始まりの物語
世界には色がある。
赤、青、黄の三原色を初め沢山の色が世界には溢れている。
色が世界を支配していると言っても過言では無いだろう。
この世界で生まれる者には色が与えられて生れ落ちる。
代表的な赤、黄、緑、青、紫の5色を基本としてどれが一つを付加され生まれる世界。
それぞれに特徴があり、それを生かして皆が生活を営む世界。
赤は炎、黄は雷、緑は土、青は水、紫は癒しを象徴しそれぞれに魔法が存在する世界。
世界の名前はペンタヴェルト。
多くの国が存在し、共存、敵対、平和、混沌乱れる世界。
そんな世界で唯一無色透明を持って生まれた少年の話。
山奥の片田舎ヴィラージョで生まれた少年の名前はトラス。
今年で五歳になる少年の父はその昔、ギルドで名を馳せた男だったが結婚を期にこの村に定住した。
母は村で唯一の癒しの力を持つ人間で彼女の働きのお陰で収入は安定していた。
「頑張りなっ! もう頭が出てるよ!」
「んっうっ~ん!」
「レステ頑張れ!」
「ほら! 出たよ!」
「レステ良くやった!」
「はぁ~はぁ……凄い痛かったわ……」
「生んで一番初めの感想がそれなら安心だね」
「先生も有難う御座います」
「いいよ~長い付き合いさ」
「トラス~父さんだぞ~」
「うえぇええ!」
「凄い泣き声ね」
「元気でいい子だね!」
生まれて直ぐは色は分からない。
神殿にて恩恵を受けて初めてその色が告げられる。
それは五歳になって初めて行われる神聖な儀式で唯一絶対の神、ヴァイスネージュのお告げ。
「トラス~どこにいるの? トラ~ス~」
「お母さん! ここだよ!」
「もうっ! いつも樹に登って! 危ないから降りてきなさい!」
「でも父さんが……」
「あの人も! 今日はこれから神殿に行くって言ってあったのにっ!」
「あっ! 父さん帰って来た!」
「ただいま~♪」
「あなたっ!」
いつも父さんは母さんに叱られてる。
村の皆は女房の尻に引かれる男が丁度良いとか言うけどよくわかんない。
でも二人共いつも仲が良いから僕は両親が好きだ。
今日は僕の色が分かる日! ずっと憧れて来た日。楽しみでしょうがない!
こうして手を繋いで歩くのが好き。
父さんは赤色、母さんは紫色、僕は何色になるかな?
「緊張するわね」
「何大丈夫さ! 俺達の子だからな!」
「あなたは適当過ぎるのよ!」
「そう言っても儀式で分かるんだからさ?」
「もうっ!」
神殿の中には始めて入る。
儀式を受けてない人は入れないからね。
今日から僕も神殿に入れるようになるんだから嬉しいんだ。
赤のローブを纏った神官様に言われた通りに両膝を付いて祈りを奉げる。
暖かい光りが胸の中に入ってきてぽかぽかしてきた。
(こんにちわ?)
「こんにちわ!」
「トラス君? 声は出さなくていいからね?」
(ふふっ、元気は良いことだね。君はトラスでいいのかな?)
(はい! トラスです!)
(君の色は~)
(何色ですか!)
(うん? 君には色が無い……?)
(良くわかりません!)
(これは……)
(あの~)
(君は何色が良かったんだい?)
(何色でもいいです!)
(そうか~君はいい子だね……でも良くお聞き?)
(はい!)
(君には色が無い、これは本当に有り得ない事。誰であろうと色があるけど君には無いんだよ)
(あの……僕……)
(安心していいよ? 実際こうして私とこれだけ話せる子もそうは居ないからね)
(?)
(無色、透明、透き通っていて何も無いようで何かあるね)
(あのっ)
(でもこれは良く無いね)
(僕はダメな子なの……)
(そんな事はないよ? でもこのままだと利用させれる人生になるね)
(……)
(君が君として動けるようになるまで私が色を付けてあげようね?)
(えっと)
(大丈夫、心配無いよ? さぁ何色にしようか?)
(あのホントに何色でもいいんです)
(では赤にしようね? いいかい? 選べるようになるまでの期間限定だからね?)
(はい!)
(君が無色、透明と言う事は誰にも言ってはいけないよ?)
(お父さんとお母さんにもですか?)
(そう。誰にも言ってはいけないよ? 守れるかな?)
(はい!)
(では君がいつか旅立つ時にまた会おうね?)
「はい! ありがとうございます!」
「もうっトラスったら」
「っはは! 元気で良いじゃないか!」
「赤色だった!」
「おう父さんと同じか! よし! 父さんが色々教えてやるからな!」
「うん!」
そして両親に挟まれて家へ帰る、いつもの風景。
神様との約束はちゃんと守らないと駄目、それを言えないのが少しだけ後ろめたい気持ちなる。
それでも頑張って努力しないと、じゃないと悪いのに食べられちゃうからね。
過ぎる去る日々は早く、父と母と息子の小さな家族はいつものように笑い、時に怒り、そして泣く。
楽しい事が多すぎるから悲しい事が起こった時の落差で人は辛く苦い気持になる。
それでも生きている以上はまっとうせねばらない。投げ打つ行為は罪だから……。
「トラス~神殿にいこっ?」
「うん」
「今日も元気ないね?」
「そうかな?」
「そうだよ! トラスはいつもニコニコだったからね!」
お告げで色を貰ってもう五年、その間に父から多くを学び、母から多くを貰った。
八歳になる時、村に厄最が降り注いだのが昨日のことみたいに思い出す。
村の人達が次々に病に侵されて死んだ。
仲の良かった友達もおじさんもおばさんも……線みたいに細くなって痛みに声を荒げていた。
苦しむだけ苦しんだ果ての死。唯一、頼みの綱の母でさえどうにも出来なくて終いに同じ病であっさりだ。
父は村を出て医者や助かる手段を模索していたようだけど、母の最期に立ち会うことは無かった。
戻って来て始めて母の死を知った父の顔を今でも忘れない。
いつも笑顔で多くを教えてくれた父とは別人のようで怖かったのを良く覚えている。
最後には僕を捨てて村を去った。
生き残った村人達は半数以下にまでなっていて皆が支えあうように生きていた。
十歳になった頃、ルーのおじさんが父を見つけたと教えてくれてたけど何も思わなかった。
初めこそ悲しみの淵でも一緒に暮らしていたけど……次第に酒に溺れて暴力を振るう始末。
毎日増える痣にルーのおじさんが父を殴っていた事もあった。
最後に父から聞いた言葉を聞くまでは父は父だったけど……。
「お前が居なかったらこんな事にならなかった」
そう言われて何かが壊れた。その日から父を父ではなく、別の違う生き物のように見てた。
ルーのおじさんが言うには帝都のギルドで酒に溺れてたとか。
僕に気を使っているのは分かってた……まだきっと何かを隠してるって。
それでもおじさんにも悪いから笑顔を作っておじさんに懐いていた。
そうして過ごす日々はモノクロで色が無くて僕だった。
今の僕に見える色は三つ、空の白に夜の黒と火と血の赤だけ。
世界はたったの三色で出来ている。
正確には中間色の灰色もあったけどあんまり意味は無いと思う。
いつからそう見えるようになったのか思い出せない。突然だったとしか記憶に無かったし、そうなっても大して驚かなかったから印象に残ってないだけかもしれない。慣れるまでに大変だったのは食べ物が美味しく感じ無いことだった。予想した味と違うことが多くてがっかりすることが多かったんだ。
赤は好き、唯一感じるその色が僕に輝いて見えていたから。
赤は嫌い、父と同じ色だし痛い色だから。
十歳になるまで神殿には一度も足を踏み入れなかった。
それはきっと怖かったから、好きで嫌いな赤すらなくなった世界を思うと震えたから。
でもきっと今日、僕の世界から赤は消える。
神様は選べるまでだって言っていたから。
今日から世界は白と黒と灰色になるんだろう。
気にしてももうどうしようもない。
ルーと二人で入った神殿で順番を待つ。
先にルーが膝を折って祈りを奉げ何やら笑顔で楽しそう。
あっという間に祈りが終わって僕の番。
最後に見た赤は神官の着たローブの赤だった。
(ん~あぁ! 君か! え~とっね~君は~トラス君だったね?)
(はい)
(おや元気無いね? あの時は大きな声でお返事出来たのにね? これが成長かな!?)
(わかりません)
(他の子はいつも来てくれていたけど君はあれ以来一度も来てくれないから悲しかったよ?)
(すいません)
(ん~まぁいいや! ちなみに君は道を選べるかな?)
(はい)
(聞いていい?)
(普通に暮らして普通に死にたいです)
(あら~歳の割りに干からびたこと言うね?)
(色々……ふふっ)
(あれどうしたんのかな? 何か楽しいことあったの?)
(色なんて無いのに色々って可笑しいですよね)
(え全然わかんない! なにブラックジョークなの?)
(ぷっふ)
(教えてよ!)
(もういいから赤を貸して下さって有難う御座いました)
(ちょいちょいちょいお待ちよ!)
(はい?)
(駄目だよ? ちゃんと話してくれないと困るからね?)
(神様に迷惑かけてないから良いじゃないですか)
(そんな横暴な態度を子供の時からしてたら駄目だよ?)
(はぁ)
(いいもんね~勝手に見ちゃうんだからねぇーっと)
(楽しいですか? 人のあれこれ見るのは)
(あぁこれは酷い。そりゃ歪むね! 最早歪んだオブジェだよ)
(そうですか有難う御座います)
(まぁまぁ待ちなさいよ? まだ終わってないんだからね?)
(何ですか)
(そんな怒らなくていいでしょうに? 思春期特有のアレなの?)
(何言ってるか分かりませんけど)
(君は無色透明。でも君が見ている色は三つだけか勿体無い!)
(あたなに何か関係あるんですか)
(そりゃ大いに有るよ? 無色なんて見た事ないんだから凄いんだよ?)
(あなたにはそうでも僕にはそうじゃないですから)
(あなたってさ~他人見たいに言わないでよ? 悲しくなるよ?)
(他人です。色を貸してくださった事には感謝してますけど)
(む~その歪みきった性格は駄目! 君はもっと元気で良い子!)
(何も知らないのに勝手な事いうな!)
(あら怖い~怒らないでよ~でも勿体無いからね~よし決めた!)
(何をですか)
(塗りなおします! 私自らね~)
(操るんですか!)
(物騒な事考える子供だね)
(もう十歳です!)
(でもやったことないでしょ?)
(何をですか!)
(決定だね~はいじゃあ君はこっちに来て下さ~い!)
世界は色に満ちている。
多くの色があって混ざり合って支配している。
それが当然の様に振る舞い、皆それを当然と思っている。
当たり前に思う人達からすれば当たり前だから当たり前なんだ。
自分に色があること、自分に色が見えること、当たり前。
そんな世界の中で僕は……。
普段は龍軌伝というタイトルで小説を書いております。
http://ncode.syosetu.com/n3159ct/
しかしながら不幸な事故でデータを一部失いまして、現在復旧中です。
なので少しだけ執筆していた此方を投稿します。
ちなみに凄く不定期更新になりますので宜しくお願い致します。




