第7話 断声
翌朝、少女の家を訪れた。
雨で濡れた路面が朝陽に反射し、街全体が淡い光で包まれている。
少女の父親はリビングで腕を組み、険しい表情で立っていた。
「また問題を起こしたのか?」
しかしその声には、怒りだけでなく、娘を思う複雑な感情が混じっていた。
少女は小さく震えながら、バッグに手を伸ばす。
「……ぬいぐるみを……」
父は一歩前に出たが、口を閉ざす。
空気が張り詰め、言葉が断絶する――まさに“断声”の瞬間だ。
俺はそっとリムを掌に乗せる。
青い光が微かに揺れ、父の感情を読み取る。
『……あのひと……あいしてるけど……こわい……』
俺は少女の背中を支えながら、低い声で呟いた。
「大丈夫、リムと一緒なら大丈夫だ」
リムは金色に光り、少女のバッグに触れる。
ぬいぐるみの残り香が強く反応し、屋上で見た黒い影の感覚も微かに漂う。
少女の父親は目を伏せ、深いため息をついた。
「……分かった。持って行け」
その声で断声は解かれ、空気が一瞬で緩んだ。
少女は涙をこらえながらぬいぐるみを抱きしめる。
リムが嬉しそうに揺れ、光をぱっと放った。
『……ぼくも、うれしい……』
俺はその光景を静かに見守る。
――守るべきものを守る喜び。
そして、守る意味を知る瞬間。
だが俺の背後、事務所に戻る道すがら、屋上の黒い影が再び動く気配を感じた。
――俺たちの平穏は、まだ続かない。




