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 この世には悪役令嬢という職業がある。


 この悪役令嬢、ただの嫌味で自己中、他人を振り回すお嬢様というわけではない。「わざと」嫌味で自己中、他人を振り回すお嬢様の振りをして、他国の王族に取り入ったり内政を激化させたりする。つまり悪役令嬢というのは、国家が育成する工作員である。


 ──時は、大就活時代。

 就活に明け暮れても就活は終わらず。応接室の中に一人、夢を追う女がいた。


「……ええと、つまり。私は、その、外交的に。あの……」


 面接官の一人が冷静に言った。


「結論をどうぞ」

「……国を、めちゃくちゃにしたいです!」

「正直ですね」


 さらさらと書類に何かを書き落とす。


 エリス18歳。高等教育機関を卒業したばかりのその女は悪役令嬢になるという夢に向かって日々社会に翻弄されていた。

 しかし、そううまくいくわけでもなく。

 悪役令嬢っていうのはエリート中のエリートだ。苗字もない、農村の生まれのエリスが簡単になれるようじゃないものらしい。


 そもそもエリスは、悪役令嬢に必要なものを大体持っていない。

 家柄もない。誰かを威圧することも苦手だ。美貌も、自分で言うのも悲しいがそこそこ。せめて悪辣さを身につけようと、嫌味を言おうとしても途中で言葉が迷子になる。それに、目つきだって鋭くなりようもない丸目だ。

 この根っからの雰囲気のせいで取り繕える書類は通るけれど面接ではどうも上手くいかなかった。


 ……向いてないことは理解している。


 それでも、諦められなかった。あの日、憧れてしまったから。


 目の前には面接官が四名。エリスのことを品定めするように眺めていた。

 ああ、ほんとに。心の中で悪態をつく。……すべった。そもそものところ、四対一なんて分が悪い。そんなことを心の中でぼやきながら、言葉の端をぎこちなく口から溺れ落とす。


「……で、です」


 沈黙。面接官にとっては意味のない時間だっただろう。それでもエリスにとっては終わらない時間だった。


 終わった、そう思った。


 目の前の面接官たちは互いに視線を交わし、手元の書類へと目を落とした。そこにはきっと良いことは書いていないだろう。名前のところに大きく罰でもかかれているかもしれない。


「では、最後に実践をどうぞ」

「は、はい!」


 気を取り直して、高笑いの準備をすべく喉を震わせる。そうだ、ここでびしっと決めるのだ。街で買った本を何度も読み込んで知識だけは完璧にしてきた。喋りに活かされてはいないが、ともかく内容は覚えたのだ。悪役令嬢の高笑いは3種類あって、……とかとか。

 ともかく、今回は失敗しないように初心者向けの基本の高笑いをする。鏡の前で何度も練習した悪役令嬢の基本の笑顔。前を見据えて、右端だけ口角をあげた。


 さあ、息を吸って。


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