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06,魔犬襲来

 保健所に回収されてきた犬は、問題のない犬は里親を募って、現れれば、引き取られていき、第2の人生をスタートさせることが出来る。

 けれど、引き取り手の現れなかった犬、及び最初から問題のある・・病気であったり、やたらと吠えたり、攻撃的であったりする犬は、何もない狭い部屋に閉じ込められ、数日間餌を与えられず、弱ったところを、まるで宝探し映画の遺跡の仕掛けみたいに壁が動いてきて隣の更に狭い部屋に追いやられ、そこで二酸化炭素を噴出させて窒息死させる。


 今日もまた、そうして多くの不幸な犬たちがガス室に送られようとしていた。

 職員がボタンを押すと、ゴー・・と壁が動いてきて犬たちを追い立てた。

 犬たちは驚き、戸惑い、壁にお尻を押されてはキャンと鳴き、慌てふためいて飛び回った。壁は同じ速度で確実に迫ってくる。犬たちはうろうろしながら、ぶつかり、押し合いながら、抵抗できずに狭い通路を先の部屋へ送り込まれていく。キャンキャンアオーン、と、不安の声を上げる。

 それが、職員が次のボタンを押すと、悲鳴に変わった。

 職員は冷静にその様子を眺める。失敗の無いように、一度に確実にあの世に送り届けてやるように。

 表の方でガラスの割れる派手な音が聞こえた。わーわー騒ぐ声がして、当番の仲間となんだろうと顔を見合わせていると、コントロールルームのドアを何者かが、ダン!、と叩いた。ダンッ、ダンッ、ダンッ!

 ただごとでない様子に顔を強張らせて見ていると、上のガラスの小窓を顔が覗いた。職員二人は思わずわっと声を上げた。

 覗いたのは犬だった。顔の長い、大きな洋犬だ。職員たちを見て目が青く爛々と光っている。

 顔が引っ込むと、再び、ダンッ! ダンッ! とドアを叩き出した。

 ギッ、とドアのちょうつがいがずれた。

 ダンッ、バアーーッン!!!!

 派手な音を立てて鉄製のドアが倒れてきた。

 そこに立つ犬を見て二人は総毛立ち、腰を抜かしてズルズルと座り込んだ。

 でかい。

 数多くの犬たちを見てきた二人にも、その巨体はけた違い、規格外だった。

 すらりと脚が長いが、その脚も農耕馬のように図太く強靱だった。

 犬の目は青く爛々と光り、その背後に同じ色の炎がぼっぼっぼっ、と灯り、すーっと室内に入ってきた。

 犬はすたすたすたと優雅に足を運び入ってきた。腰を抜かして尻で這う職員を追い越し奥へ向かう。

 ガラスの窓越しに、苦しみもがいた挙げ句に今はぴくりとも動かなくなった犬たちが折り重なるように倒れていた。野良の雑種から、形のいい中型犬、かわいらしい小型犬、ゴールデン・レトリーバーや、チワワやコーギーといった人気犬、ぬいぐるみのようなマルチーズ、巻き毛のテリアもいた。

 職員二人はあわあわとドアの無くなった出口に這っていった。

 後ろの一人の頭を踏みつけ、前の一人の背中をどっかと前足で押さえた。

「ガルルルル・・・・ガウッ、ガウッ、ガウッ」

 怒りに充ちた大きな吠え声が狭い空間にびんびんと反響した。

 職員たちはひいと耳を押さえて震えた。

 犬は背中に置いた足を下ろすと職員の耳元で「ガウッ、ガウッ、ガウッ!」と大声で吠えた。

「ひいいいっ」

 職員は震え上がって起き上がり、その顔を犬は正面から睨み付けた。

「ガルルルルルルルル・・」

「ひ、ひ、ひいいいいー・・・」

 間近でうなる巨犬の迫力に押し返したい手を中途半端な位置でぶるぶる震わせ、ガクガク震えて、とうとう「えっえっえ〜ん」と犬みたいな顔になってべそをかき始めた。

「ゆるしてくれよお〜〜・・。だってさあー、俺だってさあー、こんな・・こと・・したくなんてないよ・・・。でもさあー、しょうがないじゃないかよお〜〜、俺、飼ってやることなんて出来ないもん・・。俺だって助けてやりたいけどさああーー、捨てる奴ばっかりで、もらってくれる人なんてなかなかいないんだもん・・。毎日毎日、俺たちだって、嫌なんだよおおおーーー!・・・・」

 ガルルルルル・・とうなっていた犬は顔を離すと、恐る恐る様子を見る職員に、

「ワンッ!」

 と吠えてすくみ上がらせ、きびすを返すとすたすた出ていった。

 青い炎たちが後を追い、

 ガス室で死んだ犬たちからも次々体から同じ青い炎が浮かび、先の群れを追い合流していった。

 残された職員たちはだらしなく手足を投げ出したまま「えっえっ」といつまでもぐずぐず泣いていた。


 これはあの2代目テリアが捨てられた河原のエリアの話ではない。

 魔犬バスカヴィル率いる鬼火の群れは近畿から東海エリアに入り北上中である。途中こうした場所を襲撃しつつ、東京到達にはまだしばらくかかりそうだ。

 その間数日が経ち、あの哀れなテリアの命運には、魔犬はついに関わることはなかった。


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