表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/60

第3話 影形

雨は止み、街には淡い夜明けの光が差していた。

濡れたアスファルトが薄く光り、朝靄が小道を包む。


「さて……行くか、リム」

俺は少女の話をもとに、ぬいぐるみの手がかりがあるというマンションへ向かった。


リムは机の上で揺れながら、微かに色を変える。

青と緑が混ざる光――緊張と期待を示している。


『……ここ……匂う……さみしい……』

リムの声は小さいが、確かな意思を含んでいた。


マンションの屋上。

鉄製の手すりに触れると、リムが光を細く伸ばす。

「……リム、潜入できるか?」

『……うん!』

その瞬間、スライムは透明化して、わずかな隙間から屋上の影に潜り込んだ。


俺は息を潜めて見守る。

リムの体が光を帯びて揺れるたびに、

風で飛ばされた紙片が微かに動き、影が生き物のように見えた。


しばらくして、リムが戻ってくる。

「……あった」

掌の中で小さく震える金色の光。

ぬいぐるみの“感情の残滓”を捉えたのだ。


『……こわい……いっぱいこわい……』

それはぬいぐるみの主、少女の不安と恐怖が残った“色”だった。


「よし、落ち着け……」

俺は屋上を慎重に歩き、ぬいぐるみの隠れ場所を特定する。

影に紛れ、誰も気づかない場所。

簡単な盗難ではない――置き去り、もしくは強い意図を持っての行為だ。


リムが金色に光り、微かに震える。

『……みなと、ぼく……やった……!』

「ああ、やったな」

少女の涙と喜びを思い浮かべ、胸が熱くなる。


しかし、屋上の片隅に黒い影が微かに動いたのを俺は見逃さなかった。

リムの能力は“感情”を読み取るが、誰かの意思が混じると光が濁る。

誰か――“この街を見張っている存在”がいる。


その気配は、今後の事件を示す不穏な前兆だった。


俺は少女の笑顔を思い浮かべ、リムを抱き上げる。

「帰ろう、リム。今日はこれで仕事完了だ」

『……うん!』


だがその背後で、屋上の黒い影がじっと俺たちを見下ろしていた。


――この日、俺たちの探偵としての戦いは、初めて“影”を意識することになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ