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幸せの絵本  作者: 黒蟻
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ある少女の幸せ

初投稿です。ふと思い立ち書き始めたもので稚拙な言い回しが多々あると思いますがご容赦いただければ幸いです。

深い森の奥深くに佇む小さな小屋。15歳の少女エリーは祖母と共にひっそりと暮らしていた。エリーは早くに両親を亡くし祖母に引き取られたのだが、祖母はエリーをこき使い、時には暴力さえ振るう最悪な人間であった。他人から見れば目に余る光景であったが、獣たちが行き交う深い森の中に立ち入るような者はおらず、エリーは只々耐える他無かった。

「エリー!いつまで掃除をしているんだ!」

今日もまた祖母の怒声が小屋に響く。エリーは掃除を命じられながらも道具を与えられず、自身が身につけているボロボロの服で床の汚れを落としていた。

「ごめんなさい、おばあちゃん...」

最低限の食事しか与えられていない細くやつれた身体からは今にも消え入りそうな声しか出ない。

「本当に役立たずだね!もういい、私はお腹がすいたんだ、早く料理を作りな」

「...わかりました」

こんな生活が永遠と続く中でも、エリーは心を病むことが無い。昔、母からもらった絵本。何度も何度も読み返しボロボロになってしまっているが、これだけが母とエリーを繋ぐものであり、エリーの心の拠り所になっていた。数々の苦難を乗り越えた少女がやがて王子と出会い恋に落ちる話。母は毎日この絵本をエリーに読み聞かせていた。

「エリー。あなたにもいつかこの絵本みたいに素敵な王子様が現れるのよ」

絵本を読む度に母の言葉を思い出す。いつの日か苦しい日々が終わり幸せが訪れると、エリーは自分に言い聞かせた。


ある日のこと、祖母はエリーに命令する。

「エリー、外に出て水を汲んできな」

井戸の水が干上がり底をついたというのだ。小屋から少し離れた場所に川があるが、獣道を1人歩くことになる。獣たちが闊歩する森の中を出歩くのは自殺行為だった。

「おばあちゃん...でも」

「でもじゃない!あんたはこんなことでしか役に立てないんだ、さっさと行きな!井戸の水をいっぱいにするまで帰ってくるんじゃないよ」

エリーの小さな抗議も虚しく小屋を追い出されてしまう。少しの間立ち尽くした後、エリーは震えた足で歩き始めた。


十数分歩いたところでようやく川に出た。獣の鳴き声はするものの、幸い獣たちに出会うことはなかった。

せっせと桶に水を汲む。井戸をいっぱいにするには何往復もしなければならない。大きな桶を持ち、弱々しい足運びで小屋へ歩を進めた。


ガルルルルルル.......


背後から聞こえる唸り声。獣が背後にいる...

エリーは恐る恐る振り向く。自身よりも一回り大きい狼が唾液を垂らしこちらを見ている。

「あ...あ...」

足が震えその場から逃げることも出来ない。エリーはその場に座り込み、目を伏せる。

地面を踏みしめる足音がジリジリと近づいているのがわかる。あまりのプレッシャーにエリーは死を覚悟した。


途端、森に響く轟音。

それは、明らかに狼から発せられる音ではなかった。

ゆっくりと狼が居た方に目をやる。そこには大量に血を流し、地面に横たわる狼の姿があった。

「危なかったね、ケガはないか?」

声の主は白馬に跨った男であった。手には銃が握られ、銃口には硝煙が立っている。

「この森は今のような獣がうろついている。女の子が1人で出歩く場所ではないよ」

男は馬から身を降ろしエリーの手を取る。その姿がエリーの目には絵本に出てくる王子様と重なっていた。

「...あの...ありがとうございます...王子...様?」

「王子?ははっ、残念だけど私はただの商人だよ。白馬に乗っているから物語の王子様にでも見えたかな?」

商人を名乗る男は爽やかな笑みを浮かべる。

「ところで、なぜ君はこんなところに1人で居たんだい?」

エリーは返答に少し迷いながらもこれまでの経緯を男に話した。祖母に水を汲みに行くよう命じられたこと、祖母から酷いいじめを受けていること...。話しているうちに自然と涙が零れた。

「まだ若いというのにとても辛い思いをしてきたんだね」

男は親身になってエリーの話を聞く。いつの間にかエリーの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「もし良ければ私と共に来ないか?住む場所も服も、食事も用意しよう。そんな祖母の元に戻る必要なんてない」

ひとしきり涙を流した後、エリーは首を縦に振る。それを見た男はエリーを抱え一緒に馬に跨る。


「エリー。あなたにもいつかこの絵本みたいに素敵な王子様が現れるのよ」


母がエリーに送った言葉。白馬に揺られながら、エリーはこれから訪れるであろう幸せに胸を踊らせた。

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