S-山吹 沙織編
もうすぐ本日終了。
私は、目が覚めたら知らない森にいた。
確か男が『殺し合い』何て変な事を言ったところまでは憶えているんだけど……
……ダメ、思い出せない。
それにしても、何で殺し合いなんか……。
優れた者を集めたんだったら、魔王なり何なり倒しに行くはずでしょ?
何で殺し合わないといけないの?
考えても分からないけど、納得しないわね。
それに、樹入くん……だったかな?影が薄くてあまり憶えてはいないけれど……。
あの人も可哀想ね。一人だけ弱くて。
あれじゃあすぐにやられちゃうわよ。
ついてないわね。
まぁ他人より自分だから、そろそろ行動しなきゃ。
そう思い立ち上がろうとすると、
「よ、いしょ……!………ん?」
右手に違和感。
自分は何かを掴んでいる。
硬い物のようだ。
それを見るとーーー
「ーーー弓?」
私の手は弓を掴んでいた。
弓といっても近未来にありそうな物で、ファンタジー世界には似つかないような物。
金属で作られてるし。
それより、矢が無い。
これは一大事だ。
矢が無い弓など使えないではないか。
どこかに落ちて……ない。
ポッケにも……ない。
まぁポッケには容量的に入らないけど。
その事を踏まえた上で、どうするのだろう?
……矢が無くても撃てる弓、とか。
さすがにそれはないわね。
矢が無くても撃てるなんて、常識的にも強さ的にもおかしいものね。
そう思ったが一応弓を撃つモーションをしてみる。
すると、手に光が集まり矢の形になった。
これには驚く。
矢が無くても撃てる弓なんて……最高の武器じゃない!やったわ!
そうとなれば試し撃ちしましょ、試し撃ち。
どこかに動物は……い、た?
山吹が森を見渡すと、100mくらい先に大きなウサギがいた。草を食べている。
……あれモンスターよね。
どうしよう、ウサギという概念が壊れかけてきてる
ま、まぁ的が大きいに越した事はないわ。
喰らいなさい!私の矢を!
ググッ……、と勢い良く弓を引っ張る。
……あ、れ……、思った……以上に……!
弓を引くと、力が入り、照準がうまくあわない。
力を緩めると矢の威力がなくなるだろうし、かといって力をいれても照準があわない。
それが少し続き、痺れをきらせた山吹は、運に任せて弓を引いていた手を離す。
……しかし、矢はあらぬ方向へ飛んで行った。
ああ、私、ダメだわ。
山吹の目から光が消えた。諦めたようだ。
弓の才能が無いのに弓を貰っても……。
弓をくれた人に苦情を言いたい。
膝を地面につきポロリと涙を流す。
潤った目で飛んでいった矢を見送る。
と、その時。
あらぬ方向に飛んだ矢は、いきなり空中で方向を変え、ウサギに飛んでゆく。
そしてそのままウサギの心臓付近にささり、ウサギは突然の事に驚いたが、しばらくすると、動かなくなった。
……え?
倒……したの今?
矢が……勝手に飛んだわよね。
ーーーッッッ!ヤッター!!
これがあれば最強じゃない!!
自動で当たるって!いいのこれ貰って!!
そうとう嬉しかったのか飛んで喜ぶ。
やはり殺し合いというのが不安だったのだろう。
それで、この武器を手に入れ安心した。
手を振り回して叫ぶほどに安心した。
ーーーその後五分くらい喜んだ。
………。
「ーーーそこっ!」
勢い良く声を上げ、弓を引く。
飛んでいった矢は見事スライムに当たりスライムはアイテムを残して、有象無象に消滅する。
スライムの代わりに出現したアイテムは重力に逆らうことなく地面へ落ちる。
それを喜びの表情で手に入れる山吹。
すでに制服のポッケは満杯だ。
あれからかれこれ10分ほど山吹はモンスター狩りに徹している。
移動しながら弓を構え、モンスターを見つけたら親の仇の様にすぐに弓を引く。
自動照準なので見つけ次第に撃つ。
それを何回も繰り返した。
繰り返しているうちにレベルが上がり、弓系のスキルもランクが上がっていた。
そして、いつの間にか森を抜け草原へ来てしまっていた。
そこではやけにスライムか多く、鑑定してもあまり強くないため、どんどん倒せる。
それと、スライムの名前がスライムではないのには驚いた。
スライムでいいじゃん。
と、そんなこんなで楽な思いをしていた山吹は、やけに大きい街を見ていた。
草原に街あるんだ、と思う。
そして無言で心で言う。
……うわぁ。でかっ
街あるんだ……。よし、入ろう。
この間僅か0.1秒ッ!
Now Loading…
〜街中〜
わぁ……ここがファンタジー。
綺麗な場所ね。
色んなお店もあるし、楽しいわね!
「ふんふふ〜ん♪」
鼻歌を交えながらスキップで歩く。
楽しいです!と顔に書いてあるほどの笑顔で歩く。
と、歩いていると服屋を発見する。
……あっ、服屋がある!
でも、お金持っていないしなぁ……。
はぁ、とため息をつく山吹。
モンスターを倒してもお金は取れないため、いくら大量にモンスターを倒している山吹とはいえ、お金は一銭も持ってはいないのだ。
少し考えた後、膨れたポッケを見やる。
……こうなったら、アイテムでも売ってーーー
ついにアイテム売ってまで服を買おうとする山吹。
しかし、彼女は次の瞬間驚いた。
服屋のドアが開き、中から出てきた人物によって。
ガチャリ。という音と共に外へ出る人物。
そう、それは、かの不憫な影の薄いクラスメイトーーー樹入だった。
「……え…」
ポツリ、と呟く。
なぜ、ここに?
警戒していないのか?
その弱そうな剣はなに?
疑問はいくつも出て来たが、とりあえず弓を構える。そして定まらない照準を樹入へ向ける。
自分が何をしようとしてるのかは分かる。
やっちゃいけない事だというのも分かる。
しかし、なぜか使命感が責め立てるのだ。
通る人が山吹を見て悲鳴をあげる。
けど、樹入は気付かない。
相手が気付いてないのは幸運だ。
樹入君には悪いけど、ここで脱落して貰う。
モンスターを倒している時気が付いたんだけど、この矢には麻痺やら睡眠やらの状態攻撃が付いてる。
だからもし致命傷じゃなくても、動きを止め、必ず仕留める事が出来るはず。
絶対に勝てる。
そう思い、弓を引こうとした瞬間、
『ビーッ、一人死亡確認』
ーーーッ!
一人死亡?クラスの誰かが?
その音声にビックリして撃つことができなかった。
樹入を見ると、私同様驚いていた。
だからなのかは分からないが、私はつい言ってしまった。
「……そう」
驚くほど低く、小さい声だった。
自分でもビックリする。
そして再び、私は弓を構える。
今度は、うるさいほどハッキリ大きな声で言った。
「あなたも、死ぬのよ」
樹入が驚きながらこちらを振り向く。
しまった!気付かせてしまった!
だけど、私の矢からは逃れられない!
そう思い矢を放とうとする。
しかし、樹入が人の多いところへ行き、離そうとした手を止める。
……やられた。
まさかあの状況の中で判断して、わざと人が多いところへ向かって行ったというの!?
そうなればあれは強敵になってしまう。
見え辛い中、私は樹入を狙う。
樹入は、姿が見えたと思ったら消え、また姿が見えたと思ったらまた消えてしまう。
それが狙っての行動かは分からないが、こちらとしては非常にやり辛い。
もたもたしてると逃げられてしまうので、私は樹入姿が見えた瞬間に矢を放つ。
その矢は、的外れなところへ飛んでいったが、方向を変え、樹入の頬を掠めて前の人に刺さる。
やった!当たった!
矢が当たった事に喜ぶ。
これで確実に勝てるはずだ。
しかし、私が矢を放った事により、騒ぎはより一層酷くなり、樹入の姿は見え辛くなる。
だが、当たったということは、麻痺などが効くはず。だからただ待つだけでいい。
それを狙った私は、矢を乱射してだれかれ構わず殺している。
昔の私だったらあり得ないだろう。
私は乱射しながら歩き出す。
もうすぐ効いてくる頃かな?
そしたら私の前に姿を見せるのかな?
助けてと泣いてくるかな?
どんな無様な姿で私にーーー
ーーーザシュッッ
いきなりそんな音がしたかと思えば、私は力が抜けるかのように地面へ倒れた。
そして気が遠くなるほどの激痛。
どうやら背中を誰かに斬られたようだ。
……え?
何が……起こった?
背中が痛い。
斬られた?
どうして?
まさか……一体誰が……。
疑問だらけの中、私を斬った相手を見ようと、死にそうな目を動かす。
しかし、相手の顔は太陽で照らされて、よく見ることができなかった。
ただ唯一分かるのは、相手は明るく光る白い大剣を持っているという事だけ。
山吹 沙織は、そこまで考えると意識を手放した。
もう二度と戻らない意識を……。
シリアスきつい。
次は明るいの書こう。