4.落下
眠気がした。
視界がしだいにまどろみになる。自分は立っているのか、ちゃんと地面に足はついているのか、ここはどこなのかさえわからなくなりそうになる。意識をしぼりだして、思いっきり足をあげた。
「え、あれ、あれ?わわわわぁぁああー!」
よろめいた瞬間、後ろの社内の空洞に落ちた。
落ちる、落ちる、落ちてゆく。この落下の先には一体何が存在するのか。暗い暗いトンネルの中のようで、自分が本当に落ちているのかさえわからない。自分は本当は浮いている。いや、静止したままなのかもしれない。無重力の世界。
バサッ
突然おしりに何かの感触を感じた。そして自分が今まで落下していた事実がわかる。
目が開けられなかった。暗い世界に突如明かりが入り、目の働きが追いつかなかった。おそるおそる目を開くと、夢の中だった。
「・・・・・・」
僕はどこに来てしまったのだろう。そればかりが頭をめぐる。
目の前に広がる風景はひどく滑稽で、信じ難いものだった。自分が今いるのは草のクッション。数人の子供たちが駆け回っている。
部屋の真ん中に大きな巨木。様々な実をつけ、静かに佇んでいた。その向こうには鉄くさい川が流れ、一見やわらかそうな石がそこらじゅうに転がっている。白いものもあった。木の枝らしきものもたくさんあった。巨木の周りは甘い果実のにおい。それを嗅ぐとおなかが鳴った。体の奥からその果実への欲求が起こる。
巨木は自分の背よりも大きかった。空腹を感じた瞬間、手の届きそうな気がしてきた。
食欲の欲求は止められない時がある。生き物ならば食べなければ生きてはいけない。手を伸ばす。枝が下がってくるような気がする。そして自分も大きくなっていく。果実がその瑞々しさを主張している。
キィー
錆びついた扉を開ける音がして我に返る。そして自分がここへ来た理由を思い出した。
空気の動く音が鳴っている。あわてて隠れられそうな場所を探した。どさっと何か重みのあるものの落ちた音。
手に汗が出始めて、必死に壁伝いに這っていくとカタッと開く場所を見つけた。
隠し扉だった。
気づかれないようにそろりとその内へ入った。中は予想外に、暗かった。しかし向こう側の音がよく聞こえるため、進入してきたおそらくは村人の行動がわかる。
その村人は草のクッションから飛び降り、様々な石を踏みつけながら川方面、巨木の方へと向かっている。その足取りは不安定な上、遅い。この特徴的な歩き方は、たった一人しかいなかった。