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fruitFRUIT  作者: チル
1章 いつの間にか
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1章 事件編


キャラクター説明

 ウチワ ウスイ

海外からやってきた飛ぶ羽のない鳥人。

海外からやってきたといっても言語は完全に習得しているので何ら違和感なく話せる。

3本の美しい金の尾羽と黄色い羽根、青の飾り羽根と気品ある美しさのある羽根をもつ。

服装は特注品で作らせた一点ものをバージョン違いで複数持っている(他人にはあまり違いはわからないが。)。

貴婦人が着るようなロングスカートな服装でいかにも貴族をイメージさせる。

今回はとある仕事で結構我慢してこの宿に泊まっているためいつも従業員に難癖を付け困らせている。

本人ははっきりと自覚があってやっているがその結果きらわれていようが気にしない性格。

あらゆるものをオーダーメイドで所持していてそこからもお金持ちのにおいを漂わせる。

物体に稼動用エネルギーとして電気を纏わせる「モーターボルト」や正確に相手の四肢の自由を奪う罠の「パラライズボルト」は彼女の実は繊細なコントロールにより可能で本来精霊ウメの貸す力は強すぎて無制御だと町一つ消し飛ばしてしまうとか。


ウメ

カーバンクルという額に赤い宝石がはまっていてエメラルドのような美しい体毛を持つと言われる幻の獣の形をした精霊で、この世界でもカーバンクルは珍しい。

ウスイ家は代々生まれたさいにこのカーバンクル型の精霊を召還する。

人や精霊が選ぶというより互いの見えない鍵が組み合わさって精霊が召還されるのでウスイ家に限らず親と似た精霊が子供たちにも召還されることは多い。

ウスイ家も例外なくウメなどのカーバンクル型を召還するが最後はその強すぎる雷に身を焼かれ一変のカケラも残さず死んでしまうという呪われた一族でもあった。

 ウメも当初はそこらへんの経緯をウチワの親の精霊から聞いていたため警戒していたがウチワは類い希なる才能と血の滲む制御の特訓に成功し完全にコントロール。

ウメもそれですっかり安心しきって現在のような伸びきっただらけすぎな性格になった。

 ウチワとはあまり仲も相性も良くないようにも見える時があるが深い所で繋がっているかけがえのないパートナーだ。


2話【世界はそれでも生きる】


 夢を見た気がする。

ロケットと仲良くなって、

オススメのお店に案内して、

二人で美味しいもの食べ歩いたり。

 転けたフィーネを見てロケットとフェイが笑って来て、それをちょっと怒って、でも笑って。

 森の中を散歩しながら、こんな風にずっと過ごせれば良いね何て、言ってみたりして。

 けれどロケットが、ある日血まみれで倒れていて。


 フィーネは混乱する頭で何となくぼうっとそんなこと考えていた。 

 そしてスッと(あ、これは夢じゃなかった。本当にあった事なんだ)という結論にたどり着く。

 そうしたら景色から光が失われて、頭が割れそうに痛んでおかしくなりそうになる。

それに耐えきれなくなった時にハッと目が覚める。

 しかしまたそのまま眠ってしまう。

フィーネはこれを何度も繰り返した。


 昼の12時。


 遺体発見からおよそ2時間、既に人だかりや警察が来ててもおかしくないが今回はそうはならなかった。

 町の人にとってそれよりも恐ろしく奇妙な事が起こっていた。


男「どうなってるんだ、本当に壁が…」

子供「ママー、こわいよう……」

精霊「結界……?しかもかなり高度な。」

 人だかりができている場所。

 それは町のブロックごとの境界線と町から出る道。

門があるわけでも線が引かれてる訳でもなく単に区分けとしてのブロックだったのだが、それが今では謎の隔たりが発生していた。


女「ダメ、電話も通じない。」

鳥人「空まで飛んで見たけどダメだ、ずっと続いてるよ。」

老人「警察も役人もみんなAブロックにいるんじゃ、わしらは待つしか…」


 複雑な色合いがランダムに動き、状況が状況でなければ虹のように美しくもある奇妙な壁。

 触れば弾かれ、叩いても何の音も響かない。

そして向こう側の様子は一切見えないし、聞こえないのも不安感を煽った。


商人「荷物も入らないし近くで殺人も起きたっていうし商売上がったりだよ!」

蛙人「家には妻と子供がいるんだ、早くしてくれ。」

蜂人「どこに殺人鬼がいるかわからないここにいられるか!早くここから出してくれ!」


 喧騒から少し離れた宿屋では、反対にとても静かだった。

警察も来れないので警察が封鎖することもしていない。

警察もいない殺人が行われた場所なんて危険な場所には誰も近づかない。

 肩を寄せ合う宿屋の母と娘、何も手に着かず、机に伏してる宿屋の主人、眠り続けるフィーネ、そして急いで荷支度をしているウスイと呼ばれた鳥族。

「冗談じゃない!誰がこんな所に居れますか!」

 黄色の羽と青の飾り羽、そして3本の金の尾羽が美しいウチワウスイ。

だが今はそれを感じさせないほど酷く興奮し取り乱していた。

「人が、し、し、死んだ宿なんて即刻……ブツブツ…」

 旅に来たにはやたら多い荷物と書類をなんとかまとめ、折りたたみの日除け傘を取り出す。

「行くよ、ウメ!」

 呼ばれたのは彼女の精霊、ベッドの上でのんびりと眠っていた。

「いってらっしゃーーい。」

 口調ものんびりとした緑の光に包まれた、小さなエメラルド色の体毛の獣。

赤い宝石が額に埋め込まれているその獣はカーバンクルなどと呼ばれている。

「あんたも行くの!」

 むんずとウメを掴み早足で部屋を出る。

廊下には大量の荷物とそれを乗せた電動式の貨物を運ぶ荷台。

「さっさと動かすよ。」

「ラージャー」

 ウチワは自分の羽を一本引き抜くとそれをウメに乗せる。

「宿れ雷!」

「ンモーターボーールト。」

 途端に激しい電気を羽根が帯びる。

それを慣れた手つきで荷台に差し込むと、その電気に反応して電源が入った。

 モーターが組み込まれたこれは電気があれば力入らずで大量の荷物を運ぶ事が可能だ。

早速ウチワはそれを押してそのまま廊下からロビー、そして玄関まで早足で抜ける。


「待って!……ください。」

 急な呼び声に立ち止まり、振り返る。

声の主はフィーネだった。

「あなたは確か隣の…」

「フィーネです。お願いです、私に少しだけ時間をください。」

 フィーネは走ってきたのか息が乱れている。

「は?何を言い出すのやら。赤の他人にワタシがどうしようと文句言われる筋合いは」

「それでもお願いを聞いてほしいんです!」

 真剣なその声に少し引くウチワ。

「私がこの事件を解き明かしたいんです。」

「子供のゴッコ遊びに付き合えって言うの?」

 ウチワは首を後ろに傾け上から目線で煽り気味な態度をとる。

「警察は今は来れないし色々とおかしな事が起こってます。今は自分たちでやるしかないんです。」

「そんな事より自分の身を守る事を考えた方がいいのよガール。」

 フィーネは息を整えつつ考えを巡らせる。

「もしかして、貴女が犯行に関わってるわけではないですよね?」

 突然のフィーネの“攻め”にウチワは驚く。

「何、何を言ってるの!いい加減に…」

「今ここから出れば犯行の証拠を処分できます。それにあなたが第一発見者なんですよ。」

 冷静に述べるフィーネに怒りを隠せなくなるウチワ。

「そんな…理由で大人を…!」

「こんな状況だから少しでも疑うしかないんです。」

「くぅ……!」

「だから、協力してください。お願いします。」

 頭に血が上っていたウチワにとって相手がいきなり低姿勢になるのは意外だった。

「ふん!人を犯人扱いしたくらいだ、一晩だけ付き合ってあげる!」

「ありがとうごさいます!」

 ウチワは突然の変化についていけずついつい許可を出してしまった。

気づいた時にはもう口から出たものを引っ込める訳にもいかず。

「ま、ワタシは手伝わないからね!」

せいぜいの強がりをして体制を保った。



 この少し前、フィーネの精霊、フェイは焦っていた。

ロケットの死体を見た後気を失ったフィーネは宿屋の主人にベッドに運ばれていったが、フェイはその周りをオロオロとするだけだった。

 目覚めない間に外の情報もある程度聞き、余計にこの状況に焦った。

もしこの時に殺人鬼が襲ってきたら?為す術もなくフィーネは殺されてしまう。

普段なら「もう逃げてるかも」なんて楽観視するのだが、外は完全に閉鎖されていてそれにも期待できない。

それにフィーネはかなりうなされていて起きたと思ったらそのまま眠ってしまう。

「悪夢の時は起こした方が良いんだよね確か、ええとええと。」

 頭を揺する、呼びかける、くすぐってみる。

しかしそれでも起きる気配はない。

「こうなったらー!」

 思いっきり加速してからの──


ゴツンッ!


 星が見えた気がした。

「いたた……」

「ふぇぇ……」

 ゆらゆらとベッドの上に落ちるフェイ。

 頭を抑えながらフィーネはゆっくりと身体を起こし、フェイに微笑みかける。

「ありがとう。」


 この後、フェイに今起こってる事を聞き、フィーネは

解決のために動く事を決めた。

(怖い、怖いけれど、それでも絶対に許せない。)


 時を戻し。


 フィーネは宿屋家族にも協力を仰ぎ、再びロケットの遺体の前に来た。

(聞いた話では、お医者さんが見た時には完全に死んでしまっていて“蘇生の儀式”でないと蘇れないって言ってたんだっけ。)

 蘇生の儀式。教会で行われる儀式の一つ。

教会は宗教的な意味よりも解毒や解呪、そして蘇生の利用が一般的だ。

 蘇生の儀式は条件が揃っている人のみ蘇ることができる儀式。

1、教会の設備がある所で行う事

2、外傷または服毒で死んだ遺体があること

3、関わりを持つ者が祈りを捧げる事

4、死亡後72時間以内であること

 多少の運はあっても今の精霊儀式術ならほとんどの確率で成功する。

 しかし今は教会への道が閉ざされている。

つまり蘇生の可能性は限りなく低い。


 再びロケットの死体に向き合うフィーネとフェイ。

 漂う異臭と無惨な光景に思わず鼻を抑え、涙が溢れ出す。

血濡れの包丁、広がっている血液、頭に布が掛かっている仰向きに倒れているロケット。

 フィーネは現実に向き合い、涙を拭って気持ちを立ち直す。


「観察強化!」



 おまけ休憩所


ウチワ「私はウスイウチワ。でこいつがウメ。」

ウメ「どーもー。」

ウチワ「趣味はいびり。と、銃猟かしら。」

フィーネ「あれ!?何のためらいもなく始まってる!?」

ウメ「いやー、それよりもーピアノが好きじゃなーい」

フェイ「意外!」

ウチワ「それは言うなと何度言えば!あ、あんまりうまくないんだから……」

ウメ「キャラにあってなーいって、かくしてるんだよー」

ロケット「意外に乙女な一面が…」

ウチワ「あーもうこの話はお終い!」


──────────────



キャラクター説明

 フレア、フレイム、メラ

宿屋一家の精霊。左から主人、婦人、娘の精霊。

全員竜の精霊だがもちろんサイズはミニマムで特にメラは小さい。

 赤い鱗と背中に生えた立派な翼の四肢型竜がフレア。

人型だが美しく紅の鱗を持って背中に小さな翼をたずさえているのがフレイム。

 長い身体と真紅の鱗を持ち小さな手足がチャームポイントなメラ。

全員大きなジャンル別では炎で、全員違う所を担当して釜の炎をコントロール、通常では手が掛かりすぎてガス便りになる所も彼らがちゃんとコントロールするので釜の炎でつくる特製スープは香りもよくこの宿屋の名物。

 性格は全員宿屋一家のように気さくだと思いきやフレアはワガママで子供っぽく、フレイムは頑固で融通がきかず、メラは引っ込み思案で黙々と作業をしているときが一番楽しいという一筋縄にはいかない性格。


────────



 5感が研ぎ澄まされていく。

集中して怪しいポイントを探る。


 ポイント1 ロケット

 頭に白い布が被せられている。

手を合わせてからその布を取る。

「やっぱり、見るのはきつい…。」

 目は閉じられていたが口からは吐血した跡がある。

 詳しい死因などはさすがにわからないが仰向けに倒れていて腹部に手を当てている。

ここから血がでていたようだ。

 エプロンとバンダナをつけているがやはり血に染まっている。

 再び白い布を顔に被せる。


ポイント2 血濡れの包丁

 先端の尖ったそれなりの大きさの調理用包丁だ。

かなり鋭くいかにも切れ味がありそうだが今はそれが“柄まで血で塗れている”。

ロケットの近くに落ちていた。

「あれ?でもこれ……最初に見たときにあったのってこれだったっけ。」


ポイント3 ごみ袋

「普段はここにごみを纏めているんだっけ。」

 少し気合いを入れて、中身を取り出す。

「生ゴミ、生ゴミ、生ゴミ…」

 だいたいは生ゴミ、まれに紙はあっても大した事は書かれていなかった。

「後でお風呂入らないとー…」

 フェイも手伝ったのですっかり汚れていた。

フィーネはその奥に色の違う小袋があるのを見つける。

「あけてみよ……重い!」

 他の袋より小さいにも関わらずずっしりとまた中身が詰まっていた。

 中を取り出すと出てきたのは“燃えないゴミ”だ。

金属ゴミが詰まっているが元は何かだったのを解体してあるようだ。


ポイント3 血だまり

 ロケットの腹部から大量の血が流れたあとがある。

それが床に広がっているので光景としてはあまりみたくない部類だ。

よく見ると腕の側面と尾の両面に血が付着している。


「一旦部屋でお風呂に入ろう。」

 ここでの調べるポイントはだいたい調べたので、付いてるゴミと血の臭いを落とすために部屋に戻る。

「やっと休憩ー。わたしもう疲れた。」

「ごめん、もうちょっと付き合って?」

 自室のシャワーを使い簡単に身体を洗って調査を続ける事にした。


 さっぱりしたところで服も着替える。

「あれ?こんな所に。」

 着替えた服のポケットに堅いカードのようなものが入っていた。

フィーネがなくしたと思っていた学生証だった。

“警察学校高等学部(仮)生徒であることをここに証明する”などの事が書かれている。

「連休があける前に見つかって良かった。」

 学生証を財布に挟み込んでロケットの部屋に向かった。


「観察強化!」


ポイント1 手帳

 机に置いてあったロケットの手帳だ。

 中にはここ最近の事がこまめに書かれている。

「初日の給料で買ったんだっけ。」

中を見ていると“ページが引き裂かれている”。

その先からは何も書かれていない。

「日付は一昨日で終わってる。」

「つまり、昨日のところがないのかな?」

 フェイが考えを言った。

とりあえず覚えておこうとフィーネは自分のメモ帳に書き留めた。


ポイント2 机の引き出し

 中身はだいたい空だったが、一つの引き出しから紙に包まれた棒状よものが出てきた

何重にも巻いてあり慎重に解いていく。

「あれっ、これって?」

 医療用メスが出てきた。特に血などは付着していない。

「前お医者さんが来たときに忘れていったのかな?」

 フェイの声が頭で響く。

 紙をもう一度巻いて手に持った。

「これはお医者さんに渡しておこう。」


ポイント3 ロケットの腰巻き鞄

 鞄の中にはいくつかのお菓子と金銭が入ってるだけだった。

「物盗りの犯行なら、鞄を持ってる時に襲うはずだけど…」

 鞄は部屋の床の隅に置かれている。荒らされた形跡もない。


「よし、じゃあ次はウスイさんの部屋へ。」

 ロケットの部屋をあとにした。


「手伝わないって言ってるでしょうが!」

扉すら開けて貰えず門前払いされた。

「ケチンボー!」

 飛び回って毛を逆立てながら対抗するフェイ。

各部屋には鍵が掛かっていて、今はフィーネが宿屋からマスターキーやを預かっている。

入ろうと思えばそれを使えば入れるが、流石にそこまでやるわけにもいかず。

「し、失礼しましたー……」


「全く、迷惑娘が!」

 フン、と鼻息荒くするウチワ。

「ねー、こんなものあったけどー?」

 ウメが積んであった書類の山から一枚の紙切れを引き抜く。

「だから手伝わないって……ふうん、何々……」

 そこに書かれていた内容を読み、にやりと笑う。


 フィーネたちは気を取り直して宿屋一家の話を聞いたり宿を探索した。

 まず分かった事は包丁が一本、今朝からなくなっていること。

 彼らの精霊、全員炎の精霊で──フレア、フレイム、メラというらしい──が、言うには自分たちの管理している炎がなにを燃やしているか分かるらしい。

燃やしたものは、着火用の新聞、枝、木、炭、それに何かの紙を二枚。

 流石に完全に燃やしてしまって何の紙だったかはわからなかった。

 また、ゴミ捨て自体は朝にもやるのでもしかしたらそこを狙われたのかもしれないとの事だった。


 宿の捜索は他の人に任せ、フィーネたちはメスを届けに医者の所へと向かう。

その途中で見たのがブロックを切り分けている壁とそこに集まる人々。

「ぶっ壊せ!こんな壁!」

「はやく誰でもいいから何とかしてくれ!」

 誰の声かもわからないが怒号や悲鳴が飛び交いあまり良い空気では無かった。

足早にそこを後にし、医者の所へ。

医者はDブロックより少し手前の所に診療所を構えている。

Dブロックだと勘違いして建物を買ったらしいが今はDブロックが隔離されているのでむしろ好都合だった。


「おおー、一本無くなっておったんだわい」

 メスを手渡すと喜んで医者は受け取った。

「あーしかし一体今までどこへ置き忘れてたか。」

「宿のロケットさんの部屋にありましたよ。」

「えー、覚えとるよ。今朝診たからな、ワシが。」

 意外な所で死亡を看取った医者を見つけたフィーネは驚き、質問をぶつける事にする。

「先生が彼の最期を看取ってくれたんですか!あの、不躾ながら質問して宜しいでしょうか!」

「おー、構わんよ、もちろん。」

「彼の死因を知りたいんです!」

 医者はまさかの質問に驚きむせる。

「ウッ……ゲホッゲホッ、んー、またどうして!」

 フィーネは事情を話した。

「あー、まあ今はこんな状況だしの。特別じゃぞ。」

 カルテを取り出して当時の記録を読みながら話し出す。

「えー、まず死因じゃが、腹部を鋭く刺された事による“失血死”。ワシが行った時には既に医者には手に負えない状態じゃったな。こんな状況でなければ蘇生をたのんでみるんだがのう。」

「それが、彼は関係者が誰かもわからないんです。記憶が無かったらしくて。」

「かー、それは難儀じゃ。とりあえず続けるぞ。」

 フィーネは頷いた。

「えー、刺されて引き抜かれた後あの傷口の大きさや位置からすると失血死するまでには時間が掛かったはず。なぜ助けを呼ばなかったのか、不思議でならないのう。」

「誰かに拘束されていたとか?」

「ワシも詳しく調べたわけではないからなんとも言えないが、強く締め付けたような跡は無かったのう。」

 ああそれと、と付け足す。

「なぜか着てる“エプロンには穴が開いていなかった”のう。まーそれに、関係あるかいつのなのかは分からないが“頭部に殴られた後”があったのう」

「それ本当ですか!」

 フィーネは驚きのあまり椅子から立ち上がって医者に詰め寄る。

「あ、ああ、大事な事だったのかのう。」


 帰り道、メモにまとめた事を振り返りながら事件の事を考えていく。

「何か分かった?」

 フェイもメモをのぞき込みながら訪ねる。

「正直、まだ分からないことが多いの。」

 空を見上げため息をつく。

「もう日が暮れる。夜には宿でみんなと話してこの事件の全貌を解き明かさないと。」

 再び通った大通りのブロック境界線では、怒号や悲鳴は聞こえなくなったかわりになぜかやたらと活気付いていたが、フィーネは宿へ急ぐ事にした。



 小休憩おまけ

フレア「本編では一切セリフ無かったな!」

フレイム「待たせたね!」

メラ「ドラゴン3匹炎の家族、参上!」

フェイ「あなたたち今後もあまり出番はないらしいよ?」

FFM「「「待って!?」」」


──────────────



 夜。

 辺りは静寂に包まれていたが、フィーネの頭の中はむしろ騒がしくなっていった。

「今日の晩までしかウスイさんはいてくれない……。」

 もし今日何もわからなかったら、二度と自分で解く機会は訪れないかもしれない。

 そんな想いや、見て聞いた事が頭の中でどんどん渦巻いて行く。 

「アーー!もう!」

 突然叫んだフェイに、はっと顔を上げる。

「なやんでてもどうしようもないよ!やるっきゃない!」

 フィーネはの頭の中の騒音が今の声で吹き飛んだ。

覚悟は決まった。

「……うん!」



 宿のロビーに今回の関係者があつまる。

ウチワ、宿屋一家、それにフィーネ。

医者は仕事があるので参加は出来ないが代わりに遺体資料をまとめてくれた。

「集合らしいから着たけど、何?これからアンタの独演でも聞くの?」

 ウチワの煽りに先行きの不安を感じながらも、フィーネは気負けしないように説明を始める。

「いえ、私は探偵でも刑事】でもないので単独の推理はあまり意味がありませんから、これからみんなで整理して考えていきたいと思っています。」

 ウチワはそれを聞くといやらしい笑顔を浮かべる。

「まあ、それでもいいけど。さっさっと終わらせてよね。」


「では……。」

 フィーネはそれぞれの顔を見渡す。

宿屋の主人は静かに頷き、宿屋の嫁は不安げに、娘は期待混じりの複雑な表情。

ウチワはなぜか自信ありげな何を考えているのか分からない表情だ。

 見渡した後、一息つけてから話を続ける。

「まずは彼、ロケットさんの死因から始めたいと思います。」

 宿屋の主人がゆっくりと手を上げる。

「あっ、どんどん発言していってください。」

「では……。」

 ひげを触りながら話し始める。

「今更、死因から確認する必要はあるのだろうか?」

「ええ、なるべく多くの事柄をはっきりさせるために一つずつ確実に確認していくことは大事なんです。」

「……そう言うことなら納得した。」

「では、早速始めますね。」


フィーネ「お医者さんの調べによると、腹部に刃物による一撃が致命傷で失血死してしまったそうです。」

ウチワ「失血死?心臓を刺されて即死とかのよくあるやつじゃないのね。」

婦人「刃物と言えば、包丁が今朝から一本ないんです。」

主人「包丁……。確かロケットの近くに落ちていたな。犯人はもしかしたらその包丁を使って一撃で殺してしまったのか。」

フィーネ「あっ、待ってください。資料によると刺された後しばらくは動けた可能性が高いそうなんです。」

娘「えっ、包丁結構大きいよ?あんなので刺されたらひとたまりも無いと思うけど……。」

フィーネ「実は私も違和感があるんです。この資料によると、かなり“傷口が小さい”んです。」

主人「小さいってどのくらいだ?」

フィーネ「あまり詳しくは載ってないですが、少なくとも小型ナイフ程度の大きさしかないと。」

主人「小型ナイフねえ。」

 あっと言って宿屋の娘がロビーから厨房に行き、すぐに戻ってきた。


娘「うちでナイフと言ったらこれ、果物ナイフくらいしかないよ!」

 フィーネが渡された果物ナイフを見てみる。

が、これはとてもじゃないが人を刺せるほどの切れ味も頑丈さも一目見てわかるほどなかった。


主人「流石にそれはないな。お子さま用練習ナイフ、たとえ指を思いっきり刺しても安心ですって書いてあったから、娘の練習用に買ってきたんだからな。」

 言われた通り先は丸くなっておりこれで誰かを刺せるとはとうてい思えない。

娘「うーん違うか。」

主人「やっぱり、包丁だとしか考えられないな。あまり深く刺さらなかっただけなんじゃないか?」

フィーネ「えーっと、でもあの包丁は柄まで真っ赤に……あれ。」

フェイ「どこか怪しい所あったの?」

フィーネ「うーん、そういえばなんだけど。」

 先ほど渡されたナイフを包丁に見立てて握る。

フィーネ「もし、相手を思いっきり殺そうとするのならこう、しっかり柄を握らない?」

宿屋「あっそうか!しっかり握っていたら柄には手があるから、血だらけにはならないのか!」

ウチワ「ふーん、不自然な証拠、つまり犯人が偽装のために作った罠?だんだんらしくなってきたじゃない。」

 ウチワはこの状況を楽しむように笑顔を浮かべる。


フィーネ「でもそうすると本物の凶器は……。」

ウチワ「その果物ナイフに精霊術で鋭利な刃でも纏わせたんじゃないの?」

フィーネ「うーん、その可能性もなくはないけど。」

娘「でもうちにはそれ以外のナイフはないよ?」

主人「やはり、外部犯か?」

フィーネ「犯人はともかく、刺せそうなものだと……外部……もしかして……」

ウチワ「鋭利な刃物なんて持ち歩いてる人がそこらへんうろついているなんて怖い怖い。」

フィーネ「いや、結構身近にいますよ、そのようなものを常に持ち歩いている方。」

ウチワ「へえ、刃物商と美容員以外で?」

 さっき見ていた医者の資料を指さす。

フィーネ「この人、お医者さんです。」

ウメ「うんーおいしゃさまだーね。」

ウチワ「あんたは黙って。なるほど、外科手術道具だね?」

フィーネ「ええ、ちょうどメスがなぜかロケットさんの部屋の机に入れてあったんです。」


 再び果物ナイフを持つ。

フィーネ「もし、これが果物ナイフじゃなくメスならば、人体なら簡単に刺さります。」

 勢いよく刺すかのように空を突く。

ウチワ「刺さらなきゃメスとしては使えないからねぇ。」

フィーネ「はい。もちろん手術の時は麻酔をしますが、麻酔なしに思いっきり刺したら激しく出血してしまいます。」

主人「医者のバックならロケットが運ばれて来たとき、ロビーで預かってたな。あの時は手術道具はいらなかったから鞄の中から必要な薬だけ取り出してうちに預けたんだろう。」

婦人「確かに預かっていましたけどあの時は急いでスープを作らなくてはならなかったので、誰にもロビーにはいなかったと思います。」

ウチワ「つまり、誰でも盗ろうと思えば盗れたんだねぇ。」

フィーネ「うーん、犯人の選択肢が増えただけか……。」

娘「ううん、そうとも限らないかも。」


 宿屋の娘は今度は玄関へ歩いて行き、扉を開ける。

カラン、カラン。

扉に付けてある鈴が辺りに響く。

 そしてそのまま外へ出たかと思うとすぐに中に入ってきた。

カラカラン、カロン。


フレイム「お客さんだよー」

 厨房にいる精霊フレイムがそれに反応した。


娘「ね?誰かが入ったら直ぐに気づくよ。入るときと出るときでは少し音が違うから聞き慣れてるわたしたちが今更間違わないし。」

フィーネ「ということはやっぱり限られた人が実行できると考えた方が現実的って事ね……。」

 一瞬イヤな空気が走る。

フィーネ(実際の凶器は綺麗にして厳重に保管し、実際は違った包丁が血まみれで剥き出しで置かれてた。思ったより厄介な事件なのかもしれない。)


ウチワ「さて、凶器はわかったけどさっきアンタが言ってた事の解明がまだ。」

フィーネ「ええっと、“刺された後しばらく動けた”事ですね。」

ウチワ「そう、動けたなら助けを呼ぶなり犯人がもう一撃刺すなりしてるはずじゃない。」

フィーネ「多分だけど、後頭部への打撲跡が関わってくると思います。

主人「打撲跡……。さっきには言ってなかったな。」

フィーネ「詳細は不明らしくって小さく書いてある程度なんですよね。致命傷でもなかったようです。」

ウチワ「刺した後まだ生きてたからメスで殴ったのかしら。」

フィーネ「うーん流石にメスでは殴れないと思います。でも、刺した後に動かれて殴った可能性はありますね。」

ウチワ「言ってみただけよ。さすがに後頭部をなぐるのならそれなりに石でもなきゃ。」

主人「ふむ、そんなものうちにあったかな。」

フェイ「あ、そうだアレじゃない?ゴミで。」

婦人「生ゴミで人を殴るのは大変だと思いますが……。」

フィーネ「生ゴミ……ではなくて、金属とかのゴミなら。あのゴミ袋の一つに燃えないゴミをまとめた袋があったんです。」

主人「ああ、古くなった皿やいらなくなった机の金属部分、後は湿気った炭なんかもまとめておいたかな。」

フィーネ「かなりきつく袋の口をしめてありましたし、それに大きさも手軽です。まあ、私にはかなり重かったですけど。」

ウチワ「人の頭ブン殴るには十分ということね。」

婦人「燃えないゴミの袋は特別で、普通のより頑丈ですから破れることは滅多にないです。」


 フィーネは殺害方法をまとめてみた。

 犯人はゴミを出しているロケットに近づき突然隠し持っていたメスで刺し、それを引き抜いた後も完全には殺せず、助けを呼ばれる前に近くにあった燃えないゴミで頭を強打、気絶したロケットは血を流し続け死亡。


フィーネ「でも、そういえばなぜかエプロンには穴が開いてなかったんだっけ。何か気になるなあ。」

 けらけらとウチワがあざ笑う。

ウチワ「あっらっらーそんな事もわからない?」

フィーネ「えっ?」

フェイ「なんだよ、おしえろよケチンボ!」

ウチワ「ラケット?だっけ殺された子。」

フィーネ「ロケットです。」

ウチワ「そうそう、ロケット。」

 ウチワは待ってましたといわんばかりに紙片を取り出す。

ウチワ「そのロケットって子、手帳つけてなかったかなー?」

フィーネ「そ、それは!」

 非常にいやらしい笑みと勝ち誇った笑い声を上げるウチワ。

ウチワ「そう!その手帳のページ!ま、なんでかワタシのとこに紛れ込んでいたんだけど。」

 そう言うとウチワは書かれた内容を読み上げる。

『──そういえば、明日は朝早くに宿の裏に来いって言われてたな。寝坊しないように早く寝よう。PS.明日こそウチワさんに怒られないようにしたいなあ。』


フィーネ「日付が確かにあの破られたページの日だ!」

フェイ「ギリギリまで隠しとくなんて!」

ウチワ「オネイサンに感謝することねガール!」

 まさにウチワはその顔が見たかったといわんばかりに勝ち誇る。

フィーネとフェイはまさかの事に驚き戸惑う。

娘「じゃあ、あの時はゴミ出ししてたんじゃなくて、誰かに呼ばれたんだ!」

ウチワ「そう、これはバケットの知人の犯行であると裏付けると同時に、そのエプロンの謎も解決するまさに決定的証拠!」

 ロケット、と小さくフェイが訂正を入れる。

フィーネ「あのエプロンと鉢巻きはゴミ出しの時だと思わせる偽装で実際は気絶させた後にエプロンを着せていた……!」

 フィーネはもう一度自分のとったメモを見直す。

身体の側面や尻尾の両側に血が付着していたのは、エプロンを着せるために身体を回転させていたからだ。

 さらにこうして仰向けにすれば、刺して倒れた時俯けでさらにそこから後頭部を殴ったとしてもちょうど後頭部は床に。

これなら目立たないしなおかつ例えばれても刺された衝撃でぶつけたとも思わせる事が出来る。

 フィーネは念のため紙片と破れたページを合わせると綺麗に合い、また字も恐らく本人のもののようだった。

フィーネ「でも、これはかなり大事な証拠になりそう。犯人は確実に私たちの中にいることになるから。」

主人「あのさあ……」

 気まずそうに宿屋の主人がひげを触りながら話す。

主人「こんな大事な証拠、隠し持っていたウチワさんが犯人なのでは?」

ウチワ「うん……うん?」

 ウチワは勝利の余韻から急激に血の気が引く。

ウチワ「な、にを、言って。」

主人「さっきから態度も変だし、それにほら追伸のところ、前の所の文と合わせるとまるで俺にはウチワさんに呼び出されているようにしか見えないんだが。」

フィーネ「“PS.明日こそウチワさんに怒られないようにしたいなあ。”言われてみれば……。」

ウチワ「自分が犯人なのに!自分から証拠を出すわけないじゃない!」

主人「この犯人は色々と考えているからな、あえてこのタイミングで出す事で自身が不利になるようなことを自分から出すはず無いと思わせたかったんじゃないか?」

 宿屋の主人はウチワをにらみつける。

フェイ「そういえば、さっさとここから出ようとしたのも……。」

主人「証拠を消すためなら合理的な行動だと思わないか?」

婦人「そういえば、包丁を犯行の凶器のように見せれば私たちの犯行って擦り付けることも出来ますからね……。」

 もはやウチワは自失茫然、絵に描くなら真っ白に凍り付いている。


フィーネ「ちょっと待ってください!」

 もはやウチワの犯行で決まりだという空気が出来上がっていたところでフィーネが声を上げる。

フィーネ「まだはっきりと確証を得たわけではありません。まだはっきりしていない事もあるんです。」

主人「しかし、もうこれはほとんどウチワさんの犯行と決まったようなものだろう。」

フィーネ「いいえ、まだ、まだはっきりしていない部分があるんです。」

 なぜロケットの机にわかりやすくメスと手帳をおいていたのか。

 なぜ犯人はロケットを殺さなければいけなかったのか。

 そして燃やされた二枚の紙は何か意味があるのか。



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