fruitFRUIT4章激闘編
fruitFRUIT4章激闘編
キャラクター説明
タートル・タンク3
蒼亀の青年で手先足先まで重鎧に覆われている。
記憶力は多くの人より段違いで決して忘れる事はないと言う。
ブレイヴに頼まれフィーネたちと共に結晶に閉じこめられた精霊ホライズンを助ける術を求め妖に立ち向かう。
“アクアパンチ”はトマトが水色の時でも扱える水の力を纏って殴る基礎的術。
“アクアシールド”もトマトが水色でも使える基礎的術で水の結界で敵の攻撃を緩和する。
マーク・フロート
フィーネの父親。
フィーネが心配でこっそりこの町に出張していた。
刑事としてはベテランの領域で部下からも慕われている。
怒ってるつもりはないのだが慣れていない人はその威圧感のある顔で気圧されて悪人は泣いて罪を語るという。
本人としてはかなり面白がり屋のつもりでその感情変化を汲み取れるのは妻と子そして精霊だけだ。
デリエ
マークの相棒精霊で三毛猫の光の精霊。
マークとは逆に感情を全身で表し場を和ませる。
精霊は血のつながりというものは存在しないが実質上フェイの父親でもある。
その愉快さとはちがって術は守りが得意で10の精霊たちが作る結界のうちの一匹で残された命を守る。
順に効率よく張る結界は休んだり誰かが欠けても機能する長期戦向きの特殊結界だ。
──────
人の集中するエリアの2階へと戻り会議を終えたタートルとも合流した。
「これがその石ぎゃね。」
机に置かれた赤く輝く小石をタートルたちはのぞき込むように見る。
「まーまだ精霊石が生きてる時の光とは少し違うんぎゃねー。」
タートルが手に取り、光にかざしてみる。
その時、光が一瞬タートル達を包み込むように大きく赤く輝いた。
光が収まると、先ほどの景色はどこかへ行き、5人と4匹は地面は何かの石づくり、回りの景色は赤く燃えているようなそんな光景がどこまでも続く非現実的な光景だ。
「……え?」
ロケットが一言そう発する。
この状況を理解できるものはいなかった。
自分たちが立っている地面は宙に浮いているようでそれなりに広さのある円形、まるで観客席のないコロシアムだ。
誰もが戸惑い周囲を見渡し何が起こったのか把握しようと試みるがまるで分からない。
その時どこからか声が響く。
──心を解放せよ。心は人を人のまま限界すらも越えさせる。敵の罠を破り強大過ぎる者に打ち勝つ力を示せ。
「その声、精霊王!?」
ロケットがそう言った。
全員ロケットに注目し驚きの声を上げる。
「ロケットさん、精霊王ってまさか?」
フィーネが尋ねるとロケットは頷いた。
「うん、死んだとき何度か声を聞いたから知ってる。でもなんでここで?」
ウチワがあきれるような感心するような声で空を見る。
「散々現実味の無い事が起きたけれど、精霊王とかいう神がいるなんて言う事も驚きが薄くなってきたね。」
イクシアが剣と盾を構える。
「今罠って言ってたよな!?妖が何か仕掛けてくるのか!?」
他の人も武器を構え、周囲の様子を伺う。
灼熱とまでは行かないがカラカラな暑さだ。
目の前の空間が歪んでいき、突如炎が炸裂する!
火はこちらには飛んで来ないものの凄まじい熱がフィーネたちを包む。
「ううっ、一体何が……!」
熱が収まり顔を上げて先ほどの炎があった場所を見ると、そこには二匹のワービーストと一頭の巨大な竜。
逞しい四肢と口からあふれ出る炎、そして背中に生えた大きな翼。
「あ、あの姿……!」
フィーネはドラゴンの姿を見てフレイムを思い出していた。
大きさはまるで違うが宿屋の主人の精霊フレイムによく似ている。
またどこから声が響く。
──心せよ。精霊の生前の姿を模した魔法生物と敵の送り込んだ刺客。この狭間の空間で己の限界を心で越え罠を打ち破れ。
「もっとわかりやすく言って欲しいね!」
ウチワが愚痴を飛ばすが声は聞こえなくなった。
そしてワービースト達が猛然と襲いかかってきた!
「何とか勝つしかない!」
ロケットがワービーストにハンマーを叩きつける!
ワービーストはクローで一瞬受けてそのまま身体ごと逸らして力の向きを変えて避けた!
「ぐっ!」
さらにそこからのクローの爪で突き刺しが来るが身体を捻って避けて尻尾で殴る!
ワービーストは少しノックバックし一つ跳んで後ろに下がる。
「もう一匹は俺が!」
もう一匹のワービーストとイクシアが激しく斬り合い、イクシアが力で剣で叩き切り相手に少しダメージを与える。
フィーネはウチワ、ロケット、イクシアの順番に強化術をかけ、ドラゴンの様子を伺う。
『うわっ、何か来る!』
フェイが言った通り大きく息を吸い込み始めた。
ウチワはとにかく全員から距離を取りポイントを探すが隠れるポイントも高低差のある所もない平坦な場所だ。
「これじゃあやられるね。」
走り回りつつ射撃するもののドラゴンは鱗に阻まれ有効打が少ない。
「トマト、前方にアクアシールドぎゃ!」
『ふぁ……い。』
タートルがドラゴンの動きに合わせてワービーストと前衛二人の間に広く水の結界を張る。
互いに一歩ずつ後ろに跳んだ。
ドラゴンが吸った息を口にためて炎を吐き出してた!
「うわぁっ!」
水の結界が炎を多少弱めるがロケットたちは炎の息に包まれる。
5秒ほども高熱を吐かれあらゆる手で軽減しているとは言え全員全身に火傷を負う。
「か、回復強化。ケホッ。」
フィーネがスティックを振って全員に自然治癒を促す術をかけていく。
『強いよアイツー!』
フェイが急いで全員に光をかけていき、ダメージをいやしていく。
「あんなの何発も喰らえないね。」
ウチワは端にいたため一番ダメージは少なかったがそれでも既にボロボロだ。
「一気に決着を付けよう!フォームレボリューション!」
ロケットは焦げた身体の痛みを耐えながら変身する。
「フォームフォルテッシモ!」
獣型に変身して、再び前進しようとする。
その時ワービーストが雄叫びを上げてクローの爪に炎が宿った。
「うわっ、マズいマズい!」
それを見たロケットは慌ててブレーキをかけ後ろに下がる。
「このままじゃあ一気にやられちまう!」
先ほどは押していたイクシアに炎の爪が熱と力を増して襲いかかり、押され気味だ。
ウチワが空に飛びドラゴンに奇襲を仕掛け雷を落とす!
『いけー。』
ウメから放たれた巨大な一撃がドラゴンを焦がす!
ドラゴンは一瞬怯むが電気に対して怯まず翼を使って空に少しだけ飛んでそのまま前脚でウチワを叩き落とした!
「ウチワさん!」
吹き飛ばされたウチワは叫びながらフィーネの近くの地面までたたき落とされた。
プロテクションリングが守ってはいるが強く入ったためすっかりウチワは気を失っている。
「あのドラゴン強すぎぎゃー!」
先ほどのダメージで目覚めたトマトの力を使い水化するタートル。
大量の水をワービーストとドラゴンに撃ちだして無理矢理下がらせる。
「この姿だと爪の餌食だしかと言って人型だと攻めあぐねちゃうなあ……。」
ロケットは必死に打開策を考えるがどうしてもうまく戦えない。
その間も戦いは続くがこちらがダメージを受けるばかりで良くない展開が続く。
さらにドラゴンがまたブレスの構えをした。
ロケットは先ほどからの戦いで精霊術での攻撃や防御が有効だとは思っていた。
だがロケットは燃費の悪い弱めの精霊術しか使えない。
「みんなは、私が守る。」
その時、フィーネがそう言ってスティックを構える。
フィーネはあのときの精霊王の言葉を思い出していた。
「心を解放、心で越える……。」
深い意味は理解してる時間はなかった。
けれど必死に戦う周りの人たちを見て、絶対に挫けてはいけないとそう強く感じた。
そのために自分が周りを支えなければ、今まで支えてもらった代わりにと。
もうボロボロで彼らの前では潰えるのを待つだけの存在。
だからこそ。
「絶対に負けない!」
『行こう、フィーネ!』
フィーネとフェイが輝きを、同時にドラゴンの炎がフィーネたちを包む!
炎が消え、煙が無くなっていく。
ワービーストたちは異変に気づき、再び構える。
ロケットたちは立っていた。
フィーネとフェイが放つ光によって守られた。
「これは……凄まじい力の結界術ぎゃ!?フィーネさんこんな事できたんぎゃ?」
フィーネは首を横に振る。
「みんなを守らなきゃって思ったら何だか頑張れる気がしたんです。だから、これはみんなの力です!」
輝きは傷をも癒して行き、ウチワも目を覚ます。
「うーん、……ガール?どうしたの格好。」
フィーネは服装が大きく変わっていて、絹のような煌めく布の白く伸びゆく不思議な服装で、頭部のたてがみが尻尾の辺りまで伸びている。
「わかりません。けれど今は何だか何でも出来る気がします!」
おまけ休憩所
ロケット「最近ひどい目にあったあげく活躍なしの展開が多い気がする!」
フィーネ「きっと大丈夫だよ、直ぐに何とかなるって!」
フェイ『活躍してる人がそれを言ったらいけない気がする……』
─────
フィーネはフェイに指示を出して光の鎖を作り出し、ワービーストたちに巻き付かせる!
ワービーストたちは身体に巻き付いた鎖を重々しそうに解こうとするがうまく解けないようだ。
「フェイ!」
『分かった!』
フィーネとフェイは以心伝心に味方に光を与える。
「凄い、力が漲ってくる!」
ロケットは人型に戻り棒鎚で攻める!
うまく動けないワービーストは攻撃を受けきれず、一気に押し返される。
『このままドラゴンも!』
フェイが鎖をドラゴンにかける!
しかしドラゴンはその鎖を振り払って壊した!
「うっ、強い!」
フィーネはフェイに指示し味方の支援に当たらせる。
「ワタシもがんばらないとね。」
ウチワはワービーストの方を狙撃してロケットたちの援護をする。
タートルは状況に合わせて水鉄砲を敵に食らわせたり守りに向かったりしている。
「フィーネががんばってるんだ、俺もいっちょカッコいい所見せるかぁ!」
イクシアはそう言って鎖の巻かれたワービーストを剣で吹き飛ばし、そのままドラゴンに切りかかる!
ドラゴンは前脚の爪で応戦し鍔迫り合いが発生する。
体格差的にはいつ押しつぶされてもおかしくない。
「うおおおっ!イベリー、俺たちもやってやろうぜぇ!」
『イクシア、このまま押し切りましょう。』
イベリーとイクシアは輝きを放ち、なんとそのままドラゴンを切りとばして前脚を打ち上げた!
「力が湧いてくる!」
イクシアは出来た隙を見逃さずそのまま頭まで跳んで切りつけ攻撃を与える!
イクシアの服装や姿も変わっていて、緑色で統一された鱗と宝石で輝く不思議な服だが荒くれのような雰囲気は変わっていない。
全身の鱗が所々逆立ったり棘のように変化していてより凶悪そうだ。
「うーん、この現象まさかだぎゃ……。」
「考えるのは後だぞ、タートル!」
タートルが思考しようとした段階でイクシアが声をかけて止める。
そしてさらに激戦は続き、ついにロケットはワービーストを倒した。
残りはドラゴンのみ、しかしそのドラゴンが強敵だった。
フィーネとイクシア中心に攻め続けたが無尽蔵な体力とブレス、そして何よりあらゆる攻撃が重く苦戦は続き、フィーネの力も時間切れかのように消えてしまう。
「こいつ何でこんなに強いのかしら……。」
激戦を重ねウチワたちは傷そのものよりエネルギー切れを起こし始めていた。
ドラゴンもなかなか傷を負っているが対してエネルギーが尽きそうとは思えぬほど力を感じる。
ロケットは力を引き出した二人を見ていて感じたのは自分の無力さだった。
そして同時にそんな姿に力をわけてもらえた。
自分が出来ること。
自分の心、そしてみんなの心。
考えるよりも前に心のままその可能性にかけることにした。
「うおおおっ!」
棒鎚でドラゴンの脚を叩きそのまま上へ跳ぶ。
ドラゴンが反応するより前にドラゴンの身体を伝って跳ぶ。
「オラァ!俺の相手もしろよドラゴン!」
イクシアも足を切りつけロケットの動きを援護する。
「そこだっ!」
ドラゴンの頭まで跳び、頭に向かって振り下ろす。
同時にドラゴンが頭突きを繰り出しぶつかりあう!
「はあっ!フォームレボリューション!」
賭だった。
密接状態の変身で何が起こるかという賭け。
ロケットは光に包まれ、ドラゴンの頭を弾く。
ロケットは違う力を求めていた。
皆を守るためにこの状況を打破する力を。
心の中に眠る深い部分の闇に飲み込まれないように、繋がる心が断ち切られないように、自身の記憶に潜む闇へと手を伸ばした。
手足は人の時より縮小、細くなっていき身体は骨が大きく変質していき駆けたり器用に動く事を捨て力をむしろ削っていく。
ただ一つの目的、圧倒的エネルギーと精神の力、そして魔力とも呼べる力がロケットに満ちてさらに変質させていく。
溢れるエネルギーで全身の体毛が大きく伸びていき、首からはマフラーのように長くまとまった毛が二つなびく。
耳は大きく伸びて後ろに倒れ白いたてがみはその莫大な力に染まるように黒く変わる。
光が無くなり中から出てきたロケットは一言で言えば異質だった。
服装も薄着に変わっており身体の至るところから柔らかな毛が溢れている。
人のようで人ではなく、ワービーストや獣からも遠い。
空に何の補助もなく浮いていて全身に黒い光を纏う姿。
「変身?でもあんな姿は見たことない。」
フィーネは空に浮かぶロケットを見つめながらそう言う。
『正確には違うと思うけれど、なんだかすごく精霊みたいな、そんな感じがする。』
フェイがロケットの姿を見てフィーネに感想を伝えた。
ロケットは目を開ける。
「フォーム!コンテレネッツァ。」
そう言うと光を強めドラゴンに影を伸ばしていく!
ドラゴンは振り払おうとするが実体が無くうまく払えない!
影は蛇の用になってドラゴンの全身を縛り上げドラゴンは急に力を落としたかのように疲れを見せる。
「今だ、イクシア。」
口調が早口でかつ柔らかくなっていてイクシアは少し反応に戸惑う。
「お、おう?俺か!ああ、決めてやる!」
イクシアがドラゴンに跳びかかり、全力を込めて切り裂く!
『あそこは決める所でしたよね。』
「うるせえ、あれでやっと互角だったんだよ!」
結局一撃で倒す事は出来ず、何度かロケットにドラゴンへ闇や影の術をかけてもらいイクシアの力が無くなった後に倒せた。
『ロケット、あれどうやったの?』
人型に戻ったロケットにフェイが聞くがロケットも首を横に振る。
「いや俺も良く分からなくて……それより二人共の方が何があったの?」
フィーネとイクシアが顔を見合わせ、やはり首を横に振った。
「わからないですね。この空間が何か関係あるのかなあ。」
倒しはしたもののどうすれば戻れるのかが分からない。
その時、斃れたドラゴンたちはその身体が砂のようになって消えていきその砂が中央に集まっていって一つの物になる。
「精霊石だぎゃ。」
タートルが言った通り赤い精霊石が宙に浮いていて、それをフィーネが取る。
「確か、ここに来た時これを……。」
石を上へとかざす。
「……あれ?」
何も変わらない、警察署の中。
変わった事と言えばフィーネが石を持っている事と、全身に戦闘後の疲労感がそのまま残っていること。
それにフィーネ、イクシアは確信は持てないがまたあの力を引き出せそうだと言う感覚が、ロケットはフォームコンテレネッツァの自分をしっかりと覚えていた。
「同じ夢を見た、わけではなさそうね。」
ウチワが腕の傷が無いか見ながら言う。
全身の火傷も殴打された跡も最初から無かったように無くなっている。
「あれ?こんなものあったぎゃ?」
机に何かディスクと手紙が置いてあった。
《みんなへ 僕のゲーム楽しんでくれたかな?邪魔者が入ったけれどこれで君たちは一つ僕への挑戦権を手に入れた。あと二つ、頑張ってね!》
「ふざけてやがる!」
イクシアが怒って手紙を机に投げつける。
「一体何が目的なの?」
フィーネは頭を悩ませ、ディスクを手に取る。
「そのディスクにヒントがあれば良いんだけどぎゃ。」
おまけ休憩所
イクシア「バトルパート2話使い切るとかもはやこれ何の話なんだ?」
ロケット「そう言う時もあるさ。」
フィーネ「一体二人は何の話をしてるんですか?」
イクシア「俺にも、わからん。」
────────
警察の人々やマーク、精霊デリエたちが見守る中、ディスクの上映会は始まった。
それは外の様子だった。
正確には外から見た町の様子。
報道ニュース映像だ。
町の近くだと思われる虹色の壁を背に報道リポーターが現状を説明している。
過去の事の説明も交えていて、つまり外から見たここは突如壁が現れそれ以降中の連絡途絶えたっきりだそうだ。
その間多くの事をして壁を開こうとしたがまるで効果はなく、現在も国をあげて救助を試みてるそうだ。
「あ、俺のキャラバン隊!」
壁に包まれた当日の映像。
野次馬の中にイクシアのキャラバン隊が混じっていた。
外に置き去りにされ、壁を見上げているキャラバン隊は馬車や馬、異国の服を身に纏っていて映像からもはっきりと目立つ。
また現在の映像に変わると隅の方にキャンプのようなものが移っている。
リポーターがそこに取材にいくと先ほどのキャラバン隊が数人そこで待機していた。
待機メンバーの代表の黒い毛のハイエナのような種族の人がインタビューを受けている。
《「俺たちのキャラバンメンバーとリーダーが中に残されているんです。交代で待っていますが彼らは無事だと考えて何とかここが開くのを試みています。」》
「知り合い?」
ウチワがイクシアに尋ねると頷く。
「ああ、サブリーダーだ。」
映像は続き、スタジオに映像が返され今日の天気予報になった所で途絶えた。
「良かった、外は酷いことになっていたりはしてないみたいですね……イクシアさん?」
フィーネがイクシアの顔をのぞき込むと思い詰めたような顔をしていた。
「いや、大丈夫だ。ただ……あいつらのためにもきちんと終わらせねえとなって思ったんだ。」
目を閉じ、少し落ち着いたイクシアは再生の終わった画面を見続けた。
5人に用意された休むための部屋で話し合いを行事になった。
ちなみに寝室は別にある。
部屋だけならもはやどれだけでもある。
「さっきのフィーネやイクシアが変化したことだぎゃ、あれは恐らく精霊覚醒ぎゃ。」
タートルの説明によるとフィーネたちの服装や姿または能力そのものの大きな上昇は精霊覚醒と呼ばれる修練を積んだ者が引き出す状態らしい。
「けれど私たちそんなに歴戦の戦士みたいな力はないと思いますけれど。」
フィーネがそう言うと、タートルは仮説を話始める。
「もしもの話だぎゃ、あの声の主が本当に精霊王だったとしてその王が言う狭間の世界というのが本当ならば、あそこはあの世とこの世の境目みたいな不安定な場所ぎゃ。」
タートルが紙に図を描きつつ説明する。
「この場所は人の身体は行けず、かといって心だけではいけないためそこに無理矢理行ったとしたら非常に心と体が不安定な境目ににゃーってたはずぎゃ。」
人の体とその精神を描いていく。
「そこで普通は達人の域じゃないと達せない心が身体を凌駕してさらに精霊と強くつながり精霊の力が身体に直接影響を及ぼすことが起こったと思われるぎゃ。一度感覚を掴めば何回でも起こせるはずぎゃ。」
精霊も描かれた。
イクシアは図を見て、タートルを見て、図を見る。
「……ようはどういうことだ?」
フィーネがイクシアに話す。
「うーんつまり、強くなれたって事で良いと思います。」
イクシアは目を輝かせる。
「なるほど!よっしゃ!」
タートルが少し申し訳なさそうに話を続ける。
「あ、まーでも、条件がいくつか……。」
イクシアはずっこけたようなポーズを取る。
タートルは話を続ける。
「まず、覚醒するには自らの内に溜まっていく力を完全に溜める必要があるぎゃ。攻撃をしたり受けたりして気持ちが高ぶれば高ぶるほど良いはずぎゃ。さらに有効時間があるぎゃ。あまり長くは持たないから気をつけるぎゃ。」
タートルが精霊から人へと矢印を引いていく。
「これのメリットはこの時強くなる以外に、成長そのものも促すと言われているぎゃ。精霊王はそれをしてほしいんだと思うんだぎゃ。」
タートルは一通り説明を終えると、今度はロケットの方を向く。
「あとロケットさんの変身には驚かされたぎゃ。複数の種類があるとは……。」
ロケットが白いたてがみの頭をかく。
「俺も驚いたよ。無我夢中だったからさ。」
フェイがロケットの方へと飛んでくるくる周りを回る。
『まだまだ変身できたりしてね!』
ロケットは少し考えて、答える。
「まあ自分でも良く分からないからもっともっと変身出来ていったら強いだろうなあ。」
その後も一通り今後の事も含めて話し合い、眠る事にした。
外は常に真っ暗なのでいつ寝て起きてもあまり時間感覚が掴めなかった。
次の日、装備を整え教会に向けて動く事にした。
「パパ、私たち教会で台座を探してくるよ。」
フィーネがマークにそう伝えると、頷いた。
「ああ、俺も後で教会に行ってみる。気をつけていけよ。」
フィーネが頷いて4人と3匹に声を掛ける。
「じゃあ行きましょうみんな!」
道中はフィーネとイクシア、ロケットを中心に強敵であるワービーストや獣を倒しながら進む。
不意打ちさえ喰らわなければだいぶ対処可能だ。
精霊覚醒までは行えないことが多いがそれでも強くなっていた。
教会にたどり着き、中の様子を伺う。
中はワービーストが特に多く見え、また剣を持つトリケラトプスがワービーストになったようなものや杖を携えた蛸がワービーストになったようなもの、バングルをつけた猪のワービーストなどもいる。
『あいつら、外のワービーストたちとはまた違う属性を感じるよ。』
フィーネが頷き、ロケットが先に入る。
「中は広いし今までの感じだとどんどん集まったりもしないから各個撃破すれば何とかなるはず。」
教会は大聖堂からなるいくつかの部屋に分かれた警察署ほどではないが大きめの施設だ。
ロケットたちは探索と獣たちの退治をするために中へと入っていった。
おまけ休憩所
ロケット「フォームコンテレネッツァ。」
フェイ『腕は服に隠れるくらいちいさくなっちゃうんだね。』
ロケット「武器は持てなくなるね。」
フィーネ「にしても、凄い毛ですね。ふわふわしてる。」
ロケット「フィーネなら、触っても良いよ。」
フィーネ「うわあ、質の良い綿みたい!」
ロケット「あ、思ったより良い感覚……。」
───────
ワービーストたちは手強かったが少しずつ先へ進む。
大聖堂はたくさんの椅子が並ぶ一階と階段で直接上れる2階がある。
2階は端っこの方にそって道がある、基本清掃などのための道だ。
大聖堂の奥にも部屋はある。
居住スペースになっている奥は修道院たちの食堂や調理場、2階には寝室や小部屋がいくつかある。
10人ほどここで暮らしていたのでさすがに広い。
そして一階のさらに奥、一室だけ異様な雰囲気を漂わせる暗い部屋。
ここが蘇生を行うための儀式部屋だそうだ。
部屋は一度に十数人入るように広く作られ、複雑な精霊儀式のための術式が床に刻まれていて周囲には何に使うか分からない奇妙な装置がいくつもある。
そしてそこに台座があった。
今度の台座の上部の色は氷のような白だ。
「よし、今度は俺の持ってるトッポの石を入れるよ。」
そう言ってロケットが台座に近づいたその時、5人の足下が光る。
「な、なんだ!?」
「これは、もしかして罠……」
途端に5人とも姿が消えてしまった。
腹にも響くほどの大きな地響き。
それで目を覚ましたフィーネは地響きが収まるのを確認してから立ち上がり、周りをみる。
元々色んな事をするのを想定して作られた部屋のようでこの部屋には特に特徴がなく小物が少しおかれている程度だ。
部屋の中には他の人はいないようだ。
部屋から出て廊下にでる。
『うわっ!』
「道がない……」
フィーネとフェイが見たのは建物の一部が崩壊し廊下の一部が通行出来なくなっているさまだった。
道を迂回して一階に降りて見るがどこもかしこも酷い有様で、何より困ったのはこんな状態でもワービーストたちが彷徨いている事だった。
戦闘になれば勝ち目がないので隠れながら進む。
幸いこの崩壊で隠れる場所そのものは多くある。
ゆっくり進んで出口のある大聖堂までやってきた。
『ちょっと上から出口見てくる。……あー!』
フェイは入り口の方を見てすぐフィーネの元へと降りてくる。
『外の道が塞がってる!』
「ええっ!?」
これでは出られない。
外に行けば合流出来るかもしれないと考えていたがどうやらそう甘くは無かったらしい。
「フェイ、辺りにみんないないか捜してきて!」
フェイが空へと飛んでいき、何かを見つけ慌てた様子で話す。
『フィーネ!急いでこっちへ!』
フィーネは頷くがここも崩れが酷くかなり迂回していくことになる。
やっとの思いで聖堂の普段は神父が立っている壇上へと付く。
『フィーネー……。』
弱々しくフェイが指した先を見る。
壇上の裏、神父とは程遠いその格好をした男はあぐらをかいて座っていた。
額に穴を開けて血を流し、うなだれているような格好で。
膝の上に落ちている石は白、その顔は険しくも優しかった。
「パ……パパ……。」
フィーネは腰が抜けてしまった。
もはや死はこれほど身近なのにそれでも心が深く黒くなっていきそうなほどの衝撃だった。
『うえーん!デリエがー!』
フェイは対称的に大暴れするかの
ように泣きじゃくった。
しばらくはそんな現実を受け入れがたい一人と一匹が茫然としていた。
5人とも揃うのにはあまり時間はかからなかった。
結局全員大聖堂に集まったためフェイの声を聞いて駆けつけたからだ。
「こんなタイミングで起こるなんて。」
ロケットはフィーネの側で支えれるように準備している。
ウチワは周囲を見渡し、叫ぶ。
「アヤカシ!さっさと出てきなさい!」
突然目の前にフードを被った男が現れる。
妖だ。
「呼ばれなくてもきちゃうよそりゃー殺人事件だからね!」
何となく全員分かっていたことだったが、改めて事実を突きつけられ動揺する。
「ルールはいつも通り、解剖記録も渡すし72時間以内に解き明かせば勝利。」
タートルが懐中時計をみる。
「あっ、まー時計が壊れとるであかんぎゃ!」
他の人も自分の時計を見てみるが全員壊れてしまっている。
「うーんさっきのワープでぶっこわれちゃった?ゴメンねー!」
妖はそう言って笑う。
「やっぱりあれもこの崩壊もお前の仕業か!」
妖はけらけらと笑いながらイクシアの質問に答える。
「まあそこはこうした方が面白そうだったからね。何せ改めてこう言えるんだからさ!」
妖は上にのぼっていってこう手を大きく広げる。
「犯人はこの中にいる!僕の手紙を受け取って殺した奴が!この中に!」
全員、互いの顔を見合う。
この中に犯人がいる。
せっかくここまで来たのにそれを妖によって壊されたような、そんな思いが立ちこめていた。
「じゃ。また何かあったらよんでね!」
そう言ってその場を妖は去っていった。
《遺体解剖記録 発行日 今日
死亡日時 今日
死因 頭部の貫通跡による即死 後頭部まで貫通
備考欄:とくになし》
「うわっ何ですコレ?」
フィーネが驚く。
「ほとんど書かれてない……。」
ロケットも驚き呆れる。
「最悪な事だらけね……。」
ウチワは頭を抱えた。
「いつだよ今日って……。」
イクシアは腕を掻く。
「外が真っ暗で時間もわからんぎゃ……。」
タートルはため息をついた。
その後、重い空気のままそれぞれがそれぞれの思うようにわかれていってしまった……。
おまけ休憩所
ロケット「フィーネ、気を落とさないで。」
フィーネ「私は大丈夫、けれど……。」
フェイ『うえーん!』
ロケット「ええっと……泣かないでフェイ、今は犯人を見つけよう。」
フェイ『うえーん!ロケットのバカァ!』
ロケット「ああ、ええと……。」
フェイ『この毛、神経通ってるのかな?』