4. よみがえった記憶
「こんにちは。あなた、ルシータ?」
そのとき、急に明るく声をかけられ、ルシータははっと我に返った。
幻を払うように一度目を閉じると、再び目を上げて目の前に飛び出してきた少女を見つめる。
ラベンダー色の綿菓子のような髪と、ふくらんだ花のような、やはり紫の袖の軽快な衣に身を包み、葉っぱで作った靴を履いた女の子だ。
その気配のなさをルシータはいぶかったが、彼女の背中に生えている透明な小さな羽根を見たとき、相手が人間ではなく妖精だということに気づき納得した。
「ええ、そうよ。あなたは?」
妖精は嬉しそうに言葉を返してきた。
「わたしはベルナデット。バールの使いなの。バールは光の国の元魔女よ。あなたを案内するわね」
こうしてルシータが無事バールの元へ到着したとき、秋の日はすっかり暮れていた。
絡まった細い枝の隙間から漏れるバールの小屋の灯りは、まるで森を照らす大きな照明で、またその上に、ルシータを案内してきたあの不思議な星屑が集まってきらめいている様は、たいそう幻想的であった。
ルシータが思うに、バールはおよそ魔女らしい風体をしているのであった。
すなわち、灰色の長い髪に、たれさがった鼻。小さな目に歯が一本しかない口。
お決まりの杖も持っていて、それで曲がった腰を支えている。
ルシータはバールがマッシュルームのような扉の向こうからあらわれたときには、思わず吹き出しそうになってしまった。
「ようこそ、ルシータ。お待ちしておりましたぞ。わしを覚えておいでかの?」
ルシータはにっこりと、だが残念そうに首を横に振った。
「悪いけど、まだよく思い出せないわ。なにしろ、ルシータという名を取り戻したばかりだから。――わたしを呼んだのは、あなた?」」
バールは小さな目をまん丸に見開いた。
「ほうほう、まるで男のように勇ましい。その格好……もしやドレスなど着たことがありませんかの? じゃが、マントも剣もよくお似合いじゃ。とてもアルタミラ様の妹御とは思えんがの」
「姉さまを知っているの?」
「わしは、ブライトキングダムを守護する魔女のひとりじゃからの。よく存じておりますとも」
そう言いながら、バールはルシータを中へと招き入れた。
部屋の中には生活のためのこまごましたものや魔法に関する妙ちきりんなものが、所狭しと置かれたり吊り下げられたり、さらにさまざまな匂いまでがしていたが、小さ目の暖炉には暖かい火が燃えてルシータの心をほっとさせるようだった。
ルシータはすすめられるままにマントを脱いで大きな肘掛椅子に座る。
「あなたを導いたのは光の天使ですじゃ。わしはただ光の封印を解いたまで……。
しかし十年前、光の国からあなたを救い出し、記憶を封じておいたのは、このバールでございます。ダークキングダムの王に悟られないようにするために、記憶を消しておいたのです」
「ダークキングダムの王?」
「そうです。ブライトキングダムを滅ぼし、ブライト王とあなたのお姉さまであるアルタミラ妃を殺したダーク王ですじゃ」
「ダーク王!」
とたんにルシータの顔が嫌悪に歪んだ。