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6.翌日


「遅刻」という単語で飛び起きる。母が一階の階段下からほえていた。

「あ、ごめん。さち・・・・・」


起きた拍子に、隣で寝ていた妹が転がり痛そうだった。まだ眠っているうちに着替える。

体が昨日の汗で気持ち悪かったけれど我慢した。妹に誰かが来たら押入れに隠れるようにと、物音は絶対させてはいけないということを言い、すぐさま階段を降り居間へと向かった。


居間ではすでに父と姉が座り朝食を食べていた。僕が食べ始めると母もテーブルについた。

「兄さんは・・・・・?」

「今朝方まで勉強していたらしいから、もう少し寝かせてあげた方がいいでしょ」

「センターまであと少しだしね・・・・・・」

これはもう予定内の会話。何度も想像して、シュミレーションをして自分に言い聞かせてきた。

母は嘘をついているのだ。昨日兄は、あの社の中にいたのだから。

兄がどうやってあそこからすばやくいなくなったのかはわからなかった。しかし僕は帰り道を見つけた。あの時見つけた隠し扉は、実は上界へ出る階段があったのだ。道のりは長かった。家の階段の何十倍はあるように思えた。外に出たころには、向こうが薄明るい色をしていた。

「遅れるわよ!」

母の一言で我にかえり、大急ぎで食べ、支度をする。

「行ってきます」

そこから学校まで走った。はじめに事実を早く伝えたかった。



なのに、はじめは学校に来なかった。






翌日教室に入ると、はじめの机には花瓶が置かれ、花が活けられていた。何かの冗談だと思った。でも冗談にしてはやりすぎだと思った。だから彼を快く思わない生徒がいて、そいつが妬んでやったのだとも考えた。しかし先生は普段のように、話し始めた。


「脩寺はじめ君は、おととい亡くなられました」


しばらくの混乱、泣き出す子もいて黙祷した。それきり会話もなく、淡々と授業は進められた。放課後も全校が集まって校長先生の話や黙祷をしたけれど、それきりだった。それきり先生たちの口から、はじめに関しての何かを聞くことはできなかった。それでも生徒たちの間では口々に様々な噂がばらまかれていた。隣町で発見されたことは確かだったらしいけれど、その死に方について中には「バラバラ死体で発見された」などとありもしない恐ろしいものもあった。どれも信憑性に欠けていたから、結局知っている人はいないのだろう。僕たち子供では。

はじめの家に行けば何かわかるかもしれない。はじめの両親が何か教えてくれるかもしれない。そんな期待を胸に一度家に帰ると、妹を連れてはじめの家を訪れた。

 

呼び鈴を押してみる。数秒鳴った。けれど何の気配も、何の音もしない。再び押す。しかし誰も出てはこなかった。出かけているのだろうか。

僕は家を見上げた。田舎にしても相当大きな家。今のような洋風な造りではなく、日本古来の造られ方をしている。この中で、はじめとはじめの両親三人は暮らしていたのだ。三人にしては大きすぎるくらいで、そして不気味だ。ここには本当に人が住んでいるのだろうかと思われるほど。

妹を握る手に思わず力が加わる。そっと、その戸を開けてみた。

カラカラと開いた扉。田舎だからといって無用心すぎる。鍵をかけなければここらへんも物騒になってきたため、空き巣に狙われてしまう。

躊躇したが、靴を脱ぎ上がる。


「おじゃましまーす・・・・・」


誰もいないとはわかっていても言わなければいけないような気がして、少し控えめに入ったことを知らせた。もしかしたらおばさんは寝ているのかもしれない。

ひんやりとした空気が肌に触れる。冬だから当たり前だけれど、この家に何時間も人がいなかった証拠でもある。一歩ずつ足を進ませる。ギッとときおり廊下がきしむ。そして最初の扉を開いた。ここは居間になっている。



「・・・・・・・・・っ」

誰もいなかった。人はいなかった。けれどそこは荒らされたように散らかり、原型をとどめたものは何一つなかった。そしてその壁には、大きく乱雑な字で赤々とえがかれていた。





“つぎはあなた”




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