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fruitFRUIT  作者: チル
5章 命がけの
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fruitFRUIT5章 命がけの

5人と4匹は殺人事件を解決した!

fruitFRUIT5章


9話【おしまいのうた】


 5人と4匹は最終決戦のために塔をのぼる。

空へと伸びるこの影の塔はやはり妖のトラップが豊富に仕組んであった。

一階登るにしても、まず正解の階段を見つけ、正解の階段の先の扉の鍵を見つけ、鍵を取るためにスイッチを起動、大仕掛けを乗り越えてやっと鍵を手にし上へと登る。

しかも多くの獣やワービースト、さらにたまに門番かのように強靱な化け物のような獣たちもいた。

力を合わせ時には休息を挟み、一つ一つ攻略していく。

敵もてごわかったがそれ以上にロケットたちは強くなっていてまた成長も早かった。

多くのトラップも推理力を働かせ攻略し越えていった。

非現実的なほど大がかりな仕掛けも多く、大玉に潰されそうになったり落とし穴を飛び越えたり砂で埋まりそうなエリアから脱出したりと大がかりだ。

また妖の趣味なのかしらないが先へ進む仕掛け以外にも装備品などがはいった宝箱もあり、使えそうなものは使うことにした。

見たことがないような強さの武具を拾い集め塔を次々攻略して、5階、8階、12階……。

そして25階。

影の塔は後一つ登れば頂上に着くらしいことが宝箱に入っていた地図に書かれている。

正面の大扉を開け、ぐるりと回り込むように螺旋階段を登れば着くそうだ。

 部屋の中は身体を癒す力がある精霊の力のこもった水が湧き出ている噴水と一階に直通している瞬間移動する精霊式陣という紋様が描かれている。

ちなみに行き来可能のようだがこちら側からロックしてあって今まで使えなかったらしい。

「後少しで妖と対立するんですね。」

 フィーネが扉を前にして呟く。

「あの時よりみんなだいぶ強くなった。きっと妖を止められる。」

 ロケットはそうフィーネ言う。

「あいつがなんでこんなことしているのかちゃんと聞き出さないとね。」

 ウチワは銃の調整をしながら話した。

「閉じこめられたホライズンさんを解放しなくちゃならいぎゃね。それを聞き出すぎゃ。」

 タートルは鎧をつけなおしている。

「もはや全員慣れたものだが今度の相手は違う。用意できたら行くぜ。最後の敵に!」

 全員準備を終え門の前に立つ。

金属で出来た重そうな扉をロケットとイクシアが押して開く。

外の光が部屋へと満ちてきて、眩しさに目が眩みそうになりながら外を見る。

 開かれた先は地図の通り階段になっている。

これをのぼりながらぐるりと上へ行けばついに頂上。

そして恐らくそこにいるのは、妖本人。

今まで遠くからいくつもの工作を仕掛けまた町を閉じこめ混乱に陥らせたら張本人でもある。

今やっと妖との全面対決が行われようとしていた。


 階段を一歩一歩登るたびに5人と4匹は複雑な心境へと陥っていく。

緊張、興奮、逃げ出したくなる気持ち。

それら全てが合わさってまた一歩進む。

 階段は実際はそこまで長くは無かったが5人には永遠とも思える長さだった。

それでもその階段も終わりが来て、ついに頂上台座部分へと到達した。

 何もない広い足場。

だがそのずっと奥に豪華な椅子に座る男が、一人。

フードを深く被り妖しげなローブを身に纏って頬杖して足を組んだ体勢で待っている。

5人はそこへ向かって歩いて行き、そして目の前へ。

 風はとても高い場所なのに吹いてはおらず空気が薄かったりはしない。

恐らく何らかの術で守られた空間なのだろう。

 妖は5人と4匹が近くに来ると話しかけてきた。

「やあ、ついに来れたね。」

 ロケットが前に出る。

「もう逃げられないぞ、アヤカシ!」

 妖は椅子から立ち上がり、指を鳴らすと椅子は消えた。

「じゃあ始めようか。この事件の議論を。」



アヤカシ「町を閉じこめ、様々なゲームをし、そしてロケットたちを招待した理由。わかるかな?」

ロケット「そもそもなぜお前は最初から俺を知っていたんだ。お前は何者なんだ!?」

アヤカシ「まあまあ積もる話は後にして、まずは推測で少しずつ話を進めようか。そうまずは町を閉じこめた理由からならどうだ?」

 アヤカシが空中に文字を出現させる。

《町をなぜ閉じたか》。

フィーネ「あなたは前からゲームとかステージとか言っていました。もしかして閉じる事によって獣たちを閉じこめ、人々と戦わせ、またそこから逃げれないようにしたんですか?」

イクシア「ブロックごとに分けたのは、そのステージというのが関係してくるのか?」

ロケット「特殊な環境にして殺人そのものもアヤカシの手紙一つで起こしやすくした、というのもあるのかもね。」

アヤカシ「結構良い線だねえ!副次的効果としてはそれらもあるげとメインはもっとシンプルさ。」

ウチワ「外からの邪魔者を避けるためとは思ったけれど、そもそも町一つを誰も壊せない壁作れる時点でそんなの気にもしないでしょうね。」

フェイ『遊び感覚なんだよ、こういうやつは!』

フィーネ「確かに、私たちに対して常にまるで遊びかのように手紙を出して殺し合いさせたり勝つごとに先へ進ませたりしていましたけれど……それにしては。」

アヤカシ「それにしては規模が大きすぎる?でも正解。」

 妖以外全員思わず息を飲む。

ロケット「俺たちで遊ぶために、わざわざ町一つ使って、ブロックを1ステージとして見て、攻略させたって言うのか!?」

 空中の文字が消え、次の文字が浮かぶ。

《なぜゲームをしたのか。》

アヤカシ「さあ、次の問題だぞ?」

ロケット「っ!?」

フィーネ「ロケットさんの殺人から始まったこの一連の事件。ただ偶然だとは思えません。」

ロケット「コイツは俺の事を知っている。俺があの町へ行き倒れたのも偶然じゃあないとしたら。」

タートル「確かロケットさんみゃあ空腹で倒れていたぎゃね。ロケットさんがそこまでエネルギーを使ったのはただお金が無かったからだったんだぎゃ?」

ロケット「そういえばあの時、俺まだ食べる物は持っていたと思ったけれど朝起きたら無かったし異常に腹が減っていたな……。」

フィーネ「……それ以前はどうしてここへ向かおうと?」

ロケット「前の町でこの町にくれば人の活気が大きいから仕事でも見つけれるかも知れないって聞いてたんだ。ただ、ちょっと待てよ……。」

 ロケットは少し考える。

ロケット「俺、ふらふらとしていたつもりだったけれど今考えるとおかしいな。泊まった所が火事になったり移動中襲われたりしてかなり急ぐ形でずっと同じ方角に移動していた。この町の方へ。」

イクシア「それ以外の道へ行こうとしたらアヤカシが叩いて潰してたってことか?」

ロケット「うん、今考えればその可能性のほうが高い。」

アヤカシ「ほほう、そこまで見えてくれば近付いてこれたかな?」

ロケット「俺がこの町の近くで倒れていた理由、それは……。もしかしてお前は俺が寝てる間に一度俺を殺した……?そして奪ったのか、俺の食料を。」

アヤカシ「即死させれば死んだ事にすら気づけずよみがえる。便利な身体だねまったく。」

ロケット「そして体力を使い切った俺は町の森で行き倒れ、いつも散歩していたフィーネに見つかったのか。」

フィーネ「最初から全部仕組んでいたんですね。そこまでしてロケットさんをアヤカシのゲームに参加させたのは、この一連の事件はロケットさんにやらせる為の物だったってことですか……?」

アヤカシ「おお、あと一歩。」

イベリー『以前プレイヤー、と私たちのことを言っていましたね。それと関係がある可能性が高いですね。』

ウチワ「ゲームにプレイヤー、ロケットとその事件解決の中心人物たちに全て攻略させる気だったのかしら。」

ロケット「自分の作ったステージを俺とみんなに攻略させるために、ゲームをしたっていうのか……?」

アヤカシ「うんうん、折角作ったんだ、ちゃんと知人とそのお友達に遊んでもらいたいだろう?というわけで正解!」

 文字がまた消え、新たに文字が出てくる。

《ロケットたちをここまで招待した理由》。

アヤカシ「もうここまで来たらだいぶわかるんじゃないかな?」

フィーネ「あなたには、思い詰めた過去とかまっとうな理由とか無いんですか!」

アヤカシ「なーにー?相手にやるせない過去があってそれを長々話したあげく涙ながら対決するのがお好み?」

ロケット「狂ってる。」

タートル「まーもしかしてこれの答えも自分と自分の仕掛けたものに思いっきり戦える相手が欲しかった。それだけぎゃ……!?」

アヤカシ「察しが良いね!というかここまできたら分かっちゃうかな?そう、見事期待に答えここまで来てくれた事ほんと嬉しいねえ!」

 空中の文字が消え、妖はわざと大袈裟に空中へ跳んで宙に浮く。


アヤカシ「僕の力は一般的なソレじゃあない。特異点、覚えてるかな?」

タートル「あの羊皮紙に書かれていた内容ぎゃね。」

 タートルが内容を復唱する。

《なぜ個人の力を超えて個人が力を持つことが出来るのか。

それは個人の力は人々が思うほど弱いものではないからだ。

 人は人の限界を超え精霊と自然と一体化しさらには人自身が交わる。

そんな群れの力こそが最も強いかというとそうではない。

なぜなら神も一つの個人としての力だからだ。

特異点は世界の異分子だがそれは同時に神である事の証明。

群れと個、それはどちらも力の限界点は同じだ。

ならば神を越えるには、特異点として神を越えるには群れと個それ以外にも特異点ならではの何かが必要なのだ。》

アヤカシ「特異点とは人側から神側へ変わる境目を越えれる数少ない者の証。そして僕は生まれつきの特異点。」

イクシア「つまり、お前は自分の事神だって言うのか!?」

アヤカシ「正確には神に近い存在と言ったところかな。そこに書いてある通り限界ってものがある。だから僕は最後のピースを見つけるために君たちに戦いを挑ませたんだ。過去何度もね。」

フィーネ「どういう事なんですか?何度もって。」

イクシア「Cブロックでの事件の時もどうして知ってるかわからない事まで知ってやがったし、お前は何を隠してる!?」

アヤカシ「単純な話さ。ゲームは一周するだけがゲームじゃない。この舞台全体がゲームならもう一周しただけさ。俺とお前がな。」

 妖はロケットを指した。

ロケット「俺が……もう一周?そんな事、俺は知らないぞ!」

フィーネ「もしかして、それが記憶喪失と関係があるんですか?」

アヤカシ「正解!君たち5人と4匹はあの時も僕と対峙し、そしてロケットくんと僕は激闘の中時流すら越えて再び昔へ戻ってきた。お前は全てを捨てて襲ってきたがそれでも負け、その過去の身体に統合された。僕は記憶はそのままで身体が過去の自分に統合された。その大きな違いはそもそもロケットくんはやっぱりあの時記憶を全て失ったからなんだよね!」

 話が突拍子すぎて妖以外混乱し始める。

特にロケットの困惑は大きかった。


イクシア「おい、つまりどういうことなんだ?誰かまとめてくれ!」

タートル「あー、つまりええと……。」 

フィーネ「アヤカシは一度今起こってるような事を起こし、その時にロケットさんと共に過去へ行き、そしてまた繰り返した……?」

ロケット「俺はその時に記憶を……?」

アヤカシ「いいや?だから言ってるじゃないかその後に起きた事で結局お前は記憶を失ってる。前の時もお前はそこから始まってここまで来てそしてその記憶を失う寸前の時まで時は戻り、お前は記憶を失った。時が戻る場所だって運なんかじゃない、何かあったからお前はあそこで倒れていたのさ。」

ウチワ「その、まず過去に戻るって言うのが突拍子ないことだけど過去に戻るとその過去の自分と一緒になるってどういうことなの……?」 

アヤカシ「さあ?僕もそこまではあの時はわからなかったけれどどうやら同じ時間空間に同じ存在がいれないから同じになってしまうってのがこの世界の法則みたいだよ?まあそれはそういう自然のもの。仕方ない事だよ。」

タートル「つまりぎゃ、おまえさんはその力を使って一つの町そのものを自分の遊び場にし、あわよくば自分の限界をさらに越えるきっかけを手に入れようとしてるって事ぎゃ?」

アヤカシ「そう!しかも一周目はあまりうまく行かなかったから2周目ね!だから色んな事知ってたわけさ、事前にチェックできたからね!まあ神様って結構思い通りにならなかったら世界リセットするために洪水で世界潰したりするらしいし?それに比べればかわいいもんでしょ!」

 わざとあどけないように言いそれが心に恐怖をもたらす。

妖はこのような事をして大勢の命を奪いもてあそび、なお遊び感覚だった。

イクシア「お前の目的はその神とやらになるのが目的なのか!?」

アヤカシ「いやいや違うってそっちはあくまでサブだって。メインはさっきから言ってるだろう?」

フィーネ「自分が、遊ぶため……!」

アヤカシ「もちろん!信じられないって顔してるけどさ、そんなものでしょ?誰だって自分が最上の神になれる世界で例えば小説とか書くのなら中のキャラクターたちに色々やらせたり時には殺しすらあったりやりたい放題するじゃん?神側に立つってことはそういう事だよ!」

ウチワ「現実とお話の区別もつけれなくなったのかしら?」

アヤカシ「だからさーさっきから言ってるじゃない。僕にとっては所詮ゲーム。おはなしに過ぎないんだよ。」

 もはや誰もが言葉に出来ない感情を妖に抱いていた。

呆れでも恐怖でもましてや尊厳などではない。

自分たちの存在する世界そのものから浮き足だってしまっている、それはもはや異常そのもの。

 妖にとっては自分たちはただのゲームの駒でしかなく、それでただ遊んでいるだけの事。

それは理解し難い事であったし、5人と4匹にとってはそれ以外のまっとうな、それらしい理由でもあればという願いすらあった。


アヤカシ「うーんわけのわからないって顔、してるね?じゃあ早いけどやっちゃおうか!まとめをさ!」

フィーネ「えっ、ちょっと!」

ロケット「何なんだ、何なんだこれ……!」


 まずは初め、昔からロケットと妖は関係を持っていたがとある事がきっかけでロケットは記憶を無くす。

そしてその後、この町で様々な事件を乗り越えてこの5人と4匹で妖に挑み、そしてロケットは妖を道連れに別次元へと引き込む。

 町自体を閉じこめ事件を起こし成長させ立ち向かわせたのは妖の遊びのため。

その結果的に自身の限界を越えて神になるためのきっかけを得れるかもしれないというのは可能性も低くおまけそのもの。

 話変わって別次元へと引き込んだロケットと妖は過去へと戻されロケットが記憶を失ったきっかけのその瞬間に飛び、ロケットと妖は過去の自分へと融合してしまうがロケットは記憶を再び失い妖は再びゲームを行うために前回の情報を元にさらに準備を整える。

と、同時にロケットを準備してある町へ誘導し、5人と4匹全員同時に町にいる状態を再現する。

 時には妖がロケットを殺し自力蘇生後の空腹状態を誘発して森に倒れさせるところまで。

 フィーネと親密化させたのも前回の戦いのときにいたメンバーだから狙って起こしたことだった。

 妖はゲームマスターとしてコントロールし時には試練を与え乗り越えさせ事件を与え解決させ再び立ち向かわせた。

妖自身と対立させるのも“自らの遊びのため”。

妖とロケットとの因果関係。

それこそがこれから解決しなくてはいけない最後の謎。

妖がロケットにこだわりロケットが妖にこだわなければいけない訳とは。


「どう?わりとうまく出来たと思ったけれど。」

 今まで犯人を問いつめてきたように突きつけられた内容。

5人と4匹は既に戦う前から疲労困憊させられるはめになった。

力の次元も違うと感じてはいたが、発想や考えそのものも次元違いでまさに彼は異次元の存在だった。

そこに正当な理由も悲劇的ドラマもなく、恐怖による犯行でも慈愛に満ちた理由も無い。

ただただ遊んでいただけの話だった。


─────────


 真剣な生死をかけ、全力で戦ってきた全てを否定するかのようなその内容。

「ま、惑わされないで。気を確かに持って……。」

 フィーネも挫けそうな声を出し食いしばって立っている。

「別に惑わしだと思ってくれるならそれで良いんだよ。僕は真実を話してるだけだからね。」

 フィーネだけではない。

妖以外の全員が血の気を引き、足は震え身体は弱り頭は白く染まって心は行方不明に。

同じ空間にいることそのものを拒絶したくなるほどの相手だった。

 力だけが常識離れならまだ力を合わせれば越えれるかもしれないというその考えは、たやすく崩された。

触れてはいけない、近付いてはいけないそんな祟り神以上に危険な存在。

 そんな相手は今空へと浮かんで行き、懐から何か取り出す。

 ぐっといきなりロケットへと接近し笑いかける。

「覚えてるかな?このロケット。」

 妖が取り出したのはロケットの記憶の中で最初に見た、手に持っていたものだった。

いつの間にか無くしていたペンダント型の小型写真入れ。

卵形で銀の装飾されたロケットだ。

「空っぽのお前のようにこれも空っぽだったからちょっと貰っておいて今また一つにしてやろうと思ってな。ほら?」

 妖が投げた写真入れのロケットを人のロケットが受け取る。

嫌な予感はしたが、開く他選択肢は無かった。

 震える手を押さえ、スイッチを押し込むとカチャリと開く。

中には人のロケット自身の姿とロケットの前に小さな精霊がアップで写っている。

 黒い輝きを帯びた綺麗な黒長毛の犬の姿の精霊で真っ赤な目とすらりと身体以上に長い尻尾が特徴的だ。

 小さくて両者の顔ははっきりとは見えないが不幸せそうには見えない。

「これは……なんなんだ?」

 4人と4匹はロケットが持つ写真をのぞき込む。

「ロケットさんと……精霊?でもロケットさんには。」

 フィーネが呟いた。

 ロケットに精霊はいない。

それは妖自身が言っていた事で、明言していた以上わざわざ嘘を言ったとも考えづらかった。

「まあ、仲良い写真見て貰った所で早速その答えは戦った方が思い出しやすいだろうから、さっさと準備しちゃってよ!」

 明るく軽い口調はそのままだが、妖が放つプレッシャーが変わり、緊張が走る。

「一体、これは何なんだ!答えて貰うぞアヤカシ!」

 ロケットたちは武器を取りだし構える。

プレッシャーは強まっていき、フィーネたちを飲み込もうとする。

先ほどの衝撃から謎の写真の困惑、そして“戦った方が思い出しやすい”という妖の発言。

全てがロケットたちを揺さぶっていた。

「まだ、おいらは聞きたい事があるぎゃ。」

 タートルは構えながら妖に話しかける。

「ホライズンが閉じこめられた結晶、あれはどう溶くぎゃ!」

 Dブロックで妖にナイフで刺されそのまま結晶の中に閉じこめられた精霊ホライズン。

タートルの目的はあくまでこの精霊を助け出す事だった。

「簡単さ僕を倒せば良い。出来るものならね!」

『簡単で助かったよ!』

 トマトも既に水色から赤くなり臨戦モードとなっている。

何もされる前からこうなるのは珍しく、妖の放つプレッシャーがそうさせた。

『フィーネ。わたし恐いけれど頑張る。一緒に戦うよ!』

 フェイが震えながらフィーネに話しかける。

フィーネも今にもこの場を離れたい気持ちをぐっと抑え込んでフェイにうなずいた。

「さあ、始めようか!」

 妖がそう言うと、裾から真っ黒な剣が飛び出してきて左手にそれを持った。

構えというものは無くゆらりゆらりと剣を空中にぶら下げている。

「まずは、第一章だ!」


 笑いながら妖は剣を構えそのままロケットに突撃!

棒鎚の棒部分で受け流し素早くハンマーとの逆部分で殴る!

軽く剣で塞がれ払われた後再び衝突し攻撃し合う。

フィーネとウチワは大きく距離を取りウチワは射撃を繰り返しフィーネはロケット優先に補助精霊術をフェイにかけさせる。

妖は射撃を防ぐために円を素早く宙に手のひらで描いて銃弾の威力を弱める結界を展開しローブすら銃弾は貫通出来ない程度になってしまう。

タートルは妖を包むように精霊術陣を出現させ大量の泡を出現させロケットは範囲から離れる。

 泡は一つ一つが大量のエネルギーを込められており、妖が触れるでもなく弾け、水のエネルギーが爆発し妖を飲み込む!


「いいね、そう来なくっちゃ!」

 爆発の跡から平然とした様子の妖が出てくる。

間髪を入れず叫びながらイクシアが切り込みイベリーが同時に精霊術で岩を妖にぶつけていく!

 しかし、剣で受けず何もしない。

イクシアも直ぐに気づいて離れる。

「クソッ、手応えがない!」

 ウチワは弾を詰めながら妖の様子を伺う。

「また映像って奴?」

 ロケットに切り込んだ時と違いまるで妖の実体がないかのように攻撃が当たらない。

「何か攻撃を当てるヒントでもあれば……。」

 フィーネは考えながら精霊術の指示を出していく。

妖に攻撃が当たるタイミングと当たらないタイミングの違い。

考えている間にも妖は魔術を使って炎の塊をそこらじゅうに作り出す。

「愚炎暴食Ⅲ!」

 炎の塊が爆発し爆発が生き物のようにこちらを飲み込まんと牙をむいて形作る!

回避しきれず全員喰らうが何とか直ぐに脱出し大きな火傷は避ける。

イクシアとロケットが同時に妖に攻め込み妖は回転するかのように同時に相手する。

ロケットは妖と武器を交えながら不思議な感覚になる。

目で見るより早く身体が動き、相手の剣術をずっと昔から知っているかのような変な感覚だ。

 イクシアも盾でうまく防ぐがロケットにはその先、技のスキそのものか感覚的にわかった。

相手の切り込みを回避して鎚を打ち込んでいく。

もちろん相手もただ受けてはくれず身体を反らしてダメージを避けローブそのものも攻撃を緩和する力があるのか入っても有効打とはなかなか言えない。

「フォームグラーヴェ!」

 巨人へと変身し剣の上からハンマーを振り下ろす!

妖はイクシアを盾ごと蹴ってイクシアを下がらせると剣を引いてハンマーを無抵抗で受ける。

「!! また、か!」

 なんら当たった感覚がない。

ハンマーの頭部分から歩いて妖が出てくる。

「よーく狙えよ?さっきから当たってないじゃないか!」

 ケラケラとロケットに笑いかける。

ロケットさらに足蹴りハンマー横振りさらに縦振りするが見えてはいるのにまるで幽霊のように攻撃が当たらない。

 フィーネは回復を行いながらその様子を見て、思い出す。

「そうだ、ロケットさん!Cブロックでのヌールさんの戦いを思い出して!」

 白銀の狐人でありCブロックの犯人ヌール。

 彼女の妖と戦いその時も当たる時当たらないときがあった。

 ロケットは脳裏でその様子を振り返っていく。

「攻撃が当たるときはアヤカシが……わっ!」

 フィーネの方に妖が右手から雷を飛ばしフィーネは必死に盾で受ける。

「こっち向け!」

 イクシアが切りかかると左手の剣で受ける。

そこに追撃のようにロケットも振り下ろすと妖は急ぐように大きく二人から下がってハンマーを回避した。

「……あっ、そう、か!」

 ロケットは妖の動きの違いに気づく。

妖は何もしていないときはこちらの攻撃は全てすり抜けているが攻撃中や剣で攻撃を受けている時は当たったり避けたりを繰り返している。

そのことにロケットは気づけた。

「みんな、あいつ、攻撃、しているとき、当たるぞ!」

 ヌールの戦いの時は顕著にそれが現れていた。

ヌールだけが攻撃するときはすり抜けたりするのだが妖が攻撃しようとした瞬間足元を氷で固められた時全て受け、なんとか氷から脱出した後はまたすり抜けだした。

「なるほどヌールの奴、あの時調べていたんだな、弱点を!」

 イクシアはそう言うと早速盾を構え守りを固める。

自分から攻撃を仕掛けてもダメージを与えれないと踏んだからだ。

 全員守備を固めつつイクシアとロケットとタートルはじりじりと妖に接近する。

「うーんこれは困ったねえ。それにロケットの方はまだ思い出さないとはねえ。まあいいや!」

 妖は右手の裾から白く輝く剣をだして持つ。

 二本の剣を構えるでもなくいつものように二つとも下げたままタートルたちに駆ける。

 ガードするタートルに剣を振り下ろす瞬間、妖が消える。

「きゃあ!」

 妖は瞬間移動しフィーネに切りかかっていた。

すんでの所でフィーネな盾で受けるもののえげつないほどの速度で8連族斬られさらに吹き飛ばされる。

いくら守っているとは言えかなりの強さ。

フィーネの腕を通していた腕が痺れて感覚がないし、かなり身体にも響いた。

追撃をしようとする妖にウメが素早く雷撃を撃ち込みガードさせ引かせる。

「第二の消えるそれも厄介ね!」

 ウチワはそういうとウメを向かわせ妖の周辺に雷撃を伴う霧を出現させる。

当然妖は攻撃をやめ透過させるが透過させている間は攻撃も出来ない。

 ロケットは人型へと戻ってエネルギー補給のために鞄からスティック状の菓子を取り出して食べる。

ロケットは術も変身も回復もエネルギーが基点で戦闘中も常に回復しなければ危険な状態になってしまう。

「俺が前に出てあいつを引きつけます!少し、やりたいことがあるんです。」

 全員承諾の返事をしそれを確認するとロケットは霧の中から出てきた妖の元へ跳んでハンマーで殴りつける!

 妖はそれを両方の剣で受け、流してから切りつける。

 ロケットも反応して応酬、さらに4人と4匹も攻めに入る。

 タートルは水化し前に出てイクシアとロケット共に前に出て3人で妖を攻めるが妖も両手の剣と身体を巧みに使って斬り返す。

 ウチワは仲間に被弾しないようにするため準備と援護に徹しウメに指示を出して妖の移動を制限するかのように雷で出来た空中機雷を設置していく。

 ロケットは攻撃の応酬のなかでも他二人とは違い初めて見るはずの技の中でも動きを先読みする。

冷静に何度も攻撃を当てていきついに鎚部分を妖の額へ強く喰らわせる!

 大きく仰け反って妖は深手を避けるがその衝撃でフード部分が外れ、妖は後ろへと吹き飛ぶ。

「うおっとと!」

 妖は空中に浮かんでいるからくるくると三回転してやっと止まり額を痛そうに抑える。

 ロケットは感じていたことからの推測が確信に変わる。

ロケット自身も妖のことを記憶の無い昔から知っていると。

それこそ妖の術技そのクセ全て知っているだろうというほどに。

 それは攻撃の応酬しあうほど強くなっていき攻撃を当てた時には特に強く感じた。

そして今妖の顔をハッキリと見た時に確信する。

 妖の謎に包まれていたフード下。

額を抑えるその様子は、最初フィーネが感じていた恐怖の存在とは少し遠かった。

それはハッキリと見えるのもあるだろうが額を抑え痛がってる姿はまるで少年にしか見えない。

顔は猿族のように平坦に近くなおかつ蛙族のように薄い皮膚だけで毛は頭部のたてがみだけ、たてがみも首までは生え際が続いておらず少し長めなのかそこから伸びている分は軽く縛って荒いポニーテールのようにしている。

 肌の色はピンクサーモンかそれよりも白いぐらいで簡単に傷ついてしまいそうだが今までの攻撃の応酬からするに皮膚そのものも見た目より遥かに頑丈なのだろう。

妖は何族からも遠いが額を抑え睨みつける目からの殺気さえなければ他種族であるフィーネたちから見ても好印象を抱きそうな顔だった。

 ロケットは妖のそんな顔を見て過去に妖との面識が深くあった事を、確信すると共にもう一つ重要な事を連鎖的に記憶の闇から引き起こす。

「ダカーポ……アヤカシ、お前の本当名前はダカーポだな……!」

 妖はニヤリと笑った。



 おまけ休憩所

フェイ『タートルって普段どうやって前に出たとき攻めてるの?』

タートル「水化してる状態にゃあ、それそれそれっ!」

フェイ『うわっ!たくさんの水の腕で殴ってる!?』

タートル「一撃一撃重量はそのままの連族パンチぎゃ。単純だけどすっごく痛いぎゃよ。」

フェイ『普段あまり戦闘では描写されてない感じがして何もやってないかと思った……!』

タートル「びょう……?みゃあとにかくみんなが見てない所で頑張ってるぎゃあよ?」




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