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前編〜宝探しの始まり〜

「ここまで…か」


俺は、大破した戦車の影に身を潜めながら自身の状況を確認する。


左目のメインカメラからの反応がない。右腕はさっき榴弾から味方をかばって大破した。腹部の大穴は、致命傷こそ避けたものの、下半身との神経リンクをやられたようだ。修理をしなければもう歩くことすらできないだろう。


「こっちもか…」


視界の端で点滅を繰り返すゲージを確認する。

表示されたパーセンテージは3%。

俺たち機械化兵が活動する上で無くてはならない、メインエンジンを動かすエナジーフィラーの残量がもう尽きかけていた。


俺は小さく舌打ちをし、最後の置き土産として、懐に隠し持ったエネルギー爆弾を活性化状態にして敵の方へと投げつける。


機械化兵の腕力でもって投げられた爆弾は、人が投げる物の数倍もの距離を滑空し、寸分たがわず敵集団の元に落下する。


そして、そのまま爆発。


哀れな敵兵は跡形もなく消え去る。


「はっ、ざまぁみやがれ」


それを見届けてから帝国の戦闘不能時のマニュアルに従い、メインエンジンを戦闘モードから、待機モードへと切り替える。


聞き慣れた戦場の音を耳にしながらながら、どんよりと曇った灰色の空を見上げた。


「糞見てぇな人生だった…これでやっと終われる…」


機械化兵。


それは世界一の軍事大国、サルバ帝国が産み出した、全身を機械のパーツに置き換えることで産み出された、戦うことだけに特化した機械の兵士だ。


強靭な肉体と、必要最低限の生活の保証を得ることと引き換えに、帝国の命令には逆らえず、死ぬまで激戦地区の最前線で戦わされる帝国の操り人形。


機械化兵になるような奴は、重犯罪者か、本物の戦争ジャンキーか、機械化兵になることでしか生きることを許されなかった生まれもっての敗者かだけだった。


そして、物心付く前に戦争で身よりを亡くした俺は、おめでたいことにその敗者の仲間入りを果たしたというわけだ。




ーーエナジーフィラーの残量が不足しています。30秒後に非活性モードに強制移行します。ーー




「時間切れ、だな」


非活性モードになれば、ほぼ半永久的に記憶メモリの情報を保管でき、エナジーフィラーさえあればまた動けるようになるが、完全に動作が停止し、全てのレーダー、カメラも停止するため敵が寄ってきても知覚することすらできない。当然その間に攻撃をうけ、破壊さればそれまでだ。


こんな激戦地区の最前線には替えのエナジーフィラーを持った補給班も訪れない。


この戦いの終結を待つのも望みは薄い。なんせ、この戦線だけでも3年。この戦争全体という話なら、俺が機械化兵になる遥か前から続けているのだから。


つまり、俺の人生はここで終わりだ。


思い残すことがあるほど楽しい人生ではなかった。


だから、もういいだろう。


やかましすぎる子守唄を聴きながらゆっくりと目を閉じる。


(あぁ、こうやって何も考えず目を閉じるのも何年ぶりだっただろうか)








ーーエナジーフィラー残量ゼロ。非活性モードに移行します。ーー








「これで本当に動くのかなぁ…」


「これとこれを繋いで…」


「おっ、この穴かな? よし、こいつを差し込んでっと…どうだ!」




ーーエナジーフィラー装填確認。データリンク起動………応答無し。記憶メモリ復元………成功。コードナンバーb2h625再起動ーー




「ここは…何処だ…」


目を開けると、そこは薄汚い小さなガレージのような場所だった。


非活性モード中はあらゆる信号が遮断される。


故に、活動停止から再起動までの時間は、体感では数秒にも満たない。


俺は自分のからだの状態を確認する。


反応の無かった左目はかなり画質が悪いもののしっかりと視覚情報を伝えている。


吹き飛んだはずの右手も帝国の部品とは比べ物にならない程性能の低いものではあったが、しっかりとした腕がついていた。


胴体に空いていた穴も塞がれており、見た目上は元通りだ。スムーズとはいかないものの、下半身にも信号が届くことから、神経リンクの方も何とか形にはなっているのだろう。


修理の稚拙さから、これが帝国の仕業ではないというのはすぐに分かった。しかし、それでは一体だれがあの激戦区から俺を回収し、修理を施し、エナジーフィラーの交換までしたのだろうか。


その答えは俺が考えるよりも早くドヤ顔で俺の目の前に現れた。


「どうですか? ロボット君。ちゃんとこの美少女が見えているかな?」


突如メインカメラいっぱいに写り込んできたのは見知らぬ女の顔。


アッシュブロンドの髪に透き通るような青い瞳、わずかにこげた肌が彼女の快活さを際立たせていた。


確かに顔立ちは整っているが、初対面で自分のことを美少女といってしまう辺りそこはかとない残念さが漂っている。


「うんうん、分かる、分かるよ~。そりゃ、目覚めたら目の前に絶世の美少女がいたら呆然としちゃうよね、運命感じちゃうよね、でもごめんね、私、あなたとは付き合えな…いっ、いたい! 止めて! 頭割れちゃう! 生卵みたいに中身が出てきちゃう~」


無意識のうちに締め付けていた手を女の頭から離した。


女は頭を押さえながら私、命の恩人なのに~とか、レディに対する扱いがなってないよ~とか、言っていたが全部無視して話を進める。


「ここは何処だ、戦争はどうなった、帝国とも連絡がつかない。一体どうなっているんだ」


「あのね、女の子と会話したこと無くて緊張しちゃうのは分かるけど、そんなに早口でしゃべってたらちょっと気持ちわる…いっ、いたい!止めて!暴力反対!話せばわかるばずなんだよ!」


「会話を拒否したのはそっちだろ」


「ごめんなさい、ごめんなさい!お願いだから放して~」


俺は大きなため息をつきながら女の頭を解放する。


女は頭を押さえながら冗談が通じないのかなぁ~とか、ロボットだけに柔軟性が足りないのかなぁ~とか言っていたが、俺が左手を翳すと静かになったので話を進める。


「で、さっきの質問の答えを聞かせてもらおうか?」


「ここは私のアジト! 場所的にはサーラルっていう町の外れだよ」


「サーラル…」


一応作戦の都合上、戦闘地域一帯の地名はデータとしてインストールされているが、聞いたことの無い地名だった。


「戦争ってのは…君が居た場所だとヘレネス戦争のことかな? あの戦争はすっごい強力な生物兵器が暴発して両方とも全滅したって本に載ってたなぁ…」


「生物兵器!? 全滅!?」


突如聞かされた衝撃の事実に思わず声を張り上げる。


「そ、それじゃあ帝国はどうなったんだ!?」


「えっと、君が言ってるのがサルバ帝国のことなら…滅びました。…八十年ほど前に」


「滅んだ!? あの帝国が…しかも、八十年前だと…」


どおりで帝国と連絡がとれないわけだ。


それより、八十年前とは…まさか、非活性モードにはいっている間にそんなにも時間が過ぎていたとは…


でも、そうか…帝国は滅びたのか…


「君を砂漠で拾ってから約一年。私の汗と涙と努力のお陰で今の君があるのだよ。ほら、感謝の言葉は? ありがとうございますは~?」


確かに、この女の力がなければ、俺は目覚めることはなく今も、そしてこれからも眠り続けていただろう。


その点でいえば、確かにこの女に感謝するべきなのであろう。


だが…


「余計なことを…役割を失った機械兵には生きる意味も理由も無い」


そう、帝国は既に滅んだのだ。


「無為にいき続けるぐらいなら砂に埋もれて消えていった方がまだ幸せだった…」


機械兵には自滅を禁じるコードが仕込まれている。


帝国に産み出され、闘うためだけにそれ以外の全てを蔑ろにして生きてきたのだ。


戦争が終結し、帝国も滅んだ今、一体俺に何のために生きろと言うのだ。


「…君は随分と悲しいことを言うんだね」


何故か、彼女は今にも泣きそうな顔でそう言った。


先程までの飄々とした態度からは想像もできないほど痛々しいその表情に思わず言葉が詰まる。


ほんの少しの沈黙がとても重く感じた。


何か言おうとしたが、それより早く彼女が口を開いた。


「じゃあさ、私の旅に付いてきてよ!」


その表情に先程までの影は既になく、それは元の残念美少女のものだった。


だから俺も少しおどけて聞いてみる。


「旅? お宝でも探しにいくのか?」


「そう! 宝さがしの旅!」


ふざけて言ったつもりだったが、どうやらその通りのようだった。


「宝って…そんなもの本当にあるのか?」


「ふふん、私に任せなさい!君に生きる理由がないと言うのなら、私が君に生きるってことの素晴らしさを教えてあげるよ!」


そう言って堂々と胸を張る彼女が、俺にはとても眩しく見えた。


だからだろう。もう少しだけこの女に付き合ってやってもいいかもしれない、なんて思ってしまったのは。


「そう言えば、自己紹介がまだだったよね。私はアリア。アリア・スローネ」


そう言って女は、いや、アリアは手を差し出す。


俺はその手を握り返し答えた。


「俺はクロエ。クロエ・アーキマンだ」


「ほうほう、くろえ、くろ…くろ…よし、今日から君はクーちゃんだ!」


「はぁ!? ふざけんな! 何だその呼び名は!」


「てれるなよ、く~ちゃ~ん。あっ、私のことはアリアお姉さんで構わないからね!」


「誰が呼ぶか! ってかその呼び方止めろ!」


「行くぞクーちゃん! まだ見ぬお宝が私達を待っている!」


「少しは人の話を聞けっ!」




こうして俺と、アリアの旅は始まったのだ。

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