2章 解決編
早速朝から探索の続きを行う事にした。
まずは問題の、ウチワの遺体のあったマンションの向かいのマンションへと向かう。
ちなみにウチワの遺体が腐ったり獣に荒らされたりしないように昨日のうちにヌールが冷蔵結界を張ってる。
ウチワの周辺だけ冷える空間で覆われてその周囲はある程度の強さ以下の獣は入ることすらできないらしい。
「それじゃあ私たちは上から、ヌールさんたちは下からお願いします。」
そうフィーネが言って中に入ると、そこには多数の戦闘跡……特に銃跡や焼け焦げた跡が残っていた。
「どうやら正解だったみたいだな!」
イクシアが喜ぶ。
本当は初日からここにこれれば良かったのだが今は贅沢を言っても仕方ない。
ロケットは気を引き締め調査を始める。
ロケットたちは最上階にやってきた。
最上階も多数の戦闘跡がある。
それにもちろん、向こう側へと通じるぶち抜けた穴も。
ポイント1 向こうへ通じるぶち抜けた穴
フィーネが調べたところこちらは内から外へと力が加わって壊れていた。
それにこちらも部屋だったようで家具が散乱している。
他の部屋とつくりが同じなら、ちょうどぶちぬけている範囲の所は窓がある。
昨日の仮説通り外から撃つにはちょうど良いポイントだ。
ポイント2 弾痕
この部屋自体に無いが廊下には多数の弾の跡がある。
場所を移動しながら誰かに攻撃していたのだろう。
フィーネがぶち抜けた穴と廊下何度も見比べ、壁をのぞきこむ。
「あった!ロケットさん、この穴から見てください。」
扉のある壁、つまり玄関だった所の壁に廊下へと通じる不自然な穴が開いていた。
小さいが貫通して る。
おそらく弾跡だろう。
「この穴からちょうど見える弾、掘ってみてくれます?」
言われた通りに壁に埋まってしまった弾を取り出す。
壁をすこし壊してほじくり出すと、弾が出てきた。
「見て、この弾酷く焼け焦げてる。」
ロケットも見てみると確かに、他の壁に埋まる弾丸と色と比べて見ても明らかに何らかの力が加わったように変色している。
「もし血でもついてたらって思ったけれど、そううまくはいかないか。」
そう言ってロケットはとりあえず弾丸を回収した。
ポイント3 精霊術跡
ロケットには見えないが、精霊の目を介して見ることもできるフィーネはこの場所に強い精霊術の跡があるのが見えるそうだ。
「だけど、何かまでは特定できないです。複数が入り交じっててわからない感じ。」
フィーネが言うには何者かが、恐らく犯人が、精霊術の跡をかき乱しているらしい。
廊下も明らかにそうだがこの部屋は焼け焦げた跡も無い。
が、ぶち抜けた穴を作るのに精霊術が使われたのだろう。
「うーん、でもウチワさんはレールガンを外で使ったのなら、この部屋の中はあまり混じることなく一つの精霊術の跡が向こうまで抜けてるはずなんだけど……。」
精霊術跡は確かに向こうの部屋まで行くほどの力がここであったことを示してるらしいが肝心のどんな精霊術なのかまではわからないらしい。
「ウチワさん、犯人以外の力。うーん、犯人を庇いたい第三者とか。」
ロケットがそう思いついたことをそのまま口にする。
「アヤカシが捜査の邪魔をしているとか?」
フィーネがそう言った。
向こうのウチワの遺体があるマンションの壁の所も誰かわからない混じった精霊術跡だったからはっきりと今回の事件に関わりがあるとはわからなかったらしい。
こちらの部屋もウチワがいる方の部屋も精霊術跡がどんな術、例えば岩や氷、空気だというのが不明というのは奇妙なことだ。
ポイント4 戦闘跡の廊下
「そういえば銃跡や焼け焦げた跡はあるけど、犯人らしき戦闘跡が少ないね。」
たまに血痕などはあるがこれはウチワのものか犯人のものか調べる手段がない。
「岩とか氷とか、何かあれば良かったけど流石に犯人もそこまでわかりやすくはしてくれないか。」
ロケットはそう言って次の場所へと向かう。
他の部屋は見ては見たものの戦闘の跡も他の証拠もあまりない。
ざっくりと調べつつ下へ降りていくと途中でイクシアとヌールに出会った。
「そっちはどうだ?こっちはやっぱり戦闘は下からずっと上へ続いてるようだってことくらいだな。」
イクシアが言うには下の廊下から戦いの跡があったらしい。
「そのまま上まで逃げながら撃ったのはおそらくウチワだろうな。犯人が奥の部屋に居て廊下にきたウチワを襲ったのかもな。」
マンションは一通り調べ終わったので次の場所へと向かう。
ウチワがここに来るまでの道筋だ。
一体なぜここまで遠くへやってきたのか。
ウチワは午後3時過ぎに出てから殺される午後9時までの6時間何をしていたのか。
ヌールによると以前から彼女はみんなからはあまり見られない所へと狩りをしに行く傾向があったらしい。
「気まぐれに後をつけたら銃の練習をやっていたな。獣相手に銃や戦闘術を使って戦っていて、一人でやるということは誰にも見られたくないのだろうとそっとしておいたが。」
その、ヌールが前言った所にやってきた。
確かにここでこっそりと特訓していたらしく、大量の弾丸とあらゆる標的が設置されていた。
「いつも狩りに行くって言ってたの、一人で練習してたんですね。」
フィーネがそういって観察強化を使う。
誰かの家の側にあるその即席練習場には様々な位置に標的が据えられていた。
「やっぱり、アレなんか屋根の上にあるけど正面から撃った跡があります。」
ロケットには高すぎてよく分からないがフィーネによると弾痕が正面から当たったものがあるそうだ。
「ということは片手空中撃ちだなんて難しい事を練習してやれるようになったのか……。」
隠れて努力するというのが実にウチワらしいとロケットは感じた。
今度は公民館へと戻り、ウチワの私物を探すことにした。
ヌールとイクシアは別行動でもう一度犯行現場付近を探索するそうだ。
ウチワの私物はまとめて自分の寝る為の場所へと置いてあった。
公民館なのでちゃんとした寝具はないがそれらしく作ってある。
「それじゃあ失礼して……。」
早速荷物の中身を取り出していくと、手提げ鞄に予備の弾薬、お金は少し分けてほしいほどある。
フィーネが注目して見つけだしたのは地図だ。
この町の地図が載ってて特にCブロックの地図には変わった記述があった。
公民館の位置を○で囲い、そして先程の練習場も○で囲ってある。
そしていくつもの四角とチェックマークが描かれており、ウチワの遺体があった周辺だけ四角のみでチェックが書かれてない。
「これ、一瞬未探索場所かと思ったけれどちょっと違う。」
フィーネがそう言うと地図を指さす。
「ここは確かに未探索場所だったですが、この地図のB地区付近の方も探索はしたのに四角のボックスもチェックマークもない。」
ロケットも考えてみる。
「もしこの練習場と関係があるのなら、例えばここまでなら勝てるリストかな?」
フィーネが頷く。
「このエリアの獣には勝てたって言うチェックマークだったらそうかも。この練習場付近に特に多いし。」
ロケットが閃く。
「もし犯人がこれを知っていたり、もしくはそこに行くように誘導してたら……。」
フィーネも同意する。
「推測の域を出ないけど、結構大事かも知れない……。あっ、ちょっと待って。」
フィーネが地図を裏返し、様々な情報が載ってる文字の面にする。
「ここの隅、これ手書きの文字だ。ええと……」
最後の練習場所は明日探索すると聞いた所にしよう。先回りして獣を排除して危険を少なくしておこう。
そう小さく書かれている。
鞄の中に入っていた高級万年筆のインクを試しに書いてみたがここに書かれてるのと同じなようだ。
地図以外にも色んな場所に文章が一言メモのように書かれてる。
大事そうな書類の隅やなぜか楽譜まであったがその楽譜の隅にもふと思ったような事を書いてある。
「どこにでも思った事を書くクセがあったみたいだね。」
ロケットがそう言って探し、フィーネがそれぞれの文章を読む。
「うん、暗号とか犯人の罠とかじゃなくて本当にその場その場で思ったことを書いてるだけみたいです。」
観察強化を解いて書類をまとめる。
「でもこれでなんであの場所へ向かったかは分かった。犯人がもしウチワさんがこういう風に出かけると知っているなら後をつけるなりして公民館から離れたところで襲えば……。」
フィーネが首を横に振る。
「結論を出すのは早いですよロケットさん。それは夜に行いましょう。」
残り時間まで今まで探索した場所をもう一度探索したがもう流石に有効そうな手がかりは見つからなかった。
夜の8時、今日は少し早めに議論を始めることにした。
おまけ休憩所
フィーネ「最近ずっと働き詰めで疲れたなぁ。」
フェイ『術は思ったより疲れるよねー。』
フィーネ「別の人に観察強化ってかけられるのかしら?」
フェイ『たとえできたとしてもわたしはその人の中に飛び込むのはいやかなー。』
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早速全員が集まり、議論が始まった。
ロケット「早速、昨日の仮説から検証したいと思います。」
ロケットが手帳を広げ、ページをみる。
フィーネ「シャムさんは見張りなのでまだ話せてない所もあると思いますから順を追っていきましょう。」
シャム「お願いするよ、僕も知っておきたいからね。」
ヌール「昨日の仮説。ウチワの殺し方だったな。」
イベリー『はい。マンションごと破壊するほどの強力な精霊術を使ったのでは無いかと言う仮説と、空中で犯人に向かって強力な弾丸を発射したのではという仮説です。』
フィーネがメモをめくる。
フィーネ「まずはマンションごと破壊するほどの精霊術について。精霊術の跡は確かにありましたし、ウチワさんの雷の跡だと思われる焼け焦げた跡もありましたが犯人か誰かがその精霊術 使用跡をよくわからないように何者かが細工してありました。」
イクシア「犯人が作った精霊術の物も無かったんだよな?」
フィーネ「ええ、さすがにすぐにわかってしまうような物はのこしてなかったです。」
ロケット「次に空中でレールガンという大技を使った事について。ウチワさんはいつも皆に隠れて射撃の練習をしていたみたいです。」
シャム「なんでわざわざ隠れて?」
縞模様の顔を傾げる。
ロケット「それは多分、彼女の性格だと思います。」
フィーネ「あんまり汗かいて頑張る所を他人に見られたくないタイプですもからね。」
ヌール「一人で練習している所にあったのは屋根の上の的に正面から弾丸が入り込んだ跡だったな。」
フィーネ「はい、真正面から撃った跡がありました。」
ロケット「空から撃つ練習もここでしていたんだと思います。」
シャム「近くに同じような高さの屋根は無かったの?」
イクシア「横ならともかく真正面にはないな。」
ヌール「ほぼ間違いなく空中片手撃ちの練習はしてたんだろう。」
問題はここからだった。
仮説通りならそんな事が出来るのはイクシアかヌール。
しかしこれでは犯人がまだわからない。
イクシア「あそこをぶっ壊すような獣型の岩や氷で相手を串刺しにしながらあちらへ飛ばすのならともかく、シャムの空気を操作して自分の姿を隠したり敵の動きを遅くしたりする事はできても串刺しして向こう側まで吹き飛ばすのは無理だし。」
イクシアがロケットたちを見る。
イクシア「フィーネやロケットはそもそもそんな精霊術をつかえないから問題外だな。」
イベリー『その言い方だと、私たちかヌールさんたちが犯人ということになりますが。』
イクシア「仕方ないだろ可能性の話だ!本当は、この中に犯人がいるって言うのも本当かどうか今でも疑ってるんだからな!」
イベリーは涼しい顔(蝶の顔は良くわからないが)をしてひらひらと舞っている。
ヌール「現実的に考えてもあそこを壊す力を持つのは自分かイクシアしかいない。」
シャム「ちょっと待ってよ、やっぱり身内で犯人探しなんてやめるべきだって!」
揉めている間にフィーネとロケットは残りの謎をまとめる。
ロケット「凶器は精霊術でつくったものとして、その精霊術がどちらなのかということと、犯人がなぜウチワさんがあそこへ行く事を知れたのかということ、か。」
イクシア「そうそう、犯人がマンションの一階一番奥の部屋に居た証拠のだが、こんなものがあったんだ。」
イクシアがポケットから紙切れを取り出す。
イクシア「これ、手紙の一部だろ?燃やそうとしたみたいだが燃えずに残ってた部分があったんだよ。」
シャム「ほ、本当だ!」
下半分以上燃えているが一番上の行はなんとか読める。
『突然だがウチワウスイを殺して貰いたい。』
宛先などはないがそれだけは読みとれた。
イベリー『割と重要な証拠なので早めに出して下さい。』
イクシア「なんだよイベリーだって忘れてたくせに。」
フィーネ「確かあの手紙は前の時も犯行前に燃やすように指示されていたと思います。」
ロケット「つまり、一階奥の部屋で燃やしてから廊下にいるウチワさんに襲いかかったのか。」
シャム「そのまま走って外へ逃げなかったのはなぜだろう?」
イクシア「直線上に逃げたら格好のエサじゃないか。それにあいつは飛べた。チャンスさえ作れば窓から外へ飛んで迎撃するつもりだったんだろ?」
コヨーテ『シャムと俺様ならすぐ姿を消せるからそのまま堂々と外へ行けるからな!』
ロケット「後、これを見てくれませんか?」
ロケットが地図を広げる。
ヌール「Cブロックに多数のチェックがしてあるな。」
フィーネ「これはウチワさんが狩り場所をチェックしていったもので、チェックしたところが獣に勝てた所のようです。」
ロケット「この裏に書いてある一言メモからも、次の場所としウチワさんが遺体で発見された場所へ自主的に向かったことがわかります。」
イクシア「《 最後の練習場所は明日探索すると聞いた所にしよう。先回りして獣を排除して危険を少なくしておこう。 か。日時もほとんど間違い無さそうだな。」
シャム「犯人が捜査攪乱の為に書いたって可能性は?」
フィーネ「他の色んな紙にも思いついたことをその場で書き残してあったし、インクもウチワさんの万年筆のものだったからその可能性は薄いですね。」
フィーネが地図のチェックを打ってない四角を指す。
フィーネ「犯人がこの地図を知っているまたは知らないにせよウチワさんが現場へ行った理由はこれでわかりました。」
ロケット「最初からウチワさん狙いなら前々からこの行動を知っておいてそれを利用して遠出した時に尾行するなりこの地図を知っていれば先回りするなりで襲える。」
ヌール「後は、犯人か。」
フィーネは頭を悩ませるがやはりどうしてももう一歩犯人の所まで踏み込めない。
まるで陽炎を追いかけているような、掴めているはずが掴めない感触。
ロケット「後少し、後少しで犯人がわかると思った所でどうしてもわからないなあ。せめてウチワさんが何か残してくれていれば……。」
ヌール「この死体解剖記録だと即死とあるが、獣たちを倒してきてわかったが脳を一撃で破壊しないかぎり殆どは少しでも動く。本当に何も無かったのだろうか。」
あっ、とフィーネが小さな声を上げる。
フィーネ「そういえば、ウチワさん、何かを握りしめていたんですよ。」
ロケット「でも確か何も無かったよね?」
フィーネ「ええ、確かに何もなかった。けれどその手の側に水滴が少しだけですがあったんです。」
ヌールがわずかにほほえむ。
ロケット「そうか、もしウチワさんが死ぬ間際胸に刺さった牙状の何かを持って離さなかったら……。」
フィーネがうなずく。
フィーネ「氷なら溶けて水になるし、岩なら崩れて土くれになります!」
ヌール「つまり、凶器は氷の精霊術。自分が犯人だと言いたいのだな?」
シャム「ちょっと待ってよ!そんなはずがない、ヌールさんが、リーダーが犯人なんて!」
シャムがヌールの前に立ち、両手を広げて庇うように立つ。
イクシア「シャム、気持ちはわかるが俺はやってないし証拠も揃ってきている。何よりヌールが……。」
ヌールは何も抵抗せず、ただロケットたちを見つめている。
シャム「認めるか!そうだ、僕がやったんだ!僕がすべて……。」
フィーネ「そうか、あなたがやったんですね!」
ロケット「ええ、ヌールさんじゃなくて?」
フィーネが横に首を振る。
フィーネ「犯行じゃなくて、犯行偽造を。辺りの精霊術の跡を混ぜてわからなくしたのはあなたの空気の精霊の力を使って自身の力と混ぜ拡散させわからなくさせたんですね。」
コヨーテが熊の爪先でシャムの服を引っ張る。
コヨーテ『まずいよ、氷片づけたりしたのもバレちゃうよお。』
シャム「な、何を言ってるんだお前!」
コヨーテ『ああ、しまった!俺様退散!』
コヨーテは空気の中へと消え去った。
シャム「絶対に、絶対に認めないからな!」
ヌール「そうか、お前が。気持ちはありがたいが自分はこれでいいんだ。さあ、自分からは言えない。早く犯人が誰かを言ってくれ。」
シャム「駄目だっ!!」
ロケット「シャムさん、納得してもらいます!犯行をもう一度初めからまとめて、それで認めて貰います!」
まず犯人は、ウチワさんの行動を事前に知っていたんだ。
犯人は今日そのウチワさんの練習風景を見たという場所に案内してくれた。
つまり犯人はいつもウチワさんが一人で何をしているのか見ていた。
遠くへ特訓のために獣を狩りに行くことも。
そして犯行日、いつものように出かけるウチワを尾行して遠くへ行くことを確認し、ウチワさんが狙撃ポイントとして使いそうなマンションへと先回りする。
一階の奥の部屋へと入った犯人は妖からの手紙を燃やし、そしてマンションに入ってきたウチワさんを襲った。
ウチワさんは犯人の攻撃から逃げるように迎撃しながら上へ。
ふつうなら追い詰められる可能性があるけれどウチワさんには秘策があった。
最上階まで登ったウチワさんはマンションの部屋に入り窓を開けて外へと飛んだ。
ウチワさんは腕を翼に変化させて飛ぶことが出来る種族だったんだ。
犯人もウチワさんを追って部屋へ。
しかし犯人は空を飛べないので屋根の上に移動したウチワさんを見つけたり追いかける事が出来なかった。
銃にレールガンという大技用の電気をため込んだウチワさんは空中から片手で犯人を狙撃。
けれど犯人も負け時と建物を壊すほどの威力の氷のオブジェクトを作り出し、ウチワさんごと吹き飛ばしたんだ。
オブジェクトは獣のような形でウチワさんはその氷の牙が胸に刺さってしまい、これが致命傷となる。
氷はそのまま向かいのマンションまで壊してウチワさんを向かいのマンションの部屋まで届けた。
死の間際、ウチワさんは胸に刺さった氷をつかんだ。
そんな様子を見ていたのはシャムさんだった。
シャムさんは空気の精霊術で姿を消せるから犯人とすれ違っても気づかれなかった。
シャムさんは犯人がなぜこんな夜に出かけるのか気になって後ろをつけたんだろう。
その結果犯行を目撃した。
現場へ向かったシャムさんが驚いたことの二つ目はまるで犯人が自分の犯行だと隠す気がなかったことだ。
あちこち氷だらけな上、精霊から見たら氷の精霊術の跡がしっかりと残っていたからだ。
そんな氷を掃除し、場の精霊術の跡は空気の精霊の力を混ぜてわからなくしてウチワさんは氷が刺さったまま奥の小部屋へと移動させ、元の位置の血はふき取った。
けれどウチワさんがつかんだ部分の氷だけは取れず、諦めて撤収した。
あまり時間をかけ過ぎると自分も怪しまれてしまうからだ。
こうして隠蔽工作を済ませたシャムさんは何事も無かったように帰った。
ロケット「そして、その氷を使った犯人は、ヌールさん。ですね。」
シャム「……あの手、あの手がどうしても、どうしても離さなかったんだ!氷を!短剣で無理矢理掘り返したけれどそれでも残ってて……!」
涙ながらにシャムが地面をたたく。
ヌール「だから初めから言っていた。トッポと戯れていたと。」
シャム「なんで、なんであんな直ぐにわかるように……!」
ヌールがトッポを撫でる
トッポ『ちゅちゅ。』
ヌール「自分はウチワに戦いを挑み、ウチワも事情を理解していたのか承諾してくれた。あの日の戦いはまさに良いものだった。最後には手痛い一撃を加えてくれたしな。」
そうヌールが言うと右腕の服を捲る。
包帯が巻いてある。
ヌール「氷で止血してある。貫通しているからな。咄嗟に奥の手を使わねば危険だった。たまたまその氷によって胸から逸れただけだ。」
そう言うと氷で像を作り出す。
虎の像でもちろん鋭い牙がはえている。
ヌール「これを思いっきりウチワへと叩きつけた。氷の牙が食らい氷の頭が何もかもを粉々にする。」
シャム「ううっ……!」
シャムは泣き続ける。
ヌール「あの手紙には自白や言い当てられる前までの自供は禁止で破った場合は両者負け、全員殺すと書いてあったからな。シャム、イクシア、そしてウチワやロケット、フィーネが全員死ぬ必要はない。」
イクシア「おいおいじゃあヌール、自分一人が犠牲になるために……?背負いすぎなんだよ全く!」
クソッ!とイクシアが地面を蹴る。
フィーネ「あの手紙に書いてあったメリットって、何だったんですか?」
ヌール「次への道の解放だ。ここからDブロックへのな。誰かがやらなければ解放しない気らしい。」
フィーネは思い出していた。
次への道がなかなか開かず自分も焦っていた事。
次への道の解放は妖のこんなふざけた欲求を飲むことだということだ。
ヌール「自分はキャラバンリーダーとしてこの状況を打開する必要がある。外で仲間も待っている。この場所には獣たちに震える人が多数いる。一人を取るか、全員を取るかだ。」
シャム「一人って言ったって、自分が死んじゃったら意味がないよ……!」
ヌール「タダで死ぬ気など、毛頭ない。現れたな。」
ヌールが曲刀を抜き、刃先を向けた先には妖が立っていた。
おまけ休憩所
イクシア「見よ!この俺の全身の鱗を!」
ロケット「これって随分固そうですよね。」
イクシア「おうよ!俺の鱗は傷つけば傷つくほど厚さと輝きが増す特別製なのよ!」
イベリー「つまり、イクシアは無駄にダメージを負いすぎです。」
イクシア「男の勲章と言え!」
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