1.話の始まりは大体主人公で決まる。
初めまして、櫻井 千桜と申します。よろしくお願いします。発投稿です、どうぞ、生温かい目で見て下さい。
雲一つない青空と爽やかな風、見渡す限り緑の草原...。そう、草原だ。360度見渡す限り、何の障害物も存在しない、草の集団。そこに佇む唯一の障害物が、俺だ。
最近母親に買ってもらったばかりの真新しいスーツを身に纏い、左手には、長年お気に入りのオレンジジュースのペットボトル。右手に持つスマホは既に電池切れという状態。これは、俗にいうところの異世界トリップなるものではないか?最近の小説によくある、テンプレだな。異世界トリップ系の小説に精通している友人に、幾つか勧められて読んだことがある。けど、俺はこういうの嫌いじゃないぞ。むしろ、好感すら持てる。何だかんだ言って、以前の俺はロクな人間ではなかったからな。
中学の時は、初恋の子と一緒にいたいから、という理由で、廃部の危機と泣き叫ぶ友人の必死の頼みをフルシカトして、一人で彼女と同じ部活に入った。その子が、一年の頃に行きたいと言っていた高校を志望校にするも、俺が受験する時には、その子は既に、他の高校に推薦で決まっていて...。ショックだった、だからこそ、高校ではモテたい!とサッカーを始めるも、経験の差か、結局最後まで補欠止まり。
今まで付き合った彼女は一人、それも恋愛要素ゼロ。ただ、「取り敢えず恋人が欲しかっただけで、別にアンタじゃなくても良かった」と言われる始末。俺は初カノ!と、浮かれていた分、失望も大きかった。
大学を決める時も、親は安定した収入しか気にしない、上の姉兄はそれぞれ私大に進んだため、国公立以外の道はない。夢とか将来よりも先に大学決めて、それから、未来をどうするか考えようと思っていた。
...思っていたのだが、その入学式の帰り道に、事件は起こった...と、俺は推測する。と言うか、それ以降の記憶が全くないんだが...。
確か、一人暮らしを始めるにあたり、まずは家族からの解放を祝して、と一人でオレンジジュースを飲もうとしたことまでは、覚えている。現に、俺の左手に握られているそれは、半分飲んだ形跡が残っているからだ。それだけじゃない、俺は未だにスーツを着ている。この草原に吹き渡る3月中旬くらいの涼しい風のおかげか、堅苦しい上着を脱ごうという考えなど、今の俺には無い。俺は寒がりなんだよ。5月の中頃まで、運動中も寒いと言って、長袖のパーカー着用してた位だからな。
そして、重要なのは、ここからだ。何と、俺のスマホ様が、充電切れしていらっしゃるのだ。俺は、他の奴らと違って、古き良きを大事にする家庭に生まれたがために、高校までガラケーユーザーだったのだ。
大学進学祝いと称して、ようやくスマホデビューしたのだが、友人からの大量のスタンプに圧倒されて、気が付いたら切れていた、という結果だ。だって、怖いだろ、入学式の間、ずっと鞄の中でブルブルしてたらさ。式終わって見てみたら、意味不明なスタンプ大量生産からの「暇」だからな。何が言いたいのかさっぱり分からん。取り敢えず、「着拒にすんぞ」と送ったところで電池切れたから、友人からの返信は、今の俺には知らぬ存ぜぬだ。
そんなとこから、俺はどうやら異世界トリップを無事果たした(?)わけだが、如何せん、此処が何処だか皆目見当が付かない。何処からどう見たって、この草原以外には何もない。しかも、こんな風景、今まで見たこともない。さて、考えても仕方がないから、まずは歩くことにしよう。
ザックザックと草原を歩き続けて早20分が経過しただろうか。ここまでのことで俺が知りえた情報はただひとつ。
「この草原、広すぎだろ。」
俺の虚しい独り言は、風に揺れる草の音にかき消されそうだった。何、此処。どうなってんだよ、この異世界。草原しか無いのかよ。どんだけ自然豊かなんだよ、いっそ清々しいな、おい。
もう俺の両足は生まれたての小鹿状態だぞ。俺の両膝が盛大に笑ってやがる。もう歩けない。どんだけだよ、俺の体力。これでも一様高校でサッカーやってた身なんだがな。
まさかとは思うが、春休みに浮かれまくって、引っ越し前夜まで家に引き籠って一日中ゲームしてたからなのか?え、そんな理由かよ。そんなんで一気に体力落ちますかね、旦那。しかも、今までそれなりにあったはずの筋肉君も、今は姿を消しやがったため、俺は家族から「白もやし」という蔑称まで頂戴する始末だ。
...畜生、こんなことになるなら、もう少し外に出とけば良かった。入学式の時も、隣の席の奴に、「色白いな、何か女みてぇ」って言われて、滅茶苦茶腹立ったの、今思い出した。あいつ、見た目爽やか青年って感じで、何かサッカーとかバスケとか、とにかく女子にキャーキャー言われるようなスポーツで、颯爽とエースを掻っ攫っていきそうな奴だったな...。けっ、取り敢えずあいつは、豆腐の角に頭をぶつけてしまえばいいと思う。その姿を見た俺は、奴のことを盛大に笑い、そして、あいつの失態を後世まで語り継いでいくのだろう、ははははは...。
やべぇ、今俺一人だ。
奴は此処に居ないから、奴の失態を見ることができない。何ということだ、無慈悲過ぎんだろ、神様...。
あ、そー言えば俺、無神論者だったわ。神様信じないんで、俺。俺は自分の見聞きしたものだけを信じるんだよ、とかカッコイイこと言ってみる。
...言ったところで、誰もいないけどな。
それよりも、俺の人生、いきなりvery hardになっちまったよ。どーするよ、この状況。俺このままじゃ、本気で餓死する。腹減った、飲み物は残り半分のオレンジジュース一本のみ。後、食べれるものは、地面に生えた謎の草。
食べたくない、激しく食べたくないぞ、この草。ってか、草って美味しいのか?。俺、ホウレンソウは割と好きだったが、ネギは苦手だったな...。
太いネギ特有のあの触感、中の白い部分が噛む度に口内に流れ込むあの違和感、そしてなにより、あの味。いかにもネギ食ってます、みたいなあの苦みが、俺には受け付けられなかったのだ。