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11,狼犬対ウルフハンター

 戦場を駆け回っていたバスカヴィルは仲間の異変にピクリと反応し、急ぎ、元いた辺りに駆け戻った。

 にっくきペットショップを襲撃していた仲間が一人、殺された。

 相手は得体の知れない・・自分と同じ妖犬だ。

 それにしても何が起こったのか?

 時を少し遡る。


 バスカヴィル配下の犬が鬼火を引き連れてペットショップに侵入した。

 そこには2人の店員と3人の客がいた。客のうち一人は奈緒の父親だった。

 犬は牙を剥き、ワンッ、と鬼火たちに命じた。

 鬼火たちはさーっと店員と客に寄り、その体を炎に巻いた。

 人間たちは息が出来ず苦しんで転げ回った。

 犬は怒りと憎しみの目でじっとその様を見ていた。

 ところが突然、外から吹いてきた風で人間たちに取り付いていた鬼火たちが飛ばされてしまった。

 犬が何事かと振り返ると、

 紅倉美姫がロデムを従えて立っていた。

 犬はじっと睨むと、

 手近な人間、奈緒の父親に襲いかかり、その首にかじりついた。

 父親はぎゃあと悲鳴を上げたが、犬はあごを噛み締めてはいない。父親は両肘で背を支え、必死で首を持ちこたえた。犬はかぶりついたまま、じっと紅倉を見た。

 ロデムが出ようとするのを止めて紅倉が言った。

「人質ってことね。頭がいいけど、わたし、あんまりその人たちを助ける気ないのよね」

 父親はそんなあと痛みに顔を歪ませながら泣きべそをかいた。

「店員さん」

 へたり込んで震えている店員たちに言った。

「死にたくなければケースの中のペットたちを全て解放しなさい。ま、それで助かるかどうかは、日頃の彼らへの態度次第でしょうけれどねえー」

 天井には青い鬼火がうようようごめいている。店員たちは必死で次々ケースの扉を開いていった。

 次々飛び出してきた子犬たちは、

 キャンキャン、と、店員たちに吠えかかり、紅倉に向かって吠えた。

 うっと紅倉は青くなって後ずさった。

 犬は勝利を確信した。ところが、

 キャンキャンと、仲間の犬たちに吠えたて、店員や紅倉を守ろうとする子犬たちもいた。

 驚く犬に、どうする?と紅倉は顔で訊いた。

 犬は、くわえた人間の首を噛み切ろうとし、それを察したロデムが駆け込み躍りかかり、防戦に転じた犬と組み合ったが、これは見るからにロデムの方が強かった。力押しで上を向かせ、ガブリ、とロデムが犬の喉に食らいついた。犬は目を剥き、はあはあと口をあえがせたが、じきに動かなくなった。

「ロデム」

 と手で制しながら紅倉が店内に入ってきた。


 駆けるバスカヴィルを遮る者はいない。

 駆け戻ったバスカヴィルは、店を前に立ち止まり、じっと様子を窺った。

 パン、パン、パン。

 上からピストルの弾が浴びせられた。

 大きな的に3発全弾命中したが、バスカヴィルはまるで痛がりもせず上を見た。

 ビルの2階の窓から見下ろしている警官たちは信じられない思いであたふたした。

 ガルルル、とバスカヴィルが鼻の上にしわを寄せると、鬼火が集まってきて警官たちを襲おうとした。

 警官たちはひいっと逃げたが、鬼火たちは何故かビルの中に入れず、そこでさーっと横に分かれて逃げた。

 バスカヴィルは1階の店舗入り口を見た。

 わらわらわらと子犬たちが駆けだし、バスカヴィルの後ろに立ち、ワンワンキャンキャン吠え立てた。

 黒い大型犬が仲間の首をくわえて出てきて、地面に置いた。仲間はぐったりして、死んでいる。

 バスカヴィルは青く光る目で黒犬をじっと睨んだ。

 黒犬、ロデムは赤い目で睨み返した。

 2者の距離は4メートルほど。大型のシベリアンハスキーであるロデムだが、頭の高さはバスカヴィルの腹までしかない。

 上と下から睨み合う青と赤の瞳。

 バスカヴィルがふいと視線を外してロデムの背後を見た。

 雪の妖精のような格好をした紅倉が店から現れた。その目はロデムの主人らしく更に赤かった。

「初めまして、バスカヴィル。紅倉美姫と言います。こちらはわたしのお友だちのロデム。どう?なかなか男前でしょう?」

 紅倉は軽く微笑みかけたが、もちろんバスカヴィルは答えない。紅倉も期待していたわけでなく、すぐに冷ややかな顔に戻った。

「わたしはあなたの支持者なの。出来たらあなたとロデムを闘わせるようなことはしたくないわ。ここまであなたの圧倒的勝利よ? 大勝利の内にここで引き上げるという戦略もあるんじゃない?」

 バスカヴィルは紅倉を睨んで歯を剥き出した。その恐ろしい顔に紅倉は我知らず足がすくみ、さーっと頭が冷たくなった。やはり犬に対しては体が怯えてしまう。

 ロデムが主人を守るように肩を揺すって前に出た。紅倉はすくみ上がった体を動かせず、固まった顎で囁くようにロデムに言った。

「もう少し頑張って。今応援が向かってるから」

「ワンッッッ」

 バスカヴィルが一声吠えた。その声はビルにびりびり反響し、紅倉は堪らず肩をすくめて首を縮めた。

「ウウウーーーー」

 ロデムもバスカヴィルを睨んでうなった。

「ガルルルルルルル」

「ウウウーーーーー」

「ガウッ」

「・・・」

 ついに二頭はお互い突進した。

 飛びかかるロデムを、バスカヴィルは下から前足で殴り上げた。空中で体勢を直し着地したロデムを、バスカヴィルはぐるりと体の向きを変え後足で回し蹴りのように蹴った。肩で受けたロデムはすさまじい破壊力にふっとばされ、ガードレールに激突した。すかさずバスカヴィルは牙を剥いて襲いかかってきた。ロデムは必死に足をかいてバスカヴィルの噛みつきを防いだ。バスカヴィルはまた前足でロデムを横殴りにし、横に延びたロデムの首を噛みつこうと襲いかかった。間一髪よけたロデムは首を振ってうなり声を上げ、姿勢を低く、威嚇しつつ噛みつく隙を窺った。牙を剥いたバスカヴィルはロデムの威嚇を物ともせずまたも振り上げた巨大な前足でロデムの頭を踏んづけた。地面に押しつけられたロデムは顎をすりつけながらなんとか逃げ出したが、バスカヴィルは躍りかかって全体重を載せたパンチでロデムの横腹を突き飛ばした。苦しみながら必死で逃げるロデム。怒りながらもバスカヴィルは冷静にロデムを攻撃し、休む間を与えようとはしない。

 見ている紅倉ははらはらし通しだった。

 早く早くと思っていると、ようやく西の空から白く強く光る玉たちが飛んできた。

 小さな玉と八つの大きな玉たちは激闘する二頭の上をクルクル巡り、三つの大玉が小さな玉と合体し、眩しく輝きを増した玉は、バスカヴィルの足に転がされるロデムの体に入り込んだ。

 ロデムがぶるんと力強く上半身を振り、バスカヴィルを退けた。

 ロデムはしっかり立ち上がり、四肢に力をみなぎらせてバスカヴィルを睨み付けた。

 その全身から白い光が滲み出している。

 その姿を見て、上空にいた残り五つの玉はそれぞれに散っていった。

 バスカヴィルはひるまず、上背を生かした前足の攻撃を再び行った。

 しかし叩き伏せようと繰り出された足蹴を、ロデムはがっちりくわえ、太い首を振り、足を踏ん張り、バスカヴィルの巨体を投げ倒した。尚も口を放さず、右に左に激しく振り回し、深く牙を食い込ませた。牙から強い光があふれ出し、バスカヴィルは悲鳴を上げた。

 瞬間的に怒り狂ったバスカヴィルは怒りのままにロデムの頭を殴りつけた。強烈な一撃に目から星が飛び、ロデムは口を開けてしまった。

 すぐまた次の一撃が降ってくるかと思いきや、バスカヴィルは後ろに飛び下がり、起き上がったロデムと激しく睨み合った。

 車道に車の数はすっかり減っている。ビルの中に避難した人々は今は本気で怖そうに2頭の大型犬の死闘を見つめている。ペットショップの子犬たちも鳴き声を上げずじっと見つめている。

 人を襲っていた鬼火たちは、御獄神社から飛んできた白い玉に追いやられ、空にとどまり、近くの者は群れのボスの決闘の行方を見守っていた。

 ロデムと睨み合うバスカヴィルは、

「ガルルルルルルル・・・・・」

 うなり声を激しくし、歯を剥き出し、目を剥き出し、目の光を強くしていくと、全身からも青い光を発し、全身を青い光に変えていった。

 魔犬、幽霊犬、バスカヴィルが、その正体を現した。

 爛々と燃え上がる瞳は、その炎を大きくはみ出させ、地獄から舞い戻った憤怒を露わにした。

 対するロデムもじっとバスカヴィルを睨み据え、鬼神の武威を放った。

 睨み合う両者は、

 ついに、

「ガウウッ」

「オウッ」

 真っ正面からぶつかり合った。


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