19話
和明は目を開いた。そこは鬱蒼と木々が周りに生い茂る小屋の前だった。ルナとミルキーの声がした。
「……和明、心配した」
「なんでそんなに遅いのよ。魔魂のセンスがないのかしら」
どうやら聞いた話によると和明だけ一時間も意識が無かったらしい。ルナ達は解魂を身につけ魔物を倒し十分ぐらいで目を覚ましたらしい。和明がもう一人の自分と戦っていたと話すとルナ達は奇異の目を和明に向けた。ミルキーは
「ミラドさん、もう一人の自分ってどういうこと?」
ミラドは「ホッホッホッ」と微笑すると語り出した。
「この世界には伝説があるのじゃ。アルド大陸が魔族の危機にひんした時、東の扉より漆黒の髪の勇者が現れ自分自身を倒し魔魂の力を持って魔族を制し世界に平和と調和をもたらす……そして西の門より姿を消すと」
ミルキーは思案げな顔をした。
「つまり和明は正義の勇者なの? 確かに髪の色は余りいない黒だけど」
「わしはそうじゃと思う。一目見た時から異質な雰囲気を感じたしの」
ルナは興奮した顔で和明に訴えた。
「……私の解魂凄――」
「ガルル!」と言う怒気を孕んだ声音が林からこだました。木々から鳥達が一斉に空へと逃げ去る。シュルシュルと音がして姿を現したのは身の丈三メートルはある巨体を誇る蛇のようなモンスターだった。ミラドが椅子から立ち指笛を吹いた。すると奔走する足音が聞こえた。そしてミラドのペットのルーニーが姿を見せた。
「わしは魔魂が特殊で戦えん。そなた達に任せてもいいじゃろうか?」
「ああ、じいさん任せとけ」
ルナが一番早く魔魂を取り出しモンスターに突撃した。
「……解魂」
ルナは魔物から数メートル離れた所から縦に切り付けた。するとルナの大剣は長さが十メートル剣幅が一メートルのどでかい剣になった。モンスターは断末魔な声をあげながら一刀両断され絶命した。ルナは褒めてほしそうな顔で
「……和明、どう?」
「すごいぞルナ! でも重くないのか?」
「……軽い」
ルナは満足気な顔で剣を元のサイズに戻し胸にしまった。和明は尋ねた。
「ミルキーの解魂はどんなの?」
ミルキーは「ふふふ」と笑うと
「私の解魂は一言で言うなら雷よ。私がハンマーで打ったものには高圧電流が流れるの」
「へー、雷か。それは良いな」
「和明の解魂はどんなのよ?」
「瞬間移動だよ」
ルナが幼い顔で和明を見上げながら
「……カッコイイ」
「瞬間移動か……便利ね」
ミラドは言った。
「日が暮れると凶暴なモンスターが現れる。早く帰った方がいいじゃろう」
「わかった。ありがとうなじいさん」
「……感謝してる」
「どうもね。また会いましょう」
和明達は口々にお礼を述べる。和明は魔魂を胸元から引き抜いた黒い刀身が怪しく光る。和明は言った。
「瞬間移動するから俺の腕を掴んで」
ルナは和明の右腕にミルキーは左手につかまる。「フッ」と音がしたかと思うとミラドの前から三人の姿は失われていた。
{つづく}