1章 いつの間にか
fruitFRUHT
1話
一人の少年が今、命尽きようとしていた。
【どんな世界も死ぬ】
静寂な森の中を歩く少女は幸か不幸かその少年を偶然見つけた。
ハッと息を飲み、どんどんと鼓動と息遣いが激しくなる。
「お、落ち着いてフィーネ!」
突然の声に驚くフィーネと呼ばれた少女はその声の主を探す。
「フィーネ、ここにいるって!」
髪の毛を思いっきり引っ張られて頭の上にいる存在を思い出す
くるりと頭の上から落ちてそのまま空中に浮かぶそれ。
「フェイ!どうしよう!」
フィーネがフェイと呼ぶそれは、光に包まれた純白の毛並みを持った尾の長い、とても小さな猫。
「さっき完成した精霊術を使って調べて!どうすればいいかわかるはず!」
フェイという猫はそう提案した。
「わ、わかった。」
フィーネは目を閉じて息を吸う。
「精霊の祝福よ!」
精霊とも呼ばれた猫、フェイはそれに答えて強く輝き舞う。
「合わせて!」
フェイのかけ声にフィーネは頷く。
「観察強化!」
目を見開くと同時にそう言うと精霊フェイが頭に思いっきり飛び込んできて強い光で何も見えなくなる。
徐々に光が薄らいで行くと、青いフィルターを通したような光景が見えてきた。
「今、大事そうなポイントを映像化するよ!」
フィーネの頭の中に響く声。精霊フェイだ。
視界にいくつもの丸と矢印が表示される。
正確には五感全てをフル活用して得れた内容を頭で綺麗に統合してまるで全て見えているかのように整理している。
そこから大事そうな所をポイント……つまり“カン”で調べるべきであろうところを見つけている。
「早速見ましょう…!」
・ポイント1 倒れている人
微動だにせず前のめりに倒れている”赤地に白の獣人“だ。おそらく15から18歳前後だと思う。白の頭から背まで伸びているふさふさの毛がカッコイイ。毛からは生気が見られないほどやつれている。“外傷は見あたらない”
・ポイント2 腰巻き
普通の腰巻き鞄で道具が入ってそうだが“何も入っていない”だが中にゴミとして“食べカス”があった
・ポイント3 近くの木
おいしそうなキノコが生えているが“これは毒キノコ”だ。食べると猛烈な腹痛と干からびるほどの嘔吐に襲われる。よくみたら“誰かにいくつか取られた後がある”
・ポイント4 倒れている人の頭部
上方向に生えてる耳が元気のなさそうに倒れている。また目は半開きで口もなるがままに開いてる。先ほどは気づかなかったが“息をしている”ただし虫の息だ
・ポイント5 地面
血はないがよくみると地面に“何らかの液体が染み込んだ跡”がある。もうほとんど染み込んでしまっているが“胃液”かもしれない臭いがかすかにする。
「強化解除!」
フィーネのかけ声と共に精霊フェイが頭から飛び出す。
「フィーネ、この人もしかしてもしかすると…」
「まだ生きてる!」
「傷はないみたいだからこのまま頑張って運ぼう!」
「いやさすがに無理だよ!誰か呼んでくる!」
フィーネが駆け足で町へ向かっていく。
「私はここで彼のことを見てるね!」
フェイが手(前足?)を振りフィーネを見送る。
(にしても、なぜ彼はここで倒れていたんだろう?)
フェイが少年の周りをぐるぐると回りながらそう考えていた。
おまけ
フェイ「本編とはまったく関係なく自由にしゃべるコーナー!イエーイパフパフパフ!」
フィーネ「古いよ!しかも突当だよ!」
フェイ「何事もスピードが大事だからね!仕方ないね!」
フィーネ「と、ところで何を話すの?」
フェイ「自己紹介とかどうだろう?」
フィーネ「うーん、誰に自己紹介するのかはわからないけど。フィーネ・フロートです。獣人で白地に黒の毛並みは毎日よく洗って綺麗にしてます。身長は149cm?」
フェイ「そろそろ150cmになったと思うけど。前はかってからそれなりにたったし。」
フィーネ「うん、そうだね。多分そのくらい。たれ耳系統でこの町では珍しいって良く言われますね。好きな事は森林浴です。」
フェイ「え?森のものつまみぐいするのがもくてもごもご」
フィーネ「気のせい、気のせいだから!さあフェイの番!」
フェイ「言論の自由を!精霊に人権を!フェイジョアです!清き一票を!ご静聴ありがとうごさいました!」
フィーネ「選挙!?しかも終わった!?」
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fruitFRUHT 2
キャラクター説明
フィーネ・フロート
この世界に住む一般的な犬型獣人の少女。
高校生だが現在は連休を使って実家から少し離れた町の宿で一人暮らしをしている。
毛並みは白をベースとした黒のアクセントがあるパンダのような模様。
服装は基本若い人が着るような服を流行に合わせたり気分で着ている。
精霊フェイを連れていて平和を望む一方、今回の事件に巻き込まれて行ってしまう。
「観察強化」というのは彼女とフェイが偶然見つけた術で、本来は手が数倍器用になる「精密強化」を使おうとしたところミスで頭部にぶつかり発動した。
彼女は気づいてないがこの世界唯一のユニーク術で今回の事件の中でもキーを握る。
戦闘も捜査も推理も友情も(?)素人だが少しずつ成長していく。
積極的に動く姿勢と少しの正義感は親譲りだ。
フェイジョア
フィーネの精霊で大きなジャンル別としては光でできた精霊。
精霊は自然が意志を持つ事で発生し、人間を宿にして自我を保つ存在。
もし宿が死んでしまったら自然に還る事になるがこの世界は所謂あの世である全ての心が住まう次元に行くだけとされ、そこには自然と精霊の最上位の存在精霊王が住まうとされている。
精霊は宿に自然の力を引き出す精霊の祝福を行い、フェイは強化の術が基本的に得意。
光の精霊というと特別な気がするが光溢れるこの世界では最も多いジャンルだ。
少し幼さはあるが基本は優しく純粋でいい子だ。
─────
男「んー、極度の空腹で食糧を探しに森をふらついてたら偶然見かけたキノコを食べれると勘違いして食べたら、えーそのまま毒が回って嘔吐して力つきると」
ブラウンのもじゃもじゃな毛を医者がカルテを見ながら淡々と話す。
「あーここまで教科書に載ってそうな症例も珍しいのう。」
ベッドで眠る少年、そしてその側に発見者のフィーネ。
「推測ではありますけど、多分そうとしか考えられなくて。」
「まーもう大丈夫。死にかけてたのは事実だけどこの分ならすぐによくなるよ。」
医者はお金を受け取ると笑顔で部屋を出ていった。
この町の医術力は相当高い。死人すらも条件付きで蘇る術があるほどに。
少年の顔色もすでにすっかり良くなっている。
フィーネが少年を見ながらそんな事を思っている。と─
「んっ……」
苦しそうな声が少年から漏れた。
「起きた!」
フェイがうれしそうに少年の周りをブンブンと飛ぶ。
フィーネも気づいて少年の近くに詰め寄り反応を待つ。
ぐぎゅるるる
少年の身体から助けを求める声が聞こえた。
「い、生き返った!」
宿屋のベッドの上で急ぎで作ったスープを夢中で平らげ、少年はやっと一言話した。
「良い食べっぷりだな!」
宿屋の主人がガハハと豪快に笑いながら話す。
「突然呼ばれて行ったらおまえさんが倒れてて驚いたぞ!」
2mはある巨体と茶色い毛を揺らしながらオーバーなリアクションを取る。
「宿屋の主人さんがここまで運んで来てくれたんです。」
フィーネがフォローを入れる。
「ありがとう、ありがとう!」
少年が交互に握手しながら手としっぽをブンブン振りながらありがとうを連呼した。
宿屋「この子が見つけてなかったら死んでたかもしれんぞ?」
フェイ「そうそう、大活躍だよ!」
フィーネ「もう!フェイったら。」
少年「ありがとう命の恩人だよ!」
フェイ「そう言えばまだ自己紹介してなかったわね。私はフェイジョア!フェイって呼んでね!
そして白毛のこの子が私のパートナーのフィーネよ!」
フィーネ「よろしくね。」
少年「俺はロケット。宜しく!」
宿屋「俺はこの宿を切り盛りするオヤジだ。宿屋アンドルフのオヤジとでも呼んでくれ!」
自己紹介を終え豪快に笑う宿屋に釣られ笑うロケット。
一息ついてロケットは少し真面目な顔になる。
「だけど、俺の名前は本当の名前じゃないんだ。」
「ほう、それはどうしてまた。」
「俺、数ヶ月より前の記憶がないんだ。」
その場のロケット以外が驚きの表情を浮かべる。
「とりあえず自分でつけたけど本当の名前もまだ思い出せていないんだ。」
「どうして?どうしてそんなことに?」
フェイに催促されるようにロケットは覚えている事を語り始めた
気づいた時には写真の入っていないロケットを握りしめてどこかわからない土地で倒れていた事
鞄に入ってた食糧とポケットに入ってたお金で食いつなぎ宛もなくさ迷っていた事
途中迷ってしまい金も食糧も尽きて毒キノコを食べて力尽きてしまった事。
「なるほどなぁ。若いのに大変だったんだな」
宿屋が髭をさわりながらそうつぶやく。
「ならしばらくウチで働けばいい。」
「本当!?」
「ああ、住み込みで働いてそれからどうするか考えれば良い!」
ニカッと宿屋が笑う。
「やったあ!」
ロケットはバンザイのポーズをしてそして強くガッツポーズ。
しかしロケットはくらりとしてベッドに倒れ込んでしまう。
「病み上がりで無理するからー。」
フェイがあきれるようにゆらゆらと揺れている。
「ははは…。」
ロケットは苦笑いした。
「それじゃあそのままで良いから、わからないことがあったら聞いて?」
フィーネの問いかけにロケットは頷き、質問を始めた。
あとがき
フェイ「小休憩!ちっとも話進まないね!」
フィーネ「またやるんだ…」
ロケット「俺、休み大好き!」
フィーネ「既にこの空気に馴染んでる!?」
ロケット「改めて、俺は記憶喪失のロケット!嫌いなものはついさっきキノコになりました!」
フェイ「ところであのキノコおいしかったの?」
ロケット「毒がなければ、たらふく食いたいくらいに……」
フィーネ「空腹は一番のソースだねぇ。」
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キャラクター説明
ロケット
行き倒れの記憶を失っている少年。
正確な年齢や住所、そして本名さえも誰も知らない。
犬型獣人だがこの町では珍しめの狼の血が混じった顔立ち。
赤毛に白のアクセントが混じった毛並みで特に頭髪から一直線に背中から尻尾まで伸びている白のたてがみが特徴。
行き倒れていた時は冒険用に上下しっかりとした生地の長袖長ズボン、左腕にはプロテクター、多数の便利ポケットと軽快に動くための腰巻き鞄とそれなりにしっかりした服だが、宿に住む用になってからはフィーネと選んだ町に馴染みやすい軽装で、仕事の時は薄着の上にエプロンとバンダナを付けている。
精霊は連れていないという点はこの世界ではとても珍しい事で、精霊はどんな人の元にも必ずいるとされる。
フィーネは記憶を失ったさいにはぐれたのでは?と推測するが……
何事もかなり上手くこなすので記憶喪失すらも時には疑われるほどに優秀。
自分からはあまり危険には飛び込みたくないという面もあるがほうっておいても向こうから危険がやってくるので酷い目にあいつつ事件と関わって行く事になる。
宿屋一家
宿屋一家のファミリーネームはアンドルフ。宿屋の名前も宿屋アンドルフとストレートに付けてある。
小さな宿屋を経営していて現在はフィーネやロケット、それにもう一人、鳥人の女性が泊まっている。
父親は大柄で2mほどあり茶色の毛並みの犬型獣人だ。母親は同じ犬型獣人だが140㎝ほどで小さく黒毛。
看板娘である二人の子は168㎝だがまだ成長途中でフィーネより年下になり、もちろん犬型獣人。
毛並みは黒だが手と足、尻尾は茶色で所謂手袋を履いたような配色。
誰に対しても気さくで笑顔の耐えない良い家族だ。
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ロケットは多くの話を聞き、少しずつ理解して話を整理した。
この世界は、人間や動植物、そして精霊によって成り立っている。
精霊は自然界が意識を得て成り立ったもので、それが起こる儀式そのものが人間が産まれる。
人は精霊の宿主になることで精霊を成り立たせ、精霊は人を祝福する事で自然の力を借りることができる。
そして─
「そう言えば、あなたの精霊は?」
フェイがふと疑問を口にする。
「いや、この数ヶ月の間俺の精霊には会ったことないな…」
「へぇー、もしかしてアヤカシ?」
悪戯声でからかうようにフェイが訪ねる。
「もう、フェイったらそんなのお話の存在じゃない。」
「アヤカシ?俺が?」
「人なのに精霊がいない、精霊がいないのに動物や植物でもない半端ものでこわーい存在なのよ!」
アヤカシ。
絵本での定番の悪者で人と精霊の繋がりを絶とうと恐ろしい魔術を使おうとして勇者に倒される。
多数の不幸を呼び寄せて村を壊滅に導こうとして村から追い出される。
そんな良くある話だけにしかいない存在だ。
「誰にだって精霊はいるから、きっと記憶喪失の間にはぐれちゃったんだと思う。」
フィーネが推測する。
「宿屋のオヤジさんにもいるのかな?」
既に宿屋は部屋から出て仕事に戻っていたので、ロケットはフィーネに訪ねる。
「うん、炎をコントロールして調理場で料理作っているんだって。」
「ふうん、俺の精霊どんなだったのかなあ。」
「また分からないことがあったら聞いてね、私たち隣の部屋だから。」
フィーネとフェイはそう言ってロケットの部屋から出ていった。
(俺の精霊かあ……)
どんな精霊なのかを想像しつつロケットは眠りについた。
それから数日、何度かフィーネたちは町を見て回ったり、仕事をこなしたりした。
この町はいくつかの区画に別れている。
中央のAブロックには教会役所、警察署などが集まっている
フィーネたちがいるのがBブロック。外と大きく繋がる通りや宿、そして外からの人狙いの商店。Aブロックの南東にあたる。
そしてCブロックはその西からAブロックを囲むようにぐるりと北西までのブロックで居住区や学校それに地元商売の店舗もある。
さらにBブロック北からAブロックを囲むようにぐるりと回ってCブロックまでの間がDブロック。病院や診療所の他にも多くのサービス関連の建物が建っている。
傾向というだけでブロック違いでも様々な建物があるがそれぞれのブロックごとに特徴的な違いはあるようだ。
ロケットは観光がてら多くの勉強をした。少しでも記憶が戻るように。
町にはたくさんの種族が溢れている。
獣人ですら大人になっても50㎝程度の種族もいるし、やたら毛の長い顔すら見えない種族もいる。
鱗に覆われたトカゲ族や翼と手が別れた鳥族もいて見てるだけで飽きない。
かと思えば岩から産まれた無機物100%の人なんかもいて、それらをロケットは興味深げにカリカリと手帳に絵と特徴を書き込んでいく。
これがロケットの「勉強」だ。
そして宿の仕事。こちらの仕事もロケットは飲み込みが早かった。
記憶はなくても身体は覚えているのか、それとも元々要領が良いのかは分からなかったが、あっという間に仕事をこなせるようになった。
青のエプロンと白のバンダナをシンプルなシャツとズボンの上から付けて、宿屋の主人の奥さんや一人娘の看板娘さんたちから指導してもらったり、時には(フィーネ以外の)客である飛ぶ羽のない鳥族から怒号をとばされながら。
記憶と土地勘のないロケットは基本フィーネと共に行動した。
ボロボロになっている旅人のための服一着でいつまでも町でウロウロすると流石に不審者だ。
動けるようになった初日からまずは服屋へと行った。
「ロケットさん、これなんかどうです?」
「うん、凄くかっこいいね!……って。」
ロケットは値札を見て焦る。
明らかに自分が見ていた安物の服よりずっとずっと高い。
「ああ、もしかしてお金ですか?気にしなくて良いですよ、払っておきますから。」
「いや、流石にそれは……。」
ロケットは頭をかく。
「良いんですよ、体調復帰祝いってことで!」
「いや、その、何から何までありがとう。」
押しに負けて受け取るロケット。
そのほかにもいくつか買って精算しにいく。
「はい、この値段だね。いやー、それにしても良いねえ、若いカップルって。」
店長の猫のおばあさんが袋詰めしながら冷やかす。
「ちょっ」
焦ってロケットが否定しようとするがそれよりも勢い良くフィーネが喋る。
「ちが、違いますって!最近知り合ったばかりなんです!」
ふふふ、と小さくおばあさんは笑う。
「あらあら、ムキにならなくても外から見たらお似合いよ?」
ロケットもだいぶ恥ずかしく鳴ってくる。
「いや、ほんと、大事な人には代わりないけどカップルなんてそんな……。」
ふふふふふ、と笑うおばあさん。
照れて熱が出そうなフィーネ。
ちらりとフィーネのそんな横顔を見てやはり恥ずかしくなるロケット。
服を受け取りそのまま商店街にやってきた。
ここには食べる歩きが出来るような店が建ち並ぶゾーンがある。
フィーネはここがお気に入りでロケットを連れてきた。
「さあ、気を取り直して食べましょう!」
先ほどのことがまだ少し引っかかってるものの、フィーネは悪い気はしてなかった。
ロケットとはもっと仲良くなりたいし、付き合うとか付き合わないとかそれ以前にまだ互いのことはほとんど知らない。
でも何となく良い友達になれそうだと、そうフィーネは感じていた。
「フィーネ、“あの”お店に行くの?」
フェイがさっきの出来事からニヤニヤしていたがここへ来て反応した。
“あの”店から既に良い香りが漂っている。
「もちろん!」
ロケットはフィーネに案内されるがまま、周りの景色を楽しんでいた。
クレープ、アイス、焼き肉、それに草サンドイッチなんかの店もあった。
それぞれの種族へアピールするためにそれぞれの店が特色を出していて見ているだけでも楽しい。
「ここだよ!」
フィーネが案内した先は、パン屋だった
しかも長形のパン、フランスパンの専門店だ。
正確にはフランスパンという名前ではないのだが便宜上フランスパンと訳す。
「うわっ、凄くいい匂い…!」
パンの焼けるにおいが鼻を刺激する。
ロケットとフィーネは早速小さなフランスパンを購入してほおばる。
「な、なんておいしいんだ!」
「焼きたてのフランスパンは柔らかくて何もつけなくてもおいしい!」
「わーいつまみぐい!」
フェイが少しフランスパンをちぎる。
あち、あちっ、と良いながら宙に何度か放り投げて口でキャッチ、モグモグと食べて目がほころぶ。
「これは何度でも来たくなるなあ。」
ロケットはそう言って口いっぱいにフランスパンを放り込んだ。
別の日は町の説明のためにCブロックまで歩いていた。
「わっとと!」
案内に集中していたフィーネが足元の段差に気づかず、バランスを崩す。
何度か片足で跳んでなんとかバランスを戻す。
「大丈夫?」
ロケットは半笑いを抑えながら言う。
「フィーネはドジだなあ、あはは!」
対してフェイは思いっきり笑い飛ばす。
「もう!普段はこんなことないよ?」
フィーネはちょっと怒ったが直ぐに笑った。
さらに別の日。
今度はAブロックの外れ、ロケットが倒れていた森を歩いていた。
特に何か目的があるわけでもなく、ゆっくりと散歩。
「うーん、これでここで倒れてた思い出が無ければ最高なんだけど。」
ゆったりと腕を組んで延びをするロケット。
「まあ、でもおかけでこうして三人で歩けてるわけだしさ?」
フェイがロケットの周りをぐるぐると回りつつ話す。
「うん、本当に会えて良かったと思う。」
ロケットが優しい声で話す。
「ほんと、こんな風にずっと過ごせればいいね。なんて。」
フィーネはくすくすと笑いながら言った。
「それじゃあロケットくんが困るよね。」
「いや、俺は……。」
何かを言い掛けてロケットは頭をかく。
「俺は、例え記憶が戻らなくとも、それならそれでいいや。」
ゆっくりと時間が流れ、ゆっくりと風が葉を撫でる。
撫でられた葉は互いにこすれ音をならし、辺りを満たす。
「ふー、今日もおしまい。」
ロケットは日記を書き終え、ベッドに横たわる。
(正直、まだ大事な事は何も思い出せないけど、少しずつ基本的な事は思い出せてきた、気がする。)
ゆっくり出良いから思い出していこう。
そんな事を考えているうちに眠りについた。
翌日
「ロケットさん見かけませんでした?」
フィーネが予定時刻になっても集合場所に来ないロケットを探している。
「ん……俺は見かけてないな。」
宿屋が髭を触りながらそう言った時、耳がつんざくほどの絶叫。
「ギャアアアアア!!」
「何だ!?ウスイさんの声か!」
「ウスイさんって確か私以外の……」
「少し様子を見てくる!」
そう言って宿から勢いよく宿屋の主人が飛びだす。
「わ、私も!」
「面白そう!わたしが一番乗りになる!」
フェイが勢いよく宿屋の後を追い、フィーネも後に続く。
宿をぐるりと回って裏手、隣の建物との間に回り込んだ奥。
宿屋が真っ先に付きフィーネとフェイはほぼ同着。
鳥族の女……ウスイは腰をひけらかし真っ青な顔をしてある一点を見ていた。
その先に視線を向ける。
赤い
液体
血が むせかえる 臭い
一面に
ナイフのような
倒れている
ロケット
この先の事はフィーネは覚えていなかった。
おまけ
ロケット「そういえば俺の身長ってどのくらいかな。」
フェイ「どれどれ?フィーネ隣並んでー。」
フィーネ「私よりは大きいね。」
フェイ「ふむふむ、1フィーネと4フェイ未満で168くらいかな?」
フィーネ「謎単位!?」
ロケット「ええっと、ということは1フェイの大きさは…」
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あとがき
不自然な点がありましたら指摘していただけると幸いです