18話
「ほんとにこんな山なんかに魔魂の真髄を知る仙人が居るのか?」
温もりのある陽光がさしつける中和明達一行は山道を登っていた。ここはサンザス山。人を寄せ付けぬ雰囲気を醸しだした場所だった。ミルキーは摘んだピンクの花の臭いを嗅ぎながら弾んだ声で答えた。
「噂では山の中で一人暮らしをしてるらしいわよ」
獣道を歩く三人の前にふたまわり程大きな狼が藪から現れた。その狼は「ウー!」と毛を逆立てながら威嚇してくる。牙がとても大きくて鋭い。魔魂を取り出し臨戦体勢に入る和明達。
「これこれ止めるんじゃルーニー」
声の方を見る一同。そこの生い茂った草を掻き分け頭髪が一本も無い皺だらけの顔のおじいさんが歩いて姿を見せた。巨大な狼はその老人を見ると笑顔になり老人の側に走り寄り寝転び腹を見せた。狼は先程の形相は微塵もなく「ハッハッ」と楽しそうに声を発した。その狼の腹を腰を少し曲げ摩る老人は言った。
「おまえさん達は何故こんな山奥に来たんじゃ?」
「えーと――」
「待て、わしがあててやろう……そうじゃ、超絶美男子であるわしを拝みにきたんじゃろう! え、そうじゃろう!」
和明は戸惑いながら
「いや――」
「違うのか! ガビーン! じゃあ魔魂の極みは教えてやんない!」
「え、魔魂の極み!? お前……いや、あなたが仙人なんですか?」
老人は狼の額を右手でかきながら喋った。
「仙人……佐用、わしミラドが仙人じゃ。ついてきなさい」
和明達は老人と狼に似た獣の数歩後を追尾していく。好き放題生えた草を払いのけ木々をかわしながら進んでいく。しばらく歩くと開けた場所にある小屋の前に来た。狼にそっくりな獣は走り去った。ミラドは小屋の前にある竹の椅子に腰掛けると言った。
「お前達の目的は魔魂の真髄を極めるためじゃな? つまり魔魂の真髄解魂をマスターすること」
和明達が頷くと老人は言った。
「わしの魔魂は特殊な錠剤なのじゃほれ」
ミラドは右手で胸元から三粒の白い薬のようなものを取り出した。
「一人一錠の飲むのじゃ。そしたらあちらの世界で魔物か……」
ミラドは和明を一瞥した。
「……あるいは自分自身と戦い勝つのじゃ」
錠剤を受け取った三人はそれぞれコップに入った水で飲み干した。次々に意識を失い倒れる和明達。
†
「うう、ここわ?」
和明が立ち上がるとそこは広く白い空間だった。和明の数メートル先にはもう一人の和明がスマイルで立っていた。和明は
「また、お前か」
「そうだよ、久しぶりだね」
「また戦うのか?」
「そうだよ」
そう言うやいなやもう一人の和明は一瞬で和明の背後に姿を現した。和明は魔魂を出し振り返るが右腕を軽く切られた。和明は「ウグ」と唸りながら走り相手との距離をとった。
「無駄だよ」
また、不意に和明の前にもう一人の和明が姿を見せた。和明の腹に剣の先を軽く当てる。もう一人の和明も右腕から出血していた。和明は
「瞬間移動か?」
「そう、まさに。君が秘めた魔魂の真髄だよ。しかも剣の強度も格段に上がる。剣も柄が黒だしね」
「どうやったら、そうなれる?」
「考えるんじゃない感じるんだ。意識を無にしてとぶんだ」
和明は集中力を上げ目を閉じ、また開いた。和明は元居た場所から数百メートル先にいた。しかも細い剣も黒に染まっていた。
「出来た!」
「調子が良いね。僕に一撃でも入れれたら君の勝ちだ……」
和明は相手のこちらから見て右側に姿を出現させ相手から見て右から左に切る。反射的に剣をぶつけるもう一人の和明、彼は和明の後方上に瞬間移動し縦に切り掛かった。和明は相手の後方にとび左斜め上からの袈裟切りを放つ。もう一人の和明は十メートル程和明から距離をとった。和明は相手の正面に姿を現し横切りをする。もう一人の和明が黒い剣で防ぐも右頬を負傷した。もう一人の和明は言った。
「参ったよ。僕の負けだ」
それを聞いた和明は意識が混濁して倒れた。
{つづく}