屋上にて
授業開始の予鈴が鳴る。
昼休みが終わり、校庭に散っていた生徒たちが次々と校舎の中へと戻っていく。
兎双は屋上から背中を預けたフェンス越しに、それを眺めていた。
「いい天気だ。まさに絶好の日より」
屋上の扉には外側から鍵をかけた。誰かが入ってくる心配もない。
兎双 創代はこれから5、6限はサボることに決めていた。
彼は不良と呼ばれるほど、素行が悪い生徒ではない。
普段はきちんと授業にも参加し、教師から評価もそこそこだ。
だが、同時に真面目と呼ばれるほどに彼は勉学に運んでいるわけでもない。
今日は彼にとって、一か月以上、楽しみにしていた日なのだ。
社会現象にもなった大人気ゲームの三作目が出て、発売日に学校を仮病で休む奴。
一言で言えば、彼はまさにそういう男だった。
「そろそろか」
彼は目の前に浮かんだ、時計を確認しながら大きく息を吸う。
「AR起動。Desire世界大会、生放送ページへアクセス」
コンタクトレンズ型AR機器「リンドヴルム」が起動し、彼の視界いっぱいにカメラの映像を映し出す。
広がるのは巨大な都市をモデルにしたミニチュア。
そして、その小さな都市を駆け巡る妖精。「フェアリー」
現代において究極のeスポーツ。
懸賞金で一生遊べるほどの大金が稼げてしまう夢のようなゲーム。
それが、拡張現実型カードゲーム「Desire」であった。