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第5話:動揺

今日は時子さんと勉強会だ。

普段通りの服装にするか、それともちょっとオシャレに着飾るべきか。


「兄さん、鏡の前で百面相してどうしたの?」


どのような格好をするか、鏡の前で悪戦苦闘していると、そこにアイツは来やがった。

まるで珍獣でも見るかのような顔だ。


「紳士の礼儀として、それなりの格好をしておく必要があるだろう?」

「普通な格好で大丈夫だと思うけど・・・。」

「ドコを出しても恥ずかしくないようにだなッ!」

「それを言うなら、ドコに出してもでしょ!何を出す気よ。」

「時子さんには未だ見せていないモノをだな。」

「兄さんのエッチ!」


自分の周りに散らかっていた服を、顔面へ投げつけられてしまった。


「変なモノを見せないでよね!」

「見せるモノは、紳士の嗜みと女性への礼節だけだよ。」


鏡の前で、投げつけられた服をマントに見立てて羽織り、クルリと回って見せた。


「仕方ないなぁ。」


アイツはそう言うと、服をカテゴリー別に仕分けていき、それらを整然と並べた。

その様子は、まるで京都の街並みのようだった。


「兄さんには、無地でシンプルな服装が似合うと思うの。」

「シルバーでキメなくて良いのか!?」

「派手さより、清潔感が大事よ。」


そう言うと、アイツは無難な服装を選び手渡してきた。

シルバーはオトコのアクセントだと思うんだけど。


「懐中時計でも付けておくか。」

「自宅に居るのに時計は不要でしょ!」


こいつは、なかなか手厳しいもんだ。

しばらくすると、インターホンを鳴らす音が聞こえた。


「いらっしゃい。今日はよろしくね。」

「こちらこそ、お邪魔します。」


時子さんは地味ながらも、女性らしさを感じる服装で、

思わず2度見をしてしまった。



時子さんの教え方は非常に丁寧で、アンポンタンな頭でもスゥーっと

入ってくる説明だった。これが優等生のチカラという奴か!?


「少し休憩しましょうか?」

「さんせーい」

「最近、興味を持っている話題って何かある?」

「私は地球温暖化に興味があって少し調べてみたの。」

「へー、賢い人は授業で学びそうなことまで自分で調べるんだね。」

「エヘッ、恥ずかしい・・・。」

「恥ずかしがることなんてないよー、立派すぎてビックリだよ。」


地球温暖化なんて、理科か社会くらいで学びそうなのに、

わざわざ興味を持って調べるなんて、俺だったら絶対やらんぞ!

せいぜい、ゲームの攻略か、ソシャゲでガチャの排出率を調べるくらいだぜ。


「地球温暖化は知ってる?」

「もちろん知っているさ。二酸化炭素が地球を暖めるんだろ?」

「実はね、地球温暖化を加速する要因は、二酸化炭素だけではないのよ。

水も地球温暖化させちゃうのよ。水自身は海水からたくさん取れ過ぎちゃって、

人間じゃどうしようもないから、二酸化炭素をどうするかに注力しているのよ。」

「へー。でも、海水がたくさんあるんだったら、地球温暖化は益々加速するんじゃない?」

「そうなのよ、最近の気温上昇にともなって、海面上昇というのが起きているでしょ。

それだけ氷漬けになっていた海水が溶けてしまっているのよ。」

「それじゃあ、氷結された海水に混じっていたヤバい何かも、

凍結から解放されたりするんじゃない?」


このとき突然に、アイツが笑い出した。俺はその笑い声にビックリして、

手に持っていたコップの水を思わず股間にこぼしてしまった。

これじゃ、まるでおもらしだ。


「いったい何が、そんなに面白いんだよ?」

「いいえ、何でもないわ、それより兄さん、大事なところがズブ濡れよ。」

「ただの水出し、その内に乾くよ。」


時子さんは、カバンからハンカチを取り出した。


「これを使って。」

「そんなの悪いよ、家にタオルくらいあるし。」

「大丈夫よ、使って。」

「すまない、ありがとう。

そうそう、さっきの凍結した氷から何か出たりしないの?」


俺はハンカチで股間をモゾモゾとふき取りながら、時子さんに再び尋ねてみた。


「そうね、メタンハイドレートっていうのがあって、火をつけると燃えることから、

燃える氷と呼ばれているわ。天然ガスの主成分であるメタンガスが水分子と結びついて

できた氷状物質なの。地球温暖化で気温上昇すると、メタンガスとかも出てしまうわね。」

「燃える氷かー、なんかカッコイイね。」


燃える氷って、なんか男心をくすぐられるね。

こうなんと言うか中二病みたいな。


「兄さんは時子さんのこと、どう思っているの?」


なんだよ、藪から棒に?


「時子さんはクラスメートだろ?」

「恋人になりたいかって意味よ。」

「いきなり何を言い出すんだ?時子さんに失礼だろ?」

「兄さんは知的な女性が好きなのかなって思ってね。」

「アンポンタンな妹の面倒ばかりだったからってか?」

「二人は仲が良いのね。」


いきなり変なことを聞かれて、一瞬ドギマギしてしまったが、

時子さんが気を悪くしてなければ良いのだけれど・・・。



購入したノートの4ページ目には、

『〇月×日、クラスメートの時子さんと勉強会をした。

驚いたことに、時子さんは地球温暖化について興味を持っており、いろいろと調べているとか。

やっぱり優等生は違うもんだ。俺だったら授業で習っても覚えてすらないかもな。

それにしても、アイツがいきなり笑い出したかと思えば、今度は変なことを聞いてきた。

俺が時子さんに好意があるかって?そりぁ嫌いじゃないし、彼女は良い人だと思うけど、

そんなのいきなり聞かれても分かるもんじゃない。』

と記入した。アイツのせいで、時子さんが気を悪くしてなければ良いのだけれど。

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