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エピローグ:心地よい名前
エルベルトが店を出て一人になった『銀の厨房』で、シルヴィアは口元に残る笑みを隠せなかった。
彼女はゆっくりと厨房を見回し、今日起きた出来事を反芻する。侮辱され、汚された料理。怒りに震えるエルベルト。そして、彼の突然の「婚約宣言」。
「……エルベルト、ね」
彼女は小さく呟いた。その名前は、数時間前よりもずっと親しみを込めて発せられていた。
「……うん、エルベルト」
そう口ずさんだ彼の名前を、もう一度小さく呟く。
そして、自分でも驚くほど自然に出てきた言葉に、彼女は頬を赤らめた。
窓から差し込む月明かりが、綺麗に片付いた厨房の銀食器を優しく照らす。銀の包丁が、月光を受けてわずかに輝きを放っている。その光は、彼女の新しい一歩を祝福しているかのようだった。
明日から、この厨房には二人の料理人が立つ。
これから『銀の厨房』では二人の手が、二人の心が、一つの皿を作り上げていく。
シルヴィアは月明かりの中、穏やかな笑顔で明日を待ち望んでいた。
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