第9話 約守
事務所に戻った後も、リムは掌で微かに揺れ続けていた。
青と金の光が交錯する様子は、まるで小さな心臓の鼓動のようだ。
「なあ、リム……あのぬいぐるみ、何か秘密があるんじゃないか?」
『……みなと……わかるの?』
「ちょっと、な。匂いと感情の残り香でな……」
リムは光を強め、小さく震える。
『……うん……これは、約束の光……』
「約束……?」
その言葉に、俺は思わず眉をひそめた。
リムの光が微かに揺れ、ぬいぐるみから放たれる残滓を照らす。
その瞬間、頭の中に断片的な映像が流れた。
――少女の父が、ぬいぐるみを手渡すシーン。
――母のいない日々の孤独を埋めるためのぬいぐるみ。
――そして、無意識に交わされた“守る約束”。
『……守るって、こういうこと……』
リムの声は震えていた。
「そうだ、リム。守るってのは、ただ持っているだけじゃない。
誰かを想い、その想いを行動で形にすることだ」
リムが光を揺らし、青から金へ変化する。
『……わかった、みなと……ぼく、守る……約束……』
その瞬間、事務所に暖かい空気が広がった。
小さな約束が、守る力になる。
そして、俺たちの絆も、さらに強くなったのだ。
だが窓の外、屋上の黒い影はまだ動かない。
――次に来る試練は、この小さな守りを壊すかもしれない。




