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fruitFRUIT  作者: チル
3章 奪い合い
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fruitFRUIT3章苦闘編

fruitFRUIT3章苦闘編




 キャラクター紹介


 ホライズン2

青い小鳥の精霊で今回の事件の容疑者。

現在逃走しているが決定的な証拠がなく追いつめれない状態。

またこのDブロックに関する秘密を知っていると思われるが口をとざす。

重力を操り一瞬で加速したり相手を浮かしたりできる。



──────────


 翌日、結局全員が回復するのには昼までかかってしまった。

特にウチワは見た目以上にダメージを喰らっていてちゃんと活動できるまでに時間がかかった。

けれどロケットは全員で行動することを主張して全員回復するまで待つことになった。

 その間にロケットが修復を終えてウチワに持ってきた。

「見てください、何とか復元できました。言われた通り四角の花瓶でした。」

 片面に色濃く血のついた四角の花瓶だ。

ウチワが《魔術大全》の本を取り出す。

「それが凶器って事に間違いは無さそうだけれど、それが凶器ならこの本は何なのかしら。」

 ロケットも考える。

「たぶんですけれど、フィーネが持ってて血がかかり、それを犯人にとって何か隠したい事が書いてあるから本棚に隠したとかかな……。」

 ウチワは頷く。

「その可能性は高いね。けれどこの本からその記述を見つけるのは苦労しそうね。」

「うん、読めない本となると特に。」

 ロケットの一言にウチワははっとした。

ウチワは幼少期から複数の言語を学んだためウチワにとっては外国のこの地でも母国語のように扱える。

しかし本に書かれている文字はこの国のものではなかった。

念のためブレイヴたちやイクシアにも聞いたがやはりちゃんと読める人はウチワのみだった。

「まったく、この国でもこの文字は習うはずなんだけどねえ。」

 圧倒的な本の厚みにめまいを起こしそうになりながら素早くめくっていく。

「もしかしたら、ガールならヒントを残しているはず……あった!」

 ウチワが素早くめくっていくと耳が折り畳んであったページが見つかった。

《精霊の復活魔法について》

「……オカルトな臭いがぷんぷんしてくるわね。」

 精霊術が盛んなこの世界では魔法は廃れほとんどこのようなマニアや怪しい宗教団体が利用するものになっている。

そんな怪しげなものだが《精霊の復活魔法》というのはこの精霊たちしかいない世界と無関係とは言えなさそうで読み進める。

《自然の存在である精霊を自然を逸脱するための魔法で復活させるのは両者の基本となる部分が同じのため可能ではあるが多くの犠牲と望まない結果が導かれる可能性は先に書いておこう。

 またこれで蘇るのは精霊のみで人間の復活の仕方は555頁参照の事。

やり方はまず復活させたい精霊石を集める。

犠牲となる物を考えると一度になるべく多く集めるのが良い。

精霊石の光の脈動は有無を問わないのがこの魔法の特徴である。

 精霊石を集めたら以下の図の通り家一つを使う魔法陣を描く事。

(家のタイプごとに詳しく図解がら載っている。)

 魔法陣を描けたら図の中央と書かれた場所に精霊石を山積みにする。

そして肝心の犠牲についてだがそれは実行者自身の身体と復活する精霊たちの人間に関する記憶だ。

実行者のパートナー精霊は死ぬ事なく精霊の特徴である宿主が死んだ時に死ぬ以外のあらゆる死因を無効化するのも引き継がれるため実質上不死となる。

儀式そのものは簡単で実行者の血を精霊石に垂らし以下を唱えるだけである。

「我を捧げ精霊よ蘇らん。」

 見事成功すれば犠牲と引き替えに精霊たちは蘇るが一時的に記憶混乱を引き起こし暴れる可能性がある。

じきに人間と同じように失った記憶を都合良く補正されるのでそれまでは見守っておくこと。

 もちろん死んでいた事も人間に関わる記憶だから忘れているがこれを忘れている事がこの魔法の要である。

もし復活した精霊の誰かが自分たちが魔法により蘇ったと知ってしまったら連鎖的に全員の記憶が戻り、自然の存在が自然を逸脱した術で与えられた命に矛盾が大きく発生し肉体と精神が剥離し再び死を迎えてしまう。

この魔法を使う場合必ず精霊たちに知られないようにする必要がある。

 なおこの術で現在まで生き残っている復活した精霊はいないと言われている。》


 ウチワは頭がだんだんと文章を受け入れなくなってきたのを感じていた。

「オカルトすぎる……。こんなのが本当に解決の糸口になるのかしら。」

 イライラを込めて本を勢いよく閉じたら軽く風が起きた。


 危険な地域にも出かける可能性があるので装備もBブロックで新調する事になった。

ロケットは鋼の最新鋭の棒槌になり効率よく力が伝わるよう工夫がされているものになった。

服も壊れてしまってので獣の素材をふんだんに使った頑強な冒険服にした。

以前のに比べ動きやすさと衝撃を和らげる緩衝力に優れている。

 ウチワも守りの足輪に精霊たちの力を注ぎダメージ緩和の結界が強く張れるようになった。

銃も鋼の最新式猟銃で緊急に製造してもらった。

フィーネのも今はいないが強化しておいた。

イクシアのは精霊たちとの対話で強化のコツを習得しより石だけでなく鋼すらも扱えるようになり鱗を一時的に鎧のように頑強化することも可能になった。


 なお以下が現在の装備だ。

ウチワ→プロ用鋼の猟銃、貴婦人の服、守りの足輪

ロケット→鋼のハンマー、獣のバトル服

イクシア→鋼の剣、鋼鉄の盾、荒くれ者の服



「にしてもこんなのよく作って貰えたね。普通はもっと時間掛かるでしょう。」

 ウチワの疑問にロケットが答える。

「ああ、それならブレイヴたちが……」

 ロックが跳んできてロケットを攫って行く。

そして遠くでひそひそと話をしてこちらに再び話かける。

「拙者らはただの旅人で偶然作って貰えた。だなロケット。」

「ウン、グウゼンダヨー。」

 そんなロケットたちの様子をウチワは見て、これ以上深入りしないほうが良さそうだと深く心に刻んだ。


 午後2時、準備を終え病院からでる。

「本当にそれで追えるのかしら?」

 ウチワの疑問にロケットは頷き、ホライズンの残した抜けた羽根のにおいをかいで記憶する。

「そのかわり集中しますから出来るだけ話しかけないでくださいね!」

 空気のにおいをかいでロケットにだけわかる道筋を辿っていく。

周りから見ていると何もわからないから不安になりつつもロケットを信じついていく。


 道中何度も大回りさせられたり獣たちの縄張りを通らさせられたりかなり苦労して辿り着いた所は町外れの……といっても今は山の中になっているが、そこの一軒家だった。

 家はここらへんに住む精霊の仕業か迷彩柄に塗られている。

「ここにいると思う。」

 ロケットがそう言い、扉を開けて一歩踏み込む。

「う、うわっ!?」

 途端にロケットが宙に浮く。

「まずい、捕まれ!」

 イクシアが慌てて手を伸ばし、ロケットが掴んだのを確認して引き戻す。

「家の中は無重力状態なのね。」

 ウチワが近くの小石を家に投げると落ちる事なく飛んで行った。

「拙者に任せよ。」

 ロックが手を床に向けるとライムが手の平の側に移動する。

『水遁蜘蛛巣!』

 そのまま勢いよく家の床に飛んでいくと水を地面にまき散らした!

水は広がっていかずまるでゼリーのように固まっている。

その上にロックが足を置くと宙に浮かず足が水にくっついた。

「粘着性の液体を弱めて動ける程度にくっつけたものである。これなら進める。」

 そう言って進んでいき次々と床に水をまいた。

 ロケットたちも後に続いて中に入っていく。

確かに足がくっつくが上に足をあげればちゃんと離れるようだ。


 中へと進み驚いたのはその本の量だった。

壁一面本棚と本で埋め尽くされ、下に引いた絨毯と机だけの簡単な作りの家だ。

奥にはバスルームがある。

「これほどの本、よっぽどの本好きぎゃー。」

 タートルが宙に浮かんだ本をつかみ、近くの本棚へ戻す。

ゆっくりとすすみ本だらけの空間でホライズンを探すが見あたらない。

 また事件に関係しそうなものもないかチェックしていくがそれらしいものは無いようだ。

「もう暗いなあ。」

 ロケットがそう呟く。

ブレイヴは近くの窓を見る。

「うん、すっかり夜で月が山にのぼっていって……あれ?」

 窓からの景色は上に山や町が見え、下には月が見えた。

そして窓に飛んできたホライズン。

逆さまになって飛んでいるように見える。

『最初からこうするべきだったんだ……!』

 ロケットがはっとして気づく。

「しまった!この家時代が浮かんで逆さまに!」

 床にくっついていたせいでいつのまにか家ごと精霊術に掛かっているのに気づけ無かった。

『落ちろ!』

 ホライズンがそう叫ぶと、天井の方に、つまり地面に向かって重力が働く。

「うわぁまたぎゃ!?」

 その時タートルの鎧から精霊のトマトがでてくる。

『も、う、許さんぞ!!』

 トマトは憤り水色の体が一瞬で真っ赤に染まる。

「助かったぎゃ、トマト起きたぎゃ!」

『行くぞぉ!』

 瞬間タートルたちが水に包まれ、タートルの体が水へと変化する!

そして外へと飛び出し地面に落ちるぎりぎりの所で先回りして家を大きな水泡で包む!

 右に腕を振るとぐるりとそのまま空中に浮いた水泡の中の家が回転し元の上下位置に戻る。

そしてタートルが下から退いてゆっくりと地面に降ろして着地させ、水泡は弾けた。


 タートルの体も元へと戻り、トマトの色も水色へと戻る。

『次は、ぶっとばしてやる……ぐう。』

 鎧の中へと戻って眠ってしまった。

一方中のウチワたちは本と水だらけになっていた。

「今の一瞬で、二回死にかけたね……。」



 おまけ休憩所

ウメ『みずのんだー。』

ライム『俺は泳げるが他は辛いだろうなあれは。』

トン『むしろ空を飛べる精霊たちにとっては水の方が苦しいよ……。』

タートル「まーなんか頑張って助けりゃーってのにすごい不満の数だぎゃ……。」


──────────




 キャラクター紹介


 ロック・スチール2

茶毛の猿の男でニンジャのような格好、ニンジャのような暗器だけでなくニンジャのような精霊術を使う。

“水遁蜘蛛巣”はあらゆるものを接着する。

“水遁水塵縛鎖”は相手を水に閉じこめ窒息させる


 タートル・タンク2

 蒼色の亀の青年で訛りがきつい。

かなり思考を重ね問題を解決するタイプ。

 鎧と甲羅の重さと性格から普段は遅れやすいが相方の精霊トマトが真っ赤になって怒った時一変する。

“アクティブチェンジ”で自らの体を水へと変化させまったく別の生き物のように動くことが可能になる。

“ウォーターコントロール”は大量の水を思いのままに操って空中にだって水を走らす。


────────


 ずぶ濡れになってしまいまたホライズンには逃げられてしまったので一旦病院に帰ることになった。

 午後8時、フィーネの死から50時間。

病院からは直線で30分ほどの道のりだとわかったので次は早く行けそうだった。

明日ホライズンを追い詰めてから最後の議論をする事にし、一旦休むことになった。

 病院に帰るまでに時間が掛かったのは一度ひっくり返りさらに戻った家からの脱出だった。

あらゆる本棚はひっくり返り扉は壊れ本で道が無くなりしかも水だらけで本がそれを吸って最悪な状態だったからだ。

 ある程度片づけが終わり次来た時に支障がないようにするのにすら苦労した。

しかし苦労した成果は得られた。


 翌日の7時には病院を発って昨日の家へと向かう。

「本当にあの図面どおりのものが出てきたら決定的なんだけれどね。」

 家は水に塗れたことで迷彩柄のペイントが一部はがれ、その下に謎のラインが見えたのだ。

さらに内側にも本棚の裏の一部、絨毯の下の一部にも。

もし白線が《魔術大全》に書かれた通りならウチワ達にとってとても大きな進展となりうるからだ。

「なるべく昼までにはホライズンに追いつきたいですね。」

 ロケットが時間を確認しながら言う。

ロケットの言う通り今日の18時あたりがタイムリミットで、追い詰めるには後僅かしかなかった。

「アヤカシに会ったことがにゃーというのもウソなのぎゃ、知ってて逃げてるとすると厄介だぎゃ。」

「呼んだ?」

 妖が急に目の前に現れ、全員武器を構える。

「ええ!?呼ばれて飛び出たのにそんなお出迎え!?」

「だあれも呼んでないぎゃ。」

 妖がやれやれといったポーズを取る。

「まあ良いや、えっとホライズンがルールを知っているかについてだけど、僕が指定した参加者はみんな知ってるって言うのはー、言ってなかったね、まあわざとだからね!」

 あざけわらいながら話を続ける。

「だから彼は逃げる!真実を隠すために!探偵側はちゃんと真実を明らかにしないと勝ちとは認めないからね?」

「ふざけるな!結局お前の気分次第じゃないか!」

 ロケットが食ってかかるが何食わぬ声で妖が返す。

「そらそうだよ、僕がゲームマスターだからね。気に食わないなら降りて結構。フィーネは生き返らないけどね?」

 ロケットが一歩引き下がる。

「ぐっ……。」

「ええと、後残り時間は……わあ大変、ずいぶんと少ないね!今までで一番熱い戦いになってるようだからどっちも応援してるよ!じゃね!」

 妖はそう言い残すと消えた。

「とりあえず急いだ方が良いのは分かったね。」

 ウチワは銃を降ろしてそう言った。


 家につき、はじめに行った事は塗装剥がしだった。

ウチワが本の絵柄を見てその位置にある塗装を少しずつ削って剥がしていく。

「わざわざ家の大きさ違いで描いてあるなんてねぇ。」

 塗装はわりと簡単に剥がれ、下側にあった白線が出てくる。

外だけでなく中も同じだった。本を退かし線の位置を見て塗装を剥がす。

丁寧に塗りきる事が出来ずに色々な手を使って隠していたのだろうが、今全ての線が見え見事に魔法陣が見えた。

「やっぱり、こんなバカげた事をした奴がいるんだね。」

 魔法陣を本と目の前のと見比べながらウチワが言った。

イクシアは魔法陣を見渡す。

「そして恐らく成功したと。」

「ということは、それを知ったらここの精霊はみんな死んじまうのか!?」

 ブレイヴが尋ねにウチワが頷く。

「そしてホライズンがこのバカげた事をした人間のパートナーね。彼だけが知ってて、ワタシたちごと家を破壊して隠そうとしたんだね。」

 重い本を閉じ時計をみる。

時間は11時を指していた。

「ロケット、ホライズンを追えそう?」

 ロケットが頷く。

「においは覚えています。また時間稼ぎしている可能性があるから急ぎましょう!」


 家から出て外へと行き、以外にも今度は目的地まで直進だった。

一時間ほど離れた場所にある所だった。

氷と炎の地を越えたDブロックと町の外との境界線付近だ。

「ここは……酷い臭いだ。」

 ロケットが鼻を抑える。

ロケットでなくてもわかるほど、はっきりと腐敗臭がした。

周りを見渡すと即席の墓がある。

しかも大半は埋められてすらいない、腐敗した遺体たちが大量に積まれている。

『ここには誰も来ないように言ってあるし、普段は私が見張ってるから誰も立ち入らせないんですよ。』

 どこからかホライズンの声がする。

「そこにいたか、観念せい。」

 ロックが指した先は墓の上だった。

『随分、苦しそう。』

 トンがホライズンを見てそう呟く。

精霊が発する光は消えかけ随分と元気が無くなっている。

「力を使い切ったって感じだな。」

 イクシアが指摘するとホライズンが答える。

『精霊術は人間と精霊が力合わせて使うもの。私だけじゃあもう前みたいには出来ない……。』

 ウチワが前に出て、話しかける。

「こっちも時間が無いから手っ取り早く済ませるよ。」

 ホライズンはそれでも強がってみせる。

『今度は出任せじゃないんですよね?』


ウチワ「まずは犯行そのものについて。」

イクシア「今までは犯人が本で殴ったと考えられていたんだよな?」

ホライズン『私は本なんて持てません。たとえ力を使っても宙に浮いた後本が開いちゃう可能性が高いから狙って殺すには人間が手で振り回すしかないんですよ。』

ロケット「だけどそれは凶器が本ならの話だ!」

 ロケットが運んできた証拠品から組み立てた破片を並べ出す。

ホライズン『それは……。』

ロケット「獣の巣に隠してあった破片を組み合わせたら花瓶に成ったんだ。」

ホライズン『だけど、それがどうしたって言うんです?どこのなんのものかもわからないのに!』

ウチワ「そうでもないのよ。図書館には4つ花瓶が置かれていた形跡があった。埃が残っていたからね。けれど誰かが乱雑に片づけ3つは合ったけれど一つは無かった。造花も4種類あったけれどね。そして置かれていた跡の形が底が四角なもののみ無かったけれどこの花瓶は四角に復元できた。偶然は二つまでなら奇跡だけど3つ4つ重なるならそれは奇跡でも何でもないよ。」

 ウチワはホライズンをにらむ。

ホライズン『ぐっ。』

ロック「犯人が急いで片づけた花瓶とそしてさらに割れてしまった隠したかった血濡れの花瓶。見つかってしまえばむしろ凶器を浮き彫りにする。」

ロケット「さらに花瓶なら事情が本とは異なる。花瓶なら無重力で浮かした後元に重力を戻せばそのまま確実に落下する。ほぼ確実に殺せるんだ。」

ホライズン『まだ、それなら人間がやることだって可能なはずです!』

ウチワ「人間たちは周りの精霊に監視されまくっててその結果動いてない事が分かったのはもう知っての通りでしょう。」

ホライズン『ううっ。』

ウチワ「ちなみにこれの一部の欠片は絵本の中から見つかった。偶然とも考えれるけれどたぶんこれはフィーネの精一杯のダイイングメッセージね。」

ブレイヴ「ダイイングメッセージ?」

ウチワ「死に際のメッセージよ。」

 ウチワが遺体解剖記録を読む。

ウチワ「この記録には一切即死なんて書かれていない。少し動けたともとれる。その間に凶器の一部を隠した可能性は十分にあるね。」

ホライズン『だけどそれがどうしたんですか!他の人間の精霊がこっそりやった可能性もありますし何より私には動機がないですよ!』

ウチワ「それはこのDブロックの秘密をフィーネが知ってしまったから。」

 ホライズンがぐっと空気を飲み込む。

ブレイヴ「あの凶器になりそうな本に血はついていたけれど、あれはフィーネが持っていたからその時の血がついたんだよな!」

タートル「あの本を隠した理由はまー絶対に困る内容だったからぎゃ。」

 ウチワが《魔術大全》を広げる。

ウチワ「この本にはヒントが書かれていた。まあ正直オカルトすぎるけれど魔術で精霊たちを蘇らせる方法を。そこの頁の耳が折られていた。

絵本もはじを折っていたから余計にフィーネが見ていたってわかる。」

ロケット「正直俺にはなんて書いてあるか分からないけれどウチワさんや学校に通ってるフィーネなら読めたと思う。」

ウチワ「そしてフィーネがそれらを調べて感づいた事でホライズンはフィーネを殺さなきゃいけなくなった。」

ホライズン『……なんでです!?』

ウチワ「この魔術は復活した精霊たちに知られると精霊たちはみんな死んでしまうから。」

 ホライズンの顔が歪む。

タートル「だから隠したんぎゃ。獣たちにやられた人間そのものも、儀式に使った本と家すらもだぎゃ。」

ロケット「この周りの遺体が今の精霊たちの元パートナーだよな。」

ホライズン『……それは、言えない。』

ウチワ「言えなくても進むよ。貴方が丸ごと壊そうとした家こそが儀式が行われた家でさらに言えば儀式で犠牲になった実行者の家、そしてそのパートナーであるホライズンの家。」

ホライズン『何を、何を根拠に……!』

タートル「みんなで塗装を剥がしたらー、線が現れたぎゃ。それはこの本に描かれた魔法陣そのものだったきゃ。」

ホライズン『!』

ウチワ「貴方しか記憶が違う奴はいないかないからね。そんな大きな秘密を抱えれるのは実行者のパートナーである貴方しかいないから、貴方がその秘密を守り通す役割を負った。」

ロケット「魔術でつくられた偽りの精霊の国………。」

ホライズン『そこまで、そこまで分かってるならそっとしておいてよ!私が認めたら、私が負けたらこの国は……!』

ウチワ「こっちだって人名が掛かってるの。守るために手段を選ばなかった事をせめて悔やみなさい。フィーネの代わりにワタシがもう一度最初から犯行を振り返って負けを納得してもらう!」


 虹色の壁に閉じこめられ、このブロックにも獣が放たれた。

しかもとても強力な獣たちで人間たちはなすすべなく倒れていった。

そこで一人がとても馬鹿な賭をした。

人は絶滅寸前だけれど精霊だけでも生かそうとした。

そこでその主は魔術大全に書かれている通り大量の精霊石を集めた。

 そしてそれは恐らくよほどの本好きで図書館にでも勤めていたんだろう、そんな家の主だった。

 その人間とパートナーだった精霊の犯人は重力を操れたからたとえ獣たちを倒せなくても生き延びて遺体を運ぶ事だけは出来たんだろう。

そしてその人間は賭に勝ち、精霊は蘇った。

その人間の命と、精霊達の人間に関する記憶を犠牲に。

 そして唯一そのことを知っている精霊の犯人はこの事を守り通す事にした。

もし蘇った精霊たちに知られれば記憶が戻り自らの死すらも思いだして再び死んでしまうから。

 そして犯人は家の儀式跡を隠した。

そしてアヤカシにも実は会ったはずだ。

それ自体は妖が自ら語った。

殺しのルールを聞いた犯人は最悪それを利用して秘密を守ることにした。

 暫くした後に人間達が外からやってきて、犯人は監視するために接触した。

しかしこの時フィーネは疑いを持ち書き記した。

 病院へと行った後特に人とは会わずフィーネは外を探索した。

しかし精霊である犯人はしっかり監視していた。

 そのまま図書館が調べ物をしたフィーネは犯人に見張られているとも知らずついにヒントを見つけてしまう。

この時点で断定できることは何も無かったと思う。

しかし犯人はフィーネをとても危険だと認識し、近くにあった花瓶を重力の力を使って浮かしそのまま頭に落とした。

 フィーネは致命傷を負い、血が持っていた2冊の本にかかった。

そしてそのうちの一冊、重大なヒントが書かれている《魔術大全》を犯人は重力の力を使い仕舞ったがまだ僅かに意識の残っていたフィーネが最後の力で花瓶のかけらを絵本に隠した。

それに犯人は気づかず犯行につかった花瓶の欠片を拾い急いで他の花瓶も隠し欠片そのものも高速飛行して獣の巣まで行って隠蔽工作をはかった。

 そして犯人はフィーネが倒れてるのを見たと病院まで知らせに行き犯行を確立させた。

人間を呼んで、人間が殺したのだと思わせるために。


ウチワ「これで良いんだよね?犯人のホライズン?」

ホライズン『後少し、だったのに……。』


 ホライズンは墓の上からゆっくりと力なく落ちる。

『ぐうっ!』

「うわっ、大丈夫なのか!?」

 ブレイヴが声をかけるが既にホライズンは地面に翼を投げ出してまさに力尽き果てている。

「精霊はあらゆることをしても殺されないけれど宿主が死んだ場合共に死ぬしかない。けれどそれにすら逆らうような今回のケースだとどうなるのかしら。」

 ウチワがホライズンを見つめているとロケットが屈みホライズンを拾う。

「もし俺と同じ用な感じならきっと死なないけれどあらゆる事に自分のエネルギーを多く使って、それで衰弱した時に死んでしまったらきっと蘇れません。」

『何となく、わかるんだ。私は力を使いすぎたって。でも私はきっと死ねない。精霊はパートナーが死んだ時だけ死ねるのに、そのパートナーはもう死ぬ前に消えてしまったんだから……。』

 ホライズンが力無く話す。

そんな様子を全員で見ているとき、物陰から声がした。

『ねえ、本当?』

 物陰からは精霊たちが数匹出てきた。

「そんな!」

 ウチワが驚く。

『何でここに……!』

 ホライズンが立ち上がろうとして倒れながらそう言う。

『人間たちが入っていったから……。』

『ついて行こうって。』

 もし復活した精霊たちに魔術で蘇ったと知られたら。

『ここなら最悪他の精霊には秘密は聞こえないと思ったのに……!』

「俺がもっと気をつけてれば……!」

 ロケットが悔しがるがイクシアが首を横に振る。

「ロケットのせいじゃない。いつかこうなることだったんだ。」


 蘇った精霊たちの光が不安定になっていき、泡のような光が立ちのぼり始める。

『思い出した、思い出したよ!』

『ごめん、ごめんねわたしたちの為にホライズンに辛い目を負わせちゃったんだね。』

 ホライズンがやっと立ち上がる。

『違うよ、私が、私達がやりたかっただけだったんです。私達のエゴでこんな事になってしまったんです……!』

 精霊たちがホライズンの周りへと集まる。

『自分を責めないでホライズン!』

『ちょっとだけの間だけだったけど楽しかったよホライズン!』

『わたしたち、先にパートナーに会いにいくよ。ホライズンは後からゆっくりで良いからいつかまた会おうね!』

 ホライズンは光の泡にたちに囲まれていく。

ホライズンはその泡に多くの思い出を見た。


 町が閉じこめられた日はいつもどおり図書館にいた。

パートナーは本の虫と言わんばかりの本好きでいつもどおり図書館で仕事を行っていた。

外が騒がしいと思い、本に夢中なパートナーを置いて外を見てくると獣たちが町に放たれていた。

慌てて知らせると本を閉じ、急いで図書館全体を無重力で囲った。

ホライズン単体なら無理だがパートナーはホライズンの力をより強く効率的に引き出す天才だった。

 騒動が落ち着き外を見るとそこはもう人はおらず無惨にも遺体と精霊の石が転がるばかりだった。

図書館にいて助かった人はおよそ10人。

無重力から解放するなり各々が各々の思う通り動き、そして誰も帰ってこなかった。

 人間とホライズンは考えて考えた挙げ句、人間はホライズンに全て託す事に決めた。

ホライズンは拒否をしたがホライズンも分かっていた。

この状況では人間が全滅するか精霊だけでも生き残るかの二つだけだと。

幸か不幸かここは住宅は少なく閉じられたのは朝早い。

遺体は数千人ととても多かったが、とても少なく済んだ。

ホライズンとパートナーとの最後の協同作業を終え、山のような精霊石の数を家に運び込んだ。

そして儀式は無事成功し、ホライズンは永遠にパートナーと別れる事になった。

その時に見た光は泡のように石に降り注ぎ、石は精霊となって輝きを取り戻した。

家から勢いよく飛び出していった精霊たちはこの場所を全て変えていった。

まるで人間とのお別れをするように。

人間との別れを告げたホライズンは、精霊たちはずっとここで生きていく。

 ホライズンはそんな精霊の国の王様になると覚悟を決めた。

永遠に終わらない命を持った者として、この世界を守るために。

 短い間にもホライズンは精霊たちを導いた。

炎と氷の精霊の喧嘩を止めて冷凍焼き鳥になりかけたり、不安がる精霊たちに絵本を読み聞かせたり、時にはひとり誰にも見せれないパートナーへの想いに涙して。

けれどみんなホライズンを頼ってくれた。

ホライズンを精霊のみんなが笑顔にさせた。

輝かしくも切ない想いが今光の泡となって空へと昇っていく。

ホライズンは《王様》としての思いを強く持ちすぎていた。

だから人間が、あれだけ待ち望んだ人間が入ってきた時にこの平和が壊されると心を恐怖に閉ざした。

恐怖は攻撃心を生み、ただ正直に話すだけだったのに恐ろしい行動に走らせた。

ホライズンの精霊の国の王冠は、その時頭から落ちてしまった。

 ホライズンにしか見えない王冠はその時に無くなり、全てを終わらすきっかけになってしまった。

光の泡はそんなホライズンの心の罪も写した。

そして洗い流して行く。

『ありがとう、ごめん、そしてさようなら……みんな!』

 また遊ぼうね、ホライズン!

空へと消えていく沢山の声。

光は一斉に消え去り、後には地平線の光が、一匹の青い小鳥が残った。

大粒の涙を零して。



 おまけ休憩所

 Dブロックを覆った輝き。

どこまでも空へと登っていく光の現象はたとえ壁で区切られていても他のブロックからも確認でき、この時の多くの住人たちはこれを希望の光と称し盛大に喜んだという。

この光が何から起こったのか知る者は多くはいなかった。

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