fruitFRUIT3章追求編
fruitFRUIT3章追求編
夜の間にイクシアが絵本をロケットに届けておいた。
明日朝から捜査をする事になっていたので全員早めに床につく。
そして次の日の朝。
フィーネの死からおよそ12時間経ったころに朝食を取り、出かける準備をした。
三人と4匹は病院や図書館周辺の精霊たちへの聞き込み、ウチワはまずはフィーネの部屋を、イクシアは引き続き図書館を捜査する事になった。
早速始めようと食堂からでようとした時に、ロケットが中に入ってきた。
昨日までの遠くへ行ってしまってるような顔から一変恐いほどに真剣な顔になり、纏う空気には迫力すら感じる。
「ロケット、もう大丈夫なのか?」
イクシアがロケットに声をかけるとロケットは頷く。
「俺が必ずやらなきゃいけないんです。フィーネの仇は俺が取るんです!」
その変わりようにウチワは少し不安を抱きながらも、ロケットには単独で自由捜査して貰うことにした。
これまでの状況はメモを見せながら解説し、理解してもらった。
素早く食事を終えてどこか外へと走っていった。
「さて、改めてワタシたちもいくかね。」
ウチワは早速フィーネの個室を探ってみる。
部屋は比較的きれいに整理されていて荷物もあまり広げられていない。
ベッド、机、洗面台とあり入院用施設なので酸素ボンベを繋げる所やナースコールボタン何かもある。
だがそれ以外は至ってシンプルだ。
机の上には守りのリングが確かに置かれていた。
さらに机には旅するために多少の荷物も置いてある。
展開するとかわいらしいハンドバックと替えの衣服を入れてあるケースや化粧箱、それにお金と簡易救急セットそれにまたもう一つメモが出てきた。
「こっちのメモは見たことないね。」
軽くめくって読んでみる。
こちらは日記のように使う事が多いようだ。
しかも心中の陰の部分を中心に。
憤怒や憎悪だけでなく特にここ最近のは疲労や恐怖、理解し難く頭がおかしくなってしまいそうな記述が多く見られる。
「あーあ、表は綺麗で通してる子は大変だねぇ……。ロケットには見せられないね。」
ウチワは何となく読みふけってしまったがそのおかげて少しフィーネに親近感がわいた。
「人間らしくて結構じゃないの。さて問題は。」
最新のページに書かれている事だった。
《初対面ながらも相手はあまり信用できそうにない。観察強化を使わなくても少しずつ分かるようになってきた。嘘が混じっている声だ。けれど先へと進むのに必要なのならその嘘すら見破り先へ進まなければ。相手が隠したい事実へ。》
誰の事かは書かれていないがこの直前に書かれている事が妖への怒りやウチワの介助の疲労、それに先へ進む不安や早く終わって欲しいと言う願いが綴られているので恐らくこの病院内で書かれていたものだろう。
「もしかしたらガールの感じた違和感が誰に対してだったか特定できるかもね。」
それ以外に目立つものは無かったので、もう一度図書館へと向かう。
再びフィーネの遺体の周りを探す事にした。
フィーネの遺体のそば、本棚と扉を細かく調べる。
「まったく、パッと違和感を見つけられるガールの精霊術は便利だね。」
ぶつくさと良いながら本棚と扉をチェックする。
本は大した情報はなく、扉もあまり違和感のあるものは無かった。
「罠の跡でもあったらと思ったけれど、流石に都合が良すぎるか。」
一応本棚の上も飛んで調べる。
「ん?ココ何か置いてあったのね。」
本棚の上側に一つ埃がたまっていない所がある。
物が置かれていたようだ。
「何か置かれていたのかしら。しかもつい最近まで。」
他も探るがそれらしい物は見あたらなかった。
この上に置かれていたと思われる物を探るため、図書館のカウンターの中を探る。
貸し出しカードやスタンプ、所詮発注の書類の他に備品も並んでいた。
たくさんの造花……とは言っても図書館用にあまり派手ではないが……とそれを入れる花瓶が乱雑に積まれている。
「おかしいね、他は綺麗に整理されてるのに。」
『めんどーになったのかもー。』
とりあえず取り出して花瓶を調べるがどれもこれも普通の小瓶で特に何もない。
「結構重いねこれは。」
そういえばと思い、先ほどの本棚の上の埃の枠をもう一度確認し、花瓶をそこに合わせようと近づける。
「違うか……」
この埃の枠は正四角形だが他のは底が円、楕円、三角とどれも一致しない。
『はーずれー。』
ウメがいつも間にやら別の本棚の上にいる。
『多分こっちー。』
「何が!」
一旦地面に降りてからウメのいる本棚へと飛ぶ。
そこにも何か置いてあったかのように埃の枠がある。
「なるほど……もしかして他の所にもあるのかもしれないね。」
探して見たところ他の本棚にもその枠があった。
どれもつい最近取り払われたようだ。
花瓶をかざすと丁度それぞれにあった場所があった。
丁度四角の枠以外すべて埋まり、造花も4種類ある。
「怪しいわね……。」
そんな捜査をしている間にいつの間にやら日が暮れてしまっていた。
図書館は中の広さはそれなりにあるので本を手に取ったり裏を探したりするだけで長く時間がかかってしまった。
それなりに捜査は終わったので病院に帰り、夕食を取る事にした。
食事後、ウチワは改めて三人に質問をする事にしてみた。
「結局貴方たちは何のグループなのかしら。」
ブレイヴがすくりと立ち上がりガッツポーズを取る。
「よくぞ聞いてくれた!オレたちはお……」
ロックが素早くブレイヴの口を押さえる。
「拙者たちは流れの旅の者、何怪しいものではござらんよ。」
手を放し、ロックとブレイヴが何やらひそひそと話す。
「ああ、早々オレたちは自由に旅してるだけなんだよ!な!タートル!」
急に振られてタートルは慌てる。
「ええっ!?えーっと、みゃー、うん。もの凄く怪しまれてる気がするぎゃそう言うことだぎゃ、うん。」
ウチワは改めて(面倒くさそう)と確信し、何か無い限りこれ以上深入りするのはやめておこうと感じた。
誰がどう見ても怪しいこいつらとあのメモに書かれていた怪しい奴、一致してるのかこの後の議論で確かめないとと思いながら、イクシアの片づけとロケットの帰還を待った。
夜の10時頃、フィーネの死からおよそ28時間ぐらいの経過したころ遅くもロケットが帰還した。
「おい、大丈夫かロケット!」
激しい息遣いに体はボロボロ、血は何度も流れた跡がある。
「俺は、大丈夫、少し、獣に。」
ロケットにイクシアが急いで夕食を運んでくる。
「良いから食って寝ておけ!話は後で聞く!」
「すいません、いただきます……。」
ロケットがイクシアに手伝ってもらいながら食事をする。
ロケットはいくらダメージを受けても回復するがそのためには莫大なエネルギーが必要らしい。
ウチワも流石に見てるだけとはいかず治療道具を近くから持ってくる。
「よし、オレたちも手伝おう!」
ブレイヴたちもその様子を見て血を拭ったり包帯を巻いたりちゃんと巻けたかは別として治療行為をしてくれた。
ロケットは食事を終えるといつの間にかその場で眠っていた。
服を脱がせ、清潔な病院服に着替えさせて患者搬送用のベッドに寝かせそこからロケットの個室まで運んで備え付けのベッドに寝かせ直した。
「とりあえず、これでよしか……。」
イクシアが一息つく。
「本当に寝てるだけで治ってしまうとしたらそれはもはや一つの精霊術だな。」
ロックが寝ている様子を見てつぶやく。
「まあ、これまでも何度か治るのを見てきたから平気だとは思うけれど、やっぱりあの時思い詰めていたように見えたから思い切った行動に出てしまったのかしら。」
ウチワがそう言う。
イクシアも話そうとするが思いとどまって小さな声で話す。
「まあ、寝てるのを邪魔しても駄目だしもう一度食堂に行ってそこで議論を始めよう。」
トンがロケットへと飛んでいく。
『ぼくが見ておくよ。何かあったら知らせるから。』
「おう、頼んだ!」
思わず大声を出したブレイヴに一斉に静かにするよう注意する。
「あ、そうだったゴメンナサイ……。」
食堂に集まったのは結局ウチワとウメ、イクシアとイベリー、ブレイヴたち一行それに今回はブレイヴたちを手伝った精霊ホライズンだ。
ブレイヴとホライズンは既に眠そうで、いつも飛んでるホライズンも今は椅子の背もたれの上に着地している。
『ふわぁ……』
「うーん、サスガにねむい……。」
ウチワが時間を確認すると、そろそろ23時に入ろうとしていた頃だった。
「じゃ、今日は早くやってしまいましょう!」
おまけ休憩所
イクシア「モーターボルトって羽根以外にも電気を宿らす事ができるのか?」
ウチワ「まあね、やろうと思えば人や武器にだってね。」
イクシア「お、じゃあ俺の岩にもできるのか?」
イベリー『地面に霧散する率が高いためあまり向かないと判断。』
ウチワ「あまりそういうのだと全員まとめて痺れるかもしれないよ?」
イクシア「それはカンベンして欲しいな……。」
─────────
キャラクター紹介
旅人一行
ライオンの少年ブレイヴ、猿の男ロック、蒼亀の青年トータスと精霊たちで形成される謎の旅人たち。
何らかの目的があるのは確かだがそれは秘密にしているようだ。
とにかく見た目からして怪しいがその目的やいかに。
─────────
ウチワ「まずはワタシから。フィーネの自室を探っていたらもう一つメモを見つけた。」
机上にフィーネの隠しメモを出す。
ウチワ「あんまりみないであげてよ?いわゆる愚痴ノートだから。」
イクシア「もう一つのメモなんてあったんだなぁ。いつも一つのメモしか見てなかったから気づかなかったな。」
ウチワ「まあワタシも初めて見たからね。とりあえず中は全部読んだけど。」
ブレイヴ「オレらには読むなって言ったくせに……。」
ブレイヴがウチワに不満をぶつける。
ウチワ「誰かが読む必要はあるからね。まあ全部読むなってわけじゃあなくて読んで欲しい部分もあるんだけどね。」
最新のページを開く。
《初対面ながらも相手はあまり信用できそうにない。観察強化を使わなくても少しずつ分かるようになってきた。嘘が混じっている声だ。けれど先へと進むのに必要なのならその嘘すら見破り先へ進まなければ。相手が隠したい事実へ。》
ウチワ「ここの初対面の相手を知りたいの。」
タートル「うーん。その前にこの観察強化とか言うのはなんだぎゃ?」
イクシアたちが簡単にフィーネについて解説した。
ブレイヴ「すっげぇ姉ちゃんってのはわかったぜ!」
タートル「なるほど、つまりこの娘が感じた違和感が何かに繋がる可能性があるということにゃるんぎゃね。」
ウチワ「だからフィーネと会った人を特定したいんだけど貴方達は病院の中とか殺される前、フィーネと会ったのは三人のうち誰かしら?」
ロック「いいや?」
ブレイヴ「個室にもどる前、三人一緒にいたけどフィーネ姉ちゃんには会ってないよ。」
タートル「ロケットさんにゃー直ぐに会ったけれどその間もその後も会ってにゃーからロケットさんに聞けばわかるんじゃにゃーかな。」
ウチワ「ん……?」
まさかの回答に驚くウチワ。
三人がグルで騙しているならともかく、ロケットまでいてしかもそのロケットが証人になりうるという事態だ。
フィーネは探索に直ぐに出て行ったのでその間以外フィーネに会っても病院内にあるこのメモには書き込めない。
そこに拍車をかけたのが三人とホライズンの精霊たちへの聞き込み結果だった。
イクシア「とりあえず分からないものは置いといて、精霊たちへの聞き込み歯どうなったんだ?」
タートル「それならもちろんちゃんと細かく。」
紙の束をタートルが机に乗せる。
ウチワ「うっ……、読むだけで数時間かかりそう。」
タートル「内容はホライズンさんとおいらたちで嘘が書かれてないかチェックしたんだぎゃにゃー。」
ブレイヴ「まあ、オレも読むの面倒だから一枚にまとめて貰ったぜ!」
タートルがもう一枚紙を出す。
タートル「ここに書かれてる内容が合ってるかは、まあ後で見てくりゃーええぎゃ。」
一枚にまとめられている方にはこう書かれていた。
《精霊たちへの聞き込み結果まとめ
精霊たちは人間の事を珍しがっているためそれぞれに聞けばいつ誰が何をしていたかまで把握可能だった。
イクシア(以下全員敬称略)は4時ごろに他の仲間共にDブロックに進入後病院へ精霊ホライズンに案内され個室へと入り午後5時には病院の個室から出て近くの精霊に食糧庫の場所を聞き精霊イベリーと口論しながら病院内を迷い最終的に精霊イベリーの言った通りの場所へ辿り着くのに30分ほどかかった。その後食糧をチェックし食糧庫から出るタイミングでウチワと精霊ウメに出くわし時間は6時10分程度。
割と量が多くてうんざりしながら作業していた模様。
大量に食糧を調理場へ運びこみロケットが来るまで調理の下準備。
6時半頃にはロケットと合流し調理開始、すぐに食べ物のにおいを嗅ぎつけたブレイヴがやってきて7時20分手前まで調理、出来上がりが近い頃に血相を変えた精霊ホライズンが飛んできて呼び出され、そのまま犯行現場の図書館まで直行する。
7時半ごろに現場まで到着。》
ウチワ「結局あんたも方向音痴なのね。」
ウチワがイクシアの欄を読み煽る。
イクシア「土地勘が無かっただけだよ!」
《以下行動が同じ時のものは省く。
ウチワは個室に入った後午後6時まで部屋から出ず出た後はイクシアと遭遇、その後ロケットに会いに行きイクシアからの伝言を伝えたのが6時20分頃、外へ出たのが6時50分頃でそれまでの間は一応フィーネの部屋にフィーネがいないか確認したり、あまり元気が無いのか時折休憩していたりした。
出た直後精霊ホライズンにウチワが呼ばれ急いで後を追い7時頃に図書館の中へ、10分過ぎ精霊ホライズンが図書館から飛び出したがウチワはまだ中に。
この間はフィーネを大声で呼びかけたり混乱して落ち着かない様子だったとの事。
この時ウチワは精霊ホライズンに全員呼ぶように言っていたとのこと。
何をするでもなく近くの椅子に座り込んだウチワはそのまま他の人が来るのを待つ。》
イクシア「意外とウチワさんっていつも突然の事に弱いよな。後結構まだ無理してたんだな。」
ウチワ「うっさいわねえ。というか細かすぎるよこれは。」
《ロケットは個室へと行った後直ぐに部屋から出て近くの精霊に話を聞き迷うことなく病院内を散策していたブレイヴ・ロック・タートルの元へ。
散策を続けながら話したり座って話したりして午後6時まで会話。
互いに今までの経緯を話してた。
6時以降は精霊たちと会話をし少し精霊を介さない精霊術を見せた所精霊が殺到、ほとんど遊び道具にされ ていた模様。
ウチワに伝言を聞いた後はイクシアに合流。
10分ほどと少し時間がかかっているのは道中何度も精霊たちに捕まっているため。
その後の行動はイクシアと同上。》
ブレイヴ「ロケットの兄ちゃんは話上手で飽きなかったなー!」
ライム『あの青年は鍛え上げれば必ずやマゾヒストに目覚めるだろうな。』
ウチワ「いったいどんな会話よ……。」
《ブレイヴはロック・タートルと共に午後4時手前ごろにDブロック突入、駆け足で獣を撃破しながら精霊ホライズンの話を聞き安全な場所を求め病院へ。
精霊ホライズンは直ぐにウチワたちの元へ飛び立つ。
一旦個室を探しそれぞれ部屋へ荷物をおろすと直ぐに三人で合流しこの時午後4時20分ごろ。
散策し病院内がどうなってるか見ている間にロケットに合流下のがおよそ午後4時半。
ロケットと会話をし続け、終えた後は三人も解散し少しの間散策を行う。
6時40分頃に食事の匂いを嗅ぎつけイクシアたちに合流。
その後の流れは同上。》
イクシア「あんたら格好だけじゃなくちゃんと強いんだな。」
ブレイヴ「オレにかかればここらへんのケモノも楽勝だぜ!」
《ロックはほぼ同上だが解散した後自室に戻る。
金属音や研ぐ音が聞こえてきて不気味だったらしい。
7時15分頃に精霊ホライズンが飛び込んできて呼びかけ通り図書館へと直行する。》
イクシア「研ぐ音?武器はその拳じゃないのか?」
ロック「拙者の武器は拳だけに非ず。暗器も扱いどの距離でも戦える用に心がけている。」
暗器はクナイやまきびしのようなこれまた忍者のような道具のことのようだ。
《タートルはほぼ上記通りだが解散した後は自室へ戻って休んでた模様。
時折大きな声のような音がしたという事。》
タートル「まー、寝とったんぎゃ。」
ウチワ「大きな音っていびきの事ね……。」
《フィーネは病院で個室に入った後10分くらいで荷物を置いて来た道を戻り外へ直行。
そのまま周辺をうろうろし探索。
景色の変化を眺めながらいろいろな道へと入っていたそうだ。
午後5時頃には図書館へたどり着き中へと進入。
その後午後7時までたまに精霊が出入りした程度であまり精霊たちも中には入らなかったらしい。
午後6時30頃大きな音が中からしたが確認したものはいない。
午後7時手前ごろ精霊ホライズンが図書館から勢い良く飛び出す。
精霊に関してはあまり目撃情報はないためいつからいたのかは不明(本人談だと入ったのも7時手前ですぐ飛び出した)。
その後は同上。》
ウチワ「何というか、これは……。」
イクシア「おてんとさんがいつも見てるなんて言うが、これはまるで町中に監視カメラが仕掛けられている気分だな……。」
まとめただけでも恐ろしいほどの目撃情報で、人間そのものが珍しいため近くの精霊がみな見て覚えている。
行動不明時間なんて殆ど無かった。
誰がいつどこで会ったかも見られていてよりフィーネの隠しメモに書かれていた相手が不明瞭になってしまった。
ウチワはさらに下へ目をやると、備考欄に小さく書かれている事に気づく。
《備考欄 事件との関連性は薄いだろうが精霊達の過去が何かおかしい。
皆年代はバラバラだが閉じられる過去から存在し閉じられる周辺の記憶が曖昧な者が殆どで人間に関しては初めて見たという者ばかり。
詳細は聞かなかったがこの人間のいない世界が作られた事と何か関連性があるのだろうか。
また推測を重ねるが、もしこれが事件に関わりがある場合フィーネもしくは精霊フェイが何かに気づき犯人はそれを知った者を生かしてはおけなかったのではないか。
人間たちのぼろぼろの服、謎の人物からの忠告の遺書、そして今回のこの調査から何か見えてくる可能性があるが事件と関連性が高くなれば改めて調査の必要性があると判断する。》
ウチワ「最後の文字、小さい。」
ルーペを取り出して文字を読む。
真夜中に小さな文字は辛い。
タートル「まーそこは今はあまり関係無さそうだぎゃー、おまけみたいにゃーもん。」
イクシア「にしてもどういうことだ?この中に犯人がいるはずなのに全員の行動がきっちり見られてるじゃないか。」
ウチワ「フィーネが実は一回病院へ帰っていたらと思っていたけど、帰った様子もないのね……。」
フィーネが最後に会った人物もここからは読みとれない。
ウチワ「初対面で、なおかつ病院から出る前までに出会った人物ねぇ。」
ウメ『いーるねー、ひとりー。』
ウメが紙の上に飛ぶ。
イクシア「ん?そんな人いたか?」
ウメ『いーや、ひとじゃなーい。』
ウチワ「ハッキリ言いなさい。」
ウメ『ほらー。』
ウメがエメラルド色の毛の生えた前脚を、文字の上に乗せる。
《他の仲間共にDブロックに進入後病院へ精霊ホライズンに案内され個室へと入り》
という所の《精霊ホライズン》を指す。
ウチワ「精霊……!」
ウメ『えへん。』
ウチワはウメを撫でておきホライズンの方を見る。
全員の目線がホライズンへと移っていく。
ブレイヴ「おーい、ホライズン?」
ホライズン『………すうすう。』
いつのまにやら熟睡している。
イクシア「ホライズン?」
ホライズン「ぐうぐう。」
ウチワ「ウメ。」
ウメ『がってーんしょうちー。』
ウメがウチワに触り、ウチワが指を一本くいっと曲げるとホライズンにビリリと静電気が走った。
ホライズン『うひゃい!ふわ?あれ、終わりました?』
一瞬電気が走りホライズンが目を覚ます。
ウチワ「貴方、ワタシ達に何か嘘をついてない?」
ホライズン「いえいえ、とんでもない!」
翼をはためかせ慌てる。
ホライズン「そもそも嘘をつく必要なんて無いじゃないですか!」
ウチワ「そうねえ……。あの時、初めてワタシたちと会った時言った言葉、そうたとえば人がいなくなった理由は知らない、とかね。」
ホライズンが息をハッと飲む。
ホライズン「まさか、そんな事、知らない!ですよ!」
態度の変化にウチワが気づき、さらに攻める。
ウチワ「随分慌ててるじゃないの。それとも貴方も、いや貴方だけじゃない、本当は人間のパートナーがいたんじゃないかしら?」
ホライズン『デタラメですよ!何を根拠に!』
急に詰め寄るホライズンにウチワは一瞬引くが、踏みとどまる。
ウチワ「根拠……根拠なら、ある!」
ロック「何と、本当か!」
タートル「あー、えーと確か……」
ほとんど口から出任せだったが言った以上ウチワは覚悟を決めて攻める。
ウチワ「まずはフィーネのもう一つのメモに書かれていた信用出来ない事を言った相手。これは先ほどの精霊たちへの調査で貴方しかいないと特定された!」
ホライズン『そんなの、いつの間に……!』
イクシア「ホライズンが寝てる間にな。」
ホライズン『うっ、さっき。でもそれだけじゃあ根拠には!』
ウチワ「第二に!貴方はここの人間は突然いなくなったって言ってたけど、他の精霊は初めて人間を見たって言っているの!」
ホライズン『そうだったかなぁ……ちょっと言い間違えただけかも。』
目を合わせようとしないホライズンにさらにたたき込んで行く。
ウチワ「それにね、人が居て何かがあった証拠はまだある。ボロボロになった服には何かに襲われた跡があった。まるで獣に引き裂かれたみたいにね。」
ブレイヴ「あいつらはオレには楽勝だけどふつうの奴らには手に負えない強い獣ばかりだったけれどそういえばいつからいるんだ?」
ホライズン『そ、それは!』
ウチワはホライズンの反応を見て押し切る。
ウチワ「あなたが嘘をついていなければ、遺書に関しても説明がつかない。遺書は普通の筆記道具で人間が書いたとしか思えない文字で貴方達精霊にそこまで上手く文字を書けるのはいるのかしら?人間はここにちゃんといた。そして何らかの事が起きて今は精霊のみになってしまっている。」
ホライズン『違うよ、やっぱり僕も初めて見て!』
ウチワ「へえ、なら何であなたははっきりと絵本の台詞を言えたのかしら。」
ロック「ようこそ、精霊の国へ。だったか?」
イクシア「フィーネが抱えていた本か。」
ホライズン『ほ、ほらそれは昔たまたま本を読んで!字は昔学校で一緒に習ってたし人間がいないこの状態はちょうど……ああっ!』
ウチワ「ウソを一つつけば片方が立たず、そのウソを隠すためのウソをすればもう片方が立たず。それでも偶然と言い切るならなぜ貴方だけ他の精霊と違う行動を取り、記憶を持ち、何かを隠すのか。それにワタシたちが常に行動が見張られている中貴方は精霊だから珍しくなくかなり自由に動けた。貴方の行動だけが唯一自己申告があるの。」
タートル「まさかフィーネさんが何か秘密を知って、それを知ったホライズンさんはフィーネさんを……?」
イクシア「精霊が人を殺すだなんて聞いたことないぞ!?」
イベリー『精霊も生き物ですから、人間ほどではないですが必要があれは殺すかもしれませんね。』
激しく羽ばたいて中に羽ばたき始めるホライズン。
ホライズン『ダメだ、絶対ダメ!あのことだけは知られちゃ!まだあんたたちは知らないみたいだからこのまま私が逃げ切る!』
ホライズンから強い光が一瞬発せられあたりを照らす。
すると人も精霊もあらゆる物が宙に浮いた。
ホライズン『私がやったって証拠もない、そんな出任せに負けるものか!』
ウチワ「何これ、飛んでないのに空に!」
イクシア「うおお、どうすれば良いんだ!?」
ウメ「あれー?うまくうごけなーい。」
イベリー『重力を無効化されています。壁か地面に着かなければ動けません。』
ブレイヴ「うひょー!」
ホライズン『まだ私は負けれない!』
瞬間、ホライズンが消えるような速度で加速し外へと飛ぶ!
その勢いのためか他の全員や宙に浮いた椅子や机もまとめて逆側の壁へと吹き飛ばされる。
ロック「まずい、受け身を!」
ライム『何故か上手く飛べん!』
トマト『ん……?』
タートル「う、うわぁ!?」
次、目を開けた時は天井が上だった。
ベッドの上らしく病院特有の硬めの質感がある。
横を見てみると既に座っているブレイヴがいた。
『あ、目を覚ましたんだ!』
豚のトンが精霊らしく空を飛んでやってきた。
「良し、これで全員だ。」
ロケットがやってきてウチワに話しかける。
「ええと……ああ、もうアンタ動けるのね。」
「ええ、おかげさまで。迷惑おかけしてすみません。一人先走り過ぎちゃって。」
ロケットがそう言いながら苦笑いする。
ウチワが周りを見渡すとそれぞれが治療を受けた後があったり治療を手伝ったりしている。
特にひどいのはトータスのようだ。
重量ある装備がむしろ負担になったらしくあちこちテーピングやガーゼをしている。
「してやられたってわけね。」
「事情は聞いてます。俺が物音で起きて駆けつけた時には壁際にたくさんの机や椅子があってその下にみんな居て、酷いありさまでした。」
壁に叩きつけられた後、椅子や机に何度もぶつかりそのあげく重力が元に戻り地面に落ちて椅子と机の山に埋もれたようだ。
「全員生きてるのは奇跡的ね。」
ロケットがうなずく。
「そもそも椅子たちが軽い材質だったのと重力が軽減されて重さのダメージが少なかった事、それにタートルさんの鎧と机が支えになって椅子とかが致命的にぶつかる事が無かったからみたいです。」
ウチワは再び天井を見つめる。
「でも、逃げられたしおまけに口から出任せ言ったのもバレて追いつめるにしても証拠が足りない。凶器の本に羽根でもあれば早かったのに。」
ロケットが首を横に振る。
「逃げた先に関してですがそれは追跡できそうです。それに凶器は俺はその本じゃないと思うんですよ。」
ウチワが疑問をぶつける。
「おかしいね、血のついた本が凶器じゃないなら?」
ロケットがベッドから離れ、どこからか何かの破片がたくさん入った袋を持ってくる。
赤色が全体的に濃くついている。
「あの本、見た時にあまり血が少ないので少し疑問に思って。それに絵本に僅かですけれど、しかも端が折ってある中にですけれど陶器か何かの破片があったんです。」
ウチワは驚き、感心する。
「ただ突っ走っただけじゃあなかったんだね。」
「いや、無我夢中だったのは事実ですけれど。一か八か俺にできるのかもわからずがむしゃらに。」
ロケットがウチワにコップ一杯の水を渡す。
「でもどうやってそれだけのヒントで探したんだい?」
ロケットが自身の鼻を指す。
「嗅覚探知です。」
思わず持っていたコップを落としそうになる。
常識すら忘れている彼ならではの発想なのだろうかかなり原始的でなおかつ高度な技術だった。
「そんなの良く出来たね……。種族も限られるしそもそも訓練せずに特定はなかなか普通の人間はやれないよ。」
ロケットが頭の白いたてがみを掻く。
「いやー、なんか集中すれば違う世界がわかる気がして、本当に苦労したんですけれどなんとか追えたんです。まさかそこが獣の巣の中にあるとは思いませんでしたけど。」
ウチワは呆れつつ水を飲む。
「そこに考えなしに突っ込むのはある意味感心できるね。」
「いやまあ、手酷くやられたのは事実ですし。けれどもこれが何の破片なのかはまだわかりません。俺はこの後修復してみるつもりですがせめて元の形が分かればなあ。」
ロケットが袋の中身を見て悩む。
ウチワはそれを見て今日の捜査を思い出す。
「もしかするとだけれど、心当たりあるよ。」
「え、本当ですか!」
「図書館に花瓶が乱雑に仕舞われていたんだけれど、最近撤去された跡に収まる形で底が四角のだけ足りなかった。もしかすればそれかもね。」
ロケットが手帳にメモを取る。
「なるほど、わかりました頑張って復元してみます!」
ロケットが急いで作業しに行こうとするがウチワが声をかける。
「今度は勝手に危険な事するんじゃないよ。」
ウチワにそう言われ改めてロケットはウチワの方へと向く。
「ええ、フィーネを悲しませないためにも俺が、いえみんなで絶対に事件を解き明かしましょう。」
ウチワは小さくうなずいた。
おまえ休憩所
ウチワ「結局イクシアは何してたわけ?」
イクシア「図書館の天井裏とか屋根の上とか調べたけどあまりそれらしいものは無かったなあ。」
イベリー『本を確認しようと手に取ったらどんどんと眠ろうとしてましたからね。』
ウチワ「何でワタシの方がまだ発見出来ているのさ……。」




