第8話 温灯
少女の家を後にして、事務所へ戻る途中。
街の灯りが、雨で濡れたアスファルトに反射して柔らかく揺れていた。
リムは掌に小さく丸まり、青と金の光が交互に揺れる。
『……みなと……ぼく、うれしいけど……ちょっと泣きそう……』
「泣いてもいいんだぞ、リム」
俺は微笑みながら言った。
小さなスライムが感情を溢れさせるのは、初めて見る光景だった。
少女の涙――悲しみだけでなく、喜びも混ざっていた。
リムはその感情を吸い取り、光として表現する。
青は優しい慰め、金は暖かい希望の色。
『……ぼく……守れた……!』
リムの声が震え、光が一瞬、虹色に煌めいた。
「そうだな。守ったんだ、俺たち二人で」
俺の声は静かだが、胸の奥は熱くなる。
リムは少女のぬいぐるみを見つめ、震える手を伸ばす。
『……ありがとう……トマ……』
俺はそっと頭を撫でる。
「お前も、大切な宝物だよ」
夜風が、窓から事務所の中を通り抜ける。
小さな灯りが揺れるだけの空間だが、暖かさは確かにあった。
――事件は小さいが、守る意味と絆を知った、初めての夜。
だが俺の心の片隅に、黒い影がまだ潜んでいる気配があった。
――次に来るのは、もっと大きな試練。
リムの光が再び淡い金色に戻る。
『……でも、ぼく、みなとと一緒なら……どんなことも、きっと……』
その言葉に、俺も小さく頷いた。
「そうだ、リム。俺たちは、まだ始まったばかりだからな」




