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fruitFRUIT  作者: チル
2章 命は散るもの
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2章 進入編



 BブロックとCブロックの主な境界線上は外から続く大通りから続いている。

フィーネたちもそこへやってきたが、その境目の虹の壁では意外な事が行われていた。

「何だあれ、デカい!」

 ロケットが驚いたそれは、採掘車としては先端に大きなドリルが付いただけの武骨で約3mの車高がある巨大な機械。

「もしかして、昨日活気があったのって……。」

 フィーネは何度か宿と外を出入りした時、Bブロックと外の境界線近くで活気があったのを思い出した。

ロケットたちに気が付いた近くの商人が声をかける。

「凄いだろ?一晩で俺たちが精一杯に作った壁掘りマシンだ。ジャンケンでどこから掘るか決めて、Cブロック行きから掘ることに決めたのさ!」

 周囲はすっかりお祭り騒ぎで屋台まで並んでいた。

「何というか、本当に商魂逞しい。」

 ウチワが呆れかえる。

「ところで、何か買ってかない?」

「あ、じゃあ俺は──」


 あっさりと祭り気分に乗せられあれこれと食べ物を買いあさるロケット。

不安げに穴開け機を見守るフィーネ。

興味なさげに始まる時間までくつろいでいるウチワ。

『あー、これもおいしー。』

『あ、それわたしも食べる!』

「ほらまだあるから慌てない慌てない。」

 ロケットはすっかり精霊たちに懐かれていた。

ロケットの両肩に二匹の精霊が乗って、ロケットの買った屋台の食べ物をモリモリ食べている。


「おーい、動かすぞー!指定の位置まで下がれー!」

 号令がかかり急いで全員誘導にしたがって避難する。

「エンジン班点火!全員衝撃に備えろ!」

 車の中には多数の精霊がいる。

炎の精霊がエンジンを稼働させ、光の精霊が制御、そのエネルギーを電気の精霊が電力に変換して土の精霊が作り今もさらに固め続けているドリルに注ぎ込む。

回転が始まったら炎の精霊たちは移動して今度はロケットエンジンに着火、風の精霊と合わせて後方にブーストし、重い車を動かす。

 運転席に指示を出す初老の採掘車技師が飛び乗り、エネルギーが完全に高まるのを見計らう。

「3、2、1、エンジン全開!」

 合図と同時にギアを入れ、アクセルを踏み込む。

炎の精霊と風の精霊たちが全力でターボを入れ、強化術を使っていた光の精霊と土の精霊は撤退する。

 電気の精霊たちと運転手はそのまま勢い良く虹の壁へと突き進む。

「もっとだ!もっと回れ!」

運転手の精霊も電気の精霊で、自身も電気をドリルへと送る。

 いざ、壁に突撃といった瞬間、フィーネが空を指す。

「あ、あそこ!」

 ロケットたちがその指した先を見るとそこにはローブの男が浮いていた。

妖だ。

「マズい、何かする気がする!」

 ウチワがそう言った。

そしてその悪い予感は的中した。

妖が指を鳴らすと虹の壁が“消えた”のだ。

指鳴らしの音は遠くにいるのにはっきりと聞こえた。


 虹の壁にぶつかるはずだった穴開け機は空を突き、そのままCブロックに進入した。

「な、なんだ!一体何が……うわあ!」


進入したその先、Cブロックには高さだけで6mはある巨大な獣がいた。

「ああっと!猪だとお!何で町中に!」

 穴開け機に気づいたその大きすぎる猪は振り返り、そして前脚で何度か地面を蹴る。

「ダメだ、アイツには勝てない!逃げろ!待避、待避ー!」

 しかし、穴を開ける為だけに急遽造った機械には急ハンドルできる機能も急ブレーキできる機能もなく。

そして機械ごと運転手も精霊も吹き飛ばさんと猪が駆け出す。

「ぶ、ぶつかるー!!」

 運転手が目を思わず目をつぶる。


「ミラーストーン射出しろぉ、イベリー!」

「調合完了、目標地点到達まで3、2、1、展開。」

 影から飛び出す誰かが二つの巨体の間に飛び出し、そして地面から二つの大きな鏡のような石が飛び出す。

そして猪と穴開け機はそこに思いっきり衝突する。

激しい勢いながらそれに耐え、また真ん中にいる人物が必死にそれを支える。

「気合いで……跳ね、返す!」

 言葉通りまるでトランポリンのように二つの巨体は後方へ吹き飛ぶ。

 猪に至っては思いっきり仰向けに吹き飛んだ。

「うおお!な、なんなんだ!」

 跳ね返された勢いで穴開け機は完全に止まり、ドリルも折れてしまった。

 猪に至っては悲鳴をあげ急いで立ち上がり逃げ出した。

「逃がすかッ!」

 猪を追おうとする先ほどの青年の前に精霊が現れる。

「深追いは危険と判断。けが人の救助を優先。」

「何、けが人!?わかったすぐ行く!」


 この様子はリアルタイムでロケットたちも見ていた。

遠くの映像を空に映していたのは、妖。

「あー、おっしいなあ。もう少しで“町の希望”がグチャグチャになったのに。」

 まるでテレビでつまらない試合でも見た後のように、映像を消す。

「一体、何がしたいの!?」

 妖に向かってフィーネが叫ぶ。

「いいじゃないか、答えにたどり着く前にもっともっとみんなで考えようよ?」

 間髪入れずにロケットが叫ぶ。

「教えてくれ!お前、俺の何を知ってるんだ!」

 妖は肩をすくめ「さあ?」と一言呟く。

そして空中からどこかへ消え去った。

 その場で映像を見ていた多くの人が動揺しざわめいた。

しかしそのざわめきも直ぐに悲鳴へと変わっていった。

「逃げろー!」

「うわあぁ!」

「たす、助けて!」

 開いたCブロックから出てきたのは大小問わず多くの獣たちだった。

『まずいよ!あんなにたくさんの動物たちが!』

 この世界の動物たちは人間以外はまるでモンスターのような恐ろしいほどの力を持つ獣たちだ。

普段は町の近くにはいないかいても家畜として飼われているものくらいで、集団で町を襲うなんてことはそうそう無かった。

「フェイ、もうどこらへんまで来てる!?」

 上空にいるフェイが遠くからやってくる獣たちの様子を見ながら逃げる。

『もう近いよ、早く宿の中に行こう!』

 ウチワは後ろをちらりとみると、人々が無抵抗のまま高さ1m以上ある狼に乗りかかられていたり、手近な棒を持った商人が品を守るために30センチはあるハチを叩いて吹き飛ばしたら一斉に10匹程度に襲われて見えなくなったり、時間稼ぎのために戦闘の心得のある旅人が剣を構え精霊と術を使って激しく戦闘をしてたりと、恐ろしい光景が広がっていた。

「絶対に後ろは見ちゃだめよガール!死の世界が広がってる!」

 言われた通りフィーネは必死で後ろを見ずに走った。

前にいた人が倒れそのまま景色の後ろへ行った時思わず手を差し伸べてようと後ろを見そうになったが、直後に聞こえた耳をつんざくような悲鳴で後ろを見てしまうのは止めた。

 走って走って走り続け、宿が見えたが既に真後ろに獣たちの息づかいが聞こえていた。

「危ない!フィーネ!」

 ズシャッ!

後ろでロケットが庇って切り裂かれる音が聞こえた。


「はぁ……はぁ……」

 宿の中に入り鍵を閉め、窓はカーテンを閉める。

幸い獣たちは建物の中にまでは入ってこないようでやっと一息つけた。

「ロケットさん!」

 宿に入るなり倒れ込んだロケットは背中に大きなひっかき傷をつけていた。

どうみても重傷だ。

『うわあ、またロケットが死んじゃうよお!』

「私を庇って……!」

 ウチワはカーテンの隙間から外の様子を伺う。

「この様子じゃあ医者の所まで行く前に全員死ぬ。」

 ロケットはゆっくり体を起こして隅へ移動する。

「──大丈夫?フィーネ。」

「それよりもロケットさんの怪我が……!」

 ロケットは首を振ってフィーネに手を差し伸べる。

「大丈夫、いつものことだから。いてて、……僕は、眠れば治るんだ、信じて……。」

 差し伸べるられた手をぎゅっとフィーネは握る。

「けれど……、そう、これは、すごくお腹が空くから……ちょっと起きるまでにご飯が……欲しいかな。」

 フィーネは涙を瞳にためながら頷く。

「わかった、わかったよ!美味しいご飯作るから、待ってて!」

 ロケットはそれを聞くと目を瞑り、眠りに落ちる。

血はいまだ流れ落ちているがフェイが少し気づく。

『フィーネ、ロケットに凄いエネルギーが集まってる!』

 見て!とフェイがフィーネの頭へと飛び込む。

「観察強化!……すごい!」

 観察強化はフェイのような精霊しか見えない自然エネルギーの流れもフェイを通して見える。

眠るロケットの体が輝き、背中にある傷にその力が集中している。

生命エネルギーがこんなにも高まって治療をするのはフィーネが知る限り知らない。

『これだけエネルギーが高まってればロケットは平気だね!』

 観察強化を解除してくるくるとロケットの周りを回るフェイ。

「医者いらずって奴ね。」

 ウチワも内心安心する。

いくら生き返るとは言え何度も死なれるのは夢見が悪い。

「よし、私料理作ってくる!」

 そういってフィーネは厨房に向かった。


 宿屋の娘と婦人は朝食を平らげた後何とか立ち直る事が出来て厨房は料理を作る準備は既に整っていた。

事情を話してフィーネは娘と婦人と共に料理をつくり始めた。


おまけ休憩所


フェイ『ロケット、いつもの事っていつもどんな事やってるのさ?』

ロケット「みんなと会う前は火事に巻き込まれて火だるまになったり、うっかり崖から落ちたり、一番酷いのは飛行機ハイジャックに巻き込まれて地面に落ちて大爆発した時かなー?本当に何回死ぬんだって! かげでいつもお腹が空いてすぐお金使い切っちゃうんだよね。僕おなか空いてると傷治らないし死んだ時多分蘇れないから!」

フェイ『ごめん聞いたわたしが悪かった!悪かったからもうやめてー!』



────────────



 フィーネたちのいるB地区からC地区への道のりを解放した事でまさに“地獄の蓋”が開かれた。

恐ろしい獣たちがB地区へと放たれてしまった。


「うーん……良く眠った。」

 一時間ほどだろうか、ロケットは目覚めた。

ロケットの背中の傷はすっかり消えていた。

「ロケットさん!ご飯の準備できてますよ。」

 フィーネはロケットが起きた事に気づいて呼び出した。

「ありがとう、貰うよ。」


「終わったかしら。」

 二階からウチワが降りてくる。

「うん、すっかり良くなったよ。」

 ロケットは食事を終えて体調が戻った。

「早速で悪いけど、正面からは無理でも裏口からならいけそうよ。」


 フィーネたちはロケットが眠っている間、この状況を打開するために地図を確認し、突破口を確認していた。

裏口から壁を越えてそのまま細い道を縫うように歩き、旅人たちへの商店街、特に武具を置く店にたどりつくのを目標にした。

 そこなら最低限身を守る物は置いてあるはずだからだ。

町で暮らす一般人はもちろん理由無き武器の所持は禁止されている。

 しかし今は誰がどうみても非常事態、どうにかして最低限身を守る必要があった。


「よし、今だ。」

 ロケットがそっと扉を開けて外を確認してから二人を呼ぶ。

 フェイが壁の上に上がって向こう側の様子を探る。

『いるにはいるけど、今なら気づかれなさそう。』

 ロケットが頷いて、フェイにかがんで貰い思いっきり跳んで壁の崖に捕まる。

這い上がって壁の上に登り周りを見渡す。

ゴミ漁りもとい死体漁りに夢中になってる狼一匹だけで後は誰もいない。

 今度はウチワが踏み台になってフィーネが飛び上がる。

「ちょっと、もっと優しく跳びなさい!」

 とびあがったフィーネをロケットが捕まえる。

「シー、静かに。」

『しずかーにいこー。』

 ロケットがフィーネを上まで引き上げる。

「分かってるって。」

 フィーネも壁の上から遺体を漁る狼を見る。

「ウッ……」

 思わず声が漏れそうになるが口を手で抑える。

壁を慎重に降りて通りを抜けて反対側の裏路地を通る。

「よし、さあウチワさんも。」

 ロケットは手を差し伸べるがウチワは首を横に振る。

「いいえ。ワタシは一人で行ける。それよりアナタも早く行きなさい。」

 ロケットは頷き、壁から飛び降りる。

(けれど、ウチワさんは飛ぶための翼はないはずじゃあ……。)

 狼があらかた食事を終えたようで音に反応してこちらを振り向く。

「マズい!」

 ロケットはダッシュで向こう側まで渡ろうとする、がそれよりも早く狼が迫る。

「こっちよクソ犬!」

 狼が一瞬上空の声に気を取られた瞬間にロケットは裏路地に滑り込む。

ウチワが空を飛んでいた。

「あれ、ウチワさんって飛べたんだ!?」

 腕の変わりに翼がはえており、ゆったりと羽ばたいて壁の上に着陸した。

「すごい、私も初めて見たけど変翼族だったんだ!」

 翼の羽根が一斉に引っ込み腕があらわになる。

 狼はすっかりロケットを放置しウチワの事を警戒して唸っている。

「痺れる罠よ、クソ犬を射れ!」

 ウメが輝きを増して狼の足下の地面へと入り込む。

『ふわっとーびりっとーパラライズボルトー。』

狼のいる地面から大きく陣が展開され、完成と同時に電流が走る。

 狼が気づいた時には時遅く、キャインと鳴いてビリビリと身体が麻痺し自由を奪われた。

『せっちおーけー、いこー。』

 地面から出てきたウメを回収して優雅に壁から降りる。

電流の中を平気な顔をして歩く姿を見ると、どうやら本人には効かないらしい。

 当然ここまで多くの音を立てると次々と獣たちがやってくる。

しかし、ウチワは慌てる事なくゆっくりと歩く。

 飛びかかろうとする獣たちが陣の中に入るたびに身体に電流が走ってその場で転がる。

「飛んで火にいる夏の虫、と言っても獣には通じないか。」

  路地まで優雅に歩き渡るころには獣たちで道がふさがるほどになっていた。

「す、凄い……。」

「まるでこれはゴキブリホイホイですね!」

 フィーネは上手く言ったつもりだったがウチワはイラっとした。

「ワタシの高等な術をあんなのと一緒にしないで頂戴!」

「あ、スミマセン……。」

 ウチワは颯爽と先を歩く。

「準備さえできればこんなものなのよ。さあ、先を急ぐよ。」


 獣たちは幸い力は強くてもあまり頭が良いのはおらず、先にこちらが見つければ精霊術で簡単に倒されてくれた。

 必死に走り抜けた結果、なんとか目的地にたどり着いた。


「駄目ね、良さそうなものはみんな買われてる。」

 ウチワが店を見て回り、良さそうなものを物色するが考える事はみな同じ、あちこち“売り切れ”の文字が書かれている。

「すいません、こんな事になるならもっと仕入れておけば良かったですよ。」

 流石に武具屋周辺は強力な武具を持った旅人やハンターたちがバリケードを造っていたので、獣たちが侵入しできないようになっていた。

 たまに聞こえる発砲音は空の猛禽類を撃ち落とし、聞こえる鳴き声と爆発音は精霊の仕掛けたトラップに獣たちがかかった音だそうだ。


「まあ、ギリギリこの初心者用のがあるのが救いね。」

 フィーネとロケットは少しでも身が守れそうな服を選んでいた。

ウチワがそこにやってきて集めた武器を手渡す。

「ガールはこれ、どうせ切ったり切られたりできないでしょ。」

 フィーネは革で出来た腕にはめるタイプの簡易な小さい盾と、何かの木で出来た小さなスティックを受け取る。

「ええっとこれって……どうするんです?」

 ウチワは深いため息をつく。

「持ってるだけで良いの。それで精霊を指揮することで格段に能力が上がるから。はいアンタはこれ。」

 ロケットが手渡されたのは先に鎚がついた長い棒だ。

「おお、何だか強そう!」

 クルクルと回してみると見事に頭の白いたてがみに棒をぶつける。

「いてっ!」

「ま、剣は人気すぎてみんな売れてたから売れ残りなんだけどね。」

 ウチワは長い猟銃を持ち弾をこめる。

「そしてワタシはこれ。ゴミだけど何もないよりマシでしょ。」

 外から発砲音が響く。

「よし、この調子で服も決めちゃおう。」


 結局防具も無理をしない程度にということで、ロケットは長袖長ズボンで通常よりも丈夫な布を使ってある(特に背中はプロテクターが入っている)冒険者の服を。

 フィーネは長そでとロングスカードで足元が見えるくらいの精霊の力で編まれた服に精霊が微弱な守りの力で身体を包んでくれる腕輪を。

 ウチワは服は変えずに守りの力のある脚輪を買った。

なんでもこの服でないと「飛ぶ時に邪魔になる」らしい。


なおこの時の装備は以下の通りだ。

 フィーネ→柊の小枝、合成皮の盾、精霊のはごろも、守りの腕輪

 ロケット→プラスチック棍棒のハンマー付き、冒険者の服

 ウチワ→軽反動型的撃ち猟銃、貴婦人の服、守りの足輪


 なんとか購入を終えて外へ。

Cブロックまで向かう事にした。

“妖”を追うため、そしてあのブロックは今どうなってしまっているのか急いで確認するために。


 武具を手に入れてからもなるべく獣の少ないルートを通り、出来るだけ戦闘は避けた。

獣たちは身体の大きさや力の強大さもそうだが体力も並大抵ではなく、直接倒そうとするとどうしても苦労する。

一撃でしとめるにはそれこそ多くの鍛錬と良く整備された強力な武器が必要だが今はどちらもない。

 切って少し血が出ても直ぐに止血し、撃っても皮膚で止まって少し痛がる程度なぐらい獣たちは強靱だ。

その強靱さを利用した家畜は価値があるのだが。


 幾つか交戦、足止め、逃走を繰り返しやっとCブロックとの境目に辿りつく。

だが最悪な事に獣たちが出入り口を見張っていた。

「予想通り通りではあるけれど、実際やられると萎えるわね。」

 フィーネで遠くから観察強化で特徴を調べる。

「ええっと、スズメとタマムシとうりぼうですね。」

 白に黒の丸が入った尻尾を揺らしながら観察を続ける。

 50センチほどの大き のスズメと人間を乗せて走れそうな大きさのタマムシ、先ほどの猪よりはずっと小さいがそれでも高さだけで80cmはあるうりぼう。

その三体が何のためかは分からないが大通りから抜けれるCブロックへの道を塞いでいた。

 先ほど妖によって出入り口はある程度開いたが全て開いた訳ではなくあくまでここらへんだけ開いていた。

もし全て開いていたら今頃Bブロックはより悲惨な事になっていただろう。

「なんとか倒そう、俺らならきっと出来る。」


 獣たちはこの先に行く者を止める用に命じられていた。

普通はそんな事は出来ないのだが妖は別だ。

わけもわからずその圧倒的な力の前に従うしかなかった。

 と、突然どこから飛んできた銃撃にスズメが吹き飛ぶ。

一回転して転がってすぐに立ち上がり周りを見渡す。

「ここだっ!」

 上から落ちてきたロケットがそのままスズメの頭に一撃を加える!

見事頭に当たってギャグのようにクルクルと宙を舞って落ちる。

 スズメは何も出来ずにノックアウトされてしまった。

「よし、まずは一体!」

 鎚をクルクルと回して相手へ向けて構える。

勿論相手もすぐ臨戦体制を整える。

「精密強化!」

建物の陰から出てきたフィーネがスティックを降ってロケットに向けてフェイを飛ばす。

『お待たせ!』

 フェイが光の滴をロケットに振りかけると、ロケットの身体が淡く輝く。

 うりぼうが最初に仕掛けてきた。

ロケットを吹き飛ばそうと猛然と突進!

 しかしロケットはまるで戦闘なれしてるように身を翻して避けた。

「凄い、想像した通りに身体が簡単に動く!」

 対象を通り過ぎたうりぼうはブレーキをかけ振り返ろうとするが遅かった。

「そおれ!」

 思いっきり鎚のアッパーカットを喰らい空中に打ち上げられる。

「ハロー!」

 建物の屋根の上に移動していたウチワがうりぼうに電撃の一閃!

まる焦げになったうりぼうはそのまま地面に落ちノックアウトされた。

「危ない!」

 タマムシが背後を見せたロケットに襲いかかる!

フィーネが急いで間に割って入り、盾で受ける!

 結果は半々、タマムシも突撃の勢いでそのまま後ろに、フィーネも受け止めた衝撃で後ろに吹き飛んだ。

「いたた……。」

 ロケットがタマムシに武器を構えながらフィーネに声をかける。

「フィーネ、大丈夫!?」

「うん、思ったより大丈夫だったみたい。」

 また位置を変えたウチワがタマムシを狙撃!

しかしタマムシの装甲に弾かれてしまう。

「厄介ねこれは。ガール、武器の強度を上げて!」

 フィーネはスティックを今度はウチワに向けて振る。

「はい!武器強化!」

 フェイが飛んでいき武器に光をかける。

『おまたせ!でもどうするの?』

「まあ見てなさい。」

 その間、ロケットとタマムシは互いに引かない攻防を繰り広げる。

精密強化で思った通りに攻撃を受け流すが、いざ叩いても手に痺れが来るだけでまるで相手に通じてない。

「つ、強い!フィーネ、下がってて!」

 分かったと言ってフィーネは再び物陰に隠れる。

『ちゃーじ、かんりょー』

 ウメが電撃を銃にため込む。

「この銃でもワタシならできるはず……!」

 ゆっくりと敵に向け、トリガーを引く。

その瞬間に敵に先ほどの数倍の速度で弾丸が打ち込まれ、その衝撃がタマムシをひっくり返す!

「レールガン成功!まあ、暫くオーバーヒート起こしてそうね。」

 銃口が真っ赤に熱くなっておりとてもじゃないが弾は詰められそうにない。


 ロケットはひっくり返ったタマムシを見てすかさず振りかぶった一撃!

先ほどとは違い確かに相手にダメージが入った。

 しかし相手もしぶとくまだ脚をばたつかせている。

「もう一回!」

 ドカッと鎚で数回叩いてやっと静かになってくれた。

恐ろしい事にこれでも見た目の傷は一つもつけれていない。

やっと気絶してくれただけだった。


 適当に戦利品を敵から剥ぎ取って先へ進む。

やっとCブロックに進むことが出来た。

 Cブロックは居住用の建物が多く建ち並び、普段なら多くの人々が住んでいるのだが。

「誰も……いない?」

 ロケットが周りを見渡す。

多数の穴 建物にあき、血と戦闘の跡はあるがまるで人の気配がない。

そこはすっかり獣と人の戦場になっていた。


 おまけ休憩所

フィーネ「スティックってタクトみたいに振ると精霊術を上手く使えるんですね。」

フェイ『わたしが指揮通りに術をかけるよ!』

フィーネ「遠くても、しかも複数にかけれて私が今まで使えなかった術も使えるみたい!」

フェイ『こっそり練習してみんなを驚かそう!』

ウメ『……ぼくがここにいるのにー、あたまかずにーかぞえられてなーいの?』



───────────




 キャラクター説明


 フィーネ・フロート2

綺麗な白毛と黒の模様がある少女は戦うためにスティックと小さな盾を手に取った。

精霊の力で編まれた服は見た目はゆったりとした服で足元まであるスカートが動きを制御しそうだが、見た目より軽くそして頑丈で軽く動ける。

 戦いは苦手でも後方から指揮をするように精霊術で味方を支援する。

スティックのおかげで自分以外の強化や新術が使えるようになった。

“武器強化”は武器の強度や能力を強くする。

 実験的に行われている警察学校高等学部は親に頼まれて行くことになったらしい。


 ウチワ ウスイ2

黄色の羽根と青い飾り羽根、金色の尾羽根以外に実は腕が翼へと変化する生まれつき精霊の力を持つとても珍しい種族。

 嗜み程度に銃猟をしたことがあるので難易度の高い銃の操作を問題なく扱える。

 オーダーメイドの貴族服も変化する腕を邪魔しないよう匠の技術をつぎ込んである。

“レールガン”は電気の力で高速で弾丸を飛ばすが普通の銃では一発でオーバーヒートし故障する。

フィーネの武器強化を使っても暫く使い物にならないほど熱くなるのでここぞという瞬間にしか使えない。

 なんだかんだと言いつつ二人の事は良く把握している良いお姉さん役。



 ロケットには精霊がいない。

なので精霊を通じてでしか知り得ない事は他人から聞くしかない。

「フィーネ、なんだかあちかちで氷が張ってたり地面が盛り上がってたりするけどこれってもしかして……。」

 フィーネはフェイと顔を合わせ、頷く。

「精霊術の跡ですね。きっと戦闘が行われたんだと思います。」

 フェイが長く白い尻尾で方向を指す。

『あっちの方までずうっと精霊術のエネルギーがつづいてる。見に行こうよ!』

 暫くそちらの方に歩いていくと、どんどんと戦闘跡が激しくなり、獣や人の遺体が出てきた。

「酷い、光景……。」

 フィーネはできるだけ遺体は見ないように、目を伏せて歩く。

ただそれと同時に不思議に思った。

居住区はあまり武具を持ってる人も武具を売ってる店もないし、扱えるほど旅慣れてる人はあまりいないはずだ。

 よほどの手練れが偶然観光をしていたら隔離されてしまったのだろうか。

 そんな事を考えながら歩いて行くと、そこには驚くべき光景があった。

「あ、あの時の猪!」

 ロケットが指した先にはあの時、穴あけ機を壊そうとした猪。

『の、丸焼き!?』

 その猪は豪快なたき火の上に身体に棒やらヒモやらで固定してあった。

当然その猪を誰かが狩ったということだ。

いいにおいがこちらまで漂ってくる。

「かなりの腕の持ち主がいるのは確か。ここで何が起こってるか話が聞けるかも知れないね。」

 ウチワたちはそのたき火へと足を進めた。


大勢「カンパーイ!!」

 綺麗に焼けた猪肉の切り分けをロケットはほおばっていく。

「うまい!初めて食べたけど猪ってこんなに美味しいんだ!」

 一方フィーネは困惑していた。

どうしてこうなったんだっけと。

(確か、あの後多分ここに避難してる人たちに見つけられて、避難民だと間違われて、あれよあれよという間に宴会が……あ、ほんとうにおいしい。)

 モグモグと肉を食べる。

「ちょっと、どうするのこれ。」

 小声でウチワがフィーネに話しかける。

「ええっと……。」

 正直フィーネにもどうしていいかはわからなかったので苦笑いを浮かべる。

『とりあえず楽しんじゃおうよ!』

 器用に猫らしく(?)前脚で肉をつまんで食べるフェイ。

『たべたもんーがちー。』

 負けじと肉を で引きさくと肉汁が思いっきりエメラルド色の体毛にかかる。

 ウチワにすぐにハンカチで拭いて貰い額の宝石にシミが付くのは防げた。

「ロケットさんは凄いですね、もうここの人たちに馴染んでる。」

 普段は運動や集会に使う町の公民館の中で宴会をしてるが避難人数はおよそ300人ほどだろうか。

その中には穴開け機の運転手もいる。

 ロケットはすっかりと周囲と打ち解けて何かを話して盛り上がっている。

「あれはバカだから出来る芸等。遊びに来たわけじゃあないんだよ。」

 ウチワも肉を頬張りつつロケットの事を観察している。


 それなりに時間がたち多くの人が食べ終わったころ、公民館の出入り口付近で声が響く。

「盛り上がってる所申し訳ないですが!!そろそろ開封したいと思います!!心当たりのある方は!!集合お願いします!!」

 拡声器も無しでこの人数の中を響かせる。

 そしていつもの事のようにぞろぞろと数十人が外へと歩き出した。

「俺たちも行ってみよう。」

 ロケットも立ってフィーネたちを促し、フィーネたちも立ち上がる。


 外へと行ってみるとあるものを見ようと人だかりが出来てた。

ロケットたちものぞき込んで見ると、巨大な袋──正確にはおそらく猪の胃袋があった。

「これから、何が行われるのかな?」

 ロケットは胃袋の側に立つ女性に話しかける。

銀白の体毛と白いマントが特徴的な狐族の女性だ。

「そうかお前たち、先程の新しい避難民か。ならば関係があるかもしれん。これからこの胃袋を裂く。何が出るかは運次第だが、運が良ければ。いや悪ければお前たちの想像するものが出てくる。」

 狐族の女性は背中からあまりこの地方では取り扱われてない大きく曲がった剣、曲刀を取り出す。

「イクシア、やるぞ。」

 イクシアと呼ばれたのは先程声を張り上げていた人のようだ。

意外と小柄なその男は、全身を綺麗な緑色のウロコで覆われた爬虫類族で恐らくイグアナ等の種族に近いのだろう。

 服もまるで無法者のような荒々しく武骨な服だ。

 イクシアが狐族の女性と並ぶと、狐族の女性がそこそこ大きいせいでより小ささが目立つ。

フィーネよりも恐らく小さい。

「新人もいるみたいだからもう一度言っておく!親同伴の子どもは良いというまで目を瞑って黙祷しろ!出てきた物には触るな近づくな!胃液が危険な場合が多い!じゃあ始める!」

 小さい体に似合わずどこまでも響きそうな大きな声。

ウチワは耳を抑えながら聴く。

「ヌール、斬ってくれ。」

 狐族の女性はヌールと言うらしい。

ヌールは小さく頷くと一閃、曲刀をしまうころには既に胃袋が斬れていた。

 ロケットはその速い剣さばきに驚くが、さらに切れて胃袋から出てきた物にも驚く。

手。

 半分は溶けたり壊れたりして元の人が男か女かすらわからないものも多い。

 フィーネは出てきた瞬間目を瞑り黙祷に入り、ウチワはやっぱりねと言いたげに平然とした顔をしている。

 イクシアが息を止めながら胃の中を石で出来たスコップで掘り返す。

雑食らしく草や人の備蓄食料、小型の獣まで半溶解状態で見つかった。

人の遺体が見つかるたびに誰かが悲痛と喜びの混じった声を上げる。

顔は溶かされてわからなくても身に着けてるちょっとしたもので本人たちには十分わかるのだろう。

 ロケットは手帳を取り出してこの光景を描く。

絶対に忘れては行けないかのように。


 胃の中身はゴミはまとめて捨てるが遺体はいれば親族がいなければイクシアが小さな手製の墓へと埋める。

 様々な形の石が差し込んであるだけの墓はいくつあるのか数えきれないほどだ。

「ここは数万人が住む所だったらしい。」

 ロケットたちは先程の狐族の女性、ヌールに案内を受けていた。

「我がキャラバンは人間を見つけ次第保護している。もちろんまだ全て探索を終えたわけではない。」

 ヌールの目が細く顔が険しくなる。

「獣が多すぎる。一般人では他にはもう生き残りはいないと覚悟して欲しい。」

 フィーネが小さく悲鳴のような声を漏らす。

「おいおい、ヌールそう脅かしてやるな!」

 墓づくりを終えたトカゲのイクシアが戻ってきた。

「ヌールは少し悲観的なんだ、だからよくみんなをビビらせちまうんだけど大丈夫、俺が見つけてやる!」

 ガッツポーズを取るイクシアの肩にポンとヌールが手を置く。

「やはり人と話すのは苦手だ。後は任せた。」

「もちろん、そう来ると思っていたぜ!」

 ヌールのマントの襟元から、小さなネズミのような精霊が出てくる

『ちゅちゅ。』

「そうか、分かった。」

 そう言うとヌールはどこかへ去った。


 イクシアに、先程猪を丸焼きにしていたたき火に案内され、座って話を聞く。

「オレたちはヌールをリーダーにした中規模キャラバンでな、偶然この町に立ち寄った時にこんな事に巻き込まれたんだ。」

 イクシアは軽快に笑顔で話す。

ロケットが疑問を口にする。

「あれ?他の人たちはどうしたんですか?」

 イクシアが膝を叩く。

「そう!オレとヌールともう一人今見張り番してるシャムが宿を探すために町中に入ったんだけどな、見事にヌールが迷子になってな!」

 笑いながら話続ける。

「ああ見えてかなり頑固だからもう明らかに違う道に入り込んで行っていつの間にやらそのまま閉じこめられたんだよ!」

 テンションの高さに三人は唖然として置いてかれそうになる。

「だから恐らく他の連中は全員外だ!ヌールの方向音痴が無ければ全員で閉じこめられるところだったけどな!」

 軽快に笑い飛ばすさまは暗くなりがちな気持ちを自然と明るくしていく。

「さて、改めて自己紹介だ!オレはイクシア・アイアン、そして精霊のイベリー!」

 どこからともなく赤茶色い蝶が舞い降りてくる。

『初めまして。』

 ロケットたちも挨拶を返す。

「初めまして。……ってあっ!あの時の!」

 フィーネはこれまでの経緯を軽く説明する。

イベリー、という名前は猪と穴開け機が衝突しそうになった時に誰かが──恐らくこのイクシアが叫んでた名前だ。

「なるほど、オレもしかして軽く有名になっちゃったかな?」

 実は色んな影に隠れるほど小さくてあまりイクシアの事は見えなかった、とは誰も言わないでおいた。

「そうだ、そのアヤカシだけど多分同じ奴を見たぞ。」

「えっ、それって本当!?」

 ロケットが反応する。

「ああ、オレらが閉じこめられた後、空中にローブの男がやってきて生き残りゲームとか言い残して消えた後、空から獣が“降ってきた”んだ。」

 当然天気で獣が降るなんてものは無く。

「しかも空から降ってきたわりにどいつもこいつも無傷でさ、恐らく転送精霊術の一種だと思うんだが、大規模過ぎてオレには検討つかなかったね。」

 緑色の鱗に覆われた腕を長めの爪で掻きながら話す。

「その後はこの有様、オレらでどうにかできる範囲は退治したが、まだそこらにウロウロいる、そんな玩具のような武器で生き残れただけ奇跡的だぜ!」

 確かにこの武器は獣たちにはまるでちゃんとしたダメージは入らなかった。

ウチワが少し反論する。

「好きで使ってるわけじゃないよ。コレしか売ってないんだから。」

 イクシアは今度は頭を掻いて謝る。

「悪いわるい!まあ謝罪代わりにってわけじゃないけど。イベリー!」

 呼ばれたイベリーがくるりと回って蝶の鱗粉を散らす。

『了解、武器精製。力量適合、調整完了。射出するのでその場から動かないで下さい。』

 ロケットたちは言われている意味は分からなかったがとりあえずその場で待機する。

すると目の前の地面から勢い良く石で出来た武器が飛び出してきた!

「こいつは玩具じゃないマジの武器だ。しかもちゃんと個人向けに調整も済んでる。」

 イクシアは得意気に笑顔になった。



 おまけ休憩所

ロケット「世界には色んな術があるんだなあ。」

フィーネ「私が知ってる中で驚いたのは異世界の人を呼び出す術かな。勇者よー、魔王を倒せー!って。」

ウチワ「やっぱり世界に音楽をながしつづける術。大昔の作曲家たちが世界に音楽を広める為に世界には常に頭の中で聞こえる精霊の調べが流れるようにした術。」

フェイ『大きなドラゴンになれる術が一番好き!見たこと無いけどあるらしいよ!』

メ『うーんとねー、あくまをうみだすじゅつなんて、あったかなー?』

ロケット「いやそれはちょっと恐いような。」

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