プロローグ・闇の侵攻
はじめまして。
「まくらのねむこ」と申します。
以前、お芝居のために書いた脚本を小説に書き直してみようと思いました。
ひとりでも多くの方にお読みいただけたら嬉しいです。
なお、この作品は「アルファポリス ファンタジー大賞」にエントリーしています。
応援していただけたら、幸せです!
いまやあたりは、轟々(ごうごう)と鳴る炎の音に包まれていた。
そしてそのすぐあとからは、恐怖を背負った闇が迫っている――。
光の国の聖なる森は暗黒のうちに沈み去り、ブライト王の居城だけがかろうじて光のなかに浮いていた。
が、闇の軍勢はすでに城をくまなく取り囲んでいる。
王国を守護する光の妖精たちにももはや、王を救い出すすべは見出せないのだった。
いよいよ城の一角から無数の黒い影がすべるように忍び込むと、そこから闇が広がり始めた。
闇の戦士は暗黒の剣をふるい、迎え撃つ光の戦士を次々に打ち負かしていく。
暗黒の剣は遣い手の戦気を帯びて、地獄の炎を放つ。光の森の木と同じように黒く干からびた骸となり果てた光の戦士たちを踏み越えて、彼らは侵入を続けた。
その混乱の間を、ひときわ大きな、闇よりもなお黒い影が堂々と進みゆく。
重いマントがひるがえり、胸の上に三日月形の銀光が鈍く宿った。
彼こそはダーク王――闇の王国を統べる暗黒の王者なのである。
彼はまっすぐに玉座の間へと入っていくと、中央に立ち尽くしじっと耳を澄ませる。
鉄仮面に覆われたその異様な顔をぐっと上げると、血走った眼で玉座を凝視した。
どこかで泣く赤ん坊の声がかすかに聞こえている。
木の葉がざわめくほどの音であったが、ダーク王の耳は確実にそれをとらえていた。
なおもじっと動かずにいたが、突如玉座めがけて突進すると、手にしていた巨大な暗黒魔剣を振り上げ玉座を真二つに切裂いた。
すると、なんと、玉座の下に下へと伸びる階段があらわれたではないか。
ダーク王はその階段をすべるように降りていった。
そうしてついに、追い詰められたブライト王と、その王妃に対面したのである。
王妃はまだ若く、美しく、その腕には生まれたばかりの赤ん坊を抱いていた。
火のついたように泣く乳飲み子をかばうように抱き締め、しかしその顔は蒼白であった。
彼女の前に立ちはだかり、ブライト王は声を荒げた。
「ダーク王、なぜだ。なぜ我が国を攻撃する?! あなたにはあなたの国があるではないか!」
闇がダーク王の背後で波のように持ち上がった。
「教えてやろう、ブライト王よ。なぜならおれは、弟のおまえが憎いからだ。おまえには妖精の加護があり、おれにはただ闇があるだけだ。おれも光が欲しい、だからおまえの王国をもらう――光の国、ブライトキングダムをな」
「ダーク王!!」
王妃アルタミラが悲痛に叫んだその瞬間、ダーク王の背後の闇が渦を巻き、彼の漆黒の髪を、暗黒のマントを、高く巻き上げた。
「兵を引いてくれ、ダーク王! わたしを殺したければ殺すがいい、だが王妃と王女の命は……」
そのとき、ザッ! と鈍い音がして、ブライト王の首が飛んだ。
「!」
彼の首のない胴体ががっくりとひざまずき、前に倒れて瞬時に炭色に干からびていくのを、王妃は瞳を見開いたまま声もなく見つめた。
だがダーク王の魔眼が、じりじりと自分の腕の中のものに迫っているのを知ったとき、彼女は凍りついて息を呑んだ。
魔剣から放たれた火が、部屋のあちこちを燃やし始めている。
ダーク王は真っ黒な全身から強いオーラを放ちつつ、地を這うような不気味さで言った。
「王妃よ。妖精の加護はもう終わりだ。今度はおれが受ける番だ。その子を人質にすれば妖精たちも言うことを聞くだろう」
「……ライレーン!!」
恐れる前に、死はやってきた。
ライレーン王女を抱き締め、身をかわして逃げようとした王妃の背を暗黒魔剣がひと撫ですると、王妃もまた地に伏し焼け焦げた枝となった。