4-逃走
ーーー走る、走る。とにかく走る。
息が切れても走る。
何かにつまづいても走り続ける。
なにせ、後ろのあいつに視認されたら死ぬから。
「ーーーハッ、ハッ……ハッ」
呼吸が乱れる。走り方がめちゃくちゃになる。
でも、そんなものには構ってられない。
後ろを見る暇さえない。
しかし、幸いなことに人が多く、あいつはうまく俺を狙えていない。
そのおかげで俺はまだ生きている。
「ハッ、ハッ、ーーーッッ!!」
突然、俺の頬を擦り、矢が前の人に突き刺さる。
ついに、ついに撃ってくれたか!!
俺は、この時を待っていたんだ!
『キャアアアァァァァ!!』
街中で弓を撃った事により、騒ぎになる。
いくらファンタジーといえども人を殺されて平気な訳が無いだろう。
こうなれば俺の勝ちだ。
騒ぎになれば市民はそこから逃げ出そうとする。
それも、この多人数だ。
ただでさえ人が多くて狙いにくかった的が、騒ぎになりごちゃごちゃすると余計狙いにくくなる。
それが俺の苦し紛れの作戦。
だが、もしも最初の一発で致命傷になったら、俺は終わっていた。
それと市民の人にも悪い事をした。
けれど、もう騒ぎは起こってしまったので、後は俺が逃げるだけ……なの……だが……。
な……んだ……これ、からだ……がうまく……。
その場に転ぶ俺。
色んな人に踏まれるが、今は気にしてる場合じゃない。
体がだるくて痺れる。
いきなりこんな事が起こるはずがない。
となると、さっき矢で頬を擦った時に何かをされてしまったのだろうか。
気だるい体で鑑定を発動。
………ああ、やっぱり。
状態が、麻痺、睡眠、沈黙、能力低下になってる。
さすがは選ばれた者……。
俺と違ってチートだ。
だが、俺もやすやすと殺られる訳にはいかない。
最後の力を振り絞って『魔物』を発動。
スライムとなる。
気分が変になるが、気にしてられない。
そして、スライムのまま逃げ出す人々の足の間を抜け、近くの民家に入る。
幸いすぐ近くにベッドがあった。
そして、ベッドの下に潜り込む。
これで、元の姿に戻っても、スペース的に体が壊れるという事態は免れる事ができる。
あとはあいつに見つからないよう祈るだけだ。
逃げ惑う人々に紛れて逃げたのだが、もしも見られていたらお終いだ。
しかし、祈る間もなく俺の意識は眠りに落ちた。
………。
……………う、む…
………うん?
目が覚める。
場所を確認すると、俺はスライムの姿のままベッドの下にいた。
どうやら無事だったようだ。
それにしても、スライムの姿のまま寝れるなんて、予想外だった。
これなら狭いところでも寝れるな。
と、そこで思い出す。寝る前の事を。
あの後どうなったのだろうか。あいつは?もう諦めたのか?外はもう静かだが……。
そう思い、人に戻って外へ出る。
やはり、既に騒動はおさまっていて人はいなかった
しかしーーー
「……ーーーうっ!」
俺はそこにあるものを見て口を押さえる。
さっきの表現は少し違った。
確かに人はいないが、あいつに射たれたであろう死体がそこには大量にあった。
ーーーそして、その事態を作った張本人。山吹 沙織の死体もあった。
吐き気はしない。
いつかこれを見る時がくるだろうと覚悟はしていたから、激しく揺すぶられる事はない。
だけど嫌だ。
死体を見るなんて初めてだし、ましてやそれがクラスメイトのものだなんて。
口を押さえながら山吹 沙織だったものを見る。
右肩から胸の中心へ切り口がある。
うちのクラスに左効きはいなかったから、恐らくは油断したところを背後から殺られたのだろう。
山吹が持っていた弓が無いことから、クラスの誰かが殺した事が分かる。
武器二つは厄介だ。
ともかく、俺はここから離れた方が良いだろう。
山吹を殺した奴が近くにいる可能性だってある。
街は危険だって事がこれで分かった。
むやみやたらに入らないようにしておこう。
シリアスで死ぬってこれで分かった。