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fruitFRUIT  作者: チル
6章 命奪う
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fruitFRUIT6章終焉編

fruitFRUIT6章終演編


 精霊王はそもそもあの世に鎮座する神。

ここの場所がどんな場所であるにせよ物理的な法則がまだまだ通用する以上あの世の者の物理法則、つまり心の力の及ぼす範囲が小さすぎる。

本来ならロケットの死の時や精霊石試練の時のように声を届けるだけで限界だが強引に介入してきたのだろう。

 そんな綱渡りのように託された希望を潰えさせんと妖が攻撃を放つ。

単純でそれ故に強いビーム射撃。

あらゆる属性のビーム射撃が入り乱れどこからともなく放たれるそれは回避すらも困難。

 スレスレをかわしほんの僅かな接触すらもかなりの痛手になる。

治療と体勢の建て直しを行いつつ射撃を除けイクシアとタートルが前に出て妖の意識を向けさせる。

 妖が強大なのはそのビーム射撃だけではなかった。

弱点が分からない。

切っても叩いてもはっきりとした手応えがあるわけではなくまた妖も無反応だった。

当然そのまま戦えばじり貧で倒される。

 フィーネは精霊王が残した言葉を考えた。

打開する道はある。

つまりこの力の塊にもきちんと倒せるはずだとフィーネは考えた。

しかし見ても考えても答えは無く、また猛攻は長時間の戦闘を許されなかった。


 この状況を打開する策。

攻撃ではなく何かヒントを見つけなくてはいけなかった。

「……そうだ!フェイ!」

 回復に回っていたフェイを呼び戻し、指示を告げる。

『え?でも今は戦闘中じゃあ?』

 フェイとフィーネは走り回りながら話し続ける。

「大丈夫、きっと今なら……。」

 フェイが光を増して精霊術としてフィーネの中へと入り込む。

『観察強化!』

 フィーネの視界が、5感が研ぎ澄まされる。

さらにフィーネ自身が自分に重ね掛けする。

「観察……強化!」

 今まで多くの事件で特定・探索に役立ってきた術。

己の六感を術の中でまとめあげ強化し第六感的に重要なポイントを察知する術。

その術を今最大限に発揮し、フィーネはあるものを視れた。


 妖は逃げまどっていた4人の中に明らかに違う動きをするものを察知する。

どれだけ攻撃を浴びせようと全て完全に避け、仲間たちに指示すると途端に仲間たちの動きもよくなり4人全員がまともな戦いを仕掛け始める。

 大技を仕掛ける相手には容赦ない攻撃を行うのにその全てが他3人で的確にフェイントを除いて塞がれイクシア、ウチワ、フィーネ、タートル全員が大技を仕掛けていく。

 しかし絶対的力を持つ妖は、その程度の攻撃何ら問題はない。


 問題はない……。


「随分と気付くのが遅かったですね。」

 フィーネは表情も感情もわからない相手に呼びかける。

実際まだ妖は気付いては無かった。

己の崩壊仕掛けていることを。

絶対的な力の持ち主。

故に己の力全てに委ね捨ててしまったせいで限界を越えていく事がわからなかった。

大技単体では意味は確かに無かった。

しかしそこにフィーネが観察強化で見た光景通りの順に妖自身の波動ビームを誘導してぶつけていた。

 ただ防ぐだけではなく、ただ攻めるだけではなく、その絶対的な力に絶対的な力をぶつけていた。

 最初は僅かな変化でも今妖の身体は順番に崩れていき大きく抉れ去っていっている。

自分を捨てた妖に痛みは無かった。

無敵になった妖に危機を察知する能力は無かった。

「莫迦な、何故。」

 感情すらなくただ目的のための力そのものの妖が思った事。

ただ疑問。

何故ここまで追い詰められてなおそれを越える力を示すのか。

何故ここまで自分を追い詰める事ができたのか。

何故それでも尚倒される可能性の方が高いと知ってて挑むのか。

何故。

「僅かな希望を紡いだ先の未来を視れたから。だからその可能性が僅かでもその先へ行かなくちゃ行けないと感じたんです。」

 フィーネがわかることなんて僅かな情報だけだった。

あらゆる感覚を駆使して精霊術で高度に計算し結果として得たほんの僅かな勝利の可能性を未来として見えただけ。

でもフィーネたちにとってはそれで十分だった。

「私たちはあなたの玩具死ぬのではなく、自分たちで生きていく!」

 雷の波動砲が飛んでくる方向に合わせてウチワが最大限に溜めた雷のエネルギーを放ち合わせ、水の拳にタートルと水の分身が殴り止め、大岩同士ぶつかり合うように調整して大岩を放り投げ降り注がんとする光のエネルギーを立ち上る闇のエネルギーで相殺し光の輪纏めてフィーネが収縮する前に掴んで振り払おうとするハンマーに輪を通し勝手に収縮してハンマーを縛り上げる。

 妖の連続攻撃を受け止めるだけでなくそれぞれが吸収し、その力ごとフィーネが縛り上げたハンマーへと集まる。

光の巨大なハンマーをフィーネが持って、大きく縦に振りかぶる。

「これが俺の!私たちの!答えだ!!」

 審判の槌のようにハンマーは振られる。

妖がどれだけ波動ビームを浴びせようともはや止まらなかった。


 鳴り響く轟音。

消えゆく空間と妖の身体。

光の中見たフィーネが見た光景は妖の、ダカーポの魂が大きな光で出来た右手に掴まれとどこかへと行く姿だった。


 光が収まって生き、ウチワとウメ、イクシアとイベリー、タートルとトマトは鉄塔の中に戻ってきた。

 消滅の際に生まれた莫大な力がフィーネたちは飲み込み、位置の違うウチワたちは大きく弾かれた。

「ついに完全に勝ったのね。」

『よーし、ゆうげんじっこー。』

 ウチワとウメは満足気に武器をしまう。

「お、おお!ついにぎゃ!」

『ふむこれは……。』

 精霊ホライズンが閉じこめられた結晶が音を立てひびが入っていっている。

このままいけばタートルとトマトの目標も達成されるだろう。

『ついに終わりですね。』

「ああ、後はフィーネがどこにいるか……。」

 イクシアとイベリーが確認するも、フィーネとフェイ、ロケットの姿がない。

 さらに周囲を探索しようかと考えたその時、割れた窓ガラスから風が吹きすさぶ。

「そうかぎゃ!まずいぎゃ、ダカーポの結界がなくなった事でここにまた風が吹き空の気候に戻るぎゃ!」

 タートルが慌ててエレベーターのボタンを押す。

「それってつまり……。」

『私たちでは長時間いることすら難しい環境になりうるということですね。』

 イクシアとイベリーが察し急いでエレベーターへと駆け込む。

『フィーネたちはー?』

「きっと後で合流出来るから、ワタシたちは急いで天空から脱出するよ!」

 ウメとウチワも駆け込んでエレベーターを使い都市地上へと降りていき、駆け足でワープ装置のようなものを駆使して都市を出ようとする。

「くっ、まずいね!」

 都市と平原を結ぶ雲がちぎれ大きく離されている。

さらにそこから少し見える空へと続く塔が目に見えて崩壊していっている。

『さいごのおおしごとー。』

『少しの間ならまだできると思います。』

『俺らは飛べないが着地する所さえ選べば放水で止めよう。』

 3匹の提案に3人は頷くしかなかった。

「精霊融合!」

 スカイダイビング。

ただしそれらはパラシュートをつけて行うもの。

命がけの精霊融合時の能力を使ってのスカイダイビング。

「うおおおお!!」

 飛び降りて絶叫しながら落ちていく。

折角勝ったのにこんな所で死ぬわけにはいかないと力がこもるがそもそも風が強すぎて目が開けられない。

必死に下をみようとしたその時、何かに着地した。

「あれ……?」

 地上には早すぎるし衝撃をみんな吸い取ってくれたかのようにポヨンと軽く着地できた。

目を開くと白の鱗に細長い髭、大きな二本の角に立派な背中から生えた翼。

「結界が解けたようだから様子を見に行ったら飛び降りていたから驚いたのう。」

 聞いたことのあるしゃがれ声は初めて会った時の仙竜人だった。

ただし3人を背に乗せてあまりあるほどの大きさの。

「ええ、あのときのお爺さん!?」

 イクシアが驚くと仙竜人は笑う。

「なあに少しだけ本来の姿に戻れば空だって飛べるんじゃ。少しだけな。」


 空から町の郊外へとまるでドラゴンのような姿の仙竜人は降りて3人と3匹を降ろす。

「さて、フィーネとロケットと精霊フェイじゃったな。見つけたら確かに地上に届けるじゃよ。」

 そう言うと再び空へと飛んでいく。

見つけたら地上へ降ろしてもらうように頼んでおいた。

空の大陸は地上から見てみるともはやどれがその雲なのかはわからなくなっていた。

 そんな空へと帰って行く竜の姿を見つつ、3人と3匹は町へと足を進めた。


 光の中、ふたりは不思議な光景を見た。

宇宙に包まれた中を、遠ざかる星を、何処か似たような星の元へ落ちていく光景を。


『いたたた……。』

 フェイが左肩を登ってきた。

爪を使って服を登るだなんて浮けるフェイは滅多にやらない。

『あぶなっ!?』

 ロケットは必死に右肩なしがみつく。

ちょっとフィーネの肩に食い込みそうだが気になる程ではない。

『おかしいよ、空を飛べない!』

 フェイがそう言ったが直後フィーネが気を取られていたものに気付く。

多くの人々が行き交い歩き、空気は少し変なガスの臭いがしまるで先ほどまでいた都市のようでどことなく色や形が違う高層ビルが立ち並ぶ。

 問題は人々の顔だった。

誰も彼もがまるで妖のように毛の薄い頭皮のたてがみのみが濃く残った変わった種族。

こちらを一瞬見る者もいるがほとんど気にする者はいないようだ。

 自分がむしろこの中では異常なのが直ぐに察知できた。

人々からは恐怖は感じなかった。

妖のようなおぞましい力も感じなければみなそれぞれ少し自分たちの知ってるデザインとは違うが普通っぽい服装をしている。

「ここは……どこ、なのかな。」

 ロケットはフィーネとは違って汗びっしょりで固まっていた。

尻尾は丸まって身体の内へしまわれ驚きすくみ上がっている。

 フェイもロケット程ではないが奇妙な光景に戸惑いあちらこちら見ている。

 確かに妖は倒しその力に執着し捕らわれていたダカーポの魂も精霊王らしき手により連行された。

それなのに自分たちは一体どこへと来てしまったのか。

SF世界に妖だらけの世界に迷い込んできてしまったようなそんな違和感。

 途方にくれていると一人の妖……ではなく人間が声をかけてきた。

「やあ、そこにいると目立つからこっちへ。」

 どこかで聞いたことあるかのような声だが、当然こんな人間は見たことがない。

服のセンスはどちらかというとフィーネたちの世界に似ている。

 男はフィーネたちを誘導するように手招きし、路地裏の人通りの少ない場所へと招く。

「よし、ここまで来ればきっと平気。」

 フィーネは男が誰なのか歩いている間も考えたがわからなかった。

「あなたは、一体。」

 男は少し悩み、右手を差し伸べる。

「そうだな、それじゃあ……ロケットさん握手しましょう!」

 あっ!と小さくロケットとフィーネは呟く。

二人の脳裏に蘇った記憶。

それは塔の下で、鉄塔の下で出会った謎の鳥族の男。

「わかっていただきましたか?……ああ姿?僕はどっちの世界の所属でもないからどちらの世界でも馴染む姿にしてるんですよ。」


 男に渡された眼鏡をつける。

眼鏡といっても度は入っておらず、周りからの見え方が変わる。

つまりこの世界の一般人に周りからは見えるらしい。

「斬新だなー、フィーネのそんな姿。」

 ロケットは自力でこの世界の人間っぽく、つまりはダカーポのような姿へと変身する。

不本意ではあるものの、目立たないということを最優先に考えた。

服はそこらへんの人を参考にして自分に会うよう黒っぽいイメージで統一した町の服を着てるように化けた。

 フェイは基本的には鞄の中に隠れているようにした。

「猫に見えるだけですけれど、この世界は獣禁止の所は多いですからね。」

 との事だったためだ。


 唯一知ってはいる相手に出会い少しは安心して町を共に歩く。

彼は自らを代理人と言った。

 フィーネたちの世界を創り出し、そしてほんの少しだけ助けるために代理人を生みだした者。

この世界はその者がいる世界に非常に近い所らしいが、近いだけでそれそのものではないのでその者はいないそうだ。

 青い鉄塔に着き、エレベーターでのぼっていく。

 展望台に着くと多くの人に混じって外の光景を見る。

あの都市とは違って別の方向性でSFな都市が遠くまで広がっている。

「これからどうします?僕は自由に行き来できるけれどあなたたちを連れてはいけないけれど、帰るための術を手に入れる方法は多分案内できるけれどきっとまた大変だし確実性はない。けれど君たちはここでこっそり暮らして行ってもきっと誰も責めはしないよ。」

 フィーネたちは激闘による疲労や戦いの終わった安心感からこのまま隠居のように過ごすのも良いかもしれないとも感じた。

けれど。

「ロケットさん、フェイ、帰りましょう。」

 ロケットがフィーネの方を見る。

「本当にそれで良いんだよね?俺はフィーネについていくよ。」

 フィーネは頷く。

フェイは鞄からこっそり顔を覗かせこっそり外を見る。

『わたしはまた自由に飛び回りたいしこんな窮屈な生活は嫌!フィーネに賛成!』

 代理人は全員の意見を聞いて了承し、小型の端末を取り出す。

「分かりました。それなら行きましょう。この光景のずっと先へ。世界中を巡る旅へ。」

 鉄塔はとても高く、空の上からよりは少ないがどこまでも見渡せる気がした。

だけど目的地はこの光景よりもずっと先で、世界すら宇宙すら、次元すらも越えたどこかの故郷へ。

3にんは遥か遠い場所で故郷を想いを馳せ今新天地への一歩を踏み出した。

「それでも、生きていく。」

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