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fruitFRUIT  作者: チル
3章 奪い合い
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fruitFRUIT3章疾走編

fruitFRUIT3章疾走編




 辺り一面に笑い声と拍手が響きわたる。

「いやー良い感動劇だったよ!全ての米か感動しちゃうね!」

 妖がどこからか歩いてきたかと思うと瞬間的に移動してロケットたちの目の前までくる。

「お前なんかが茶化して良いもんじゃない!」

 妖は気にせず話を続ける。

「いやでも今回は凄いと思うよ?僕がホライズンちゃんに接触したタイミング含めて推測もほぼあってるしさ。」

 ウチワは銃に手をかけいつでも撃てる用意をしておく。

「精霊たちを蘇らせたのが図書館の人間だったり、フィーネが即死じゃなくて証拠を遺しておいてくれたりしたことね。」

 タートルが遺体解剖記録を見る。

「随分と大まかにしきゃ事しか書かれてにゃーのも、その為ぎゃか。」

 妖が腕を組んで二回オーバーに頷く。

「そう!簡単に終わったらつまらないしねえ。」

 瞬間、ホライズンの前に移動する。

「さて、いつもどおりサクッと殺りたい所だけど精霊は困ったことに切ってもついても氷に閉じこめ人間ごとバラバラにしても精霊は人間が無事なら死ぬことは無いんだよね。」

 ロケットはヌールが殺された時の事を思い出す。

ヌールは惨殺されその精霊トッポも巻き込まれたはずだが残された精霊石には傷一つついていなかった。

 妖がさらに話を続ける。

「ここで代わりを殺して絶望を!なんてどこぞの二番煎じはちょっと趣味に合わないしどうしよっかなー。」

「だったら帰れば良いだろ!」

 ブレイヴが吠える。

 妖は手をオーバーに振る。

「おおこわいこわい。王子様にそう言われてしまっては素早くせねばなりません。」

 妖が深くブレイヴに頭を垂れる。

「え?」

 ウチワやイクシアが妖とブレイヴを交互にみる。

「ええ!?」

「結局またバレてしまったか……。」

 ロックが額に指を当てる。

「なあその話は後で良いだろ!話をそらす気だなアヤカシ!」

 妖が笑う。

「おおっとすいませんそれでは。サクッと。」

 妖が素早く小さな青いナイフを取り出しホライズンの胸に突き刺した。

『っ!?』

「やめろーっ!!」

 ブレイヴが跳んで背中を剣を抜く。

真っ白に輝く太いその剣が妖を捉える!

 しかし剣は妖に当たった手応えなく空を切る。

「くうっ、目では当たって見えるのに!」

 妖が剣をすり抜けると大きく手を振る。

「もう終わりましたからね、王子様!」

 そう言うと妖は消えてしまう。

直ぐに目線をホライズンに移すとホライズンの足元から結晶のようなものが出来てきていた。

『ぬっ、抜いっイタッ……。』

 その結晶は直ぐにホライズンの身体全体を大きく包み込み、小さなナイフごとホライズンを閉じこめた。

 中のホライズンはもう動いていない。

助けを求め涙をこぼしナイフを翼でふれたそのままの姿で。


 結晶の中に閉じ込められたホライズンは生きてはいるようで輝きは保っている。

それがなおのこと気の毒だとブレイヴは感じた。

「どうやったら助けれるんだろう……?」

 ブレイヴのライオン特有の尻尾を強く揺らす。

「ちょっと見せて欲しいぎゃ。」

 タートルがブレイヴから結晶に閉じ込められたホライズンを貰う。

「うーん、まー文献でも見たことがにゃー封印だぎゃ。」

『そんな、タートルでも!?』

 トンが驚く。

イクシアが顎に手を置いて疑問を口にする。

「そんなにも凄いことなのか?それは。」

 ブレイヴが頷き説明する。

「タートルは一度覚えたことはメッタに忘れないんだ。それにだいぶ博識だから分からない封印とかそう言うもののほうがメズラしいんだよ。」

 そんなやりとりを横目に見ながらウチワが時計を見る。

「皆、悪いけれど後にして。フィーネの復活可能時間が残り少ない!」

 午後4時半、フィーネの死亡からおよそ70時間半だ。


 道中は走って移動、但しタートルは走っても追いつかないので道中ブレイヴと歩かせウチワたちは全力で駆ける。

 それでも元々の道のりの遠さに加え図書館への直通ルートは獣たちの巣もあり迂回するよりは良いが時間がかかった。

着いた時には既に一時間を切り、急いで図書館へとなだれ込む。

「アヤカシ!早く姿を見せない。」

 ウチワの呼びかけにアヤカシがふっと目の前に現れる。

「おお、間に合ったね。ここまできて間に合わないのかとヒヤヒヤしちゃったじゃないか!」

 おちゃらけた様子で笑う。

「あの結晶に入った精霊はどうだい?あれはなかなか頑丈だからね、星が壊れてもあれは壊れないんじゃないかな。」

 ロケットが踏み込んで怒る。

「良いから早く復活させろ!」

「まあそうあわてなさんな、さすがにまだ時間はあるさ。まああの結晶の中は何もかも止まって彼の意識だけが流れ続けてる。ナイフの痛みもじき体に馴染んでなんともなくなるだろうし、息ができない辛さも永久の命と止まった身体では何ともなく戻るだろうし。」

 くるくると回って上へとのぼる。

「でもさ、この世が滅んでもあの世に行けないだなんて精神はどうなっちゃうんだろうね?心だけは永遠に時を刻んで行くなんて、どうなるんだろうねえ?」

 ゲラゲラと大声で笑う。

ロックが拳を握りしめて吠える。

「この畜生めが、どれだけの心を弄べば気が済むのだ。」

 ライムがゆっくりと頷く。

『ああ、互いの了承のないプレイなど一方的な暴虐でしかあるまい。』

 妖はゆっくりと地面に降りてフィーネの遺体の前に立つ。

「まあ、全員そろってないから勝利報酬の話とか雑談とかは後にしてそろそろやっちゃいますかー!」

 軽くそう言うと、蘇生のために祈りのポーズを取り、フィーネの周りに光の陣が展開されていく。

輝きがフィーネを包み、血と汚れと傷を消していく。

「本当にこんな事が……。」

 ウチワがそう呟く。

ウチワとウメ、ロックとライムは初めて見たので呆気に取られていた。

 蘇生の儀式は教会で多くの人手を使ってやっと出来るものだがそれを目の前でたった一人で行う。

彼が善人ならば世の中の理不尽な死を消していく英雄にもなったのだろう。

「はい、できたー。」

 蘇生が終わり、フィーネはその場に眠り込む。

 ロケットが駆け寄って顔を見、息をしてるのを確認して安心する。


「ひい、ふう、やっと着いたぎゃ……。」

 汗だくでなだれ込むように倒れて図書館に入ってきたのはタートルだ。

「ようしナンとかここまで引っ張ってこれたゼ!」

 続いてブレイヴも入ってきた。

「やあ!お揃いのようで。これで勝利報酬の話ができるね!」

 アヤカシが手を振るとブレイヴは武器を手に構える。

そんな様子を気にすることなく妖はどこからか持ってきた宝箱を置く。

「さーて第一は蘇生なので終わったのでカット!第二からオープン!」

 宝箱を開くと《Aブロックへの道解放!》と書かれた文が飛び出す。

ドッキリ箱だ。

「そう!ついに中央区、みんなが気になっていたAブロックに突入できまーす!みんな、突入前にセーブしたか?もう戻れないぞ?武器も買ったやつは装備しないと効果がないぞ?」

 ウチワがイライラして急かす。

「良いから早くしなさい!」

「じゃあ、次!」

 一旦宝箱を閉じるともう一度開く。

《獣たちがより強くなりあらゆる場所で血肉を求める!》

「第三の報酬はコレ!やっぱみんなそろそろ狩り飽きて来た頃じゃない?雑魚ばっかじゃ強くならないしさ、強い奴の素材の方が強い武器作れるしな!狩猟解禁!」

 全員に驚きが走り抜ける。

「な、それはデメリットじゃねーか!」

「いやー、報酬は報酬、そちらがなんと思おうとありがたく受け取ってね!」

 イクシアの突っ込みも軽くいなし、再び宝箱を閉じる。

「そもそも最初のBブロックからCブロックの解放も獣が放たれるからよくよく考えたらデメリットじゃない?というわけで第四!」

 宝箱をあけると《ロケットに関する質問なんでも一つ 2!》と書かれた文字が飛び出す。

「これは……。」

 前回、ロケットがしばらくの間混迷する原因となったものだ。

ロケットは精霊がいないということと。それなのにあらゆる術を目でコピーしてある程度のものまでなら扱える事が前回分かった。

 まるで妖のようなその力にもっとも不安を抱いているのは他ならないロケット自身だった。

 ロケットは少し悩み、そして絞り出すように声を上げて質問する。

「俺は……、俺は、何者なんだ。」

「良い質問だねロケットくん、じゃあ特別にすこーしだけ教えちゃおう!」


 妖が、どこからか黒板を運んできてチョークで書き始める。

「では、ロケットくんについて。」

 割と字は綺麗で見やすい。

「まず、ロケットのこれまで分かってること!」

《・ロケットはあらゆる致命傷を自力で回復する

・ロケットは術や技を目で見て盗む事が出来る

・ロケットに精霊はいない

・ロケットは数ヶ月前からの記憶がない

・ロケットは鼻が効く

・ロケットは実はメンタル面は強くない》

 ロケットを簡単に描いた絵もついでに描かれ、白のたてがみが良く再現されている。

「何か、自分に対して羅列されると恥ずかしくなってくるなあ。」

 ロケットが妖の書いた黒板の文字を見ながら呟く。

「ではロケットくんに関する新しく覚えて貰う事はこちら!」

 大きく○で囲いを作り、文字を書き込んでいく。

《・ロケットはまだ隠された力がある!》

「隠された、力……?」

 ロケットが反応する。

「気をつけろよ、また何を言ってくるか分からないからな!」

 イクシアの注意を聞いてロケットは頷き、妖の方を見る。

「そう、隠された力!名付けてフォームレボリューション!」

 妖が黒板に大きく書く。

ロケットが姿勢を崩さずに問う。

「一体それは、何なんだ!」

「これはねー、正直気付よって思うんだけどさあ変な所で鈍いからこんなめんどくさい事を僕が説明しなきゃならないのはかなり大変なんだけどさ。」

 黒板をぐるりと反転させ、裏向きにする。

そこには何やら絵が描かれていた。

「つまりだ、お前がこうなってこうだ!」

 左端に書かれた簡素なロケットを模した絵に右矢印が書かれていてその先には繭のようなものにロケットが包まれているように見え、そこからさらに右の矢印の先にはやたらとリアリティのある絵で四肢の獣が描かれている。

「うーん……?」

 ロケットは頭を悩ましウチワはどこか遠くを見ている。

「何なのかしらコレ、悪戯描き?」

 妖はショックを受けて大きくリアクションして怒る。

「もー、そんな訳ないじゃないか!ロケットくん!反応が薄い!夢がないぞ!」

 イクシアがひらめいたように話す。

「あ、もしかして変身が出来るとか?だったらロマンあるじゃないか!」

 イベリーは何も言わずイクシアの頭のてっぺんに止まる。

「おいイベリー、お前相当バカにしてないか?」

 妖がイクシアに指差す。

「そう!正解!なんとロケットくんは大変身できちゃうんです!」

「ほらな、俺の言った通りだろ!」

 イクシアが大げさな喜ぶのを横目に見つつロケットは妖に謎を問いかける。

「どういうことなんだ?変身って。」

 ウチワがロケットの目の前に手をかざす。

「つまり、こういう事かもね。」

 ウチワの手が一瞬で羽に変わり、すぐに手に戻る。

「まあ、変身種族そのものは多くいるからね。」

 タートルがうーんと唸りながら話す。

「まーでも、あの絵の通りにゃーとあんにゃー大きく変化する種族は聞いたことないぎゃー。」

 ロケットももう一度絵を見る。

「俺が……変身……。」

 妖が頷く。

「うんうん、でもフォームレボリューション!ただの変身とは規模が違う!ロケットくんのは何倍も強くなり、戦闘民族真っ青の戦闘力と優秀な身体能力を誇る存在になる!」

 ロケットは拳を見つめ、妖に問いかける。

「それはどうやるんだ?」

 妖は笑いながら解説する。

「まず、近くの人は危険だから離れてね、まあ後は本人のコツ次第なんだけどさ、お前が自分の中に眠るもう一人の自分のようなものをしっかりと確認するのさ。そして思いっきり力を解放してやればやれるさ。ま、頑張ってみて!」

 ロケットの周りからスペースを取るために全員離れ、ロケットは目を瞑る。

「俺の中の……俺……。」

 自分の中に意識を張り巡らして行く。

何となく気づいていたようなそんな存在が言われて、そして改めて意識する事ではっきりとその自分に気づく。

 自分なのにまるで全く別のそれは、自身の負そのもののようだった。

それを拒否しそして飲まれ傷ついてやっと気づけたその自分自身の闇の部分。

光があれば闇があるように、自分の中の怒り、悲しみ、妬み、苦しみ全て受け入れてなおまっすぐに見つめる。

 最後の自身への恐怖の壁が解け、もう一人の自分自身に触れれた。

そんな気がした。

「はあぁ!!」

 目を開いて自分自身からあふれ出す力を解き放つ!

ロケットが輝きを放ち不思議な陣の光がロケットを包む。

「フォームレボリューション!」

 ロケットは瞬間、身体についた服装が全部外れ外れた装備品は光の外へと出される。

手先から骨と肉急激に増え、構造も変わり大地を踏む前足へと。

足は踵が伸びて足先に太く肉球がついていき、爪も地面を蹴るために鋭く生える。

 体も大きく肉と骨が成長して人一人乗せれるくらいにまでになり、肩は後ろへ蹴るのに特化する。

首から頭へと刺激が走りまさに獣のように大きく変わっていった。

 頭から尻尾まで伸びる白いたてがみはより特徴的に増毛。

変身が終わると光が解け地に立つ。

「フォーム、フォルテッシモ!」

 ロケットは言い終わってから自分が今何かを言ったことに気づく。

思うよりずっと早く自然に口から言葉が出た。

「おー、凄いね、一発目からコントロール仕切るとは!」

 ロケットがさらに自分自身で驚いたのはまるで自分の体が違うのにしっかりと馴染んでる気がする事だった。

『おー、かっけー。』

 ウメがロケットの頭の周りを飛ぶ。

「案外似合ってるよ?その格好。」

 ウチワがロケットに鏡を見せる。

そこには知っているけれどまるで知らない顔が写っていた。

「良いな、俺も恐竜になれねえかな!?」

 イクシアが笑うがイベリーは冷静に返す。

『あなたは無変身種族だから不可能です。』

 妖が拍手してゆっくり歩く。

「いやー、本当はもっと圧倒的パワーに飲まれてただの獣みたいに暴れるかと思ったら意外にやるじゃん!まあ内心自分自身の凶暴性や抑えきれない本能は何となく分かるでしょう?」

「何とでも言え!俺は平気さ。」

 ロケットはそうは言ったが確かにどことなくそれは感じていた。

妖をこの牙で貫きたいなどはさすがに変身前は考えなかっただろうからだ。

 感覚も随分変わっている。

いくら

 何となく馴染んでてもそれは分かった。

当然手は使えず前脚は大地を蹴って一瞬で遠くまでいけそうだ。

 においも耳も、さらに言えば動体視力や全身の感覚が鋭くなり、さらに研ぎ澄ませば分かりそうな第六感のようなものすらも分かる。

 本当はフィーネをなめ起こし妖がいるところなんて離れたいが流石にそれはフィーネに怒られそうだからやめておいた。

「まあ立派な変身も出来た事で今回はこれでおしまい!また会おうね!」

 妖が撤収準備を始めた所で慌ててロケットが聞く。

「お、おいこれどうやったら戻るんだよ!」

 妖が背中を見せ手を振りながら話す。

「逆だよ逆!さっきの感覚でもう一度逆に戻すんだよ!」

 そういうと妖は消えてしまった。

ロックが尋ねる。

「大丈夫かロケット、戻れそうか?」

 ロケットは頷いて一度深呼吸をする。

「フォームレボリューション。」

 全身の力を抜いて、自分の中のもう一つの姿を引き出す。

光の陣に包まれて体がどんどんと縮んで行く。

光が解けた時は自然と装備も元に戻っていてちゃんと服も着ていた。

「フォーム、ピアニシッモ。」

 また自然と言葉が出た。

記憶にない部分がそう言わせてるのだろうか。

 そんな事を考えていると後ろからブレイヴが飛びついてきた。

「うわっ!?」

「すげーなそれ!オモシロそう!」

 ロックがブレイヴを引き剥がす。

「ロケットは玩具じゃないですよ流石に。」

 

 タートルはこの時、とある不安を考えていた。

今までDブロックは他ブロックとの狭間やこの図書館みたいな場所は精霊たちが力併せて獣避け結界を張っていた。

では今精霊がいなくなり結界はこの後どのくらい持つのか。

しばらく持つのか、それとも。

「あのー、みゃーさん達コレはおいらの考えにゃーけど。」

 タートルの呼びかけに全員タートルを見る。

「精霊たちがいにゃーなって結界が恐らくもう限界……」

 その時、外から大きな音がした。

何かが少しずつ割れていくような音。

「わ、割れたぎゃー!」

 ロケットたちの血相が変わる。

もし他のブロックやここに、妖が言っていたさらに強い獣達がなだれ込んだら町は全滅してしまう。

「三班に別れてブロックの狭間で防衛する係とフィーネを安全な場所まで運ぶ係に分けよう!」

 イベリーが全員いる中央あたりに飛ぶ。

『では緊急的に振り分けさせて貰います。』


 

 おまけ休憩所

ロケット「フォームフォルテッシモ!」

ウチワ「音楽記号の最も強くという意味ね。」

ブレイヴ「なるほどー……ここかな?」

ロケット「うわっ!そこはこしょばゆうやめっうひゃー!」

トン『ペットじゃないんだからブレイヴったら。』

ロケット「こ、こうさん!」

ブレイヴ「寝転がったりしたらオナカもなでちゃうぞー!」

ウチワ「フィーネには見せれないあどけなさ過ぎる姿ね……。」

ロック「あ、そこは触ってやるな!」

ライム『あの若さで大きな獣のそれを巧みに撫でるとは、やはり王の器…!』

ウメ『なにをいってーるんだろー。』

ウチワ「あんたは一生知らなくて良い事よ。」

ロケット「もう婿に行けない……。」


────────



 

 ウチワとウメ、ロックとライムが遠いBブロックへの狭間に急行。

タートルとトマト、イクシアとイベリーが近いCブロックとの狭間に急行。

そしてブレイヴとロケットがフィーネを運びBブロックの宿屋へと運び込む事になった。


 他の人達が外へ行ったのを確認するとロケットとブレイヴもフィーネを抱えて外へ出る。

「外にはまだ獣たちは来てないみたいだ。」

 ロケットがそう言って改めて方向を確認する。

「ロケット、オレが持つからさっきので一気にかけぬけよう!」

 ロケットからブレイヴに眠っているフィーネを渡す。

「おっとっと。」

 流石にブレイヴの小ささでは無理やり持つ事になるが見た目よりも筋量はあるらしくきちんと支えて持つ。

持てた事を確認してロケットが叫ぶ。

「フォームレボリューション!フォームフォルテッシモ!」

 ロケットが光に包まれ、獣のような姿に変わる。

ブレイヴがフィーネを持ちながらロケットに飛び乗る。

「かっトバしちゃえ!」

 ぐっと片手で毛を掴みもう片手でフィーネをロケットの背中に抑えつける。

「動くよ!」

 ロケットが前に足を踏み込み、思いっきり蹴る。

飛ぶように速い。

風を切ってどこまでも進めそうだった。

「うひょー!スゴいけど気をつけないと落ちそう!」

 ブレイヴはフィーネを抱えるように姿勢を屈める。

さらに走っていくと獣たちの姿があった。

小型ならともかく中規模程度だと数メートルあってロケットよりも大きい。

「敵だ!ロケット、俺オレとトンが攻撃する!」

「俺も蹴散らす!」

『ぼくもやるのぉ!?』

 敵の群に飛び込むとブレイヴ姿勢を上げて口を大きくあける。

「トン!」

『わ、わかったよ!』

 トンが光を強めながら口の中へ飛び込む。

「キングブレス!」

 ブレイヴが口から光線を放ち、敵照射する。

光熱が敵を焼き、さらに爆発まで起こしていった。

「まだ倒れないか!」

 妖の言った通りなのか獣たちは直撃を喰らってもむしろ怒ってこちらに突撃してくるものまでいる。

猪型が2匹、狼型が5匹、さらには5メートルほどの蜘蛛までいる。

「このままじゃあフィーネが危険で通れない!」

 ロケットが足を止め、獣の群に向かって威嚇の体制を取る。

「もう一度だ、キングブレス!」

 光線をさらに撃ち出す!

この時、ロケットが強くこの状況を突破しなくてはと思い体が自然に動いた。

 跳んで身体が輝きだし、ブレイヴが撃ち出した光が増幅されブレイヴの身体全体から光線が撃ち出された!

 さらにその光線に自分自身も乗って瞬間移動し着地と同時に大爆発を起こした!

「な、なんだ今のスゲー強かったぞ!?」

 ブレイヴが状況が分からずに困惑する。

「良くは分からない。けれど今ので道が出来た!」

 大きな爆発が獣たちの群のなかで起こったせいで獣たちは吹き飛び進む道ができた。

まだ蜘蛛型の獣や猪型の一匹が生きているが全力で走れば追いつかれないと考え、ロケットはもう一度駆ける。

「うおおおっ!!」

 獣達の間を抜け、時には群れに道を阻まれ先ほどの合わせ技を行い、時には爪と牙で直接制圧してひたすら駆ける。

「見えた、あと少し!」

 ブレイヴがフィーネを必死抑えながら狭間の壁の間を見つける。

「バリケードがある、間に合ったみたいだ!」

 DブロックとBブロックの狭間には即席で造られたと思われる獣の侵入を防ぐバリケードがあった。

ブレイヴを直前で降ろし、ロケットも人型へと戻る。

「フォームピアニシッモ。」

 ブレイヴがフィーネをロケットに渡し、バリケードに駆け寄る。

「おーい!オレだ!ロック!ウチワ!開けてくれ!」

 即席のバリケードは一部開くようになっていたらしく、向こうから開く。

 ロックがのぞき込む。

「早かったですね。獣たちは?」

 ブレイヴが周りを見てうなずく。

「大丈夫、近くにはいない!」

 まずはブレイヴがバリケードをとおり、ロケットがフィーネをロック達に渡して自分も通る。

「ふう、やっと一息つけたかあ。」

 ぐるるる。

気がやっと抜けたロケットはお腹の音に気づく。

「うーんやっぱり変身もエネルギーを使うんだなあ。」

 ウチワもバリケードの奥に居た。

「腹ぺこ護衛隊到着ね。宿に行きましょう。」

 ロケットのお腹の音がウチワにも聞かれていたらしい。

ロケットは少し恥ずかしくなった。


 宿ではすぐに宿屋の娘さんと婦人が調理してくれた。

ロケットは食事をとり、やっと一息つく。

「フィーネはそろそろ目が覚めるかな……?」

 フィーネは既にフィーネの自室に運び込まれ、後は目を覚ますのを待つばかりだった。

 一方ウチワはフィーネの目が覚めるまでフィーネの部屋で趣味の作曲をしていた。

フィーネの部屋に流石に何人もの男がいるのはまずいと思って他の人たちは外へ追い出し、ロケット以外のメンバーはCブロックへと向かった。


 宿について30分ほどたった頃、フィーネの目がゆっくりと開いた。

「……あれ?ここは……。」

 身体を起こそうとするがうまく動けない。

「あら起きたのガール?なかなか

よく眠ったじゃない。」

 ウチワが椅子に座りながらフィーネを見る。

「丸々三日。結構大変だったのよ?」

 ウチワがコップに紅茶を注ぎいれ、立ち上がってまずフィーネが座るのを手伝ってから紅茶を渡す。


「ありがとうごさいます。」

 フィーネは震える手で何とか受け取り、ゆっくりと飲む。

『うーん。おはようフィーネ……。』

 フェイも起きて、ゆっくりと飛ぶがそのままベットに落ちてしまう。

『力が入らないー。』

フィーネはフィーネ自身が思うよりもずっと衰弱しているようだった。

「私、死んでいたんですね……。」

 ウチワが頷く。

「まあ、ガールのアレのおかげて何とかなったけれどね。」

 フィーネは死の間際自分の行動を思い出す。

必死にひとかけら、何かを絵本の中に隠した。

「ああ、あの時の……。」

 しかしウチワが考えていたのは愚痴ノートの方だった。

「ガールも、なかなかやるじゃない。」

 ウチワがフィーネをつつく。

「あ、そういえば他の方はどうしたんですか?」

 フィーネの問いかけにウチワがある程度これまでの動向を伝える。

「結構、深刻な事になっているんですね……。」

 ウチワは扉から外のロビーへと声をかける。

「ロケット!眠り姫がお目覚めだよ!」

 ロケットが慌てて走ってくる。

「フィーネ!」

 ロケットがフィーネの目の前まで走ってきた。

「ロケットさん、心配をおかけしました。」

 ロケットが涙を浮かべたがすぐにふき取る。

「良かった、良かった……。」

 ウチワがそこにち茶化しを入れる。

「英雄と姫様の感動のご対面ね。」

 二人は少し照れ、ウチワに否定した。

「「違います!」」


 しばらくしたらロックたちが宿に戻ってきた。

向こう側も封鎖が済み、各ブロックごとの道のりはバリケードで塞いだそうだ。

「正直、ギリギリだ。」

 イクシアたちは机の上に広げた町の地図を見る。

イベリーやタートルが現状を書き足し情報を追加した地図だ。

『撤退戦をするのが限界なほど獣たちは強力でした。』

 町の地図の多くは真っ赤な危険ゾーンで染まっている。

「まー、やっぱりこいつは防衛組とAブロック突入組に分けるしかにゃーぎゃ。」

 タートルがそう言うと枠を二つ書き足す。

《アタック》《ディフェンス》だ。

「ディフェンスはどちらかというと先陣切って戦える人が欲しい。アタックはなるべくバランス良く。」

 イクシアがそう言うとイベリーが付け足す。

『未知であるアタック側の方を人数が多い方が良いです。5人はいるでしょう。ディフェンスは無限の獣たちを相手にするので殲滅するための力よりもしもの時防衛できる程度で平気だと思われます。』

 フィーネは椅子の上で机にもたれ掛かりながら話を聞いている。

自力で上半身を支えるのは難しいが話は聞きたいとの事だったのでロケットが連れてきていた。

「私、Aブロックに行きたいです、」

 ロケットが驚く。

「フィーネは参加しなくても大丈夫だよ!?」

 フィーネが首を横に振る。

「体力はいつか戻りますから、その時どちらに行きたいかと言うと私はAブロックに行きたい。そして妖に会って二度と悲劇を繰り返さないようにしたいんです。」

 ウチワが頷き《アタック》側にフィーネと書き込む。

「決定ね。ワタシは初めから妖を丸焦げにしてやるって決めてるからアタックね。」

 ウチワは自分の名前も《アタック》に書き込んだ。

「俺も行くぜ!ヌールの分までぶん殴らなきゃ行けないからな!」

 イクシアも名前を《アタック》側に書き込む。

「フィーネがいくなら俺も。それに俺のことを知ってるのはアイツだけなんだ。アイツに会いに行かなきゃ。」

 フィーネの側にいるロケットの代わりにウチワが《アタック》に書き込む。

「後、一人。」

 ブレイヴはタートルを見て頷き、タートルも頷く。

「実はさっき二人でフィーネさんの元へ向かう時、二人で決めてた事があるんだぎゃ。」

 タートルが自分の名前を《アタック》に書き込んだ。


 ブレイヴに引っ張られながら無理矢理走るタートル。

フィーネの遺体へ向かう時の事だ。

「ほら、走れ走れ!」

「ひぃ、そ、速度は限界ぎゃー!」

 タートルを引っ張りながらブレイヴは結晶をポケットから取り出して見る。

「なあタートル、オレは弱い。まだ国民を護るためには力が足りない。」

 タートルは急にシリアスになったブレイヴに驚く。

「最強の王族の息子ぎゃーそんな事も言う事があるんぎゃね。」

 ロケットたちはこの話を受けてる時に改めて説明して貰ったが、彼は武の王国の王子で慣わしに則って若い王国騎士の二人と共にに旅に出た。

“最強とは何か、それを旅で見つけて来い”

 それがブレイヴが父親に言われた言葉だった。

「旅に出た時から今まで、オレはオレの力でどんなヤツにもカツことがサイキョウだって思ってた。」

 獣に出会うと背中の剣を取り出し、足を止めずに振り払って叩き切りとばす。

「でも、オレよりずっと強い、父上以外に強い奴に会って、戦いすら出来なくて。」

 手をかざしてトンが飛んで光の爆発を起こす。

獣たちを吹き飛ばしてさらに進んでいく。

「それでそいつはたくさんの奴を傷つけ行った。たくさんの敵を全て力でねじ伏せて。それを見て初めて気がついたんだ。オレの思ってたサイキョウってあんな血に染まった奴の事だったんだって。」

 背後からの獣はタートルに飛びかかってくるたびにタートルが鎧の重みで殴って跳ね返す。

「オレはサイキョウってものを根本的にカンチガイしてたんだ。何にでも勝てる力がサイキョウ何じゃなくて、どんな相手も敵じゃなくどんな相手すらも護ってやれるほどデカい存在なんだ。」

 タートルが走りながらうん、うんと相づちを打つ。

「我が王国の外交基本の一つ、あらゆるものは敵にあらず、恐怖により力を振るうものすら受け止めれる心で接せよぎゃね。」

 ブレイヴが驚く。

「え、何それ父上はナニも言ってなかったよ!?」

 タートルが笑う。

「それはもう、教えてないぎゃーね!」

 ブレイヴはショックを受けるが話を続ける。

「父上、イジワルだなあ。まあいいや、とにかくオレは改めてサイキョウって何かを見つけたいんだ!だからせめてこの先戦いになるのなら戦いに向かうよりみんなをまもるためにやりたいんだ。」

 ブレイヴが止まり、タートルの手を両手で握る。

「だからタートル、オレの代わりにこいつを助けに戦いに言ってくれないか!」

「ええっ!?」

 ブレイヴはタートルにホライズンの閉じ込められた結晶、涙の結晶を手渡す。

「そ、それならロックもいるんぎゃ!?」

 ブレイヴは首を横に振る。

「ロックはオレに甘すぎからきっとオレとやろうとしてしまう。けれど今回はそれじゃあダメなんだ。タートルはいつもオレに対してでもちゃんと接してくれた。それにタートルならきっと見たことがないものでも、きっと何とかしてくれるって思うんだ。」

 タートルは手渡された涙の結晶をしまう。

「分かったぎゃ。まーそこまで言われたら腹括ったるぎゃ!」


「なるほど、まあ拙者は王子と共になら問題はない。」

 《ディフェンス》にブレイヴとロックが書き込まれた。

「オレたちが守りきってみせるから、Aブロック組は安心して探索してよ!」

 ロックが頷く。

「病院に置いてきた荷物もなるべく早く取りに行っておく。Aブロックに突入する前になるべく準備しておく方が良さそうだからな。」

 ブレイヴが太い剣を鞘から出し天に掲げる。

「このブレイヴ・オールファウンド・ヴォルテニア・アレキサンダー、剣に誓い人々を守る!」

 ウチワがはっとする。

「アレキサンダー家……この国の隣国の国王一族。」

 ロックが頷く。

「旅はあくまで一市民としてせよとの事なのでこの事は内密に。」

 ブレイヴが剣をしまい、装備を整える。

「早速だけれどオレちょっと行ってくる!」

 ロックも身支度を整える。

「拙者も行こう。突入組はフィーネ殿が回復するまでの間ゆっくりとしていてくれ。」

 そう言うと二人は二人は宿の外に飛び出していった。


 おまけ休憩所

ロケット「フォームフォルテッシモ!」

フィーネ「わあー、話には聞いていたけどすごい!」

フェイ『毛もモッフモフだね!』

ロケット「なんかじっと見られると恥ずかしいなあ。」

フェイ「あ、思ったより毛が硬い!」

フィーネ「え?どれどれ?本当だ、きっと攻撃を受け流しやすいようになってるんですね。」

ロケット「うう、思い切って触れるのもこしょばゆいけれどそっと触られるのもなんかこうたまらない……!我慢しろ、我慢するんだぞ俺!」

フェイ「心の声ダダ漏れだけどね!」




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