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08,助っ人

 世間の囂々たる非難にさらされて警察もやっきだ。それまでためらわれていた市街地での発砲も、十分な注意の下、使用が許可された。

 バスカヴィルに命中した、という報告がされたが、その後もバスカヴィルの活躍は続いた。

 やはり彼にふつうの方法は通じないようだ。

 しかしここに来てバスカヴィルの活動が止まった。

 どこかに潜伏して次の襲撃ポイントを探っているのか、

 それとも既にさんざん暴れて気が済んだのか?

 5日経ち、7日経ち、

 師走に入った街はクリスマスの飾りにきらめき、年末の予定に心をうきうきさせた人々の頭から次第にバスカヴィルの脅威は薄れていった。

 八王子に宿を取った紅倉は知っている、東を望み、バスカヴィルが既に次の、最大の攻撃の準備を整えて潜伏を完了していることを。

 その気配を探って紅倉は戦慄し、危うく卒倒しかけた。

 相変わらず犬は大の苦手だった。相棒ロデムだけは特別なのだ。ロデムは特別に盲導犬としてホテルへの入室を認めてもらっている。

 バスカヴィル率いる群れは1000に及ぶ大群になっている。

 千だろうと2千だろうと悪霊怨霊にびびる紅倉ではないが、バスカヴィルの軍団の中には生きた犬が数十頭混じっていた。

 これは警察と連携して当たらなければならないが、これだけの数の霊はさすがに紅倉にもさばききれない。

 相手が幽霊でも、やっぱり犬は苦手だ。

 バスカヴィルは頭もいい。紅倉が出ていけば、すぐさま紅倉対策のフォーメーションを軍団に指示するだろう。

 助っ人が必要、と考えているところに依頼主の動物愛護団体代表が訪れた。

 挨拶を交わし、紅倉が求めたバスカヴィルの情報を教えてくれた。


「バスカヴィルはボルゾイという種類の犬です。ロシアを紀元とし、オオカミ狩りのために改良された最大級の大型犬です。別名、ロシアン・ウルフハウンド。

 狩りのために改良された犬ですから、強靱で、チームワークがよく、主人の言うことをよく聞きます。当然頭はいいです。少し繊細すぎる嫌いがあるでしょうか。

 本来きちんとしつければ非常にマナーの良い犬です。長年ロシア貴族に愛され、受け継がれてきた、まさに犬の貴族と言っていいでしょう。

 成犬の雄で体高70センチくらいになりますが、バスカヴィルは、1メートルを優に越します。

 まさに、王の貫禄ですな」


 話を聞きながら紅倉は青くなった。これまでで最強の敵かも知れない。

 そこで訊いた。

「犬の神様って、いないでしょうか?」


 作戦を話し合い、警察への連絡を頼み、代表を帰した。

 芙蓉が心配して訊いた。

「先生。今回は、無理なんじゃありません?」

「無理よねえ?やっぱり」

 紅倉は涙目でべそをかくように言ったが、大人しく座るロデムの頭を撫で、

「だから、今回はあなたたちの力を借りなくちゃ勝てないわ。美貴ちゃんも」

 芙蓉を見て言った。

「美貴ちゃん。あなたは犬の神様の所に行って、協力をお願いしてきてちょうだい」

「わたしがいなくて、その間大丈夫ですか?」

「ええ。頼もしいボディーガードがいるから」

 にっこりロデムを見る様子に芙蓉は思いっ切り嫉妬した。

「そんな顔しないで」

 察して紅倉は苦笑いした。

「そうだ、美貴ちゃん、ロデムを連れて辺りを歩いてきてくれない? いつもわたしといっしょじゃロデムも運動不足だわ。ロデム。いいわね?」

 じいっと目を覗き込まれて、ロデムはのっしと立ち上がった。

 まるで付いてこいと言わんばかりに先に立ってドアに向かった。

「じゃ、美貴ちゃん、いってらっしゃーい」

 バイバイと手を振られ、芙蓉は憎々しげにロデムを睨んで、仕方なく後を追った。


 平日の午後2時を回ったところ。

 ロデムを連れた芙蓉は駅の周りに広がる繁華街を抜け、住宅地を歩いた。

「ほらロデム、富士山が見えるわよ」

 とせいぜいフレンドリーに教えてやったが、ロデムはちらと見ただけでフンというように前を向いて先を歩いた。紐を引っぱられて芙蓉は『この〜』と思いながら歩いた。ロデムは黒い首輪に赤いリードを付けている。首輪には、芙蓉は不用心だからやめろとさんざん言ったのだが、「紅倉ロデム」と刻まれた銀のプレートが付いていて、ご丁寧に自宅の住所まで刻まれている。紅倉はこの犬をべた可愛がっている。芙蓉ははなはだ面白くない。

 川岸を歩いていると、ロデムは不意に立ち止まり、向こう岸に向かって

「ワン」

 と一声吠えた。

「なに?」

 芙蓉はロデムが吠えた辺りを見て、

『ははあー、そういうことか』

 と納得した。

 芙蓉もロデムといっしょにしばらく待って、

「じゃ、帰りましょうか?」

 と言ったが、ロデムはそのまま駅と反対方向に歩き続けた。

「あなた、本当にわたしに散歩を付き合わせる気い?」

 ロデムは一度振り向いて、来い、と首を振った。

「こんにゃろ〜」

 よーし・・と思い、

「行くわよ!」

 芙蓉は走り出し、ロデムもいっしょに走った。

 まるで昔の刑事ドラマか青春ドラマみたいだった。


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