表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/62

15. 水晶に映る影

「ねぇぇ……バール。バールったらあ」


 今日は外はよく晴れて、空気のおいしい一日である。

 にもかかわらず、小さなランプが灯されたきりの薄暗い小屋の中で、バールは先ほどから水晶玉とにらめっこをしているのであった。

 ときおり呪文を唱えては水晶をのぞきこみ、首を横に振りながら青息吐息している。

 側ではルシータとベルナデットが見守っていたが、ベルナデットがついに辛抱切れてぐずり出した。

「ねぇ、さっきから、なぁんにも映らないわよう?」

「しっ! 静かにしやっ。もうひとりの戦士、『銀の車輪』を捜しておるのじゃから」

 それでも妖精は口を尖らせる。

「ソワールは何にも答えてくれないの? 彼女にもわからないのかな?」

「ベルナデット、バールが集中できないわ。大人しく見てて」

 ルシータに諭され、ちょっと肩をすくめて、やっと黙ったベルナデットである。

「水晶というのはの、ずいぶんと気まぐれなんじゃ。……どうも気に入らんことがあるらしいわい」


 バールのしかめつらの横で、ふと嬉しそうにベルナデットがルシータに小声でささやいた。

「あなた、水晶に映ったのよ、ルシータ。王様や王妃様や、ライレーン王女様と一緒に」

「わたしが?」

「うん。まだ少女だった」


 ルシータは目を丸くした。

 少女の自分が、影のように水晶の中に映っていたのかと思うと、不思議な感じがする。 それと同時に、自分も懐かしい人たちを見たいと思い、「姉さま……」とつぶやいてみる。


 と、そのとき、水晶が白く煙りはじめた。


「おおっ! 映る、映るぞい……」


 水晶の中には、懐かしいアルタミラの姿が映っていた。

 まだ王妃になる前の、初々しい姉の姿が。彼女は誰かにやさしく話しかけている様子で、ルシータはそれが自分にだとわかったし、そのときの場面がありありと浮かんでいた。


 あのとき、姉さまはわたしの問いに答えてくれていたのだ。


 ――「どうして王様のところへ行くの? 姉さまは、レギオンが好きなんでしょう?」

 ――「そうよ、レギオンを愛してるわ。だから行くの」

 ――「どうして? わたし、姉さまはレギオンと結婚してほしい。わたしたちから離れていかないで」

 ――「ねえ、聞いて、ルシータ。姉さまは光の天使に会ったのよ。天使は言ったわ、レギオンは光を救う戦士になるって」

 ――「レギオンが? 光を救う戦士?」

 ――「そうよ。そしてわたしは光の王妃になって、王女を産むの。レギオンが守ってくれるはずの、王女を」――――


 ルシータは、両手を握り締めないではいられなかった。

「そうか……そうだったんだ」

「何か気づいたの? ルシータ」

 さっと立ち上がり、「レギオンはどこ?」

 バールが言った。

「泉じゃよ」 目は水晶を睨んだままだ。「二人とも、体を洗っているのさ」


 そしてルシータが戸口へ走りだそうとした瞬間、今度は裏返ったバールの声が部屋中に響いた。

「これをごらん、ルシータ……!」


 水晶の中に、きらめくたくさんの赤い糸が舞っていた。

 やがてそれは人の髪となり、後ろ姿のその人物の虚像がくるりと回って顔を見せた。

「この男……! あのときの戦士だわ、ダークキングダムの男……なぜ彼が?」


『――『銀の車輪』は目覚めました』


 水晶から、ついにあの美しい声が聞こえてきた。


『ルシータ、彼を仲間として迎えなさい。彼はもうじきここへあらわれるでしょう』


 ルシータも、バールも、ベルナデットも――三人とも唖然としたまま動けなかった。

 水晶の中の『銀の車輪』は、あの日ルシータが見たままの悲しみをたたえた目をして、どこか森の中を進んでいる。

 黒い闇のような衣装に、さらなる悲しみを包み込んで。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ