表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/62

33. 動き出す闇の魔物

 朝からレギオンはルシータの顔を見ようともせず、ハラートは一言もしゃべらない。

 ルシータは、ひとり気を遣って明るく話しかけていたが、もう限界だった。


「何なのよ、あんたたち! いい加減にして!」

 森中に響くぐらい、大きな声だった。

「やる気がないなら、もどるといいわ! こんなんで、ダーク王に勝てるわけない……

 何が"光の戦士"よ――もういい、ひとりで行くわ!」


 そうして後ろにベルナデットを乗せたまま、馬を駆った。


「おい、ルシータ!」


 レギオンの声もすでに届かない。

 飛ぶように走っていってしまった。

 へまをした、というように頭に手をやり、レギオンは自身に悪態をついた。

「まったく、男二人が何をやってるんだ! ――ああ、ちくしょう!」


 横でハラートが深い息を継ぎ、力なく笑う。

「すまない。本当に情けない……ルシータは頑張ってくれているのに」

「ああ、おれも自分の弱さに辟易(へきえき)するさ。ハラート、とにかくルシータに追いつこう」

 

 それから二人とも懸命に馬を駆り、ルシータに追いつこうと試みたが、結局ダークキングダムの森の入り口まで来てしまった。

 まわりには、誰の気配もしない。


「これは相当怒らせたらしいな。ルシータは、わたしたちを完全に見限ったようだ」

「……ったく。あいつ、本当にひとりでダーク王を討つ気か。信じられん」

 さすがに二人も落胆を隠せず、その先を眺めやる。


 そこからは線を引いたように、まったく世界が違っていた。

 緑の森はぷっつりと終わり、真っ黒な葉をつけた高い木々の森が、まるで洞窟の穴のように口を開けて続いているのである。

 瘴気であろうか、煙のような白いもやも漂い、光も射さないその森は、まさに死の森だった。

「ルシータ! おい、いるのか、ルシータ!」

 だが返ってくる声はない。

 ハラートが馬のひづめの跡を見つけ、

「ルシータの馬だ。森の中へ続いている」

 と指差す。

「どうやらやっぱり、ひとりで行ったらしいな……まずいぞ、ベルナデットもいないし。一気に駆け抜けるか」


 しかしハラートは首を横に振ると、

「いや、ダークキングダムの馬でなければ持たない。瘴気にやられてしまうだろう。

 ――レギオン、これを」

 そう言って懐から取り出したのは、薄いケープだった。

「これで鼻と口を覆うんだ。我々はここを通るとき、いつもこれを使う。ただし、ここからは徒歩だがね」

「わかった……ルシータ、無理するな。無事でいてくれ」

 レギオンはケープを受け取ると、しっかりと顔に巻きつけ、いよいよ二人は森に入っていった。



「ルシータ……。ほんとに気味悪い森ね。何にも見えないし」

 ルシータたちを包むベルナデットのシールドは、ほのかに光っていたが、先を見とおす灯にはならない。

 いやむしろ、手元ばかりが明るいために、かえって森の中が見えないのだった。

「ええ。走り抜けるなんて、とうてい無理だったわね。あんたのシールドがあってよかった」

「でも、ねぇ、ルシータぁ……やっぱり二人を待った方がよくない?」

 恐る恐るそう言うベルナデットに、だがルシータは返事をしなかった。

 ずっと、心の中で怒っていたのである。

 

(――レギオンの馬鹿。ハラートの弱虫。あんたたちに光の戦士の資格なんてないわよ)


 そのとき闇の中で、さらに濃い闇が動く気配がし、馬がいなないて前足を上げた。


「きゃああん……!」

「落ちないで、ベルナデット!」


 とっさにベルナデットを引き上げなおしてから、すぐさま馬を降りたルシータは、剣を抜き身構えた。

「ベルナデット、わたしにシールドを! あんたは入り口に引き返すのよ、早く!」

「ええっ?!」

「早くシールドを!」

「え――えいっ」

 引き返せと言われて戸惑ったベルナデットだったが、言われたとおり、ひとまずルシータにシールドを張った。

 ルシータの全身を薄い光が取り巻いたとき、すぐにルシータは馬の尻を叩いて、

「レギオンたちに知らせて!」

 と叫んだ。

「……きゃん! ルシ――」

 見る見る光に包まれたルシータが遠ざかってゆく。

 返事をする余裕もなく、ベルナデットは森の入り口に向かって走り出した馬にしがみつくしかなかった。 

(――ルシータ、無事でいて!)

 そう祈りながら。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ