27. 長老と鎖帷子
「そなたたちが、光の戦士かね?」
ルシータは一歩前へ出ると、
「はい。私はルシータです。そして彼らは、レギオン、ハラート。私たちは光の天使ソワールから光の剣を託され、闇を討つよう使命を授かりました」
「おお……もしや、もしや、ルシータというのは……あなたさまは」
長老のシワに埋もれていた目が見開かれた。
「あなたさまは、アルタミラ王妃のご姉妹……」
それを聞いたクラウディアは、「あっ」と手を口に当てた。
そして急いでひざまずく。
「ええ――でも、気になさらないでください。クラウディアも……さあ、立って」
そうして皆が暖炉の前に座ると、クラウディアが温めたお茶を配り、やがて聖堂の中にはくつろいだ空気が満ちた。
「ルシータ様。あなたさまがこうして生きておられたことは、民の喜びです。そして、あなたさまとこの二人の戦士が、ブライトキングダムを取り戻してくださる――」
長老はひととき熱心にしゃべり、それから部屋の隅においていた長持ちから何かを取り出してきた。
「これを、お三方に」
「――これは!」
目の前に広げられたのは、立派な鎖帷子だった。
ひとつは、金色の鋼。
ひとつは、銀色の鋼。
そして今ひとつは水晶でできていて、透明な光を放って輝いている。
「これはブライトキングダムの記憶をなくしたわしの側に、置かれていたのです。いつの日か、これを使う人たちが、わしのところへやってくるだろうということは、漠然と感じておりましたが」
「あの……わたしでよかったら、その下に着る戦士の服を縫いましょうか?」
三人が鎖帷子をまとう横から、クラウディアが遠慮がちにそう申し出た。
「あなたが? ――ああ、ぜひお願いするわ! この立派な戦帷子にふさわしい服をね」
「靴や革製品は、セルディンに頼むといいでしょう。彼は狩猟と皮なめしが得意だから」
長老もうきうきと言い、満足そうに三人を見上げる。
金色の鎖帷子はレギオンに、銀色の鎖帷子はハラートに、ぴったりだった。
ルシータも、水晶の鎖帷子を持ち上げてみる。
きらきらと、まるで宝飾品のように輝く石が、手に冷やりとした感触だ。
「ソワールの贈り物ね」
すると、ルシータのつぶやきに答えるように、帷子が厳かな光を放った。
ブライト村でのルシータたちの滞在は、ほぼ一月にも及んだ。
最後の日、彼らはセルディンやクラウディアから戦士の衣装一式を受け取ると、ついにバールの待つ森へ帰ることにした。
ここ数日、ブラツキーは大いに悩み、だがやはり、闇を倒す戦いに参加するという初心を貫くことにしたようだった。
レギオンが言う。
「だがなあ、ブラツキー。おまえは剣が遣えるわけじゃない。わざわざおれたちと来て、危険な目に遭うこともないんだぜ。
それより、おまえにふさわしい人生を送るべきだ。――クラウディアの側にいたいんだろう?」
ブラツキーは、思いつめた瞳で握った拳を震わせたが、
「いや。オレだって男だ。一度決めたことは、最後までやりぬく」
そう言い切った。
「ブラツキー、無理はしないで。レギオンの言うとおりよ。あんたの早耳は重宝だけど、これからは剣が要る。
もし何かのとき、あんたを助けてあげられるかわからない」
「足手まといにはならないって誓うよ」
ルシータの言葉に、ブラツキーは静かに反論した。
「オレも行かせてくれ」
「もしわたしたちが失敗したら――」
そのとき、それまで黙っていたハラートが口を開き、みな彼の方を振り向いた。
「もしわたしたちが失敗したら、闇の軍隊は必ずここにも攻めてくる。そのとき君は、セルディンやクラウディアのために戦うべきだ。
君がわたしたちと行動を共にしていないからと言って、仲間ではないということではない」
「そうだ。共に闇を倒し、光の国の再興を目指す同志に変わりはないぜ」
ブラツキーはハラートと、ウインクするレギオンを見比べ、それからルシータを振り返った。
「ブラツキー、ここに残って」
微笑はやわらかだ。
「大丈夫。わたしたちは必ずダーク王を倒す。あんたにはその間、散らばったブライトキングダムの人々を、この村に集めて欲しいの。そして、ブライトキングダムが復活したら、彼らと一緒に来て」
少しの沈黙ののち、ブラツキーは言った。
「わかった」
そして明るく笑い、
「オレはここで、自分のやるべきことをやるよ」
それから順番に、三人の手を両手で握り締めた。