39. 魔術師サーグの罠
今度こそ、ルシータは目覚め、自分がかつて光の神殿だった廃墟に倒れているのを悟った。
――そう、ここはブライト王とアルタミラ姉さまが結婚式を上げた場所。
そうして今見た夢を思い返した。
「光にとっても闇にとっても光であるべき光――。それは何?
……闇は光を包んでいた。光は闇を際立たせていた。
光のまぶしさも、闇の暗さも、どちらも美しかったわ――つまり」
「おまえが光を導く者か――ルシータ」
そのとき神殿の奥の闇から皮肉るような笑いを含んだ高い男の声がした。
ルシータが目を凝らすと、暗黒からぼうっと浮かび出るように、頭からつま先まで、黒い毛皮に身を包んだ背の高い痩身の男が姿をあらわした。
男の周囲に薄っすらと青い光が見えた。
ルシータ自身も、まだベルナデットのシールドに包まれ、ほのかに光っている。
だが男のそれは放射するように放たれていて、ちゃちなシールドなんかではないのが一目でわかった。
「魔術師サーグね」
立ち上がったルシータがそう言うと、サーグは白い瞳を面白そうに見開き、
「ほう、わたしを知っているのか」
と言った。
「おまえもどうやら、わたしを知っているようだわね――卑怯なやり方で、わたしをここに連れてきたのはあんたね」
するとサーグは愉快そうに笑い、
「あれは"思ヒ出喰イ"という魔物でな。おまえの記憶の一部を喰って、おまえが心許しそうな人間を探り、その姿を借りたのだ」
「なぜわたしを殺さないの?」
「おまえこそ、なぜかかってこない。遠慮するな、さあ」
サーグの言葉が終わるまでに、ルシータは走り出していた。
が、横に薙いだ光の剣は、サーグの体を素通りした。
(しまった――こいつ! 実体がないんだ。これは幻……)
「ルシータ、アルタミラ王妃の妹よ。おまえをこのまま王のもとへ連れて行こう。
おまえなら、ライレーン王女を目覚めさせることもできるだろう。
ただし、その前に、おまえに闇の力を授けねばならないがね」
「なんですって、闇の力?!」
あっというまにルシータの体が宙に浮いた。
見ると、サーグと同じ青い光が全身を包んでいるではないか。
さらに金縛りにあったように、指一本動かなくなった。
「下ろして! 卑怯者っ!」
もがくルシータに向かい、また嫌味な声が飛んできた。
「そうそう、後の二人だが、さすが光の戦士、闇の魔物たちではまったく歯が立たなかった。
が、二人の様子ははっきりと見ることができたよ――やはり、ハラートは光の戦士だったのだな」
「そうよっ。わたしたちが必ず闇を倒す。ダーク王を倒して見せるから覚悟なさい!」
「無理だな。二人は仲違いしたぞ。もう一緒にはいない」
「……?! ど、どういうことよっ」
「金髪の男は、ひとり城へ向かった。もうじき、我らの仲間となる……」
「何ですって、レギオンが――」
サーグは、急にいらだって言った。
「くそう、何かがじゃまをしているな。おまえをこれ以上、持ち上げることができん」
そのとき、神殿の中が白く輝いた。