20話
ここはルーブ国の商店街。見たことのない外観の野菜を売る八百屋や日本ではお目にかかれない異種な様々な魚を威勢よくうる魚屋等が軒を連ねる。主に主婦達が店先で品物を手に取り質を見比べたり購入したりしている。和明とルナはパンニ(見た目はイチゴで味わいはチョコレート)を口に運びながら商店を見物していく。今回はミルキーが宿屋の調理場を借りて手料理をご馳走してくれることになり材料を調達に来たのだ。真剣で険しい表情のミルキーは商品を品定めしていく。そんな時商店街の先にある公園からけたたましい喧騒が聞こえて来た。和明達は視線をかわし頷くと公園に向かい走り出した。
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両手斧を右手に提げた男を魔族のルークが槍で腹を貫いていた。血が濁流のように地面に流れる。ルークの周りには老若男女の人々が流血し倒れ伏していた。「ウウ」と呻く者も居ればピクリともしない人もいた。ルークの隣に立つ赤い肌の魔族は言った。
「下級魔族のルークよ。今回こそはこの弱小国を我らが手中におさめようぞ」
ルークは目を細め槍を引き抜きながら震える声音で言った。
「はい、ブードゥー様」
二人の魔族の周囲を騒ぎを聞き付けた数千人の兵士達が魔魂を持ち囲む。剣を持った四人の兵士がルークに切り掛かった。ルークは
「解魂」
槍は伸び四人の兵士を横切りにした。倒れる兵士達。ルークは槍を伸縮させながら兵士達を斬り伏していく。次々にルークは兵士達をなぶっていく。一人また一人と倒れ動かなくなる兵士達。それを見て兵士達の士気が下がって戦いをしなくなり悲鳴を上げ逃げ出す始末。指揮官と思われる立派な鎧を着た兵士は怒声を上げた。
「兵士達よ! 逃げずに戦え!」
ルークは総崩れになり散り散りになる兵士の群れを横目に喋った。
「指揮官よ、貴様が戦えばいいではないか?」
「ひい!」
指揮官とおぼしき人物はルークの前から逃げ出した。ルークは駆け指揮官の首をはねた。血しぶきをあげ倒れる死体。ブードゥーはにこやかに言った。
「北にある国はここルーブ以外我等の支配下にある。ベリンは一週間前にラバタは二日前に陥落した。ルークよそなたは二度も失敗した。次はないものと思え」
ルークは冷や汗を額から垂らしながら「はい、ブードゥー様」と返答した。ルークが城を目指し歩き始めたその後ろをブードゥーが行く。公園を出て真っ直ぐに進む。そこで和明達と出くわしたルークは言った。
「和明か、最後の勝負だ。来い!」
和明は剣を両手で握ると駆け出した。ルークの槍とぶつかり激しい金属音がした。和明は斬撃を繰り出す。槍で阻止するルーク。和明の類い稀なスピードに押されだすルーク。ルークの体に切り傷が増えていく。ルークは距離をとった和明に槍先を向け言った。
「解魂」
槍が伸びるが和明の残像を貫いただけだった。和明の跳んだ先に伸ばした槍で切る。しかし当たらない。和明は
「解魂」
姿を消す和明。反応出来なかったルークの首元に冷たい感触がした。ルークは頭だけ後ろに回す。和明が剣を首に当てていた。
「ルーク、退くんだ。そうするなら命だけはとらない」
ルークは「ククク」と笑うと言った。
「俺は退かない。首をはねな」
「終わりだな」
ブードゥーはそう言うと右手でルークの鎧を貫き胸をえぐった。「ブシュ」という音がして青い血が辺りに飛び散る。返り血を浴びたブードゥーはルークから右手を抜いた。倒れるルークは血を吐くとうずくまり呻いた。和明達は驚きを顔に出していた。ルークは目をカッと見開くと静止した。ルークは同族の手にかかり命を落とした。ブードゥーは言った。
「和明とやら、見事な腕前だ……わしはブードゥー、ラバタの統治をしている。ラバタに来たなら戦おうぞ」
そう喋るとブードゥーは身を回転させ姿を消した。死体の山を残して。
{つづく}