱うのか?)


 だがヘキンザーは従順な姿勢を崩さず、むしろ笑顔で弟ルクセルクスに握手を求めると、ゆっくり静かに言った。

「ルクセルクスよ。これからは互いに王となるな。共に手を取って強い国を作ろうぞ」

 ルクセルクスも喜んでその手を握り、

「はい、兄上。どうぞよろしくお願いします。『闇の国(ダークキングダム)』は兄上にぴったりです。兄上こそ、闇の王にふさわしい――永遠に尊敬しております」


(――自分は光の王にふさわしいと言うか、ルクセルクスめ!)


 戴冠式の日、ありとあらゆる人々の賞賛を一身に集めながら光り輝いていた弟、ルクセルクス。

 それはヘキンザーの胸に、決して忘れることのないであろう屈辱を植え付けた。


(希望だと? 希望など、すぐに消える)


 彼は無意識に、黒手袋の拳を強く握り締めていた。

 まるで自身が握りつぶそうとするかのごとくに。


 こうして、光と闇は分け隔てられ、ダーク王ヘキンザーの苦悩も始まったのである。



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