ある女の幸せ
女は強欲であった。
自身の利益のためなら他人を顧みず、平気で陥れる。それは家族であっても例外ではなかった。
女はある町医者と結婚し娘を授かる。娘はいたって健康ですくすくと育っていく。
娘が5歳になった時、1人の老婆が女のもとを訪ねてきた。
「エリーの調子はどうだい?」
「ええ、よく育っているわ。今まで病気なんてしたことがないもの。そろそろ頃合いかしら?」
老婆は不敵に笑う。
「そろそろ引き取っても良さそうだね。絵本も気に入っているかい?あんな物でもこれからあの子を育てていくには大事なものなんだ」
「毎晩のように読み聞かせているわ。あの子、本当に王子様が迎えに来てくれるって信じてるみたい」
娘は女が与えた絵本をとても気に入り、女に読んで聞かせるよういつもねだっている。
「それじゃあ、引渡しは明日でいいかい?」
「ええ、今回は上物だから少し多めに用意しておいてね」
「本当にあんたは強欲だね。旦那の財産も手に入るんだろう?」
「まだまだ遊んで暮らすには足りないわ。全ては今後の幸せのため...」
女は結婚が初めてではない。これまでに五度結婚をしているが、全て多額の財産がある者ばかり。みな等しく女と結婚して数ヶ月から数年以内に死亡している。女は夫たちの財産を目当てに婚約し殺害をくりかえしていた。
翌日の手筈を確認した後、老婆は女の家を後にする。ふと覗いた窓からは小さな少女がニコニコと絵本を読んでいる姿が見えた。
後日、とある医者の家に強盗が押し入ったという知らせが町を駆ける。
医者はナイフで刺殺され、一人娘は行方不明となっているという。妻は幸運にも外出しており巻き込まれることはなかったが愛する夫と娘を失い、代わりに多額の財産を手にした。
町の住人は誰も、真実を疑うことはなかった。その夜の一幕を見ていたローブの男以外は。
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