お昼食べたい
屋上の出来事から一週間が過ぎた。
あれから、あの女子生徒から兎双への接触もなくいつもの毎日が流れていた。
兎双も数日は気にしていたが、いつもの日常の中にあの女子生徒のことは溶けて消えてなくなった。
「おーい、兎双。聞いたか、例の話?」
「例の話?」
時刻は午前の授業が終わり、空腹に飢えた生徒が真っ先に食堂へと走っていく。
そんな喧騒の中、話を振ってきたのは兎双といつも昼食を共にする悪友。
名を篠崎 健也という。
彼は何かと耳が早く、兎双がこの学校について様々な噂を耳にする元凶でもある。
「そう、一年にすっごい綺麗な子が転校してくるんだと。銀髪で小さくてさー」
その特徴的な容姿の説明だけで、兎双は嫌な予感がしていた。
「せんぱーい。一緒にお昼食べましょうよー」
「予感的中が早すぎる……」
教室に入ってきたのは、銀髪の女子生徒。
高校生というのは、いつになっても恋愛沙汰には興味深々であり一年で転校生の女子生徒が教室を訪ねて来て、お昼を誘いに来るなどしたらどうなるか。
「兎双君の彼女!?」
「いやいやいやいや、そんなはずはありえない。あいつは俺と一生独身で生きると誓ったんだ!!」
誓ってねーよ。
あっという間に教室に残っている生徒の視線は二人へと注がれる。
「兎双……どういうことだってばよ!!」
「悪い、篠崎。今日は飯は一緒にできないわ」
兎双は不届きものの手を引いて、さっさと教室を出て行った。
後ろからは男の恨めしそうな声や女子の黄色い悲鳴などが聞こえたが、全て聞こえなかったことにした。