48. 新たな敵
ルシータとベルナデットは、空気を切裂くような悲鳴に飛び起きた。
直感でアリーナの部屋の扉を開け――その光景に凍りつく。
天蓋の下、ベッドに横たわるアリーナの腹に、ハラートが光の剣を突き立てていたのだ。
光の剣は、まばゆい銀色の光を放って王女の体を包んでいる。
王女はこときれていたが、血はまったく流れていなかった。
「ハラート……なぜ? なぜアリーナ王女を?」
ハラートは涙で光る目を向け、絞り出すように、
「何も聞かないでくれ……ルシータ、ダーク城へ出発しよう」
と言った。
ハラートが剣を王女の体から抜かないのを見て、ベルナデットが聞く。
「ハラート、光の剣は」
するとハラートは静かに答えた。
「――抜けないんだ。
あの光の剣が、彼女を邪悪なものから守ってくれる。だからいいんだ、行こう」
彼らはまた木のうろから抜け道を通り、城の外に出た。
そして首尾よく見つけた馬に乗ると、再び森の中へと入る。
もう闇の魔術師サーグもいない。
彼らは安全に森を抜け、ダーク城へと馬を駆った。
その途中に、サーグの棲家だった闇の神殿が、堂々たる風に建っていた。
黒光りする石を堅固に積み上げた、横に広い長方形の神殿である。
「あの最後の悲鳴は――」
ハラートが悲しげに言った。
「アリーナじゃない。サーグだ。光の剣に貫かれたサーグが上げたのだ……」
そして胸に下げた薔薇の指輪を手に、しばらくそれを見つめている。
ルシータはハラートの後ろに座っていたが、彼がアリーナの指輪をネックレスにして首にかけているのに気づいていた。
「辛かったわね。でも、だからこそ、光を取り戻し、光と闇の美しい世界をつくらなくては」
そのとき、一本の矢が、きわどいところを飛んできて地面に突き立った。
振り向くと、鎧兜をつけた闇の兵士が一騎、こちらへ迫ってくる。
「ルシータ、つかまれ!」
ハラートはとっさに馬を走らせると、闇の神殿へと向かった。
ルシータがハラートにつかまりつつ後ろを振り向くと、相手もまっすぐに追ってくる。
「来るわ!」
神殿の後ろ側へ回り込むと、二人は馬を降り、剣を抜いて相手を待った。
そして黒馬が突っ込んできたとき、剣を振り上げたが、そこには誰も乗っていない。
「?!」
ふいに後ろから飛びかかってきた男に、ルシータは押し倒されてしまった。
手から剣が飛ぶ。
男が鞘から剣を抜き、振り上げるのが見えた。
が、それより速く、ハラートが男の胴に剣を叩き込んだ――かに見えたが、相手は振り上げた剣を素早く戻して受け止めたのだった。
さらにハラートの剣を弾き返すと、再びルシータの方を向いた。
(やるわね!)
とっさに地面をえぐり取り、ルシータは兵士の顔に土くれを投げつける。
相手がひるんだ一瞬の隙に男の体をはねのけると、落ちている剣めがけて走り、一回転して立ち上がった。
闇の兵士が黒い兜の下からにやりと笑い、
「なかなかやるな」
と顔についた土をぬぐう。
間髪いれず、背後から斬りかかるハラートに対峙し、剣を合わせた。
すさまじい音があたりを震わせ、二人の男は斬りあいを続けた。
そこへルシータも飛び込んでゆき、今度はルシータとの応酬になる。
男の腕はたいしたものだった。
ルシータとハラート二人を相手にして、ひけをとらない。
だが剣を合わせているうち、ルシータは妙な感覚になってきた。
(もしかして、この剣――)
「レギオン?! あんたなの?!」
「何だって?!」
ハラートが驚く。
すると男は身を翻し、神殿の中へと駆け込んでいった。
「レギオンだって? レギオンがなぜ、我々を襲うんだ」
肩で息をしながら、ルシータは言った。
「きっと、サーグよ。サーグの妖術かなんかにかけられてしまったんだわ……ハラート、行きましょう。追わなきゃ」