2章 命は散るもの
少女フィーネは無事ロケット殺人事件を解決した!
fruitFRUIT 2章
3話【死を望む祈り】
「おめでとう!君たちは無事犯人に打ち勝ち生き残ることができたー!」
場違いに明るい男の声と拍手。
全員が驚き顔を向けるとそこには誰も知らない人が立っていた。
魔導師でも着そうな大きめなローブ。
顔はフードに隠れ完全に見えない。
フードには前後に大きく五芒星が描かれている。
「だ、誰っ!?」
フィーネがそのただならぬ気配に恐怖を感じつつも何とか声を出す。
「誰って言われたらそれはもちろん……」
いつの間にかまるで真逆の方に移動している。
全員が声を頼りに瞬間的に移動するその相手を目で追う。
「もちろん手紙を出した人だよ!」
その場にいる全員に衝撃が走る。
このふざけた様子の男が今回の計画犯らしい。
「さて、見事楽しくクリアしてくれたキミたちにご褒美だ。エリアを解放してあげよう。後でCブロック付近に行くと良いよ。」
「まさか、町を閉鎖したのも今回の事件を計画したのも全て……!」
ウチワは既に怒りが沸点に達しそうだった。
「そう、全てボクさ!」
おどけるように両腕を大きく広げて踊る。
ついに怒ったウチワは片手を前に突きだしフードの男を狙う。
『ぼくもーあいつきらーい。』
「動けなくなる程度にしてあげる、サンダーバレット!」
ウメが輝き、突きだした腕の前に移動するとそのまま雷の球となってそこから数本の雷が相手に襲いかかった!
「おっと。」
しかし男は立ったまま。
雷は男を貫通向こう側の壁にあたり焦がす。
「言い忘れたけど、俺はただの映像なんで当たらないよ。」
ちっ、と言ってウチワは構えを解く。
しかしこの雷の光は確かにこの男の顔を照らした。
その瞬間はフィーネにしか見えていなかったが……。
「アヤ……カシ。」
フィーネがそう呟く。
男は手も革のグローブで覆い顔以外はどこも露出していない。
しかし、その顔が一瞬しか見えなくともフィーネにはそうとしか表現できなかった。
様々な本で悪役として描かれているアヤカシ。
特徴的な共通点として不気味なほどに全身の毛が抜け落ちており口元は赤く肉が隆起し全てを呪うかのような眼球だけが光を反射し輝く姿。
そしてフィーネはその雷の光の一瞬を見た。
気味の悪い色をした露出した肌。
威嚇でもするかの如く真っ赤な歯茎までむきだしにして笑う口元。
血管すら浮き出していそうな顔は鼻も口も潰れていて蛙族の顔より遥かに気味の悪い。
アヤカシそのものの顔だ。
「正解!ザッツライト!ボクは妖、よろしく!」
フィーネに指指したりお辞儀したりコミカルなほどに良く動く。
そして気を抜くといつの間にかまた別の場所に移動している。
「アヤカシ……?本の悪役にでもなりたがってる頭打ったどこかおかしい病人みたいなこいつが?」
ウチワは妖を指さす。
「さっきの雷の光で一瞬、見えたんです。この人の顔を。私が知る限りこんな特徴的な顔はアヤカシ以外知らないです。」
妖はなぜか空中へと移動している。
「ま、ボクの御披露目会はまた後日って事で。ご褒美と同時に負けた者には罰をとらせなきゃ。」
ローブから赤い剣が飛び出し、右手に握る。
「まっまて!家族に手は出さないでくれ!」
慌てて娘と婦人の前に立ちふさがる宿屋の主人。
娘も婦人も肩を抱き寄せふるえている。
「んっんっー、どうしようかな?」
フィーネも前のめりになって妖に叫ぶ。
「なにをする気なの!?やめて!」
妖はゆっくりと剣を離し、空中から地面へと落ちていく。
「そう言うのなら……。」
ウチワはこの時直感的にその声に含まれる嫌な気配を悟る。
「なにしてるの逃げて!」
気づいた時には地面にいた妖が剣を再び持ち宿屋の主人を貫いた。
ザシュッ。
「ぐああっ!!」
「なんてね!最初から敗者を殺すつもりだよ!」
そのまま妖は剣を上に振り抜く。
よほどの切れ味なのか一瞬で宿屋の主人の頭まで切り裂く。
血飛沫が、後ろにいた婦人と娘に浴びるように掛かる。
もはや目を閉じることすら出来なかった。
「ああっ!」
目の前の惨劇に思わず手で顔を覆うフィーネ。
ウチワは妖から目を離さないようになるべく距離をとっている。
悲劇はこれだけではなかった。
剣の切った所から強く発火し、一瞬で身体を炎に包んだ。
『うわああああ!!』
叫んだのは騒々しくなって気になって見に来てた宿屋の主人の精霊フレアだった。
妖へと一直線に飛ぶ。
『うわあああああ!!あああ!あ……。』
しかし、だんだんと弱々しくなりそしてついに妖の手前で止まってしまう。
精霊の輝きは失われ、全身が赤い宝石のようなものへと変化した。
「精霊の、死。」
足元に落ちた胎動するように輝く石を妖は拾う。
宿屋の主人の炎は一瞬のうちに身体を灰にし既に鎮火しかけていた。
「宿が死んださい72時間輝き続ける精霊の石。その間なら蘇生の儀式が出来て宿を復活させれるかもしれないが、完全に灰になっちゃってたら無理だけどな。」
宿屋の主人の身体は既に跡形もなく燃え尽きていた。
「ほら、勝利者のご褒美その2だ!」
妖はフィーネに精霊フレアの石を投げつける。
予想外の行動に慌ててフィーネはキャッチする。
「大切にしろよー、精霊の石は貴重なコイツの形見なんだからさ。」
足元の灰を指さす。
「では、次のステージで。」
妖は深くお辞儀するとその姿は突然消え去った。
全員が一気に汗を拭きだしその場に倒れ込む。
狂ったようなプレッシャーから解放され、久々に息をしたようにも感じた。
フィーネは手元に残った石を見る。
ゆっくりと輝きが胎動していて綺麗だが、この輝きはそのうち失われそして本当に絶命する。
「あの……。」
フィーネが顔を上げ口を開いた瞬間、目の前に妖がいた。
先ほどのプレッシャーはないが突然の事で驚く。
「そうそう忘れてた、アイツには必要ないだろうけど勝利者が推理側の場合、ご褒美で被害者を蘇らせてあげよう!72時間以内ならね。」
「な、何を言って……っ!」
妖の姿がふっと消える。
声がこだまして響く。
「俺は特別だからルールはある程度無視できるのさ!まあアイツはそれすらも越えるほど特別だから心配せずともそろそろ生き返る!見に行ってやったらどうだ?」
妖にいわれた通り遺体がまだそのままにしてある路地裏に来たフィーネとウチワ。
婦人と娘は何とか声かけて身体を押してシャワー室へと入ってもらっている。
「あいつの言うことは信用できないけど、今は言われたとおりにしたほうが良さそうだからね……。」
ウチワにフィーネも頷く。
その時。
突然ロケットの遺体が輝きだし、そして宙に浮かんだと思うと地面に大きく輝く紋様が展開される。
「うわっ!」
猛烈な風が吹きすさび、光の粒子がロケットの周りへと集まり出す。
「蘇生の儀式……!?でも遺体自身が、しかもこんな強烈なものは見たことが……!」
ウチワは過去に何度か蘇生の儀式に参列したことがあるから行われている事が蘇生の儀式だと直ぐ気づいた。
遺体を囲むように何十人と座り、強い関係があるものが祈りを捧げ、精霊の石を遺体の上に置き、儀式を行う教会の神父やシスターたちが全力で展開して行うもの。
ただしもっと静かで小さく、長い詠唱とたくさんの準備が必要なもの。
遺体自身がただ単一で自分自身へ向けてここまで強烈な力で蘇生を行うなんて事は、ただの一例もない。
「あっ……!」
光がロケットの身体を包み、血や泥が消え、傷は埋まり、見る見る生気が戻る。
そして光が収まった時、ゆっくりと地面に立った。
「はあ……っ!はあ……っ!」
ロケットは激しく肩で息をしている。
それまでは確かに死んでいたのに、だ。
実はこの時、ウチワとフィーネは少し引いていた。
あまりにも非現実的な光景と繰り返される命の生と死、そしてこの目の前の光景に。
ロケットがやったこと。
それは童話のアヤカシは復活するシーンとまるで同じだった。
悪者は決して絶えない、だから何時までもちゃんといい子でいないとさらわれてしまうよ。
そんなベタな子ども向け童話のオチの一つ。
それをやってのけたロケットは何者なのか。
そのことも含めて二人とも気が狂いそうなそんなギリギリの状態だった。
ロケットはまだフィーネたちには気づいておらず、またフィーネたちもあまりの出来事に動けずにいた。
そんな状態を打ち破ったのは意外なことだった。
ぐうううう。
ロケットの身体は酷くエネルギーを使っていた。
この音にフィーネははっと我に帰り、思い切って声をかけた。
「ロケット……さん?」
その声に気づいてロケットがそちらの方を見る。
「はは、お腹、すいたなぁ。」
フィーネは笑顔と泣き顔と混ざり合った顔でロケットの近くへと駆けていく。
「ロケット……!ロケット!ロケット!!」
そしてそのまま抱き合った。
「ただいま。」
「おかえりなさい……!」
ウチワは目の前の光景は何度か過去の儀式で見たことがあった。
蘇った者と祈りを捧げたもの。
二人が喜びを分かち合う。
『本当に良かったよー!』
フィーネの頭の上から飛び出してぐるぐると二人の周りを飛ぶフェイ。
「ワタシは、邪魔者だね。」
そんな光景を見て笑顔がこぼれるウチワ。
そっと裏口から宿の中へと帰った。
おまけ休憩所
フィーネ「そう言えば、ロケットは何が好きなのかな?」
フェイ『ベタな所でステーキ?』
ウメ『もしかしたらースープじゃなーい?』
ウチワ「すき焼きなら気に入るだろうねえ。」
ロケット「やっぱり、あのフランスパンが良いなあ!」
フィーネ「あれは私のだから!」
ロケット「えっ。」
────────────
ロケット2
謎の力を持ち精霊を介さずに自然の力を扱う。
ただし使用すればエネルギーを使うので本人はあまり使いたがらない。
致死ダメージを負っても最大量のエネルギーを使うことで蘇れる「黄泉から帰る」、できる範囲で見た技をそのままそっくり使う「見よう見まね」など。
妖
アヤカシ。
魔導師のようなローブに身を包んだ謎の人物
何者も寄せ付けないほど圧倒的な力と何を考えているのかが分からない行動をし、町を恐怖に包んでいく。
ゲームを提案し勝者に褒美を敗者に死を渡す恐怖の存在。
─────
あの後が大変だった。
まずロケットは空腹ですぐ力尽きたからフィーネは慌てて調理し、いつの間にかウチワは眠っていたからロビーの惨状もなんとか片づけて、シャワー室でいつまでも「血が落ちない」と既に毛が抜けるほど綺麗に洗っていた娘と婦人をシャワーから出して精霊フレイムとメラに手伝って貰って彼女らを寝室まで運んで眠らせた。
くたくたになったフィーネはロビーでいつの間にか眠り、気づいた時には日が登っていた。
一方ロケットは料理を平らげ早めに寝かされた(片づけを手伝おうとしたら結局体力が戻ってなくて倒れた)ため、いつもの日がのぼる寸前の時間には起きれた。
「うん、だいぶ元気になった。」
ベッドから降りて服を着替え、下へ降りると片づけの途中で眠ってしまっていたフィーネがいたのでそっと予備の布団をかけておいた。
フェイはフィーネのすぐ側で丸まって眠っていた。
「よし、仕事だ!」
ロケットは昨日の出来事を思い出しながら宿のオープン準備を進めていた。
殺された付近の記憶は思い出せないのだが、自分が死んでいた事は分かった。
(また世話になっちゃったなあ、精霊王に。)
精霊王、それはあらゆる者が死んだ後に行くとされる世界に住むと言われる、精霊の王様。
(いつも死んでしまうと、どこか分からない所を歩いてて、けれど誰かに声をかけられて。)
“お前の行くべき所はどこだ?”
白に包まれた世界。
ただひたすらロケットが歩いているとどこからか声が響く。
「どこへって、それは分からないよ。」
ただひたすら、この先へ行かなくてはいけない気がして仕方がなかった。
“お前の行くべき所はどこだ?”
再び同じ質問が響く。
「どこって……あれ?」
ふと、先ほどまで引っ張られるように行きたかった気持ちが収まっている事に気づく。
「お前の行くべき所はどこだ。」
今度ははっきりと耳に聞こえる。
全く知らないはずなのに昔から知っている声。
「うん、ありがとう!精霊王、俺はまだやることがあったんだ!」
知らないはずなのに自然と口からこぼれた名前。
「忘れるな、自らの使命。生あるものの使命を。」
ロケットは来た道を逆走し、そして見えない壁に思いっきりぶつかる。
壁が壊れ、そしてその奥へと吸い込まれる。
真っ暗な闇の世界に落ちるように吸い込まれていく。
(そして気づくと俺は生き返っているんだよなあ。)
火を起こし、具材を切って鍋に放り込む。
精霊たちは未だ宿屋の娘と婦人たちと共に寝ているので見よう見まねでなんとか炎を調整する。
ロケットは見て覚える事は得意だった。
「ん……もう朝ね。」
ゆっくりとベッドから起きたのはウチワ。
普段は料理の香りが漂ってくるよりは前に起きるのだが、今日は既に香りが漂ってきている。
『Zzz……』
未だに寝ているウメは放置して身支度をする。
自分では大丈夫のつもりだったが、長く眠った事と言い、未だに手が震えている事と言い、しばらくは強がるしかないと思った。
「ウメ、ご飯。」
ご飯という単語に反応して目が覚めるウメ。
『ふぁーい。たべるー。』
そして全員がロビーの隅にある食事テーブルへと集まる。
「俺特製の見よう見まねで作った朝ご飯お待ちー!」
テーブルにスープやパン、サラダを並べていく。
「ふぁっ!?ロケットさんもう大丈夫なんですか?」
やっと目が覚めたフィーネがロケットに気づく。
「うん、もう大丈夫。昨日の成り行きはフィーネから聞いたし、体調ももうバッチリ。」
ロケットはフィーネに笑顔を向ける。
二階からウチワがゆっくりと降りてくる。
「あらおはよう、あの二人が作ったのかしら?」
「いえ、今日は俺です!」
ウチワはその事を聞いて驚く。
普通はこんなにも早く現場復帰出来るほど丈夫な人はいない。
死から目覚めて一週間程度は治療を受けるのが普通だ。
何もかもが常識外のロケットには驚かされてばかりで、それもウチワは気に喰わなかった。
「あ、そう。じゃあさっさとワタシの分もよそいなさい!」
「了解しました!」
ロケットは急いで厨房へと戻り、そしてウチワの分を運んだ。
「じゃあ俺はそろそろアンドルフさんたちを起こしに行ってきます!」
そういって宿屋の娘と婦人の寝室へとロケットは向かっていった。
『あ、これおいしい!』
フェイがスープを少し飲んで目を丸くする。
『おー、ほんとうーだおいしー』
ウチワによそって貰ったスープをウメが夢中で食べる。
少しして宿屋の娘と婦人がロケットに引き連れられやってきた。
目の下にはクマができている。
娘と婦人の精霊フレイムとメラも心配そうに付き添う。
今日は特別に、と普段は厨房でスタッフは食事を取るがロケットに勧められてロビーのテーブルにつく。
そっと出されたスープとパンとサラダ。
二人はその香りを嗅いで、そして一口スープを飲む。
「う、うう……っ!」
突然泣き出す宿屋の婦人。
「パパ、パパのスープの味……!パパ、パパ……!パパァ!!」
宿屋の娘も泣き出す。
そして泣きながら夢中に食べ続ける。
ロケットは後で知った事だが、精霊フレイムたちによると宿屋の主人が死んでから今までずっと泣くこともせずただ震えていたらしい。
泣いて食べてまた泣いて。
そんな姿を三人と二匹は見ていることしかできなかった。
妖が言っていた「C地区への境に行け」という事。
詳しい意味は分からなかったが、覚悟を決めた3人がそこへ向かっていた。
「私たちをこんな風に弄ぶなんて、絶対にアイツだけは許しちゃいけない。」
『私はフィーネについて行くよ。アイツをぶっ飛ばしてやろうよ!』
虹色の壁へと歩いていく。
「あの宿には結構借金あったから夜逃げしないために見張ってたんだけど、まあ良いわ。全部そのツケあのふざけた野郎に払って貰う。ワタシをコケにした代金は高くつくよ!」
『フレーフレーふぁいとーろー』」
それぞれの想いを秘めて。
「俺を知っているソイツに会って、話を聞き出したい。けれどその前に一発ぶん殴る!あんな涙はもう見たくない!」
次のステージへ!
おまけ休憩所
ウメ『ねーねー、そうーいえばさー。』
フェイ『え、何?』
ウメ『キミってーさーえーっーーとねー』
フェイ『うん……うん?』
ウメ『なーまえー、なーんてーいーうのー?』
フェイ『何だろう、すごく会話しづらい……』」fruitFRUIT22
ロケット2
謎の力を持ち精霊を介さずに自然の力を扱う。
ただし使用すればエネルギーを使うので本人はあまり使いたがらない。
致死ダメージを負っても最大量のエネルギーを使うことで蘇れる「黄泉から帰る」、できる範囲で見た技をそのままそっくり使う「見よう見まね」など。
妖
アヤカシ。
魔導師のようなローブに身を包んだ謎の人物
何者も寄せ付けないほど圧倒的な力と何を考えているのかが分からない行動をし、町を恐怖に包んでいく。
ゲームを提案し勝者に褒美を敗者に死を渡す恐怖の存在。
8話【死を望む祈り】
あの後が大変だった。
まずロケットは空腹ですぐ力尽きたからフィーネは慌てて調理し、いつの間にかウチワは眠っていたからロビーの惨状もなんとか片づけて、シャワー室でいつまでも「血が落ちない」と既に毛が抜けるほど綺麗に洗っていた娘と婦人をシャワーから出して精霊フレイムとメラに手伝って貰って彼女らを寝室まで運んで眠らせた。
くたくたになったフィーネはロビーでいつの間にか眠り、気づいた時には日が登っていた。
一方ロケットは料理を平らげ早めに寝かされた(片づけを手伝おうとしたら結局体力が戻ってなくて倒れた)ため、いつもの日がのぼる寸前の時間には起きれた。
「うん、だいぶ元気になった。」
ベッドから降りて服を着替え、下へ降りると片づけの途中で眠ってしまっていたフィーネがいたのでそっと予備の布団をかけておいた。
フェイはフィーネのすぐ側で丸まって眠っていた。
「よし、仕事だ!」
ロケットは昨日の出来事を思い出しながら宿のオープン準備を進めていた。
殺された付近の記憶は思い出せないのだが、自分が死んでいた事は分かった。
(また世話になっちゃったなあ、精霊王に。)
精霊王、それはあらゆる者が死んだ後に行くとされる世界に住むと言われる、精霊の王様。
(いつも死んでしまうと、どこか分からない所を歩いてて、けれど誰かに声をかけられて。)
“お前の行くべき所はどこだ?”
白に包まれた世界。
ただひたすらロケットが歩いているとどこからか声が響く。
「どこへって、それは分からないよ。」
ただひたすら、この先へ行かなくてはいけない気がして仕方がなかった。
“お前の行くべき所はどこだ?”
再び同じ質問が響く。
「どこって……あれ?」
ふと、先ほどまで引っ張られるように行きたかった気持ちが収まっている事に気づく。
「お前の行くべき所はどこだ。」
今度ははっきりと耳に聞こえる。
全く知らないはずなのに昔から知っている声。
「うん、ありがとう!精霊王、俺はまだやることがあったんだ!」
知らないはずなのに自然と口からこぼれた名前。
「忘れるな、自らの使命。生あるものの使命を。」
ロケットは来た道を逆走し、そして見えない壁に思いっきりぶつかる。
壁が壊れ、そしてその奥へと吸い込まれる。
真っ暗な闇の世界に落ちるように吸い込まれていく。
(そして気づくと俺は生き返っているんだよなあ。)
火を起こし、具材を切って鍋に放り込む。
精霊たちは未だ宿屋の娘と婦人たちと共に寝ているので見よう見まねでなんとか炎を調整する。
ロケットは見て覚える事は得意だった。
「ん……もう朝ね。」
ゆっくりとベッドから起きたのはウチワ。
普段は料理の香りが漂ってくるよりは前に起きるのだが、今日は既に香りが漂ってきている。
『Zzz……』
未だに寝ているウメは放置して身支度をする。
自分では大丈夫のつもりだったが、長く眠った事と言い、未だに手が震えている事と言い、しばらくは強がるしかないと思った。
「ウメ、ご飯。」
ご飯という単語に反応して目が覚めるウメ。
『ふぁーい。たべるー。』
そして全員がロビーの隅にある食事テーブルへと集まる。
「俺特製の見よう見まねで作った朝ご飯お待ちー!」
テーブルにスープやパン、サラダを並べていく。
「ふぁっ!?ロケットさんもう大丈夫なんですか?」
やっと目が覚めたフィーネがロケットに気づく。
「うん、もう大丈夫。昨日の成り行きはフィーネから聞いたし、体調ももうバッチリ。」
ロケットはフィーネに笑顔を向ける。
二階からウチワがゆっくりと降りてくる。
「あらおはよう、あの二人が作ったのかしら?」
「いえ、今日は俺です!」
ウチワはその事を聞いて驚く。
普通はこんなにも早く現場復帰出来るほど丈夫な人はいない。
死から目覚めて一週間程度は治療を受けるのが普通だ。
何もかもが常識外のロケットには驚かされてばかりで、それもウチワは気に喰わなかった。
「あ、そう。じゃあさっさとワタシの分もよそいなさい!」
「了解しました!」
ロケットは急いで厨房へと戻り、そしてウチワの分を運んだ。
「じゃあ俺はそろそろアンドルフさんたちを起こしに行ってきます!」
そういって宿屋の娘と婦人の寝室へとロケットは向かっていった。
『あ、これおいしい!』
フェイがスープを少し飲んで目を丸くする。
『おー、ほんとうーだおいしー』
ウチワによそって貰ったスープをウメが夢中で食べる。
少しして宿屋の娘と婦人がロケットに引き連れられやってきた。
目の下にはクマができている。
娘と婦人の精霊フレイムとメラも心配そうに付き添う。
今日は特別に、と普段は厨房でスタッフは食事を取るがロケットに勧められてロビーのテーブルにつく。
そっと出されたスープとパンとサラダ。
二人はその香りを嗅いで、そして一口スープを飲む。
「う、うう……っ!」
突然泣き出す宿屋の婦人。
「パパ、パパのスープの味……!パパ、パパ……!パパァ!!」
宿屋の娘も泣き出す。
そして泣きながら夢中に食べ続ける。
ロケットは後で知った事だが、精霊フレイムたちによると宿屋の主人が死んでから今までずっと泣くこともせずただ震えていたらしい。
泣いて食べてまた泣いて。
そんな姿を三人と二匹は見ていることしかできなかった。
妖が言っていた「C地区への境に行け」という事。
詳しい意味は分からなかったが、覚悟を決めた3人がそこへ向かっていた。
「私たちをこんな風に弄ぶなんて、絶対にアイツだけは許しちゃいけない。」
『私はフィーネについて行くよ。アイツをぶっ飛ばしてやろうよ!』
虹色の壁へと歩いていく。
「あの宿には結構借金あったから夜逃げしないために見張ってたんだけど、まあ良いわ。全部そのツケあのふざけた野郎に払って貰う。ワタシをコケにした代金は高くつくよ!」
『フレーフレーふぁいとーろー』」
それぞれの想いを秘めて。
「俺を知っているソイツに会って、話を聞き出したい。けれどその前に一発ぶん殴る!あんな涙はもう見たくない!」
次のステージへ!
おまけ休憩所
ウメ『ねーねー、そうーいえばさー。』
フェイ『え、何?』
ウメ『キミってーさーえーっーーとねー』
フェイ『うん……うん?』
ウメ『なーまえー、なーんてーいーうのー?』
フェイ『何だろう、すごく会話しづらい……』
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