守城の名将:袁崇煥:第4章:寧遠の章⑦
◯1626年
毛文龍という人は、明王朝にとって、かなり厄介な存在でした。
当時、後金という新しい国が、今の満州地方でどんどん強くなっていました。そんな中、毛文龍は遼東半島にある椵島という島を拠点にしていました。そこから彼は、明の兵士や避難民を連れて、後金の背後をかく乱するゲリラ戦を続けていたのです。
明の役人たちは、彼の功績をほめて、お金や物資を毛文龍に送っていました。けれど毛文龍は、その援助に満足していませんでした。
「おい、これじゃ、まるで小遣いみたいじゃないか! もっとまともな兵糧をくれよ、明朝さんよ!」と、毛文龍は怒りをあらわにして部下に叫びました。
「でも、大将様、明朝も大変なんですって。後金に攻められて、余裕がないんだとか…」と部下の一人が言うと、毛文龍はしばらく考え込みました。
「ふむ、わかった。じゃあ、もう少しだけ待ってやるか…。だが、次はもっと大きな支援を頼むぞ!」と、ぶつぶつ言いながらも、少し納得した様子でした。
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独立した拠点と朝鮮との関係
毛文龍が椵島に築いた東江鎮は、明朝の支配が届かない、まるで独立した勢力のようでした。彼はそこで軍事と行政のすべてを任されて、自由に動いていたのです。
椵島は朝鮮にも近く、毛文龍はよく朝鮮に食糧や物資の支援を頼んでいました。これが、のちに後金が朝鮮に攻め込むきっかけになったのですが…。
ある日、毛文龍は朝鮮の使者と会っていました。
「大将、どうぞこれをお受け取りください」と、使者が大きな袋を差し出しました。
「おお、これはありがたい! 食糧か? それとも…金か?」と毛文龍は袋を開けながら興味津々(きょうみしんしん)でした。
「いいえ、大将様…これは米でございます」と使者が答えました。
毛文龍は少し考え、「米か…まあ、足りないよりはマシだな。でも、金も頼むぞ!」と言って笑いました。使者はあっけにとられていました。
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・袁崇煥との対立
1626年、後金の創始者ヌルハチが亡くなり、ホンタイジがその後を継ぎました。王様の交代が進む中、毛文龍の存在は依然として大きな脅威でした。
ある日、寧遠を守る将軍、袁崇煥は毛文龍の態度を問題視していました。
「毛文龍は俺たちの支援を受けておきながら、まるで独立したかのように振る舞っている!これは黙って見過ごすわけにはいかない」と袁崇煥は強い口調で言いました。
「でも、大将、毛文龍は戦場で手柄を上げているじゃないですか」と部下が反論すると、
「わかっている。だが、明国への忠誠心などカケラもない。彼の勝手な行動が後々問題を起こすかもしれん」と袁崇煥は深く心配しました。
毛文龍もまた、袁崇煥との間に微妙な対立を感じていました。
「袁崇煥か…やりにくいやつだな」と、ひとりごとを言いながら、毛文龍は今日も島での活動を続けていました。
明朝にとって、毛文龍のゲリラ戦は重要なけん制でした。しかし彼の評判は時に悪く、ずるいことをしているという噂もありました。
「これが俺の独立心だ! 誰にも負けない! だが…もう少し支援があればなぁ」と、疲れた顔で空を見上げました。
その日も毛文龍は、自分の未来を思いながら、再び朝鮮からの物資を受け取りに向かいました。
彼の戦いは、まだまだ続くのでした。
〇1626年、明朝・寧遠城にて
1626年、明という国の寧遠城でのことです。
寧遠城は、明の北の守りの要でした。後金という、今の中国東北部に勢力を広げる強い敵が、じりじりと迫っていました。
城壁を見上げる**袁崇煥**は、深いため息をついていました。袁崇煥は明王朝きっての名将で、武器と知恵で敵を迎え撃ちます。ですが、今の彼の心は晴れませんでした。
「あいつは、どうしていつもこうも面倒なことばかりするんだ…」と袁崇煥はつぶやきました。
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・毛文龍への不信感
そこに、袁崇煥の部下であり、参謀の**趙率教**がにやりと笑いながら答えました。
「ああ、毛文龍のことですか?毛文龍は水軍の将軍として後金との戦いで活躍しましたね。しかし、どうも怪しい動きをしているらしいです。」
袁崇煥は顔をしかめました。
「怪しい動き?はやり、あいつは自分の利益だけを考えている。戦では後金と戦い、大敗して逃げ帰ったくせに、政府に賄賂を送って自分に都合のいい動きをしているんだ」
賄賂とは、お金や品物を使って自分に有利になるように人を動かす悪い行いです。
そこへ、お腹を空かせた様子の何可綱がゆっくり歩いてきました。何可綱は袁崇煥の信頼厚い相談役です。
「遅れてすみません。ぐぅ…」と何可綱は頭を下げました。
「何か新しい情報はあるか?」と袁崇煥が聞きました。
「はい。毛文龍が後金と密かに取引している可能性が高まっています。これが事実なら、自分だけが儲けるだけでなく、国の安全をも脅かす大問題です。ぐぅ」
袁崇煥は険しい顔でうなずきました。
「よし。証拠をつかむまでは、慎重に動くしかないな」
「証拠があれば、政府にも正義を示せるでしょう」
「だが、証拠を掴むのは簡単ではない」
「それでもやるしかない。国のために」
趙率教がニヤリと笑いました。
「崇煥様、あの毛文龍の顔を見たら、また何か言い訳をして逃げそうですよ」
袁崇煥は鋭い目で一瞥しました。
「今はそんなことを考えている暇はない。あまりにもふざけた態度を取り続けるならば、一刀のもとに切り捨てるだけだ」
寧遠城の空はどこまでも青く、風が吹き抜けます。その風に乗って、袁崇煥の決意も強く固まっていったのでした。
◯1627年
寧遠城の空は、どこまでも透き通るような青さで広がっていました。心地よい風が吹き抜け、その風に乗って、袁崇煥の決意はどんどん強く、固くなっていきます。
袁崇煥は明という国の将軍で、遼東という北の国境を守る重要な役目を担っていました。彼は誠実で厳しく、部下たちからの信頼も厚い人物です。
一方、毛文龍は袁崇煥の部下でありながら、何かと問題を起こす困った男でした。彼は54歳で、戦ではあまり良い結果を出せず、周囲からも疑問視されていました。
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・毛文龍、最後の言い訳
寧遠城の広い部屋で、冷たい空気がぴんと張りつめていました。袁崇煥は鋭い目で毛文龍を見据えます。
「…毛文龍、お前の罪は明白だ。だが、他の者は罪に問わない」と袁崇煥の声は冷たく、部屋に響き渡りました。
毛文龍は雷に打たれたように体を震わせ、目を大きく見開いて呆然としました。しかし、すぐに言い訳を探し、必死に口を開きました。
「え、ええっと、違います!これは誤解です!実は…予想外のことが起きてしまいまして!」
部屋にいた者たちは、思わず顔を見合わせ、笑いをこらえました。まるで子どもが駄々をこねるような言い訳に聞こえたからです。
袁崇煥は眉をひそめ、冷ややかな目で毛文龍を見つめます。
「お前、予想外って何だ?」
「その…阿敏がまったく戦わなかったんです!大きな旗を振り回すだけで、戦いには参加しませんでした!」
袁崇煥は冷たい笑みを浮かべて尋ねます。
「阿敏が戦わなかった?それで?」
「それだけではありません!商人との取引も大変で、みんな約束を破るし、値段を勝手に変えるし…」
毛文龍の言い訳は、だんだんとおかしな方向へ進み、周囲の者たちはとうとう笑いをこらえきれなくなりました。
「つまり、阿敏が戦わず、商人が裏切ったから、お前が負けたと?」
袁崇煥は鋭く目を細めて問いただします。
「そうです!だから僕は悪くないんです!むしろ、あの商人と阿敏に謝らせたいくらいです!」
顔を真っ赤にしながらも、言葉は矛盾だらけです。袁崇煥はため息をつきながら呆れたように言いました。
「お前は、責任を商人と阿敏に押し付けるつもりか?もう言い訳は通用しない」
部屋は凍りつき、毛文龍は黙って頭を垂れました。
袁崇煥は静かに、しかし確実に命令を下します。
「お前の罪は重い。これで決定だ」
毛文龍の命運はここで尽き、54年の生涯は終わりました。彼の最後の言葉は、子どものような言い訳と共に、風に消えていったのでした。




