8-死の前兆
ブクマありがとうございます!
これからも出来るだけ頑張ります!
ーーーどうなったんだ。
俺の目の前には蛇の死体。
それを壁にもたれかかりながら見ている。
蛇の死体がアイテムになるのを眺めながら考える。
なぜ、こうなったのかが分からない。
どうやって死んだのかが分からない。
実際は蛇の口に剣を刺しただけの話。
敵の噛み付きに合わせて剣を出しただけの話。
それだけなのだ。
しかし、俺はそれすらも分からなくなっていた。
俺が生きているのも不思議に思う位に。
何だかどうでも良くなってきた。
蛇から取れたアイテムを取る気もしない。
ここから動く気もしない。
ただ、ボーッとしてるだけだ。
『問、なぜ蛇は死んだ?』
頭の中で声がする。
不思議に思いながらも答える。
ーーー決まってるだろ、殺されたからだ。
『問、誰が殺した?』
ーーー誰って、俺……なんだよな……?
『問、どうやって?』
ーーー剣で、倒した……はず。
『問、なぜ殺した?』
ーーー相手が、殺そうとしてきたから
『問、なぜ戦った?』
ーーーだから、相手が俺をーーー
『問、なぜ逃げなかった?』
ーーー……最初は逃げたよ。
『問、その後は?』
ーーー逃げようとしたけど、隙が無かっーーー
『否定、いつでも逃げられた』
ーーー……。
『問、殺したかった?』
ーーーいや、戦う気がなければ殺さなかっーーー
『それも否定、殺したかった』
ーーー嘘だ。
『また否定、嘘じゃない』
ーーー嘘だ嘘だ嘘だ!!
『問、じゃあなぜ殺した?』
ーーーだから、相手が殺そうとしてきーーー
『問、殺されたくない?』
ーーー当たり前だ。人間である以上殺されたくーーー
『否定』
ーーー……は?
『否定』
ーーー……何がだ。
『問、人間?』
ーーー何が言いたい……!
『問、殺されたくない?』
ーーーだから何が!!
『記憶と照合。……不一致』
ーーーお前は誰だ!俺の何を知ってる!
『問、あなたは肉が千切れ骨も折れてる?』
ーーーは……?それがどうかーーー
『問、そんな状態でなぜ動ける?』
ーーー……確か、ポーションで痛みを和らげたはず
『否定、ポーションにそんな効果はない』
ーーー……今、なんて……?
『問、あなたの魔物化。いつからある?』
ーーーいつって…最初から。
『記憶と照合。……一致。確定』
ーーーお、おい…何がだ……?
『魔物、確定。固有名称、不明』
ーーー……は?
『問、』
『悪魔にーーーなりたい?』
「……何を……何を言っている……?」
『否定、分かっているはず』
今まで考えていただけだが、つい声に出して言ってしまった。
「お、おおおお前は誰だ!何を言っている!」
『……再度問う、悪魔になりたい?』
「な、何を言っているんだ!俺は人間だ!」
『……そう。落ち着いたら再度問う』
「お、お前は誰なんだよ!俺の何を知っている!」
今度は応答がなかった。会話は終わったのだろうか
俺は今半分狂っている。それが分かる。
不安定だった心に、今のあいつの言葉。
狂うのには十分だ。
「何を!何を!おい!聞こえてんだろ!」
ズキズキと痛む体を無視して暴れる。
千切れた肉が悲鳴をあげ、折れた骨が砕ける。
終いには剣を取って見えない何かを斬る。
とにかく暴れる。暴れる。暴れる。
……これじゃあ、あいつの言うとおりだ。
本来なら立てない。いや、動きさえもできない体をこんなに激しく動かしている。
「俺は!俺は人間だァァ!!」
何かを否定したくて叫ぶ。
いろんな箇所から血が噴き出し音が鳴る。
少しよろめくが、何かに負けてはならないと本能が告げ、必死に堪える。
剣を振る、ただ振る。
赤ん坊のように暴れまくる。
「おい!どこだ!どこにいる!」
何かを探すように目を凝らす。
既に腕は筋肉が裂け、血が滲んでいる。
胴体は骨が折れて肋骨が少し出ている。
足はところどころ血が噴き出し、肉も切れているだろう。
顔は目が血走り、口は血だらけ。頭からも血が流れており、額も割れている。
「どこだ!どこだ!姿を見せろぉぉぉおお!!」
剣を振り続ける。
叫んでいたせいで喉が切れているだろう。
血が滴り落ち、水溜まりをつくる。
それでも止まらない。
止まってはいけないと本能が告げる。
その直後ーーー
ズドォォォォオオオン
ーーー洞窟の奥で音がする。
その音で俺は一瞬止まる。
恐らく、俺の声を聞きつけてやって来たのだろう。
俺は血だらけの顔でそっちを向く。
「キィェェェェエエエ」
そこには、甲高い音をあげる大きい鳥がいた。
体長5mはある大きい巨体に、顔に付いてる鋭いくちばし。そしてギョロギョロ動くでかい目玉。
ランクBは超えているだろう。
戦うべきではない。逃げなければ。
しかし、俺にはそんな判断も下せないほど精神が参っていた。
「お前が……お前が敵か!」
気付くと走り出していた。
ボロボロの体で勝てるはずがない。
それさえも分からず走る。
激痛で何も考えられない。
小細工など知った事か。
「ぅぁぁああああ!!」
敵が気付くより速く飛ぶ。
そして顔にしがみ付き乱暴に剣を振るう。
策など何もない。
しかし、敵はいたって冷静に翼で俺を剥がし、もう片方の翼で吹き飛ばす。
向かいの壁に激突する。
また骨が何本か折れた。
肉が裂けた。
だが、俺は止まらない。
すぐに壁から離れ相手に向かって突進する。
これには相手もビックリしたのかすぐには動けない
俺はそのチャンスを生かしてまた顔に飛ぶ。
今度は乱暴に振らず、敵の大きい目玉を目掛けて剣を突き出す。
思いっきり遠慮も無く差し込む。
グシュァ
変な音とともに剣が目を突き刺す。
よほど奥まで入ったのか、俺の手も肘まで目玉で埋もれていた。
そこで敵が気付き、痛がるように暴れる。
俺は必死にしがみ付き、剣を抜いてーーーまた刺す
何度も何度も突き刺す。
「キゲェェェァァアアア!!」
鳥が叫び暴れ洞窟が震える。
それでも俺は止めない。
気付けば顔中血だらけだった。
「このッ!このッ!このッ!早く死ねッ!」
鳥の翼が俺の足に当たり潰れる。
離れないようしがみ付いていた左腕もギチギチ音をたてていた。
「ギェェェエエエ!!ギエッ!ギエッ!……ギエッ!……ギエッ……!……ギ、エ……」
そのうち、鳥は倒れた。
口から泡を吐きながら倒れた。
後ろから倒れたため、俺は無事だった。
だが、敵は動かなくなっても刺し続ける。
狂気に染まった顔で刺し続ける。
「まだ!まだ!まだ!まだッッ!!」
じゅぶり、じゅぶりと刺すごとに音がなる。
手の感覚がなくなってきた。
激痛と疲労がどっと押し寄せてきた。
頭ではこいつが死んだ事は分かっている。
しかし、体が認めない。
それは、剣が手から離れるまで続いた。
手の握力がなくなってしまったのか、振り上げた瞬間、手から逃げるように飛んでいってしまった。
それでようやく諦めたようだ。
鳥の体から降り、近くの壁に背中を預ける。
ーーーああ、死ぬ
そう思った。
あまり怖くなかった。
もう暴れたりもしない、いたって冷静だ。
落ち行く意識の中、頭に響いた。
『心情確認……落ち着いたと判断』
『再度問う』
『ーーー悪魔になれ』
きやがったか。
どうしてこうなった